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「アドレアン様!!」



 頭上からガサガサと音がする。続いて後ろに何かが降ってきたような衝撃が走った。振り返るとアドレアン様があくびをかみ殺しながら立っていた。どうやら樹から飛び降りたらしい。


「ルーチェリアか。何の用だよ。」


 いつから眠っていたのだろう。応じる声もどこか眠そうだ。


「アドレアン様、もう放課後ですわよ。生徒会のお時間ですわ!」


「クリストフの刺客か・・・。今までほとんど見つかったことなかったんだけどな。」


「私を甘く見てもらっては困りますわ!今までお茶会で何度となくアドレアン様を見つけてきたんですもの。アドレアン様がどこで寝ているかくらい予想がつきますわ!」


 私は自慢げに胸をそらしながら言った。実は本当に結構自慢だ。お茶会の他に学園が始まってからも寝ているアドレアン様を探し出し、手紙を押し付けていた。だからアドレアン様ならどこにいようと大抵見つけられると思う。

 誇らしげな私と対照的に、アドレアン様は肩を落としてため息を吐いた。そのままどこかに歩き出そうとするので、私はとっさに声をかける。


「ちょっと!どこへ行くんですの?」


「生徒会室だよ。行くんだろ?」


 振り返ることもなく歩いていく背中を、私は小走りで追いかけた。





 生徒会室に着くと、私達は先輩達の満面の笑顔と拍手喝采に迎えられた。レイナルド殿下はまだ来ておらず、何とか体面は保てたようだ。


「すごいね、ルーチェ。どうやったんだい?今までアンディを見つけられる人なんていなかったのに。

 まさか本当に君は天使か妖精なのかな?」


 私はびっくりして言った。


「ひどいですわ、お兄様。今まで誰も成し遂げられなかったような仕事を私の初仕事として与えるだなんて!」


「ごめんごめん。見つからなかったら仕方ないと思っていたんだ。アンディはサボりの常習犯だし、いつも探しても見つからないのはレイナルド殿下も知っていることだしね。」


 私はなんとなく納得がいかないままお兄様を睨んだ。


「結局私が苦労するのは変わらないのではありませんの。」


 お兄様は苦笑いを浮かべる。


「本当にごめんよ、僕のルーチェ。どうしたら許してもらえるかな?」


「怒ってるわけじゃありませんの。ただ納得がいかないだけですわ。

 けどお兄様がどうしてもというのであれば王都の有名パティスリーのフルーツパイで手を打って差し上げます。」


「我が天使の寛大な御心に感謝しよう。」


 お兄様は芝居がかった動きでひざを折って礼をする。そんなお兄様を見ていたら、納得いかなかったもやもやがどうでもよくなってしまった。



 私がアドレアン様を連れて戻ってきてしばらくしてから、レイナルド殿下が生徒会室に入ってきた。

 相変わらずスキのないアルカイックスマイルを浮かべている。その立ち姿は優雅としか言いようがないし、夕日に照らされて赤く輝く金髪や、長い睫毛にできた影、その隙間から覗く夜空のような瞳は形容しがたい色気を放っていた。齢15にして末恐ろしい王子様である。


「遅くなってすまない。クリストフから聞いているかもしれないが、学園長に呼ばれていてね。

 今日は新生徒会始動の初顔合わせだ。みんなの自己紹介を含めた挨拶と軽く今後の説明をさせてもらおうと思う。何かわからないことや気になったことがあれば言ってくれ。」


 席に着いたレイナルド殿下は、そう言ってみんなの顔を順に見まわした。


「おや?今日は珍しくアドレアンもいるんだね。」


 アドレアンのところで視線を止めると、まるで珍しいものでも見たかのように目を見開く。


「連れてこられたんだよ。」


 驚くレイナルド殿下に対してアドレアン様は至極嫌そうに答えるので、その対比がおもしろい。つい笑ってしまいそうになる。

 私は頑張って堪えたが、お兄様は完全に笑っていた。下を向いて顔を隠しているものの、肩が揺れている。そんなお兄様をアドレアン様が険しい瞳で睨んでいるので、後で少しもめそうだ。これはお兄様が悪いのだから私はかばわないけれど。何と言っても私は我慢したのだ。お兄様も少しは我慢を覚えるべきだと思う。薄情な私はそう決断を下した。



 アドレアン様も参加しているので、挨拶は滞りなく進んだ。しかしアドレアン様も役職付の生徒会役員だ。これまでみたいにサボってばかりで無事務まるのだろうか。そんなことを考えていたら挨拶の最後にお兄様が挙手して発言を求めているのに気づかなかった。


「どうした、クリストフ?」


 レイナルド殿下の声にはっとしてお兄様の方を見る。アドレアン様含めみんながお兄様を見ていた。


「一つ提案があります。」


「何だ?言ってみろ。」


「我が妹ルーチェリアをアドレアン付の補佐官に任命したいと思うのです。」


 お兄様の声に先輩方から歓喜の声が上がる。私は言われている意味がよくわからなかった。

 盛大に顔をしかめているアドレアン様を見る。あんな顔をしたらせっかくのかっこいい顔が台無しだな。アドレアン様黙ってればかっこいいのにもったいない。なんてのんきに違う事を考える。

 その間にもお兄様とレイナルド殿下の間で話は進んでいった。


「どういうことだ?」


「アドレアンは昨年まで在籍していた者はみな知っての通り、生徒会活動無断欠席の常習者です。

 今日も無断欠席をしようとしていたところ、ルーチェリアが探し出して連れてきてくれました。」


「あのアドレアンをか?」


「はい。あの、よっぽど運がよくなければ遭遇できないほど巧妙に逃げ回るアドレアンを、さほど時間もかけずに連れてきてくれました。」


 先輩方から、「私は賛成です。」「僕もぜひお願いしたいです。」等の声がかかる。


「そうだったのか。」


「これから新生生徒会活動が活発化するにあたり、アドレアンに逃げられるわけにはいきません。

 なにとぞ許可をお願い致します。」


 お兄様とレイナルド殿下はいたって真面目に話しているし、先輩方もみな一様に真剣なまなざしで聞いているが、私を含めた新入生は当然みなぽかんとしている。アドレアン様は憮然とした表情をしているが、今回ばかりはアドレアン様に拒否権はないだろう。

 私としては気心の知れているアドレアン様の補佐なら特に異論はない。必然的にアドレアン様と一緒に過ごす時間が増えることになるだろうし、昔のようにアドレアン様不足に陥って手紙地獄を迎えることもなくなるだろう。最近ちょっとアドレアン様不足になりかけて手紙の量が増え始めていたから、考えようによっては渡りに船とも言えた。

 

「そうか。じゃあ、これを今年度の生徒会初の議題に定め多数決をとろうか。

 今後の生徒会活動に向けての練習だよ。下級生のみんなも気負わずに投票してみてほしい。」





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