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 お兄様とアドレアン様の試合が始まった。アドレアン様はお兄様の出方をうかがうように剣をぶらぶらさせている。完全に余裕そうだ。


(お兄様、なめられていますわよ!頑張ってくださいまし!)


 心の中でお兄様に発破をかける。お兄様はそんなアドレアン様の様子を気にする風でもなく剣を構えるとつっこんでいった。やっぱり辺境伯家の鍛錬でお兄様は変わった。以前のお兄様はこんな風に無鉄砲につっこんでいくような人ではなかった。様子を見ながらにらみ合った状態で時間だけが過ぎ、焦れた相手が打ち込んできて初めて剣を振るような人だった。改めて見るとその変貌はすさまじい。

 つっこんでいったお兄様の剣は当然、アドレアン様の剣にはじき返される。それでもお兄様はこりずにまたつっこんでいく。自然とウィリアム様との鍛錬を思い出す。そう、こうやって何度跳ね返されてもめげずにつっこんでいっていたわ。

 だが、ただつっこんでいくだけでは当然勝てるはずもない。つっこむたびに少しずつ打ち方を変えているとか、そういうこともなくただがむしゃらにつっこんでいっているだけだ。


(お兄様・・・。そんなんじゃあ、私から見ても勝ち目なんてありませんわ・・・。)


 このままじゃどんどん体力を消耗するだけでいずれは負けてしまうだろう。そんなことにも気づかないほどお兄様は必死の形相だ。私は迷った。ここでお兄様に声援を送りつつ指摘してみようか。しかし王宮での鍛錬をただ見学させてもらっている身だ。そんな差し出がましい真似をするのはいかがなものか。

 私は縋るようにレイナルド殿下を見た。必死な思いが通じたのか、レイナルド殿下がこっちを見た。目が合った。私は何とか身振り手振りでレイナルド殿下にわかってもらおうと試みる。そのジェスチャーが通じたかどうかはわからないが、レイナルド殿下は頷いてくれた。


「クリストフ!ただ闇雲につっこんでいくだけじゃ勝てないぞ。相手をよく観察しながら剣を振るんだ!」


 レイナルド殿下がお兄様に声をかける。よかった。通じたみたいだ。レイナルド殿下の察知能力の高さに感謝する。


「一度やってダメなら違う方法も試してみろ!」


 レイナルド殿下のおかげでお兄様の動きがちょっとずつ良くなっていく。お兄様の剣がアドレアン様に防がれるタイミングが不規則になってきた気がする。今までの規則的な攻めから変則的な攻めに変われば、もしかしたらアドレアン様の態勢を崩せるかもしれない!

 不意に私は気づいた。アドレアン様、もしかして最初の位置から一歩も動いていないのではないだろうか。よく見ると使っているのも右手だけだし。お兄様はそれに気づいているのかしら。せめてアドレアン様に左手を使わせるとか、一歩でも移動させるとかできないと勝利は見えてこないわ。そこまで思って気が付いた。クレアに勝てないお兄様がアドレアン様に勝てるわけはないのだ。だからといってクレアは不動で片手一本で勝てるほど弱いとは思えない。やっぱりお兄様はアドレアン様から左手を引き出すなり、あと一歩を引き出すなりしなきゃならないのだ。これはなかなか難しそうだ。


「クリストフ、息が上がっているぞ。無闇につっこむんじゃなくもっと状況を観察するんだ。相手の様子を見ながら剣を振れ!」


 レイナルド殿下は熱心に声をかけてくれているが、お兄様は結構限界が近そうだ。アドレアン様は自分から動こうとする気配はない。


「疲れた時こそちゃんと状況を把握するんだ。隙を見せたら敵は攻めてくるんだぞ。」


 その通りだ。アドレアン様が何もしないでくれているからこそ、かろうじて試合は続いているがアドレアン様が攻めていたら一瞬で片がつくだろう。お兄様はまだ自分の力量がよくわからないのか、ペース配分ができていない。私はもどかしかった。外から見ていればわかることはたくさんある。でも試合に臨んでいるお兄様にはわからないのだ。後でお兄様にしっかり感想を伝えなければ!決意を固くした。



 結局試合はお兄様が立ち上がれなくなって終わった。アドレアン様は一歩も動かないままだ。あれを試合と呼んでいいのかは疑問が残るが。でもレイナルド殿下のおかげでお兄様にも課題が見えてきたのではないだろうか。お兄様はもっと体力をつけて周りを見る目を養って・・・。ううん、たぶん経験値が絶対的に不足しているのだ。いろんな人の戦い方を見て学ぶ必要があると思う。


(頑張って、お兄様!)


 それからはお兄様を心の中で応援しながら、残った騎士達の鍛錬を見学して過ごした。レイナルド殿下は今日は試合に参加しないみたいだ。少し残念に思いながらも私はお兄様と一緒に王宮を後にした。帰りの馬車の中でお兄様の試合を見ていて気付いたことを片っ端からお兄様に話した。お兄様は気分を害したりすることもなく、メモを取りながら熱心に私の話を聞いてくれた。





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