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第九十二話 今度こそダンジョン配信~


 朝市。


 朝市は隠し旅館『迷宮』より少し離れた場所であるので、浴衣ではなくて普段着に着替えての参加となった。


 ……なんとなく浴衣でそのまま出てる人もいるっぽいけど大丈夫なのか?


 さて、朝に弱い玲奈(れいな)は当然不参加。その玲奈(れいな)が絶対に居ると思ってたのか、桜輝(さくらぎ)さんも朝は部屋でゆっくりしたいって事で断られた。


 朝市で売っているものも野菜とか山菜系だし、若い子には受けないよなってラインナップなんで仕方が無いか。美味しそうなのに……。


「地元産の朝掘りニンジン。……これは良いな」


「へぇ、お兄さんこれの良さが分かるのかい? これをあそこで蒸して食べるのもおいしんだよ」


 少し離れた場所に高温の源泉があるらしくて、そこから出る蒸気でここで売ってる野菜とか卵とか色々蒸してるみたいだね。


 出来立ての温泉卵がうまそうだ。


「このニンジン、ごっそり買ったら怒られます?」


「ごっそりって、そんなに欲しいのかい?」


「ちょっと野菜好きな大喰いがいましてね。お土産に買って帰ろうと思いまして」


「……在庫も含めたら段ボール十じゃとまらないけど、そんな量を買うのかい?」


 出してないだけで、バックヤードに黄色いケースに入ったニンジンが山ほどあった。


 凄いな。当然全部買うけど。


「いいんでしたら買えるだけ……。あ、支払いは余裕ですので」


 いやらしいんであまりやりたくないけど、札束をひとつ差し出してみた。


 支払いに関しては幾らでも問題ないよ。


「ちょっと!! ホントにいいんだね?」


「はい。……って周りに人がこんなに!!」


「うちの高菜もどうだい?」


「うちの甘藷も甘くておいしいぞ」


 そこから先は次々と俺に野菜を勧めて来る人の山を捌くだけの作業となった。


 でも、かなり質の良い野菜が多かったし倉庫に入れておけばウサギも喜びそうなんだよね。


『ニンジンが甘くておいしいウサ୧(˃◡˂)୨。いつもありがとうウサ』


 って、めっちゃ喜んでったよ。


 地物の新鮮な野菜とかホントに好きだよな。


 一番受けがいいのは圧倒的にニンジン。


 しかも、今まで出してない物が反応がいいんだよね。


 やっぱり好物でも続くと飽きるんだろう。


 さてと、朝市も堪能したしそろそろ温泉ダンジョンに向うかな。


◇◇◇


 ネットで色々調べたのか、俺の性格をよくわかってくれてて嬉しい。


 支払いに関しては若干サービスされているものの、正規の額で請求された。ここで色々揉めたくはなかったから本当に助かる。


「昨日一日で返しきれない恩が山ほどできちまったな」


「ちょっといろいろ漏れただけですね。ご迷惑をおかけしてなければよかったんですが」


「ホントに、あんたみたいな冒険者がいるとなると今後は冒険者も宿泊できるようにするよ。あまりやらかす奴は個人的に叩き出すがな」


「その辺りは容赦なくお願いします。粗暴な奴も多いですから」


 息子さんはそうじゃなかったんだろうし、あれだけスキルポイントを貯め込んでたって事は結構高レベルな冒険者だったのかもしれないね。


 あれ? その息子さんの隣にいる人って……。


「もしかして、許嫁の?」


「はい、十年待っていたかいがあります。本当にありがとうございました」


 ちょっと歳の差になったのが痛いな。


 息子さんの歳から予測して三十半ばって所か?


 今から幸せになろうって人に、ちょっとサプライズ位あってもいいだろ。


「今から出す者に関しては絶対に他言無用。約束出来ますか?」


「え? もちろんです」


「他の人もいいね」


「大丈夫だよ」


「いつもの事だしね」


 流石に玲奈(れいな)達はよくわかってる。でも、俺が今から出そうとしているものまでは予想できないだろう。


「十年。半死人状態だった彼とちょっと歳の差になっちゃったじゃないですか。そこでこれです。これが何とは言いませんし、これの説明もしません。でも、これを十本飲めば、もしかしたら十年って時間を埋めてくれるかもしれません」


「十本……。それってまさか……」


「そんなもの存在するの?」


「まさか!! 聞いた事もないよ」


 若返りの薬に関しては色々研究されてるけど僅かに効果のある物すら実用化されていない。


 古龍の肝とか材料が超特殊だし、古龍を討伐できる冒険者なんて今のところ俺だけだしね。


「これを頂いても、本当にいいんですか?」


「滅多にしない事ですし、本当にそれはいろいろ面倒な面があるんで他言無用です」


「……飲み切ったけど、身体が確かに若返ってる気がする……」


「肌の艶とかが別物だろう? これ、若返り以上の効果も無いか?」


 材料が材料だし、他にも効果はあると思うんだよね。


 多分、何か抱えてたら病気とかも治ってると思うよ。


 元々若いし、見た目的にはそこまで変わってない気もするけどさ。


「凄い……」


「効果が凄いね。こんなのがあるってバレたら本気でヤバいよ」


 女性陣はその効果がはっきりわかるみたいだ。


 俺もまだまだだな……。


「本当に、感謝してもしきれません」


「いい温泉でしたし、またこの辺りに来た時は利用させて貰いますね」


「いつでも来てくれ。絶対に一番いい部屋を用意する」


「それじゃあ行こうか。こんな格好ですみませんね」


 いつもの菅笠を取り出して被った。


 玲奈(れいな)達も既に巫女装束だし、顔には仮面を被ってる。


「恰好なんて気にしないでくれ。どんな格好で来ても、あんただったら大歓迎だ」


「ありがとうございます。それじゃあ行こうか」


「お世話になりました~」


「ご馳走様でした。ごはんが本当においしかったです」


 流石に料理レベル五の人間がいる宿だ。少ししたら大繁盛だろう。


 ホント、ご飯を炊くだけであれだけ差が出るのもすさまじいよな。


 俺なんてレベル十なのに同じ様にご飯を炊いても同レベルの味になんないしね。俺も精進あるのみだ。


「あそこまで大勢で見送りしてくれなくても良かったんだけどね」


「いや~、流石にすると思うよ」


「だね。むしろかなり手加減してる気がする」


 いろいろあったけど本当に楽しめたからね……。


 次に訪ねた時はあの息子さんたちは結婚してるだろう。


 十年待ってくれる人だ、ちゃんと幸せにしてやれよ……。


 って、結果的に許嫁が料理スキル五の大当たり料理人に化けたんだ。待った甲斐はあったんじゃないかな?


◇◇◇


 温泉ダンジョン。


 昨日の今日なんで何やら色々と調べてるらしくて、俺達を含めた一部のパーティしか転移用ポーターの使用を認めてくれなかった。


 やっぱり死んだって思われてて、死亡扱いから復帰させるのが割と手間なんだとか。


 ダンジョンが出来てからその辺りは割と緩くなったって聞いてるけどさ。


「という訳で、今日は地下九階からの攻略になりま~す」


「今回から参加する事になりましたウサギ巫女です。よろしくお願いします」


「はいは~い、元々いる猫巫女もよろしくね」


 ――――ウサギ巫女さん凄い!!


 ――――何が凄いかは言わないけど、確かにあれは凄いね


 ――――猫巫女さんも凄かったけど、さらに上がいたなんて……


 ――――もうこの二人だけでよくない?


 ――――菅笠侍さんも凄い人だけど、別ベクトルの話だからね。活躍は画面外でお願いしたい。


 泣いていいか?


 いや、いきなりそこを連呼するかな。こいつら。


 確かにさ、玲奈(れいな)のスタイルっていいんだよ。


 普段は割と目立たないように色々工夫してるらしけど、この巫女装束になったら流石にバレるんだよね。


 ……玲奈(れいな)がいつも身に着けてる、身体の一部が見えにくくなるアクセを用意すりゃよかった。


 桜輝(さくらぎ)さんもその手の視線が嫌いらしくて、似たようなアクセを身に着けてるらしけど、本来はあの右顔の傷を隠す為に使ってたんだとか。


「さて、今日の目的はこの温泉ダンジョンの攻略と、レア鉱石の入手で~す」


「レア鉱石にも種類がありますし、深い場所でしか出ない物があるって噂ですよね」


 どのダンジョンでも深い階に潜れば潜るほど採掘で入手できる鉱石はよくなる。


 上の階で出る小さなものじゃなくて、ほとんどインゴットか~って純度の物も出るそうで今回はそれに期待してるんだよね。


「相変わらず魔物は逃げます。あ、そこで死んだフリをしてる百足さんは見逃したと思いま~す」


 ――――親の顔より見た光景


 ――――メタルセンチピードは死んだフリするような魔物じゃないのに


 ――――それをいえばアイアンゴーレムも逃げる魔物じゃないぞ


 ――――ほんと、毎回信じられない光景がみられるよな


 死んだフリをする竜の強化種とか見たら笑うんだろうな……。


 いや、竜種もするんだよ死んだフリ。


 あいつらがしちゃいけない行為だろうに……。


「やっぱりこのダンジョンのメインはゴーレムっぽいですね。おそらくダンジョンボスもゴーレム系でしょう」


 こうしてみると、フロアボスの光雷獣(ライジング・ビースト)が異質だよな……。


 待てよ、もしかして復活するフロアボスって光雷獣(ライジング・ビースト)じゃないよな?


「しまった!! 確認するべきだったか」


「どうしたの?」


「八階のフロアボス。光雷獣(ライジング・ビースト)がいるんじゃないかなって思ってね」


 ――――光雷獣(ライジング・ビースト)!!


 ――――マジか!!


 ――――確かレベル百二十のバケモノだぞ


 ――――なぜいるのが分かってるかって事と、そこより下層にいる事実


 ――――光雷獣(ライジング・ビースト)じゃ菅笠侍は止められないよな


 一応昨日の時点で八階のフロアボスが光雷獣(ライジング・ビースト)だって伝えてあるし、もしかしたらゴーレム系に差し変わってるかもしれないって報告はしてある。


 あそこに踏み込む場合は十分な準備の上でってお願いしてるし、心配ないとは思うけど。


「戻りますか?」


「そうした方がいいかも」


「それじゃあ来た道を戻りますか。死んだフリをしていた百足さんが大慌てで逃げていきますよ~」


 まさか戻って来るとは思わないだろうしな。


 さて、問題は光雷獣(ライジング・ビースト)がいた場合か。


 この先光雷獣(ライジング・ビースト)固定になると、本当に最下層まで攻略できる冒険者が絞られそうだ……。


 最下層まで碌なドロップや採掘物が無けりゃ問題無いけどさ、何か重要なアイテムがある場合はきついぞ。


 あの魔族がわざわざ巣くってた理由も気になるし、何かある可能性は高い。


◇◇◇


 昨日に引き続いて足を踏み入れた地下八階。


 いたよ、我が物顔で狭い室内を走り回る光雷獣(ライジング・ビースト)がさ。


 元々こいつ用に調整されてる部屋じゃ無いから走り回るにはかなり狭いし、狭いから壁を駆け上ったりして遊んでやんの。


「いましたね~」


「いたね。この狭い部屋でこいつを相手にするのは相当に危険です。あ、あの体からたまに散ってる雷光にあたると普通は死ぬんで十分な対策が必要です」


 ――――普通じゃなさそうな人が画面に映ってる件について


 ――――でも、言われた通りこんな場所で光雷獣(ライジング・ビースト)と戦うなんて無理


 ――――これは酷い。正直チートバグレベル


 ――――入ったら何が起きたか分からずに死ぬパターンだ


 多分その確率が一番高い。


 光雷獣(ライジング・ビースト)は敵だと認識せずに、玩具だって判断しかねないしな。


 下の階の探索もあるし、とりあえずサクッと倒すか。


「はい。という訳で速い敵は止まってる所をこうして一太刀で斬り倒します」


 ――――いつもと違いが分からない件について


 ――――こうしてって……


 ――――動きが全く見えなかった


 ――――流石に強いよね。菅笠侍が!!


 流石に光雷獣(ライジング・ビースト)程度に後れを取るほどステータスが下がってないしね。


 むしろ昨日温泉で全快してるからいつもより調子がいい位だ。


 やはり温泉は正義。


「お疲れ様。でも、これでこのダンジョンの難易度が変わったよね」


光雷獣(ライジング・ビースト)クラスの魔物と戦いたいって人にはいいけど、ここは狭いからレイドパーティでもちょっとキツイかも」


 元々フロア全体がボス部屋人ってるパターンだし、そこまで狭いって訳じゃないんだよ。


 超高速の光雷獣(ライジング・ビースト)と戦う条件が揃って無いだけで、むしろフロアボスの部屋としてはそこそこな広さがある。


 もう少し身を隠せる障害物とかあればいいんだけど、ほとんど何もないこんな部屋だと光雷獣(ライジング・ビースト)が突っ込んできた時に大変だ。


 速力をあげるか、それとも強力な防御魔法を覚えるか……。


 最低でも覚醒してないと話にならないけどさ。


「フロアボスが何か分かったので、下の階の攻略に向かいたいと思います」


「何かいいものが出るといいけどね~」


「レア鉱石が気になりますね」


 二人がコメントした時のコメント欄が凄まじい事になってるんだけど……。


 ああ、そうだ。菅笠侍じゃ貰えないコメントの山だよな。


 でも、二人の人気が出るのはうれしかったりする。



読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

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