きっかけは黄色いスイーツ
間違って執筆途中のものをうpしてしまうという失態から時間が大分かかってよーやくうpできました。
思った以上に時間がかかって申し訳ないです。でもどうにか今日中に更新できました。
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こっちの世界に来て、私は気づかないから幸せだってことを知った。
お昼と夕方の狭間の時間はひどく静かで、なんだかとても侘しい気持ちになった。
窓の外を見ると須川さんが言っていた通り、生徒が一人もいなくてガランとしたグラウンドが見える。
本当なら生徒で溢れて居るはずのそこは人っ子一人いない。
きっと夕暮れになったら、と考える。
橙色に染まる景色はきっと凄く綺麗で物悲しくてどこか懐かしいんだろう。
「なんだか人のいない学校って食べ終わったクッキーの空き箱みたいな感じ」
「なるほど、空き箱ですか。言い得て妙ですね」
「閉鎖的で人がいて、色んな意志が混在してる場所には集まりやすいって前に須川さんは言ってましたよね?この定義ってほかの学校でも当てはまるんじゃないですか?」
「当てはまりますが、まだ『完成』するには基礎と切欠が必要なんですよ。基礎は『集まりやすい』場所もしくは『神気の濃い』場所であることです。後者は滅多にありませんが、前者は人の手で作り上げることもできます。切欠は……まぁ、様々ですが事件や事故が多いでしょうね」
「事故が多いところで幽霊の目撃例が多いのも、その条件が揃って『完成』したから?」
「そうですね、自殺者が多い場所も大概は波長があった者や引きずり込みやすい者を引き寄せている場合もあります。勿論、ただ単に偶然が重なっていたり自殺者が好んでいるだけ、という場所もありますけどね」
なるほど、と納得して廊下を歩く。
階段を降りて角を曲がって、いくつかの扉をくぐると校舎の外にでた。
むっとした暑さに思わず顔をしかめる。
夏独特の体にまとわりつくような不快感はやっぱり好きじゃない。
山だから少しカラッとしてるんじゃないかと思ってたんだけど見事に予想を裏切られた。
ちなみに、正し屋のある縁町はどちらかというと涼しい。
蒸し焼きになりそうな暑さというよりも、昼にかけてパッと熱くなって夜にはしれっと涼しくなってるのでかなり快適だ。
部屋には須川さんがエアコンを付けてくれたから寝苦しい日はないんだけど、窓を開けて寝る方が私は好きなんだよね。自然の風が凄く気持ちいいんだよ。
「須川さん、夜もやっぱりこの格好ですか。正直、学ランってものっそい暑いんですけど。拷問かと思いました」
「制服ですよ、勿論。その方が色々言いようもありますからね」
「……りょーかいです」
夜の潜入は涼しい薄手のTシャツと短パンで挑む予定だったのに。
項垂れたまま向かうのは校舎の裏に建てられた学生寮。
森の中の小道を抜けると見えてくる大きな建物は普通のアパートというよりもお金持ちの別荘みたいな感じだとおもった。
大きく3つに別れた棟と中央にある大きな棟の奥には正面からは見えない小さな棟がある。
周りは森だから騒いだとしてもご近所迷惑にはならない。
あ、あと運動できるように寮の周りはぐるっと芝生になってて寮ごとに花壇やら犬小屋やらがあって面白いっちゃ面白い。
「そーいえば、どの寮にはいるんだろう…3つあるんですよね?」
「資料に書いてあったのですが、どうやら見ていないようですね。寮は山桜、夜桜、桜雲の3つありますが貴方は夜桜寮です」
「男子寮らしからぬ名前ですね、なんか」
「栄辿高校の創設者が大の桜好きだったんですよ。それだけじゃなく、当時『桜山』として有名だったこの場所に『桜』の一文字をいれたんです。学校の名前はもう既に決まっていたので寮の方に付けた、と創設記に書かれていました」
「そんな資料まで読んでるんですか、須川さん」
「情報は多ければ多いほど有利になります。勿論、役に立たないものもありますが繋ぎ合わせていけば有利なものや有益なものへ変化することもある。何よりこういった作業が私は嫌いではありませんからね、優君は苦手なようですが」
体が勝手に動く、でしたっけ?と笑う須川さんに私は曖昧な笑顔を浮かべた。
正し屋での役割分担は見ての通り『考える』のは須川さんの仕事で『行動する』のは私の役目。
須川さんが動くこともあるけど彼はあまり力を使おうとしない。
理由を聞いたら『抑制するのは大変なんですよ』と苦笑していた。
力の調節ができないわけじゃないらしいんだけど、力で捩じ伏せるのは最終手段なんだって。
『力で捩じ伏せるのは簡単すぎて優美さに欠けるから好きじゃない』っていってたんだけど……金持ちの美形が考えることって分からない。
栄辿高等高校の学生寮『葉桜寮』入口についた。
ここからは生徒がいるから須川さんは上司じゃなくて教師になる。
私は従業員兼弟子から生徒に。
携帯を開いて時間を確認すると4時30分になったところだった。
中央の建物は葉桜寮の顔で、入寮時の説明や鍵の保管、事務手続き(外出届けとかね)をするところであり寮に関するコトを取り決める会議だとかは全部ここ。
須川さんが寝泊まりすることになる舎監室はこの奥にある小さな棟にある。
舎監室は生徒が生活する寮を見渡せる場所にあって火災などがあった場合すぐに対応できる仕様だそうです。あ、防犯カメラの映像を記録するのもここで警報機のスイッチもここにある。
警報機の類の大元は警備会社に委託してるらしいんだけど、念のために置いてあるとか。
「少しここで待っていてください。今、道具を持ってきます」
舎監室につながる棟の前で待機しているように言われたので壁に頭をぐりぐりと擦り付けた。
所謂、反省の姿勢です。猿回しじゃないけどそんな気分なんです。
中に入るのを止められたのは、生徒は舎監室に入ってはいけないという決まりがあるから。
いくら編入してきたとはいえルールを破るのは不味い。
変に勘ぐられても困るし、探りを入れられた日にはあっさりボロを出す気がする。
鍵を開けて扉の向こうへ消えていく須川さんを見送って、夕食に何を食べようか考えながらぼーっとしていると突然肩を叩かれた。
「うひゃあっ!?」
「っうお?!?び、ビビッたぁ…そんなに驚くことないだろ」
驚いて振り向くと同じように目を見開いたまま妙な体勢で止まっている靖十郎の姿があった。
ビックリした反動で壁に背中を強打したものの、視線は靖十郎に張り付いたまま離れない。
妙な沈黙の後、どうにか言葉を口にした。
「と、突然後ろから肩叩かれたら誰だってビックリするだろ?靖十郎は須川さ…あー、須川先生に何か用?」
「いや、用があったのはセンセーじゃなくて優なんだけど。寮に戻ることになってお前の事気になったから職員室に行ったんだよ。そしたら優の編入手続きのことで話があるから舎監室に居るはずだって聞いて迎えに来たんだけど……まずかったか?」
「(まずくはない!不味くはないけど心臓と精神には非常によろしくないです)だ、だいじょーぶ。ありがと、わざわざ探してくれて。えーと、用ってなに?」
「いや、俺らと同じ寮だろ?だから案内してやろうかなって。あ、これ封魔から編入記念だってよ」
差し出されたのは丼。
食べ物だってことはわかったんだけど、その中身を見て私は首をかしげる羽目になる。
黄色い茶碗蒸しのようなものが丼一杯に詰まっていた。
ただ、茶碗蒸しにしては具が一切見えない。個人的にはエビの茶碗蒸しが好きです。
「なんで、具なしの茶碗蒸し?」
「やっぱりそーみえるよなぁ……ソレさ、茶碗蒸しじゃなくてプリンなんだよ。ちなみに封魔作な」
「えぇえ?!プリンをあの不良っぽい感じの封魔が!?マジで!?」
「おう。面白いだろー?アイツあんな面して菓子作るの上手いんだよ」
「面白いっていうか怖いんだけど。食べられないものとか食べちゃいけないものとか入ってないよね?」
「ないない。アイツ、パティシエ目指してるみたいだし一年の時から夏休みとか冬休みにパティシエ修行してた位だしな」
ちなみに菓子作りの時は、フリルの沢山ついた白いエプロン着用(嫌がらせとしてプレゼントされたもの)らしい。
私はうっかり想像しちゃって、靖十郎はうっかり思い出したらしくて…互いに噴出した。
だって、頭に浮かんだのは紫檀色のショートの髪をワックスでツンツンにして、耳にはピアスをつけたガタイのいい風魔が鼻歌歌いながらフリル付きの白いエプロン付けて鼻歌を歌いながらご機嫌で菓子を作ってるんだよ?!
似合わなすぎてもう…ッ!!
「ブッ!!あはははは…っ!!ひぃ~~、死ぬ!死んじゃう!何それ!!見たい!!」
「くっくっく、だろ?俺もはじめて見た時は30分は腹抱えて大爆笑したくらいだしな!けど、腕は確かだからそこらで売ってるのより美味いぜ?甘もん喰えない俺でも喰えるんだから」
「ふふ、そっか…わかった。夕食の時封魔にお礼言っとくよ」
そー言われてみると大きな器の中に入った黄色い物体が美味しそうに見えてくる。
部屋に帰ったら真っ先に食べようと思っていると靖十郎は言い難そうにぽつりと言葉を口にした。
「それで、さ…もう大丈夫か?体調悪くて保健室で寝てたんだろ?」
「え?もしかして、コレ…」
「おぅ。お前転校してきたばっかであんなの見ちまったし、それに様子もおかしかったし。封魔と話してて昼間にお前、甘いもん喰ってたなーって話しになったんだ。折角その、ほら…ダチになったんだし記念っていうか……」
「心配、してくれたってことだよね?ありがと、靖十郎」
「う……ッ!べ、別にそ、………と、とにかくそれ喰って元気出せよな!じ、じゃあな!」
照れているらしく頬を初めて早口で捲し立てたかと思えば、逃げるように私の前から靖十郎は走り去った。思わず伸ばしたては中途半端に宙をさまよって止まる。
ってか、好きな人に告白して返事も聞かずに走り去る乙女みたいな図になってません?女として非常に安然な敗北感に満ち溢れてるんですけども。
「……なんだろう、女として男子高校生に負けた気分になるのって凄く虚しい気が……」
丼を抱えたまま項垂れた私にかけられたのは、ちょっぴり機嫌の悪そうな須川さんの声。
パッと振り向くと左眉をピクリと上げて高い位置から私を見下ろしていらっしゃいました。
美形に見下ろされるのは怖すぎる。威圧感パネェです。
「―――――…何をしているんです?気でも触れましたか?」
「触れてませんって。ただ、男子高校生より可愛げがないっていうのはどーなんだろうっておもってただけで。でも、心配してもらえるのって嬉しいですね」
丼をもったまま、これが男の友情ってやつなのか!?とひとり盛り上がっていると重いため息を吐かれた。
む、なんだなんだ。いつも以上に扱いがずさんになってるんですけど。
「友情、ね……まぁいいでしょう。術符は夜までに書いて置いてください、いつもより多めに。いいですね?私も準備がありますからここで別れましょう。時間になったら遣いを飛ばします」
有無を言わさず道具の入ったバックと鍵を手渡し、須川さんは舎監室へ戻っていった。
……何だか雰囲気が怖かったんだけど、私なにかした?
いや、何もしていないはずだ。
至って普通どおりだった。うーん、相変わらず美形が考えていることはわからない。難しすぎる。
らしからぬ上司の態度に首を傾げつつ私はプリンと道具が入った大き目の黒いバックを持って部屋へと戻る。手にはしっかり部屋の番号が書かれた鍵を持って、だ。
部屋までの道のりは出会った生徒にきけばいいだろうとお気楽に構えて私は歩き出す。
勿論、頭の中はプリンで一杯。
茶碗蒸しも好きだけどプリンにはかなわないよね。だってプリンは子供からお年寄りまで幅広いアイドルだもの!生クリーム苦手な人はいてもプリン嫌いの人って中々いないし。
完全に浮き足立っていた私は、扉の向こう側で須川さんがどんな事を考えているかなんて知る由もなかった。
―――――――― 日 常 と 非 日 常 は 表 裏 一 体 。
きっと、裏返しちゃいけないんだ。お互いの為にも。
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ここまで読んでくださってありがとうございました。
短いのと動揺の所為でいろいろミスがありそうなので後で書き直すかもしれません。……誤字脱字のチェックが怖い。
PVが13000を越えました。有難うございます!がんばるぞー!
※変換ミスを教えてくださった方、本当にありがとうございます!後でもう一度じーっくり見直しますが取り敢えず気づいた点、修正しました!