■40.エピローグ:聖女に仕返しされる
夕日に染まった花畑でふたりきり、手を取り合って、見つめ合い。
「あの、じゃあ、シェリネ」
「ひゃい、はい、ヴァルディさん」
「……」
「……」
このまま黙って見つめ合い続けていたら、おそらく過度な動悸で心肺停止する。
生命の危機を察知したヴァルディは、唐突に「カレー!」と叫んだ。
「早く帰って! 晩飯の! カレー食わないと! 温玉付きで!」
そして有無を言わさずシェリネを抱き上げ、「失恋岩」にヒビが入るほどの強烈な踏み込みで空高く跳躍、「温玉大好きー……」というシェリネの弱々しい悲鳴がこだまする花畑を後にした。
これまでの最高速度で帰宅を果たし、抱えていたシェリネを玄関前で丁寧に降ろす。自宅に戻った途端、本日のできごとが一気にぶわりと蘇った。
シェリネのライブに参加して。
ジュースを噴いて。
色々と自覚して。
うっかり炎を出してしまって。
今まで吐いてきた嘘を全部バラしてしまって。
全部受け止めてもらって。
特別な替え歌を聞かせてもらって。
そして、足輪の意味を教えて。
本当に長い一日だった。だが、あとは仲良くカレーを食べる幸せな時間が待っているだけだ。長かったけれど、なんて幸せな一日だろう。勝手に尻尾が揺れる。
「あの、じゃあ、シェリネ、お先どうぞ」
「ひゃい、はい、いいえ、ヴァルディさんがどうぞ」
ふたり揃って玄関前で照れ照れもじもじしていたら、シェリネが「あ」と声を上げた。
「どうした?」
「いえ、その……。今、私、ヴァルディさんへの仕返しを思いついてしまって」
「し、仕返し?」
「こちらを向いていただけますか?」
ヴァルディは急に不穏なことを言われて困惑したが、頬を赤く染めているシェリネからなぜか不退転の覚悟が滲み出ていたので、大人しく従うことにした。
「失礼します」
シェリネはヴァルディの肩に両手を置き、背伸びをして。
――ちゅ、と口付けた。
唇同士が触れ合ったのは、ほんの一瞬。
それでもヴァルディを混乱させるには充分な感触だった。
「いいいい今の、何?」
尻尾の鱗を逆立てて盛大に動揺するヴァルディに、シェリネは顔を赤くしたまま、それでも勇ましく胸を張る。
「これは夫婦専用の、おかえりなさいの挨拶です」
そして微笑んで、こう続けた。
「人間の文化では、これが常識なんですよ?」
『捕らえた聖女の目が死んでたので正体隠して面倒見る』終
魔族ミーツ聖女ラブコメ、これに終幕です。
最後まで見守ってくださり、ありがとうございました!
あれ、なにやらヴァルディとシェリネから重大発表が……。
***
「ヴァルディさん! 大変です!」
「どうしたシェリネ、そんなに慌てて」
「私たち、書籍化します!」
「えっ」
「角川スニーカー文庫から、10月30日に発売です!」
「えっ!?」
「表紙は牢屋にへたり込んでいる私が目印です! あ、ヴァルディさんは映ってなかったです」
「ふざけんなよ編集部」
「挿絵たっぷり、私の着ぐるみパジャマ姿がフルカラーで再現、あんなシーンやこんなシーンもイラスト化されてしまったみたいです!」
「よくやった編集部」
「エピソードもweb版にドドンと加筆、七星のフレンさんがまさかの活躍、ヴァルディさんと私が神殿に乗り込んで大暴れしたり惚気たり大波乱の展開だそうです!」
「仕方ない、十冊ほど買ってやるか……」
***
そんな感じの書籍版、どうぞよろしくお願いします!
活動報告に表紙イラスト(※)を載せたので、ぜひご覧くださいませ。
(※主人公のヴァルディさんは本当に1mmも映っておりません)
発売日にはwebの読者様に熱い感謝を込めて、記念SSを投稿します。お楽しみに!




