第六話:今度は俺の番だ!
第六話:今度は俺の番だ!
海は穏やかだった。金色の陽光を浴びて、波がゆっくりと揺れている。
小舟の船首には、ロキ・ネロが座っていた。両手を頭の後ろで組み、のんびりとくつろいでいる。その近くでは、レンジョウ・レオパルが立ったまま、黙って水平線を見つめていた。
ロキは満面の笑みを浮かべて言った。
「いやあ、退屈な航海だな! いつになったら面白いことが起きるんだ?」
レンジョウは振り返りもせずに答えた。
「厄介事を探しているなら、そのうち嫌でも見つかるさ」
ロキは楽しそうに笑った。
「それこそ、俺が待ち望んでることだ!」
そのとき、突然レンジョウの表情が変わった。
目を細めて水平線を見つめ、真剣な声で告げる。
「ロキ……あそこを見ろ」
ロキは顔を上げ、レンジョウが示した方向へ目を向けた。
巨大な船が、波を切り裂きながら猛スピードで近づいてきていた。
その船は、二人の小舟とは比べものにならないほど大きかった。黒い帆には見慣れない紋章が描かれ、船の両側には大砲がずらりと並んでいる。甲板には、統一された制服を身にまとった兵士たちが何十人も立っていた。
ロキは一瞬目を見開いたが、すぐに興奮した笑みを浮かべた。
「うわああ! なんだ、あのデカい船は!?」
レンジョウは、ロキほど浮かれてはいなかった。
帆に描かれた紋章に気づき、この船が偶然ここに現れたわけではないと感じていたのだ。
軍艦は二人の小舟に接近し、太陽の光を大きく遮るほどの距離まで迫ってきた。
やがて、拡声器を通した男の声が海上に響き渡った。
「そこの小舟に乗っている二人! 直ちに船を止めろ! お前たちは世界組織の部隊に包囲されている!」
ロキは眉を上げた。
「世界組織? なんだ、そいつら?」
レンジョウは答えなかった。甲板の上で動き始めた兵士たちを、じっと見据えていた。
再び、拡声器から声が響く。
「我々は、貝の町で異常な力を使った青い髪の若者について情報を得ている! 本人かどうか確認したい! 大人しく投降しろ! そうすれば、こちらも無理に実力行使をする必要はない!」
一瞬、静寂が訪れた。
やがてロキはゆっくりと立ち上がり、鋭い笑みを浮かべた。
「なるほど……俺を探しに来たってわけか」
ロキの体の周囲にエネルギーが集まり始め、周囲の空気がわずかに震えた。
「よし! ちょうど退屈してたところだ! あの船、ぶっ壊してやる!」
そう言って船首へ歩き出し、軍艦へ飛び移ろうと身構えた。
しかし、レンジョウが腕を伸ばし、その行く手を遮った。
「待て、ロキ」
ロキは不思議そうに彼を振り返った。
「なんだ?」
レンジョウは軍艦に目を向けたまま、剣の柄に手をかけた。
「貝の町では俺が戦ったんだ。少し休んでろ」
そう言って、ゆっくりと剣を抜いた。
太陽の光が、きらりと輝く刀身に反射する。
「今度は俺の番だ」
ロキは数秒間レンジョウを見つめたあと、にっと笑った。
「ははは! そういうことか! よし、あいつらはお前に任せる! でも、負けるなよ、レンジョウ!」
レンジョウは落ち着いた声で答えた。
「そこで見ていろ」
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軍艦は小舟にさらに接近し、二隻の距離はほとんどなくなった。
軍艦の側面からロープが投げ下ろされ、兵士たちが次々と小舟へ降りてきた。
大勢の兵士がロキとレンジョウを取り囲み、逃げ道を塞いだ。
そのうちの一人が前に出て、レンジョウに剣を突きつけた。
「武器を地面に置け! 抵抗など考えるな!」
レンジョウは動かなかった。
片手で剣を握ったまま、その場に立ち、静かな目で相手の動きを見極めていた。
兵士が怒鳴る。
「聞こえないのか!?」
次の瞬間、兵士がレンジョウに向かって突進した。
レンジョウは、たった一歩だけ横へ動いた。
刃が閃く。
兵士はその場で動きを止めた。次の瞬間、手から剣が滑り落ち、本人も膝から崩れ落ちた。もはや戦いを続けることはできなかった。
周囲の兵士たちは目を見開いた。
「今、何が起きた!?」
レンジョウは、彼らが状況を理解する時間すら与えなかった。
二人の兵士が左右から同時に襲いかかる。
レンジョウは最初の一撃を身をかがめてかわすと、素早く体をひねり、もう一人の武器を正確な一撃で弾き飛ばした。
兵士たちの間を軽やかに動き回りながら、無駄のない剣さばきで次々と相手を制圧していく。
力任せに攻撃しているわけではない。相手の手や武器を狙い、一人ずつ確実に戦闘不能にしていた。包囲される隙も与えない。
一方、ロキは小舟の縁に腰掛け、興味津々で戦いを眺めていた。
「すげえ! お前、そんなに速く動けるなんて思わなかったぞ!」
レンジョウはロキを見ることなく答えた。
「そこで見ていろと言ったはずだ」
ロキは笑った。
「わかった、わかった! 大人しく座ってるよ!」
しかし、兵士たちの顔からは、もはや余裕の笑みは消えていた。
目の前にいる男が、ただの剣士ではないことを理解したのだ。
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軍艦の甲板では、長いコートを着た男が手すりの向こうから戦いを見下ろしていた。
その顔には感情がほとんど表れていない。腰には、一般兵のものとは明らかに違う幅広の剣が下げられていた。
一人の士官が息を切らしながら駆け寄ってきた。
「隊長! 兵士たちでは、あいつを抑えられません! 短時間で大勢が倒されています!」
男はしばらく黙っていた。
やがて剣の柄を握り、口を開いた。
「あいつから離れろ」
士官は顔を上げた。
「えっ?」
男は甲板へ続く階段に目を向けた。
「剣士一人も相手にできないのなら、俺が直接片をつける」
男が一定の歩調で小舟へ降りていくと、兵士たちは何も言わずに道を開けた。
近づいてくる男を見たレンジョウの表情が、わずかに変わった。
相手はレンジョウよりも背が高く、服の下からでも筋肉のたくましさが見て取れた。手にしている剣は、熟練の剣士でさえ警戒するほど巨大だった。
男はレンジョウのすぐ前で足を止めた。
「俺はこの船の追跡部隊を率いている。なかなかの腕前だな。だが、本物の相手を前にしても、その腕が通用するか確かめさせてもらおう」
レンジョウは淡々と答えた。
「戦いたいなら、余計な話は必要ない」
隊長は冷たい笑みを浮かべた。
「いいだろう。時間を無駄にしない男は嫌いじゃない」
次の瞬間、隊長はレンジョウに向かって突進し、巨大な剣を振り上げた。
ドォォォン!
凄まじい一撃が小舟の甲板に叩きつけられた。
木の板が激しく揺れ、破片が空中へ飛び散る。
レンジョウは間一髪で後方へ跳び、どうにかその一撃をかわした。
ロキは剣が叩きつけられた場所を見て、感心したように口笛を吹いた。
「すげえ威力だな! まともに船に当たってたら、真っ二つになってたぞ!」
レンジョウは振り返らなかった。
意識のすべてを目の前の敵に集中させていた。
この隊長は、ただ力が強いだけではない。あの巨体からは想像できないほど動きも速かった。
重い斬撃が次々と繰り出される。その一撃一撃を避けるため、レンジョウは絶えず動き続けなければならなかった。
レンジョウは相手との距離を詰めようとしたが、隊長は突然剣の向きを変え、彼を後退させた。
そして、再び突進する。
今度は、レンジョウも完全には避けきれなかった。
刃が腕のすぐそばを通り過ぎ、皮膚に浅い傷を刻んだ。
レンジョウは二歩後退した。腕から細い血の筋が流れ落ちる。
ロキはすぐさま立ち上がった。
「レンジョウ!」
レンジョウはもう片方の手を上げ、動くなと合図した。
「手を出すな」
ロキは拳を強く握りしめた。
一瞬で戦いに加わることもできる。しかし、レンジョウの言葉を思い出した。
今度は俺の番だ。
ロキは歯を食いしばり、再び腰を下ろした。それでも、その目は一瞬たりとも戦いから離れなかった。
一方、隊長は低い声で笑った。
「どうした? 怖くなってきたか?」
レンジョウは腕の血を拭い、剣の柄を握り直した。
「いや」
相手をまっすぐ見据える。
「お前の戦い方を見極めようとしているだけだ」
隊長の笑みが、わずかに消えた。
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戦いの流れが変わり始めた。
レンジョウは、もう先ほどまでと同じようには後退しなくなった。
相手の足の動き、肩の向き、そして攻撃の直前に剣を持ち上げる動作。その一つひとつを注意深く観察していた。
隊長は圧倒的な力に頼って戦っていた。しかし、攻撃を繰り出したあと、剣を構え直すまでには、ほんのわずかな時間が必要だった。
レンジョウが探していたのは、その一瞬だった。
隊長は剣を頭上高く振り上げた。
「これで終わりだ!」
巨大な刃が凄まじい勢いで振り下ろされる。
だが、レンジョウは後退しなかった。
一撃が迫るのを待ち、最後の瞬間に横へ飛び退いた。
巨大な剣は、小舟の甲板に激突した。
船体が大きく揺れ、刃が木の板に深く食い込む。
隊長は急いで剣を引き抜こうとした。
しかし、そのときにはすでにレンジョウが動いていた。
一気に間合いを詰め、剣の柄で相手の手首を打つ。
そのまま体をひねり、武器の柄へ正確な一撃を叩き込んだ。
ガキィィン!
巨大な剣が隊長の手から弾き飛ばされ、甲板に落ちた。
隊長が体勢を立て直すよりも早く、レンジョウの刃がその首元にぴたりと突きつけられた。
静寂が広がった。
兵士たちは、その場に凍りついた。
隊長は武器を失い、これ以上動けば斬られかねない状況に追い込まれていた。
レンジョウは静かに告げた。
「勝負ありだ」
隊長は足元に落ちた剣を見つめ、それからレンジョウへ視線を戻した。
まさか、こんな形で敗れるとは思っていなかった。
しばらくして、隊長は口を開いた。
「お前……なかなかの剣士だな」
レンジョウは首元から剣を離し、一歩後ろへ下がった。
「お前は力に頼りすぎている」
隊長の表情が険しくなったが、反論はしなかった。
戦いを続けたところで、結果は変わらない。そう悟ったからだ。
隊長は兵士たちに手を上げた。
「撤退だ! 船に戻れ!」
負傷した兵士や、まだ動ける兵士たちが次々と引き上げていく。仲間を運びながら軍艦へ戻る者たちもいた。
船に乗り込む直前、隊長はレンジョウを最後に一度見つめ、それから青い髪のロキへ視線を移した。
そして、低い声で言った。
「これで終わりだと思うな。また会うことになる」
ロキは挑発するような笑みを浮かべた。
「いつでも待ってるぞ! でも、次はもっと強い奴を連れてこいよ!」
隊長は何も答えなかった。
軍艦へ戻ると、船は間もなく小舟から離れ、遠ざかり始めた。
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軍艦が水平線の向こうへ消えると、ロキはほっと息を吐き、勢いよく立ち上がってレンジョウのもとへ駆け寄った。
「ははは! すごかったぞ! あいつらの隊長を一人で倒しちまうなんて!」
レンジョウは剣を鞘に収めた。
「簡単な相手じゃなかった」
ロキはレンジョウの腕に目を向けた。すると、その笑顔が少しだけ曇った。
「大丈夫か?」
「かすり傷だ」
ロキは手を伸ばし、勢いよくレンジョウの肩を叩いた。
「それでも、最高だったぞ! 次も最初はお前に任せてやるよ……まあ、俺が待っていられたらの話だけどな!」
レンジョウはそっけない口調で返した。
「戦うのに、お前の許可なんて必要ない」
ロキは大声で笑った。
「はははは! 確かにそうだな!」
二人は再び小舟のそれぞれの場所へ戻った。
しかし、軍艦が現れる前と同じ空気ではなかった。
世界組織が、すでに自分たちを追い始めている。その事実を、二人は身をもって知ったのだ。
レンジョウは軍艦が消えた水平線を見つめながら言った。
「偶然ここに来たわけじゃない。あいつらは、明らかにお前を探していた」
ロキはうなずき、自分の手に目を落とした。
その手に、かすかな青い火花が一瞬だけ走り、すぐに消えた。
「どうやら、雷の核に興味があるらしいな」
レンジョウが言った。
「お前の力について何か知っているのなら、追ってくるのは今回だけじゃないかもしれない」
ロキは目を輝かせ、笑みを浮かべた。
「だったら、何度でも来ればいい! 誰にも俺が閉ざされた大地にたどり着くのを邪魔させない!」
レンジョウは黙ってロキを見つめたあと、腰を下ろし、少しだけ目を閉じた。
「目的地に着く前に、せめて船を壊さないようにしてくれ」
ロキは大声で笑った。
やがて海には再び静けさが戻り、小舟は未知なる世界へ向かって航海を続けた。
しかし、その二人から遠く離れた軍艦の上では、隊長が通信装置の前に立っていた。
彼は真剣な声で報告した。
「中央司令部へ。青い髪の若者の存在を確認した。通常では考えられない力を持っている。だが、もう一つ注目すべき点がある」
隊長は一瞬言葉を切り、それから続けた。
「同行している剣士も危険な相手だ。直接対決で、俺はあいつに敗れた」
通信装置の向こうから声が返ってきた。
「つまり、青い髪の若者だけが脅威ではないということか?」
隊長は答えた。
「そのとおりだ。どちらも決して侮ってはならない」
そこで通信は途切れた。
隊長は、小さな船がすでに見えなくなった水平線をじっと見つめていた。
そして、かすかな声でつぶやいた。
「お前たちは……いったい何者なんだ?」
つづく……
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皆さんの応援が、この冒険を書き続ける大きな励みになります!
第七話は明日公開予定です。
ロキとレンジョウの旅を読んでくださっている皆さん、本当にありがとうございます。
また次の話で、新たな冒険をお届けします!
それでは、第七話でお会いしましょう!




