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アラブる教官室

 教務室で複数の生徒が列をなして竜輝の前に並ぶ。

 絶賛、教務室は満員御礼状態である。こんなのはスーパーのタイムセールやらで見はしない。

 見るとするならばイベントの長蛇の列さながらだろう。

「ありがとうございます」

 竜輝は笑みを返しながら教官としての職務をまとうするために生徒へ魔法の教養を行う。この列は生徒ひとりひとりが教官である竜輝に魔法を教わろうと作られた列である。

 もう、下校時刻だというのに列は散ることはなくどんどんと増えていく。中には部活動があろうというはずなのに部活そっちのけで魔法を教わろうと来るものいる様子でほかの教官たちが怒鳴り散らしていた。

「ほらッ、魔法以外のことを教わろうとか考えてる奴は帰れ帰れ! 邪魔だ」

 ウルフ族の男性教官、ウォンド・グルーフィに怒鳴られてそそくさとまばらには散ってもそれでも約1割に見たいない数だけ。

「くそっ、運勢教官、あなたもあなたですよ。何真面目に――」

「運勢教官、この魔法元素の方式がわからないんですけど」

「ああ、これか」

 竜輝はウォンドの言葉など聞く耳など持てず目の前の生徒だけで手いっぱい耳いっぱいだった。

「――ぐっ」

 腹が立ったようにどっかりとウォンド教官が椅子に腰を下ろす姿をしり目に伺い申し訳な下げに頭をたらして次の生徒を呼ぶ。

 まさに人気急上昇中のアイドルさながら。いや、まさに運勢竜輝は彼女たちのアイドルである。

 朝方の講義が好評を受け、高等部1年生から2年へ3年へとうわさは広まっていった。

 竜輝が今日受け持った担当学年は高等部の1,2,3学年全員であるがこの長蛇の列には明らかに高等部以外の生徒も混じっているのは確かである。

 大学部にも彼の噂を聞いてぜひにという生徒がたくさんいる。

「運勢教官、ずいぶんとにんきですねぇー」

 ふと、傍らにこの施設の監督責任者たる九条カサネの登場に生徒一同が硬直し敬礼を行う。あくまでここは軍の育成学校である。あいさつは敬礼が常であるらしい。

「すみません、そう急にさばき――」

「いえ、みなさん。今日はもう下校時間ですので明朝か授業の際にでもお聞きなさることで解散をしてくださいねぇー。いいですねぇー」

 たったその彼女の一言で生徒一同は教官室から去っていく。

 だが、竜輝は目の前にいた生徒にだけは気使い――

「あ、君これ。途中まで聞いただけだったけど君の話を聞くならこの書類を読むとわかるかもしれない」

「あ、ありがとうございます。運勢教官」

 黄色い声をあげながら素早く撤退していく彼女たちの背を見てどっと疲れの波が押し寄せため息が漏れ出る。

「運勢教官も無理にお答えしなくてもいいんですよ。数は考えて配慮を願いますねぇー」

「もうしわけないっす。何分、生真面目な部分もあるっすから」

「それはいいことなんですが配分も必要ですよー」

 そう言って彼女はその場から立ち去る。どうやら、気使って彼女たちを退かせる手伝いを行ったにすぎない様子である。

「申し訳ないことしたな」

「ほっほっ、でも、九条責任者がそれだけ運勢教官に期待を寄せとるんじゃよ。わしもすごいと思うぞ。初の授業であれだけの生徒に信頼を寄せられるとはのぉ」

「まあ、女子だけですけどね」

「ほっほっ、それもまた人望の厚さの表れじゃ」

「人望の厚さっすか」

 どうにもそんな感じには見えないが。

 彼女たちにはただ、興味本位な感じであり、理由をつけて見に来てる様子の生徒がたくさんいた。聞かれた内容もほとんどが魔法の基礎でならう内容のことばかりでなぜ、わからないんだというものが多くあった。

「どうかしたのかね?」

「あ、そのっすね、人望の厚さっていうんじゃないっすよたぶん」

「ほっほっ、謙遜ですな」

 工藤教官はそう言って、俺の手元にある資料を覗き込む。

「ひとつ聞いてよろしいかな運勢教官」

「はい」

「先ほど生徒に渡した資料はそちらのものかな?」

「ああ、昨晩軽く仕上げた資料なんすけどね。まあ、魔法の基礎を簡易的にまとめて作った資料っすね」

「ほっー」

 竜輝は昨晩、病室へ帰宅後に柚葉雪に頼み込んでパソコンの使い方や資料の作成方法を徹底的に学んだ。といってもほぼ彼女に手伝ってもらい完成させた資料にすぎないがこの資料の文章はすべて竜輝が柚葉雪に言伝を行い彼女がパソコンを使い打ち込んだものである。

「よくできておりますな」

「本当ですねー」

 竜輝の右に座る教官、幾鈴リン教官も手元に手繰り寄せて取ってみて資料に読みふける。

 彼女は男子棟の教官であり、男子棟の体育技能兼保険医らしく常日頃から教官室にはいない教官。

 フィリアス人の中でも龍修と呼ばれる存在なのだがこの日本国を好み国籍を日本へ変えるほどの変わり者。

 今日は珍しくこの場所に現れている彼女も資料をまじまじとよんでいる。

 竜輝はそんな彼女とも昼休み時に軽く自己紹介挨拶を交わしていた。

「ずいぶんと手の込んだことしますねー、そうだ運勢教官。あすか明後日にうちの男子棟でも教官お願いできませんか? 私もフィリアス人ですからどうにも人間の教養には難しいところが多くて」

「はぁー」

 まあ、どちらにしてものちにはそうなるので断らないことはない。

「別にいいっすよ。九条責任者にも言われてますんで」

「ありがとうございます」

 感情の荒波が激しい彼女は涙を流しながら竜輝の両手をつかむ。

 その時に教官室の扉が開き聞き知った声が聞こえる。

「失礼いたしますよ。運勢教官に用事があ――」

 柚葉雪と眼が合う。

「おう、柚葉どうし――」

 彼女はすばやく竜輝に近づくとにっこりと笑みを浮かべながらその耳をひねるようにつかみ――

「ちょっと、きてくださいねぇー」

「痛い痛い痛いっ!」

「い・い・か・ら・こいっ!」

 教官室の白い眼を受けながら竜輝は連れ去られていった。

「うふふっ、面白い教官」

 幾鈴教官は猫を思わせるような獰猛な笑みを浮かべながらその二人の姿をただ見つめていた。


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