第33話 僕と決着と?
地面に足がつく。
やっと重力を感じ、安心する。
でも、まだ心から安心するのは早い。
ケントは二人の騎士に囲まれながらも、その場から動こうとしない。
だけど、悪魔もいなくなったし、シルバーナイフを構えようともしない。
一応、戦意喪失しているようには見える。
けれど、どこか油断してはいけない危うさがあった。
「クリエントはまだ近づくな」
「は、はい……」
リヒトさんに言われてしまえば、その通りだ。
僕なんかが近づいて、もし何かあれば、リヒトさんは確実に僕を助ける動きをするだろう。
そうなれば、リヒトさんが危ない。
サグラモールさんも危険にさらされる。
それなら余計なことはせず、おとなしくしていよう。
クニーを抱えながら三人の様子を見る。
僕の後ろには、サモスさんが立っていた。
「やれやれ、まだ諦めていないみたいだねぇ」
「あきらめられるわけないだろう。そいつの魔法は、国をも変える。そんな魔法を、お前のような底辺が持っていては、宝の持ち腐れだ!!」
――シュッ ザシュッ
「…………え?」
――何が起きたのか、わからない。
今はもう、サグラモールさんがケントを地面に押さえつけている。
そして、目の前には赤い鮮血。
その鮮血は誰のものか――いや、わかっている。
その鮮血は――
「り、リヒトさん?」
リヒトさんの腕に、シルバーナイフが刺さっていた。
「無事か、クリエント!」
腕を押さえながら、リヒトさんが僕の心配をする。
なぜ、僕の心配をするの?
違うでしょ。僕の心配なんてどうでもいい。
「僕の心配なんて……」
『ちょっと待て。そのシルバーナイフ、何か塗られておる』
クニーが言うと、ケントが急に笑い出した。
「気づいたんだぁ。さすが兎、鼻が人間より効くのかなぁ」
「な、なにを?」
僕が聞くと、ケントが笑いながら答える。
「毒だよ。だが、ただの毒じゃない。猛毒さ」
「――え?」
リヒトさんの腕を見ると、紫色に肌が変色している。
ナイフが深く刺さったとしても、こんなふうに肌の色が変わるなんて普通じゃない。
「血管まで深く刺さっているみたいだねぇ。そのまま血液が毒を心臓へ送り届ける。多分、もう数秒しかもたないんじゃないかなぁ」
「そんなっ!!」
あと数秒。
うそだ。そんなの、うそだ!!
「なるほど。血液をたどって、ね。それならちょうどよかった。早くおいで、グリード」
焦りなど一切感じさせない口調で、悪魔の名前を呼ぶ。
けれど、グリードさんは確か、グラットニーに殺されてしまったんじゃ――
『お待たせいたしました』
「説明している時間がないんだ。君なら、人間が作り出した毒くらい吸っても問題はないだろう? そこの男の血を吸ってくれ」
『わかりました。…………ご褒美だ』
え?
なんか最後、小声で不穏なことを言わなかったかな。
始終唖然としていると、グリードと呼ばれた悪魔がリヒトさんへ近づいていく。
手を額へ伸ばすと、淡く光る。
すぐに『見つけました』と言った。
『腕をお借りします』
「はい」
ただれる一歩手前の腕を差し出す。
見ているだけで痛々しい。
リヒトさんは、どうしてこんなにも平然としていられるのだろう。
どうして、何ともないような顔をしているのだろう。
――ガリ
リヒトさんの腕を、グリードさんが噛む。
少しだけ、リヒトさんが痛そうな顔を浮かべた。
『…………ふぅ。ごちそうさまです』
リヒトさんから離れると、口元を拭う。
「リヒトさん! 大丈夫ですか?」
「あぁ、さっきまでのしびれや痛みはない」
リヒトさんの腕を見ると、紫色だった肌が薄くなっている。
「こ、これは?」
もう何が起きているのか、さっぱりわからない。
わからないことが多すぎて、何を質問すればいいのかすらわからない。
唖然としていると、悲痛に近い叫び声が響いた。
「なぜだ!! なぜ、貴様の悪魔が生きている!! グリードは、グラットニーが殺したはずだ!」
ケントがサグラモールさんに押さえつけられながら叫ぶ。
そんなケントに、サモスさんが近づいていく。
危険じゃ――
不安になっていると、リヒトさんが僕の肩をつかんだ。
見上げると、「大丈夫だ」と言うように優しい笑みを浮かべていた。
リヒトさんが慌てていない。険しい顔もしていない。
それなら、大丈夫――かな。
もう一度、ケントとサモスさんを見る。
「まず、グリードについてだけれど。君みたいなやつが従えられるほどに弱い悪魔に負けるわけがないだろう」
「な、なんだと?」
「君は、左腕だけを悪魔に捧げたのだろう?」
その質問に、ケントは頷く。
「そんなちっぽけな代償で、悪魔が本当の実力を出せると思うのかぁ?」
「ち、ちっぽけ、だと?」
片腕が、ちっぽけ?
ど、どういうこと?
ケントをあざ笑うように、サモスさんが言葉を続けた。
「いいことを教えてあげよう。僕がグリードに捧げたもの――それは、この体に巡る血液、すべてだ」
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