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武術大会の出場者の一次募集が終わった。今日は生徒会のみんなで集計をすることになる。この結果を基に出場者のリストを作り、武術大会の規模を計算し、必要があれば二次募集をする。出場者用にしおりを作って渡したり、やることはいっぱいだ。
まずは出場登録した生徒を学年ごとに分けていく。それが終わったらクラスごとに分ける。生徒会役員同士ペアになってクラスごとの出場人数を書き留め、今度は名簿と照らし合わせて出場者にチェックをつけていく。それが一クラス終わる度にペアになっている生徒会役員の出したデータと交換し、間違いがないか確認し合う。その繰り返しだ。地味な作業だが思いのほか疲れる。間違いがないように注意してやらなければいけないから、気を張っていたのだろう。アドレアン様と確認し合い終わったものを生徒会長のレイナルド殿下に提出した。この名簿は武術大会が終わるまで生徒会で保管されることになる。
1日がかりで名簿を作り、次の1日で今度は出場者に配布するしおりの内容を決めていく。服装や装備品の規定やら、試合のルール、怪我をするかもしれないことへの同意書なども用意しなければならない。内容を決めたら清書し、印刷にまわす。しおりが印刷されてくるまでの間に今度は武術大会会場周辺の出店に関する取り決めが待っている。1日1日着実に作業はこなしているはずだが、全然終わる気配がない。しかも生徒会業務が始まる前には、逃げ出したアドレアン様を捕まえに行くという大仕事がある。生徒会直前の授業が一緒の日はそのまま無理やりしょっ引いてくるのだが、別々の日は探しに行かなければならない。はっきり言って時間がいくらあってもたりない気がする。いや、レイナルド殿下の決めたその日のノルマはその日のうちにしっかりとこなせているので順調に進んでいるのかもしれないが、初めての武術大会ということもあり、なんとも不安だ。
そうこうしながらも日々は過ぎていく。明日からは王都にある出店希望の店舗をまわって内容や規模などの話し合いをすることになっている。下級生は上級生と一緒に回ることになる。といっても私の相手は当然アドレアン様だ。アドレアン様自体に新鮮味はない。だがアドレアン様と一緒に街をまわることになるのだ。今までにない経験に胸が高鳴る。すごく楽しみだ。
王都をまわると言っても、基本的には私達上級貴族は貴族街をまわる。行くのは貴族御用達の店ばかりだ。平民が暮らすような下町には平民の生徒がいく。立場上やむをえないのかもしれないが、ちょっと残念だ。大衆恋愛小説の舞台となるような街をまわってみたかった。仕方ない。それは今度クレアと行こう。
私達が行くのは貴族御用達の店だが、武術大会の時は貴族だけでなく平民もたくさんやってくる。そんな平民向けの商品をどれだけ用意しているかの確認から、出店場所の希望、具体的な品ぞろえの内容など聞かなければならないことが意外といっぱいあって驚いた。それを各店ごとにすり合わせて当日の配置を決めていくことになる。なかなか大変そうな作業だ。
しかもこれから別に王都外の店、各地の特産品を売る店を誘致しなければならない。有力貴族の領地からだけではなく、珍しい特産品のある貴族の家を当たったりする必要がある。本当に2か月後に武術大会を開催できるのか、私には見当もつかない。レイナルド殿下もお兄様もアドレアン様も悠然としている。これが経験者の余裕なのだろうか。こんな大仕事を泰然たる態度で仕切るレイナルド殿下はさすがだと思った。私なんか人生2回目なのにあまり余裕がない。見習わなきゃいけないな、とこっそり思った。
明日から私達がまわる店は全部で14店舗ある。一日に3店舗まわって2週間でまわり終える計算だ。生徒会の仕事が忙しくなってきたため、週当たりの生徒会活動日は3日に増えている。1店舗につき1時間で話を終える計算にするとしても、かなり時間がかかる見込みだ。現実には1時間じゃ話し終わらないのではないだろうか。これを私達は放課後にまわることになるので、正直1分1秒も惜しい。正直アドレアン様なんか探しに行っている暇はない。直前の授業が一緒の日はいい。問題は別々の日だ。アドレアン様に脱走しないように言ってみて、はたして言うことを聞いてくれるのだろうか。幸いにも明日は直前の授業が一緒だからよかった。それがせめてもの救いだ。
アドレアン様は去年も一昨年も生徒会役員のはずだが、その時はどうやってまわしていたのだろうか。逃亡なんてして無事に仕事ができていたのかが気になる。お兄様に聞きに行くことにしよう。それがわかればアドレアン様を探しに行かずに済むかもしれない。私は一縷の望みを託して、お兄様の部屋へと向かった。