第三章 旅立ちの日、島との別れ
第三章 旅立ちの日、島との別れ
ルニアは、世界一の探検家になるという夢を熱く語るロキを、黙って見つめていた。
彼女の唇にはかすかな笑みが浮かんでいたが、その瞳には、誰にも気づかれない悲しみが宿っていた。
(ロキ……あなたはまだこんなに幼いのに、本当にたくさんの苦しみを味わってきたのね……)
ルニアは少し目を伏せ、過去の記憶を思い返した。
(あなたのお父さんは、あなたを蔑み、一度だって自分の息子として認めなかった。あなたはつらい幼少期を過ごし、誰にも打ち明けられない痛みを心に抱えてきた……)
ルニアは再び顔を上げ、ロキを見つめた。
満面の笑みを浮かべ、希望に満ちた瞳を輝かせているロキを。
(だから、強くなりたいのね? 自分には価値があるのだと証明したい……そして、自分を息子と認めなかった父親が間違っていたのだと、わからせたいのね……)
ルニアはそっと拳を握りしめた。
(でも、ロキ……本当に自分自身のために最強になりたいの? それとも、あなたに一度もふさわしい愛情を与えてくれなかった男に、今もまだ認めてもらおうとしているの?)
ルニアは、その想いを声に出すことはなかった。
ただ、楽しそうに笑うロキを見つめていた。
目の前の少年は、自分が思っている以上に、彼の心の傷を知る女性がそばにいることなど、知る由もなかった。
(ただ、いつか自分自身のために笑えるような夢を見つけてほしい……ロキ)
新時代の意味
「新時代で会おう」
昨夜、シンゾウが口にした言葉が、ロキの頭の中で何度も繰り返されていた。
ロキは腕を組んで海を眺めながら、シンゾウが何を意味していたのかを考えていた。
「新時代……新時代って、いったいどういう意味なんだ?」
いくら考えても、答えは見つからなかった。
「うーん……全然わからない!」
ロキは頭をかき、それから何かを思いついたように顔を上げた。
「そうだ! ルニアに聞いてみよう!」
ロキはルニアの店へ向かって勢いよく駆け出した。
店に入ると、ルニアは忙しそうに働いていた。
「ルニア! 聞きたいことがあるんだ!」
ロキの姿を見た途端、ルニアは眉をひそめた。
「また食べに来たんでしょ、このバカ!」
ロキは慌てて首を横に振った。
「違う! そうじゃない!」
「じゃあ、何なの?」
ロキは真剣な顔で尋ねた。
「ルニア、新時代ってどういう意味か知ってる?」
その質問を聞くと、ルニアの表情がわずかに変わった。
「……昨日、シンゾウが言っていたこと?」
「そう! 何度も考えてみたけど、やっぱりわからないんだ!」
ルニアは静かに息を吐き、海の方へ目を向けた。
「新時代というのは、広い世界のことよ」
「広い世界?」
「そう。どこまでも続く海。その向こうには、あなたがまだ見たことのない場所がある。あなたがまだ知らないものも、誰にも解き明かされていない謎も、たくさんあるのよ」
ルニアはロキを見つめて言った。
「シンゾウは、仲間を集めて冒険に出ろと言ったんでしょう?」
「……仲間を集めて、冒険に出る!」
ロキの目が輝いた。
次の瞬間、彼は拳を握りしめ、勢いよく立ち上がった。
「そうか! やっとわかった! あいつが言いたかったのは、そういうことだったんだ!」
「ちょっと! いきなり大声を出さないでよ!」
しかし、ロキにはもうルニアの声が届いていなかった。
「行くぞ! 広い世界へ!」
ロキは空に向かって拳を突き上げ、声を張り上げた。
「強い仲間を集めて、世界一の探検家になってやる!」
喜びに満ちたロキの顔からは、抑えきれない興奮が伝わってきた。
そして、彼は突然ルニアの方を振り返った。
「ルニア! 決めたぞ! 俺、今日出航する!」
「……え?」
ルニアは驚き、目を見開いた。
「今日? 本気で言っているの?」
「もちろん!」
ロキは満面の笑みで答えた。
「俺は世界一の探検家になるんだ!」
ルニアはしばらくロキを見つめていたが、やがて小さく微笑んだ。
「本当に、じっとしていられない子ね」
小さな船と新たな旅立ち
ルニアは店の外へ出ると、ロキに手招きした。
「こっちへ来て」
店の外には、小さな船が一隻あった。
大きな船ではなく、豪華な装飾もなければ、巨大な帆もなかった。それでも、海へ出るには十分な船だった。
ルニアはその船を指さして言った。
「この小さな船を使いなさい」
ロキは驚いた顔で彼女を見た。
「えっ!? 本当に使ってもいいのか!?」
「ええ。この船に乗って、旅に出なさい」
「ありがとう、ルニア!」
ロキは嬉しそうに船へ駆け寄った。
船を眺めながら、彼はこれから待ち受ける冒険を想像し始めた。
まだ仲間は一人もいなかった。
自分の旅にどんな危険が待ち受けているのかも、わからなかった。
それでも、ロキは一瞬たりともためらわなかった。
「待ってろよ、閉ざされた大地! 必ずそこにたどり着いてやる!」
そう叫ぶと、ロキはルニアのもとへ戻り、彼女を力いっぱい抱きしめた。
「ルニア! いつか俺が有名になったら、迎えに来るからな! そのときは一緒に海へ出よう!」
ルニアは微笑んで言った。
「ふふっ。本当に大きな夢ね、あなたは」
ロキは船に乗り込み、ルニアに向かって手を振った。
「ルニア! 今まで本当にありがとう!」
港から、ルニアは大声で叫んだ。
「食べすぎないようにしなさいよ、このバカ!」
「はははっ! わかった!」
ロキの笑い声とともに、小さな船は港を離れていった。
つづく……




