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正し屋本舗へおいでなさい  作者: ちゅるぎ
潜入?!男子高校
39/83

きっかけは訃報

じ、地味です。

説明過多な気もするけど…し、仕方ないですよね!こんな回だって必要ですとも!

.








 実は、あれもこれも私の夢でした。









 …なんてオチだったらどんなにいいだろうと白い天井と美しく整った顔立ちを視界の端に入れて、私は笑った。勿論、乾ききってカラッカラの笑顔です。

うっかり現実から逃避行を図った私はきっと悪くないと思う。

視界に美形がいるのって本当に心臓と精神と女っていう私の中にもあったらしいちっぽけな自尊心が破壊されるから。なんで男なのにそんなに綺麗なの。ありえん。認めん。信じられん。





「優君…!全く貴方という人は…ッ」



「なんかすいません。えーと、おはようございます?」




 心配していたんだと、読めない笑顔を貼り付けていることの多い顔が歪んだ。

歪んでも綺麗なのは言わずもがな…だけど、こんな表情を見るのは初めてだ。

心配してくれてる…ような言動を聞くことはあったし気遣いだってしてくれるけど表情に思いっきり出して、焦りを声色でも表すような人じゃなかった。少なくとも、私の今まで見てきた須川 怜至という人間は。

 ぼんやりした頭のまま自然に上半身を起こそうとした私の背に大きな手が添えられ、体を起こすのを手伝ってくれた。正直体ががっつり重たかったから助かったんだよね。

町内を全力疾走した後の半端ない疲労感っていうのかなー……とにかく体がダルい。

ベッドと仲良くしていたいけど仕事中だし、人の目もあるから起きるけどね。





「ぬあー……頭、ぐらっぐらする」



「でしょうね。残存思念から察するにあまり有用な情報は得られていなさそうですが、深入りはしないように。気づいていないようですが夢の中に在る時の貴方は酷く危うい場所にいます。意図して入ったのなら話は別ですが、引きずられている時点で半分憑依されている状態なのですから」




「げ。私寝てる間、憑依されてるんですか?!」



「そういっているでしょう。自我を失えばあっという間に入れ替わるでしょうね――――――…清めの水は?」



「…持ってない、デス」




 衝撃の事実に動揺する私を尻目に今まで気付かなかったのかと心底呆れたようなため息をつく美しい上司様。眼鏡の奥で細められた切れ長の瞳は私を“可哀想な生き物”もしくは“どーしようもない生き物”として認識していることを如実に物語っていた。

 いーんだ……もうこのかわいそうな生き物をなま暖かく見守る目には慣れたから。

怒られる位なら可哀想な生き物で収まったほうがいい。プライドでご飯は食べられません。




「明日からは持ち歩いて下さい。今夜、寮へ帰ったら多めに作っておくように……どうぞ」





 ため息と共に差し出されたのは500mlのペットボトル。

中身を三口ほど流し込んで、ようやく“気持ち悪さ”が抜けた。

ほどよく冷えた水が体の中に留まっていたモヤモヤした気持ち悪いものを綺麗に洗い流していく。

私もなんとかこれくらいの効力を持ったものは作れるようになったけど、体の中を透明に澄んだ水が満たしてくれるような感覚を生み出すまでには至ってない。

須川さんが作る清めの水は、浄化だけじゃなく霊力及び気力の充填もしてくれる。




「ん。ありがとうございました」




 キャップを締めて須川さんへ差し出すと彼はゆるりと首を振って、私に掌を向けた。

不思議に思って見上げてみれば白いカーテンをバックに微笑んでいる須川さんが微笑んでいる。

…正直、ちょっとドキドキした。これだから美人は…っ!!





「差し上げますよ。ただし、今回は特別です…事態が事態ですから」



「ありがとうございます!えーと…須川さんちょっといいですか?」



「なんです?」





きょとんとした顔で見つめられて私は言葉に詰まった。

話したかったことをどう表現したらいいのか凄く困ったから、なんだけど…それ以上に曖昧すぎるこの感覚を『報告』してもいいのかどうか迷う。声に出さなきゃよかったなーと思ったけど、後の祭り状態。

引っ込みがつかなくなった言い出しっぺの気持ちが今なら良く分かる。

 うーんと、視線を左右に泳がしまくる私の頭をぽんぽんっと2~3度優しく叩く。

顔を上げると穏やかな顔をした彼と目があった。





「情報は多いほうがいいんですよ、こういう現場では。情報の選別は私も手伝いますから話して下さい」



「う、はい。えーと…ですね。この学校、ちぐはぐな感じがしてて」



「ちぐはぐ、ですか」



「上手くはいえないんですけど凄くそれが気持ち悪くて……バランスも崩れてて、それをどうにか取り繕ってひとつにしました!みたいな、そんな感じがするんですよ」





 潜入初日なんだけど、心の中にあるもやもやを言葉にするならこれが一番しっくりくる。

まず足を踏み入れた時に感じた違和感はこのチグハグな感じだった。

 言葉にする前に思い浮かべたのは、短い時間と少しの移動だけで判ったこの学校の変なところ。

所々落とし穴みたいに深く澱んだ霊気が集まっていたり、逆に不気味なくらいなんの気配もしないところもある。今のところ、私が完全に気を緩めることができるのは須川さんの傍くらいだ。

靖十郎と封魔の近くはどちらかと言えば居心地はいいけど心配なところも一つ。




「(そういえば、あの2人は大丈夫なのかな…?)」




 霊力が高い人間は大体取り憑かれやすかったり、引き寄せたりする性質の人が多い。

2人が一概にそうだとはいえないし、どちらかと言うとそういった気配はないんだけど…気にはなるんだよねぇ。

 一応お守りとして護符くらい渡しておいた方がいいか。

今日の夜作って明日わたそーっと。





「さて、そろそろ本題へ移りましょうか。優君が倒れていた理由については後で伺いますのでまとめておくように」



「了解です。えーと、これは?」



 ついっと指さしたのは私の眠っていたベッドの上に置いてあるB3サイズの茶封筒。

実はさっきから気になってたんだけど勝手に見るのも不味いかなーと思って見てみぬふりをしてたんだよね。サイズも大きいし、凄く気になる。

 じーっと封筒を見ている私の目の前で、須川さんは封筒を開けた。

どうやら見せてくれるらしい。

普段浮かべている微笑じゃなくて仕事中の――――― それも、真剣な話し合いの時によく見る顔をした須川さんが束ねられた薄い資料を差し出した。





「少し面倒なことになりました。投身自殺した生徒の後、別の被害者が出ています」



「被害、者って……また誰、かが?」



「被害者は三年の生徒です。遺書は見つかっていません……引きずられたとみて間違いないでしょうね。写真は見ますか?」





 頷いた私に手渡された写真に生徒の顔は写っていなかった。

木からぶら下がる男子生徒の体は葡萄みたいにぶら下がっている。

葉桜になったとはいえ、立派な桜の枝にはそぐわない光景が写真の中に映し出されていて思わず眉をしかめた。

 両手両足を後ろ手に縛られてぶら下がっている姿は異様で、日常からかけ離れすぎて現実味がない。

ぼんやりと写真を見ていると不思議なものが混じっているのに気づいた。

 桜のすぐ傍に生えてるらしい、私の背丈くらいの小さな木蓮。

季節外れなのにも関わらず木蓮は咲いていた―――――― 『 逆さま 』に一輪だけ。

木蓮は空に向かって咲くというより、地面へ向かって咲いている。





「これ、なんですか…?」



「逆さ木蓮と言われていますね、見たままですが」



「もしかして“逆さ木蓮”っていう怪談、とか?」



「いいえ。怪談は“首吊り桜”です。この逆さ木蓮はこの桜で誰かが首を吊ったことを告げるために咲くんだそうですよ…真偽の程は不明ですが」



「あの気になってたんですけど潜入初日でこんな風になるのって珍しい、っていうか初めてですよね?」



「それだけ強いんでしょうね……正直なところ、流石に潜入調査2日目で死者が2人も出たなんて経験は私もありません。今夜の調査ですが優君と協力者の二人では少し心配なので念の為に私も同行することにしました」





勿論異議がある筈もなく私は頷く。


須川さんの得意分野は怨霊・悪霊の“浄霊”又は“除霊”で、強制浄霊(強制的に浄化させる)ことも出来るほどの実力の持ち主なんだよね。

他にも又、呪詛や占術も得意で事務所を開く前には占い師をしてたんだって。

本人曰く「名前を売る為であり、開業資金を集める手段のひとつだった」らしいんだけど、かなり有名だったみたい。

 ちなみに、彼も使役している式がいる。

私にチュンとシロがいるように須川さんには8匹の狐がいるんだって。まだ見たことはないんだけど、雅さん(大男な喫茶店の店長のことだよ!今では彼の作るデザートは絶品なんだよね)情報によると中には神化したものまでいるらしい。やっぱり規格外なんだってさ。





「(須川さんが来てくれるなら大丈夫だよね、うん)」



「優君にはこのまま寮へ戻っていただきます。授業は終わりましたし今日は部活動も中止になりましたから……寮までは私が送っていきます。途中で“道具”を渡しますが、きちんと夜までに準備を整えて置くように」


「はい、わかりました!」




頷いてお世話になったベッドから降りる。

硬い床に立てば何だか久しぶりに立ったような気がした。

静かな廊下を歩きながら、ぎゅっと手のひらを握りしめて改めて思う。

 私達は寮へ続く長い廊下を歩き出す。




「(この依頼、早く終わらせないと…これ以上被害者出す訳にはいかない)」



 既に影響を与えている怪異が今後どんな変化をしていくのかはわからない。

でも、これ以上悪化したらもっと被害者が増えるのは確実で…それだけは避けなければいけない。


 ぶっちゃけると私だって怨霊悪霊は怖いし、できれば見ざる聞かざるでいきたい。

でもやっぱり一度仕事として任された以上最後まで責任を持って自分で片付けたいって思うんだ。

何より須川さんが私に任せてくれたはじめての仕事。

フォローもしてくれてるし実際に軸になって動くのは私じゃないかもしれないけど。




「(……今更だけど、怨霊とか悪霊じゃなくて動物霊でしたってオチにならないかなぁ)」




 私の得意分野は妖怪や動物霊の使役(又は浄化)、霊視、神仏や妖怪の相談に乗ること。

って、役立たずじゃないんだって!結構役に立つんだよ、迷子になった時とか!!

いつか人の役に立てる正し屋の看板として須川さんと同じくらいビシバシ働けるようになるんだから。











 一人拳を握り締めて百面相を繰り広げる私を見て須川さんが苦笑していたのに気づくのは数秒あとのこと。なんでも、心の声が一部こぼれ落ちてたらしい。








.



 ここまで読んでくださってありがとうございました。

誤字脱字変換ミスは好きなところからこっそり教えて下さると助かります。

また、予想外な勢いでPVが増えていてビックリ。

が、がんばらねばーぎぶあっぷ。

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