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今日は以前レイナルド殿下に誘ってもらったこともあり、お兄様とレイナルド殿下達の鍛錬の様子を見学に来た。クレアは別の用事があったらしく、今日のところは私ひとりだ。
お兄様達の鍛錬を見に来るのはかなり久しぶりになる。一番最後に来たのは私が領地に引きこもる前だから、もう何年か前だ。その時はレイナルド殿下がおそろしく強かった記憶があるが、お兄様はどうだったろう。よく覚えていない。あの頃から比べて少しは成長していたのだろうか。辺境伯家での鍛錬で最初に見た時もお兄様からは強さとか気迫というものは感じられていなかったから、あまり成長していなかったのかもしれない。なにせお兄様は文系だし。けれど体育会系なはずのアドレアン様はお兄様に匹敵するほど勉強もできる。なんとなくお兄様の怠慢な気がしてきた。文系を言い訳に鍛錬の手を抜いていたのかもしれない。それなら辺境伯家での経験はお兄様にとって貴重な経験となっただろう。今後鍛錬に邁進していくための糧となったはずだ。
私は考え事をしながら鍛錬場の隅に座る。鍛錬場の隅には芝生が広がっており、そこにお城の使用人がテーブルとイスを用意してくれていた。そこに座ってお兄様達の鍛錬を見守ることになる。
私が席に着いた頃にはお兄様は既に鍛錬を始めていた。軽装備に身を包み、真剣に剣を振っている。姿勢だけじゃなくその表情も真剣そのものだ。瞳には何か強い光が宿っている気さえする。まるで私の知っているお兄様ではないみたいだ。いや、正確には私の知っていたお兄様か。
お兄様は変わった。辺境に行ってから。別人のように鍛錬に取り組むようになった。なにがこんなにお兄様を変えたのかはよくわからないが、いい変化だと思う。私はお兄様のように変われているのだろうか。辺境に行っても何も変わらず、日々をぼんやりと生きているだけな気がする。このままでいいのだろうか、お兄様を見ていると切にそう思う。もし私も覚悟を決めて向き合うことができたなら、何かが変わるのだろうか。そう思った時レイナルド殿下の顔が浮かんだ。
「クリストフ。今日はルーチェリア嬢も来てくれているし、演習を中心にやろうか。」
ふとレイナルド殿下の声が聞こえた気がした。私が顔を上げるとレイナルド殿下が歩いてきてお兄様に声をかけているところだった。レイナルド殿下と目が合う。ふっと微笑まれた。心の中を読まれていたような気がして恥ずかしい。私は赤くなって視線を下げた。
レイナルド殿下の合図で、今まで素振りをしていた騎士達が集まってくる。お兄様達のこの鍛錬は数年前と同じで騎士達にまじって行われている。数年前はまだ子どもだったために騎士達と打ち合うことはできなかったが、今はどうなのだろう。学園を出たての若い騎士達となら年頃もそこまで変わらないはずだが。
騎士達は何組かに分かれて演習を行うことになったらしい。お兄様やレイナルド殿下の周りに残った騎士達は歳若い者ばかりだ。組み分けをして練習試合を行うようだ。
そういえばアドレアン様の姿が見えないな、ふと気づいた。どこにいるのだろう。まさか欠席というわけでもないだろう。私はあたりを見回す。アドレアン様のあの特徴的な真っ赤な髪は見えない。探しに行ったものか悩んでいるうちに組み分けが終わったようだ。最初の騎士達が進み出てくる。レイナルド殿下の合図で試合が始まった。
アドレアン様を探しに行くか迷いながらレイナルド殿下を見るが、試合の様子を真剣に見守っていてこちらを見る気配もない。続いてお兄様を見た。お兄様は少し後ろで試合を見ている。観戦しているというより騎士達の動きから自分に足りないものを学んでいるような目つきだ。
2人とも気にしていないようなので、私もアドレアン様のことは気にしないことにして試合の観戦に移った。試合は白熱していた。若い騎士同士というだけあって勢いがある。技術より勢いでぶつかっていってる感じだ。つい辺境伯家で見たウィリアム様とオルファス様の試合が頭に浮かんだ。あの2人の試合は確かに勢いもあったが、それ以上に技巧的でハラハラさせられた。ここの騎士達の動きにはそういったものは感じられない。若い騎士に限らず、ベテランの騎士達でもだ。王都の騎士達は平和ボケしていると誰かが言っていたことを思い出す。王都の騎士達の動きは実践的というよりは武術の型を見ているようだ。ベテランの騎士になっていくほどそれは顕著だ。無駄な動きがなくなり、勢いよりも技術で動くようになっている分より型に近づいている気がした。若い騎士は粗削りで勢いが強いため、まだそんな感じは受けないが、勢いだけといった感じだ。
まずい。辺境伯家に滞在したおかげですっかり目が肥えてしまったらしい。偉そうなものの見方をしてしまった。私は苦笑しながらお茶に手を伸ばす。するとその手が誰かの手に触れてギョッとして慌てて手を戻した。




