第九十一話 温泉での楽しいひと時、絶品料理と最高の湯
夕方六時。
ちょっと早いけど晩御飯の時間となって、俺達三人は小宴会場に案内された。
そしてそこに用意されてる料理を見て驚いた。いや、量も多いけど内容が豪華すぎるだろ!!
小鉢の数も尋常じゃないし、刺身の量も三人分にしてはかなり多いよね?
天ぷらも個人の膳で用意された皿の他に大皿で別に用意してあるし……。それぞれに取り箸があるのもありがたい。
しかもどの料理もおいしそうだ。
「すっごい料理だね」
「そうだね。この辺りの料理も単純そうに見えるけど難しいって聞くし」
流石に栃餅系みたいな提供するまでに日数が馬鹿みたいにかかる料理は無いけど、最高の料理を用意してくれたのは理解できる。
流石にデザート系は後から出てくるっポイね。
「それじゃあ食べようか。いただきま~す」
「いただきま~す」
「いただきま~す。美味しいっ!! え? 同じ料理なのにこんなに差が出るの?」
炊いた白米の味ですらここまで差が出てるしね。ダンジョン米も凄いけど、普通の米でこの味が出せるんだな……。
米が程よく甘い。ホント、これご飯だけでいくらでも食べられそうだ。
「鳥の天ぷら? 他の天ぷらもおいしいけど、これってすっごいよね」
「ゴールデンウィークの時の鳥の唐揚げもおいしかったけどあれ以上の味だ」
いや、どう考えても揚げたてで提供できるように計算してあげてるよね。
ここがダンジョン内だったらダンジョンリングが使えるんだろうけど、流石にここだと使えない筈だし。
お、これって確か玲奈の好物だよな?
「玲奈。このホタテの天ぷら食べる?」
「いいの? ありがと~」
「目の前でそれをされるのは結構きついんですけど」
「あ、桜輝さんは海老とか好きだよね? この海老の天ぷらなんてどうかな?」
「え? ありがとう。私の好物、覚えてくれてるんだ……」
「流石に好意を寄せてくれてる相手の好物や苦手な物は覚えるよ」
最後に玲奈を選ぶ事になるだろうけど、だからと言って好意を寄せてくれてる桜輝さんたちを無下に扱っていい訳が無い。だからあれだけいろいろ渡してるんだし。
俺がパートナーを選ぶその瞬間まで、好意を寄せてくれてる相手には礼節をもって接したいしね。
「眩ちゃんってさ、昔っからやさしいよね」
「ひとには優しく接しなさいってのはうちの教育方針だし。でも、一線を越えてくる相手には容赦するなってのもうちの方針なんだ~」
「知ってる。おじさんって悪って判断した相手には容赦無いしね」
「眩耀はもう少しだけ常識を覚えてくれたらいいんだけど。さっきのアレ、パーフェクト・ヒールでしょ?」
「ちょっと漏れただけだよ」
「この旅館の敷地全体を範囲指定した~、ちょっと?」
玲奈は俺が指定した範囲まで見抜いてやがる。
流石に付き合いが長いというか、俺が何の目的で使ったのかも見抜いてるんだろうね。
「あのおじさんの腰だよね? 他にも悪そうだったけど」
「え? あの女将さんの病気の方じゃないの? あの人、かなりヤバそうだったし」
「へぇ~、桜輝さんは女将さんの病気を見抜いてたの?」
「あれだけ調子が悪そうだったらね。下手すると、ここ数ヶ月って感じだったし。治せるのは眩耀のパーフェクト・ヒール位かな~とは思ってたよ」
普通のパーフェクト・ヒールは病気までは治せないけど、俺の使うパーフェクト・ヒールは病気も一緒に治しちゃうしね。しかも超強力。
今となっちゃ究極の治癒に近い性能だし、だから同じパーフェクト・ヒールを持ってる人がいたら相当に首をかしげると思う。
「確かにあんな状態だと魔法を使っても治せるのは俺くらいだろうけど、その辺りは本当にデリケートな問題だし、なんでもオッケーにしちゃうと方々で問題が起きるしね」
「魔法が万能な様で意外に万能じゃないんだよね。攻撃魔法とかは分かりやすいんだけど」
「必要な賢力、魔力、レベル。覚えるまでに幾つも条件があるし、高レベルな治癒魔法になればなるほどハードルは上がっていく……」
「そこは同感かな。なんていうかさ、治癒魔法とか蘇生魔法を使わせたくないって意志すら感じるんだよな」
例の神様の考えなのかもしれないけど、その辺りは本当に引っかかる部分なんだよね。
全体的に魔力が不足するケースが多いし、人類側には魔法を使わせたくないって事なのかな?
と、そんな事より今は目の前の絶品料理だね。
……この鶏の砂肝うまっ!! って、この辺りの名物なの? これ。
これだけ旨いのは丁寧な下拵えのおかげなんだよね……。ホント、いい仕事してるよ。
「またご飯モードに戻ったかな。そうだよね、こんなにおいしい料理を食べてるのに、つまらない魔法の話とかないよ」
「眩ちゃんってさ、意外に鶏が好きなんだよ。焼き鳥とかも大好物だよね?」
「そんな情報貰っていいの?」
「別に敵対してる訳じゃ無いし、その瞬間まで仲良くいこうよ。わたしたち友達でしょ?」
「そうだよね。これからもよろしく」
最近、玲奈が他の女の子に対する態度がかなり軟化した。
正妻の余裕? 俺が記憶を取り戻して玲奈に体する態度が若干変わったのもあるんだろうけど……。
◇◇◇
豪華な晩飯の後、それぞれが自由に温泉に入る事になった。
お・ん・せ・ん♪ 魔法で失った四肢の欠損まで治る時代に泉質の効能なんて大した事が無いだろうという人もいる。
違うっ、ちがうんだよぉぉっ!!
同じ風呂でも魂が癒されるというか、ぜんっぜんレベルが違うのさ。
寮の風呂もデカいけどあれは何か殺風景で癒されないし、近くのスパ銭を愛用してる奴もいる位だしな。……俺だよ!! 意外に風呂好きなんだよな~。
「ふぅ……、記憶を取り戻して以来、異様に風呂好きになってる気がするんだよね。以前の俺だったら温泉旅館に泊まろうなんて絶対に言い出さなかった筈だ」
しかも今回は玲奈達もいるしね。
パーティ登録者の遠征先での宿泊だから学院にバレても特に問題ないし、元々俺みたいに毎回テレポートで現地直行スケジュールがおかしいのさ。
普通は移動に一日、探索に数日、清算と帰還に一日ってのが冒険者の遠征だ。時間も金も掛かるから長い休みでないと思い切って遠征なんて無理。
だから生徒会でもなかなか遠征しないし、配信がいっつもあの高難易度ダンジョンだなんだよね。
「この大浴場もいいけど、こじんまりした壺湯もいいな。いや~、日々の疲れが癒されるよ」
八割がたお前が原因なトラブルじゃね? って声が聞こえてきそうだけど、俺はそこまで常識はずれな事はしていない筈だ。
武器だって常識の範囲内だし、仲間に使ってるアイテムもそこまでおかしなものはない。
大体さ、増色の魔石や魔宝石なんて使わなきゃ意味がないんだし、ここまで増えたらお金なんて通帳の数値に過ぎないからね。
そういえば、俺の周りに優秀な冒険者が急増してる気がする。
今は鍛冶師として勢多の奴もいるし、学院の人材もかなり揃ってきたよな……。
これでアクセあたりを作れる人がいれば……。
闇魔法対策もそうだけど、斬撃耐性のあるアクセがあるとかなり楽になるんだよね。
耐性付きでも軽く数十万。小遣い稼ぎで生産するにはずいぶんな儲けだけどアクセを作れる人ってそんなレベルでいないんだよな……。
流石に俺は武器と同じ様にそこには手を出してないけど。
「さて、身体がふやける前にいったん部屋に戻るか。十分温泉を堪能したし」
むしろ湯治客か~ってレベルで温泉に入りまくってるぞ。
玲奈達を完全に放置しての行動だけど仕方ないよね。流石に混浴って訳にはいかないし。
今日は俺達の貸し切りなのか、ほかに客がいなかったのも大きいな。
明日宿から出る際に身バレしないで済む。
「あ~、眩ちゃん発見!!」
「わたしたちを放置して温泉三昧なんていい度胸だよね」
「ホントホント」
「二人とも温泉から上がったばかりか。ここの温泉が気持ち良くてね……」
いやホント。ここに連泊したらずっといろんな温泉に入りまくるよ。
……湯上りの玲奈がちょっと色っぽいと思ったのは内緒だ。
「ここって割と遅くまでお土産コーナーとかがあいてるっぽいし、お詫びにそこでソフトクリームをおごるよ」
「ありがとう。……ちょっと視線が泳いでるのはなんでかな?」
「いやまあ、しかたないだろ?」
「その態度で許してあげようか。そっか~、脈はありそうだね」
そりゃ、桜輝さんも相当にスタイルが良くて美人だしさ。
性欲が欠片もないロボットとかでもない限り、湯上りの浴衣姿なんて見たら色々反応するんだよ。
俺は割とクールを装ってるけどさ。バレる時はバレる!!
「これだけでも来たかいがあった気がするよ~」
「眩ちゃんの意外な一面を見た気がする。たまに感情死んでるんじゃないって思う事もあるんだ~」
「あ、それは分かるかも」
二人もかなり仲良くなった気がするな。
裸の付き合いじゃないけど、なんとなく壁が一枚剥がれた?
「あ~、おいしいっ」
「濃厚なクリームと程よい甘さ。湯上りにこれを食べるのも最高の贅沢だよね~」
「温泉の楽しみの一つだよな。というか、こんな時間まで空いてるのは凄いな」
「流石に後三十分くらいで閉店ですよ~。明日も早くから開いていますので、お土産をお求めの際にはご利用ください」
お土産。
流石に姫華先輩や虎宮の分は買って帰らないとまずいか。
家には……、親父たちがいつまであの牧場型ダンジョンの攻略を手伝っているのか分からないから却下だな。
「買って帰るの?」
「姫華先輩たちの分はいるだろう。生徒会用にこの辺りの饅頭と、虎宮夫妻にはこの辺りがいいかな?」
「夫婦湯飲みとか攻めるね……」
「あいつら絶対卒業と同時に結婚だろ?」
「流石に大学卒業後じゃない? 同棲は始めると思うけど」
あいつら、夫婦扱いされても動じもしないからな。
開き直っていちゃつきだした後の姿を見て、血の涙を流しそうなやつらもいるけどさ。
いやホント、分かってても割とキツイ時があるんだよ。
「それじゃあ、わたしはこの夫婦箸かな」
「夫婦茶碗もいいかも。どうせこの辺りは飾られる事になるんだろうし」
デザインがいいから飾ってもいい感じなんだよね。
実際に使うのは自分たちで買うだろうし。
「いいお友達がいるんですね」
「いい奴なのは間違いないです」
そういえばあいつの兄さんってみた事ないけど健在なんだよな?
虎宮家の長男だし、もう少し名前が出てもおかしくないのに全然話を聞かない。
「後は寝るだけだね。あ、メッセージコールで連絡するから」
「了解。……朝市?」
「ああ、地元の野菜とかを売ってる朝市があるんですよ」
ほほう。あのウサギってこういった朝市とかの野菜も喜ぶんだよね。
地物の野菜とか珍しい物も多いし、早起きして覗いてみるかな……。
「それじゃあまた後でね」
「また後でな」
「私も、メッセージコール送るからね」
この後、わざわざ二人が張り合う様にそれぞれでメッセージを送ってきた。
いや、パーティ設定のグループでいいじゃん。
何故か二人とも拒否したけどさ……。
しかし、なんとな~く充実した一日だったな。
読んでいただきましてありがとうございます。
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