63
納涼会が終われば、次のイベントは夏休みだ。一月ほどの長期休暇になるが我が家ではお父様の仕事や、お兄様がレイナルド殿下の勉強会に参加するなどの理由があって、特にどこにも行かないことが多い。社交シーズンも終わり、多くの貴族達が避暑に出掛けた領地に帰ったりするので、この時期の王都は静かだ。クレアは最後まで帰省するかを悩んでいたが、結局帰省することにしたらしい。オルファス様には夏休みの期間、辺境に遊びに来ないか誘われた。興味深いお誘いだ。クレアも楽しみに待っているからね、と言ってくれたので時間の都合がつきそうなら辺境に行ってみるのもいいかもしれない。
夏休みの予定に思いを馳せながら考える。私がこの夏休み中にやらなきゃいけないことは何だろう。まず第一に課題だ。いわゆる夏休みの宿題というやつ。これは簡単だし、時間さえあればどこにいてもできる。次に思い浮かぶのは、月に1回訪れるレイナルド殿下とのお茶会だ。夏休み中には今月と来月の2回ある。もしどこかに出かけるのであれば、今月のお茶会と来月のお茶会の間しかない。他の用事はたぶん何とでもなるだろうから、そのくらいか。領地にも戻りたい気もするけれど、クレアのところにお邪魔するのであれば領地に戻っている時間はない。今年は諦めよう。
クレアの住む辺境までは早くとも馬車で片道最低5日はかかる。私は旅慣れていないので途中で体調を崩したりしてもっと時間がかかるかもしれない。天気が崩れても馬車は足止めされるから、長めに片道一週間ほどは見た方がいいかもしれない。往復で2週間だ。オルファス様がいくらでも滞在していってくれて構わないと言ってくれたし、お言葉に甘えるとしても滞在は一週間くらいか。なかなかの強行軍になりそうだ。
そうと決まればさっさとお父様やお母様に相談して、クレアが辺境に帰ってしまう前にその旨を伝えなければならない。クレアが帰省してしまってから手紙を書いたのでは予定の日時に間に合わないからだ。クレアは明日辺境に帰るらしい。オルファス様は一足先に戻っている。私は明日クレアを見送りに行く約束をしていたので、それまでにお父様やお母様の許可を得ることにした。今夜お父様が帰ってきたら、夕食の席で話すことにしよう。
それまでにレイナルド殿下に手紙を書くことにした。辺境を訪れる予定を伝えてお茶会の日時を調整してもらうためだ。来週にはお茶会で会うが、こういったことは早めに連絡するに限る。私はレイナルド殿下とこっそりお揃いで作ったガラスペンを手に取った。
『学園に入って初めての夏休みが明日から始まります。お茶会は来週ですね。楽しみにしています。
レイナルド殿下は夏休みは公務でお忙しいですか?私は特に予定もないので夏休みはランドール辺境伯領に行こうと思っています。友達のクレアと、納涼会でお会いしたクレアのお兄様のオルファス様にお誘いいただいたので、せっかくなのでお言葉に甘えてお邪魔してみようかな、と。王都とウィンサー侯爵領しか行ったことがないので、実はすごく楽しみにしています。クレアのご家族にお会いできるのも楽しみです。お母様である辺境伯夫人も恋愛小説が好きだという話だったので、ぜひお会いしてみたくて。
それがあって来月のレイナルド殿下とのお茶会は、いつも通りではあるのですが月末にさせてください。今月のお茶会のすぐ後にこちらを発って、来月のお茶会の週くらいに戻ってくる予定です。お忙しいレイナルド殿下にわがままを言ってしまって申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。』
ついでにアドレアン様にも手紙を書いた。もう学園が休みに入ってしまったためアドレアン様に渡すタイミングがないが、レベッカに頼めばきっとこっそり届けてくれるだろう。ランドール辺境伯領からも家族に手紙を書くついでに送ることができるのではないだろうか。辺境からならお母様に気づかれることはないだろうし、我ながらいい考えだと思った。
『納涼会ではまさかアドレアン様にダンスに誘われるとは思っていなかったので、すごく驚きました。アドレアン様もご存じかもしれませんが、おかげさまで学園ではすっかり有名人です。あの日私が着ていたドレスもアドレアン様の色だった、と噂になっています。社交界って恐ろしいところなんですね。お母様にバレたらと思うとひやひやします。アドレアン様以外とも踊っていたので大丈夫だとは思うんですが。
明日から夏休みですがアドレアン様はどう過ごす予定ですか?私は辺境に行こうと思っています。お母様の目もないので、気にせずアドレアン様に手紙が書けますよ。楽しみにしてくれていますか?
アドレアン様には話したことがありますよね。私の友達のクレアが辺境伯令嬢なので、お宅にお呼ばれしているんです。お友達の家に行くのも初めてですし、王都と領地以外に行くのも初めてなので今から楽しみでドキドキしています。着いたらまたお手紙を書きますね。
追伸
今日の手紙はレベッカ、前に話したと思いますが領地から来た侍女です、に託してお母様に内緒でアドレアン様に送っています。無事に届くことを祈ります。』
レベッカが夕食に呼びに来たので、こっそりアドレアン様に届けてほしいと手紙を託した。レベッカは心得ているというように手紙を受け取ってくれた。




