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王都にあるタウンハウスへ戻ってきた。今年は普段の授業とお茶会に加えて王宮での勉強会がある。忙しくはなるが楽しみだ。
勉強会については今度のお茶会の時にレイナルド殿下自ら説明してくれることになっている。なので始まるのはそれからだ。
その勉強会の場ではアドレアン様と親しくしすぎないようにしなくては。もし親しい姿を見られてお兄様に関係を疑われるようなことがあれば、お母様にも知られてしまうかもしれない。そうなればレイナルド殿下の婚約者候補を辞退してアドレアン様と婚約まっしぐらだ。それはよろしくない。アドレアン様にもレイナルド殿下にも申し訳ないし、せっかく参加できることになった勉強会にも参加できなくなってしまうかもしれない。これは今の私がレイナルド殿下の婚約者候補だからこその特権なのだ。気を付けなければ。
アドレアン様の方から親しく話しかけてくるようなことはないだろうが、一応次のお茶会の時にでも打ち合わせておかなければ。私は気を引き締めた。
お茶会はアドレアン様と会うものの方が先だった。レイナルド殿下に会う前にアドレアン様と口裏を合わせることができる。一安心だ。
今日アドレアン様と私は庭園の一角に設えられたガゼボで一緒に焼き菓子を食べていた。すっかりいつもどおりの光景になっている。
「アドレアン様にお願いがあります。」
「なんだよ。」
「王宮の勉強会では初めて会った風を装ってください。」
「言われなくても話しかけたりしない。」
「いや、そうなんでしょうけど・・・。」
私は言いよどんだ。なんとなく耳飾りを触る。アドレアン様が8歳の誕生日プレゼントにくれたものだ。ちなみに首にはアドレアン様から7歳の誕生日プレゼントにもらったペンダントが光っている。こっそり愛用しているのだ。誰からもらったのかお母様には言っていない。誕生日プレゼントでいただいた、とだけ伝えているから何か勘付かれているかもしれないけれど、私から口にするつもりはない。
「じゃあなんだよ。」
「いえ、お兄様に気づかれるかもしれないのでなんとなく・・・。」
「なんとなく程度ならいちいち気にするなよ。
言われなくても話しかけないし、知り合いだと思わせるような態度はとらない。」
「お願いします。」
私はどこか胸にひっかかるものを感じながらも、素直に頭を下げた。
お茶会から帰ってきて、次のお茶会に備える。次は我が家で催される月に1回のレイナルド殿下とのお茶会だ。
8歳になって領地から戻ってきてから、レイナルド殿下に会うのは初めてだ。まずは誕生日プレゼントのお礼を言わなくては。レイナルド殿下から誕生日にもらった本はまだ3分の1ほどしか読破していない。外国語で書かれているということよりも、その内容が素晴らしくてつい何度も読み返してしまうのだ。だから思うように進まずにいる。今度会う時には絶対にそのお礼を言おうと決めていたのだ。
でもその前にもう一度読み返そう、と繰り返しているうちにいつの間にかレイナルド殿下とのお茶会の日がやってきていた。
「レイナルド殿下。誕生日には素敵な髪飾りと素晴らしい本の数々をありがとうございます。」
そういって礼をとった私の頭にはレイナルド殿下から8歳の誕生日にもらった薔薇の形の髪飾りが光っている。
「気に入ってもらえたならよかったよ。その髪飾りもよく似合ってる。」
「気に入ったなんてものではありませんわ!そんな軽い言葉では済まないほど毎日愛読しています。
レイナルド殿下は内容はご存じかしら?とても魅力的なものなのですけれど。」
「そんなに気に入ってもらえたなんて嬉しいな。
選ぶときに一応確認はしたけれど、ざっと見ただけで詳しくは知らないな。どういう話なんだい?」
「中身はみんな貴族令嬢と王子殿下との恋物語ですわ。この国では平民が主人公だったり、お相手が騎士様だったりするものも多くありますが、海外ではきっと貴族令嬢と王子様の話が主流なんですね。なんといってもロマンチックですもの!」
「君は騎士との恋物語の方が好きだったかな?」
「いいえ、そんなことはありませんわ。騎士様には騎士様の、王子様には王子様の、それぞれ魅力がありますもの!
王子殿下との恋物語だと先ほども言った通り、やっぱりロマンチックなのが魅力ですね。まるでおとぎ話のような世界につい引き込まれてしまいます。王子殿下が相手という事で身分や色々なしがらみが原因で仲を引き裂かれそうになるのが王道ですが、二人の愛で乗り越える!素敵ですわ!
展開としてはやっぱりどれも同じようなものにはなりがちなんですけれど、私はその王道な展開がまた好きですわ。展開は同じでもキャラクターごとに物語がありますもの。」
「君が喜んでくれてよかったよ。ぜひまた贈らせてもらえるかな?」
「願ってもないことですわ。ありがとうございます!」
恥ずかしいことについ語りすぎてしまったが、レイナルド殿下があまり気にしていなさそうに微笑んでいるので私もあまり気にしないことにした。そのままレイナルド殿下と好きな本の話に没頭していく。聞き上手なレイナルド殿下にのせられて、ついつい以前読んだお母様おススメのこの国の恋愛小説の話までしてしまったくらいだ。どうやらレイナルド殿下は貴族令嬢と王子モノの小説がお好みらしいことがわかったのが今日の収穫だった。
遅くまでレイナルド殿下と小説の話で盛り上がってしまった。つい勉強会の話を聞きそびれていたことに気づく。今度手紙で聞いてみようと思いながらも私の意識は先ほどまで話していた恋愛小説の方に向いていた。内容について盛り上がったことと生の王子様を相手にしたことで関心が振り切れてしまったようだ。今日はまたお母様に勧められたこの国の恋愛小説を読み返してみたい。
私の中でレイナルド殿下の存在が次第に心許せるものになっていくのを感じた。




