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「最初に気づいたのは食事をしているときね。
ルーチェが熱い瞳でオル兄をじっと見つめていて、それに気づいたオル兄がルーチェに微笑みかけて。
次に気づいたのは私がクリストフ様と試合をしていた時よ。
私達は試合中だっていうのに、ルーチェったらオル兄とイチャイチャしちゃって。2人ったら試合を見ているふりをしながら指を絡めて握り合ってるんだもの。私もうびっくりしちゃって。もうちょっと打ち合おうと思っていたのに、興奮で一気に試合を終わらせてたわ。
そのあとオル兄とウィル兄の試合の時もよ。
試合中なのにオル兄ったらちらちらルーチェを見てるし、試合が終わった後も2人で見つめ合ってたのよ!」
そんなところまでばっちり見られていたのかと思うと恥ずかしい。穴があったら入りたい気分だ。いや、穴がなくても入りたい。今すぐ穴を掘りだしたい気分だ。
しかし試合中にオルファス様がちらちらと私を見ていた、というのは気づかなかった。オルファス様は動きが早くて、止まっているときしかよく見えていなかったから、クレアが言っていることが本当なのかどうかもわからない。だがクレアは興奮しているし話を盛って嘘を言っているようにも見えない。おそらく本当なのだろう。
顔から一斉に汗が噴き出してきた気がする。私はいたたまれなさにこの場から逃げ出したくなった。
「そんなもの見ちゃったの?クレアよく平静を保っていられたわね。さすがは辺境伯家の娘だわ。」
辺境伯夫人はなにやらきゃーきゃー言っている。いや、気持ちはわかる。私も辺境伯夫人の立場だったら心置きなくきゃーきゃー言っただろう。だがいかんせん今の私は当事者の立場なのだ。
「あとでルーチェからじっくり聞こうと思って耐えたのよ。熱愛の瞬間を見ちゃった気分だったわ。」
夫人とクレアは2人ですごく盛り上がっている。そうだろうそうだろう。私も立場が逆だったら盛り上がったよ。私もそっちで盛り上がりたかった。私は完全に泣きそうになっていた。
「それでルーチェ。オル兄とはどうなっているわけ?」
さっきまで盛り上がっていた2人が急に話をやめてこっちを見た。4つの目が私をじっと見つめている。その目はランランと光っていて獲物を見つけた肉食動物のそれのようだった。声は聞こえないが見ただけで絶対に逃がさないと伝わってくる。私は観念して2人を見た。
「別に・・・何でもないわよ。
ただオルファス様が食べている姿がセクシーだなって、つい目を奪われていただけで。」
答える声がどんどん消え入るように小さくなっていく。
「手をつないでいたのは?」
「それは・・・お兄様が心配で手を握り締めすぎていたみたいで、オルファス様が気を遣ってくれて・・・。」
「それで手を握られたと?」
「それでどうして指を絡めて手を握り合うことになるのよ。」
「・・・試合に気を取られて無意識のうちに?」
「無意識、ね。
その後は?」
「そのあとは・・・ウィリアム様とオルファス様の試合を見ていて。深い意味はなくて・・・」
「へぇー。」
「ふぅーん。」
2人ともなんとも納得していないような様子である。わかる。私がそっちの立場ならば私も納得しないだろう自信がある。だがそれが事実なのだ。これで納得してもらうしかない。
「クレア、納得いかないのは私も同じだけれど、とりあえず今回はこれで納得したことにしましょう。」
「お母様。」
「時間はまだあるわ。王子殿下の婚約が決まるのは学園卒業後よ。」
「それはそうだけど。」
「まだ2人は始まったばかりなの。あまり外野が口出ししたらうまくいくものもいかなくなるわ。」
「わかりました。」
なんとか話はおさまりそうだ。私はほっと胸を撫でおろした。
「2人が鍛錬の見学をしている間、私が読んでいた小説なんだけれどね。」
そこからは夫人が昨日読んだ小説の話に始まり、たくさん恋愛小説の話をして過ごした。ただ2人の話題に辺境伯子息との恋物語の話題が多かった気がするのは気のせいじゃないと思う。
お茶会が終わって部屋に戻る。夕食までまだ少しあるので、気分転換に手紙を書いて過ごそうと思う。私は持ってきた荷物の中からレターセットを引っ張り出した。
まずはお母様に手紙を書く。辺境伯夫人が小説をすごく喜んでくれたこと、お茶会で聞いた小説の入手に日頃苦労していると言っていた話などを書いた。きっとお母様がまた小説を送ってくれるだろう。
次に本命のアドレアン様宛の手紙を書き始める。私の中で手紙を書くといったらアドレアン様宛の手紙を書くということだ。オルファス様の話は避けて、それ以外の出来事を丁寧に書き連ねていく。辺境に来てみての印象とか、食事が美味しいとか、王都に比べて量が多いとか、お兄様が死にそうなくらいしごかれているとか、辺境伯夫人とクレアとお茶会を繰り返しているとか。それらをまとめてアドレアン様への手紙を書き上げる。やっぱりアドレアン様に手紙を書くのはいい気分転換になる。
少し時間が余ったのでレイナルド殿下にも手紙を書いた。帰ったらすぐにレイナルド殿下とのお茶会だから別に書かなくてもよかったのだが、なんとなく書いた方がいいような気がしたのだ。濃密な日が続いていてレイナルド殿下がひどく懐かしく思えた。




