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 アドレアン様は中庭の奥にある木にもたれていた。私は足音を殺してそっと近づく。


「何してるんだよ。」


 気づかれてしまった。気を取り直してアドレアン様の方に向かう。


「アドレアン様を探しに来たんです。」


 アドレアン様が視線を上げて私を見る。強い視線に射抜かれてドキッとする。私はドキドキを隠しながら言った。


「お昼ご飯はまだですか?まだですよね?一緒に食べましょう!」


「は?」


「私お弁当用意してもらってきたんです。食堂によってお茶も用意してもらいました。

 食べましょう!」


「は?なんでだよ。」


「なんでってアドレアン様が言ったんじゃないですか。今度持って来いって。

 だから用意してもらったのに。ローストビーフのサンドイッチ。」


「ああ、そういうことか。」


「はい。だから移動しましょう。ここじゃ広げづらいですから近くのガゼボにでも。」



 そうしてアドレアン様をせかしながら、私達は中庭の奥にあるガゼボに向かった。



 ガゼボに着くとアドレアン様を座らせて、私はかいがいしくランチの準備を始めた。

 テーブルにクロスを敷き、お互いの席の前にはランチョンマットを広げる。サンドイッチをはじめとした料理を並べ、ポットから熱い紅茶をお互いのカップにそそぐ。アドレアン様は終始物珍しそうに私とテーブルの上を見比べている。

 準備が整って私も席に着いた。こうしてアドレアン様と2人きりで食事をするのは初めてだ。ちょっと緊張する。今まで庭の芝生の上で一緒にお菓子を食べたことはあったが、まともな食事は初めてだ。学園の食堂では二週に1回一緒に食事をとっているが、その時はレイナルド殿下やお兄様も一緒にいる。私は主にレイナルド殿下と会話をしているし、アドレアン様はそこにいないかのように息を殺して静かにしているのであまり話すこともない。私がアドレアン様と会話をするのも主に2人きりの時だけだ。緊張を隠すように声をかける。


「これが我が家の料理長自家製のローストビーフのサンドウィッチです!おススメです。」


 私がそう言うとアドレアン様は黙ってサンドウィッチに手を伸ばす。こうして見ているとアドレアン様は意外にもマナーが良かった。優雅な手つきで丁寧に食器を扱っている。サンドウィッチを食べるしぐさ一つとっても、とても流麗だった。つい見とれてしまう。アドレアン様が食べているところをまじまじと見るのは初めてだ。食堂で一緒に食事をとっているときも正面に座っているはずなのだけれども、いつもレイナルド殿下に気をとられていてまともに見たことがなかった。

 まじまじと見られているはずなのにそれを気にすることもなくアドレアン様はナプキンで口元をぬぐっている。形のいい唇にめが釘付けになる。


「たしかに、うまいな。」


 アドレアン様の声に現実に引き戻される。


「普通のローストビーフのサンドウィッチと何が違うんだ?」


「私が睨んだところでは、マッシュポテトが違うんじゃないかと。」


「そうだろうな。ローストビーフもソースもそんなに特別な感じはしない。

 だとするとマッシュポテトの味付けか。」


「そうなんです。そこまではわかるんですけど、その先は門外不出とか言って教えてくれないんですよ~。だから料理長が一緒にタウンハウスに来てくれた時の感動は筆舌に尽くしがたいほどでした!」


 私が力説するとアドレアン様はちょっと引いた様子だった。


「ずいぶん食い意地が張っているな。」


「いいじゃないですか。美味しいものを食べている時は幸せですから。」


 夏野菜のマリネに手を付ける。まだ春だと思っていたが、もう夏野菜が出てくる時期になっていたのか。


「そういえばクリストフの誕生日がもうすぐだな。」


「そうなんです。ここ2年はお兄様のお誕生日を手紙以外で祝うこともなく領地に引きこもっていたので、今年は盛大にお祝いしなければと思っているんですけれど何したらいいかわからなくて。」


「あいつならお前が祝えばなんだって喜ぶだろ。」


「そうなんですよ。なんでも喜んでくれるんです。だからプレゼントの選び買いがないっていうか。」


「ぜいたくな悩みだな。」


「そうですか?私としては結構深刻なんですけどね。」


「実用品がいいんじゃないか?それならいつでも使えるだろ。装飾品とかだと婚約者ができたときに使いづらくなる。」


「あー、確かに。それは盲点でした。じゃあペンか何かにしようと思います。

 そういえば私、いつも祝ってもらってるわりにアドレアン様のお誕生日を知らないです。」


「いいよ、別に。」


「よくありません。教えてください。」


「11月だよ。11月の終わりの方。レイナルドとそんなに離れてない。」


「あ、私そういえばレイナルド殿下のお誕生日も知りません!」


「まずいだろ、それは。お前婚約者候補だろ?」


「はい・・・。毎年プレゼントももらっているのに・・・。」


「レイナルドの誕生日は12月13日だよ。今年は忘れるなよ?」



 アドレアン様との雑談から思わぬ事実にたどりついてしまった。今までの私は祝われるだけで何をやっていたんだと猛省する。今年はちゃんとアドレアン様の誕生日もレイナルド殿下の誕生日も祝うことにしよう。





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