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第89話 学校の工房

いつも読んでいただきありがとうございます

「ロレンス先生、今は授業中では?」


 ヘレンが眉を寄せ目の前の男に尋ねる


「ふむ。誰が入ってきたかと思えばワーラスの英雄殿じゃないか。思わず声をかけてしまったよ」


「英雄とな?」


 目の前のロレンスと呼ばれた男の英雄という言葉に引っ掛かりを覚え清十郎は首を傾げる


「おいおい。清十郎殿はしらんのか?」


「うむ。知らぬ。というかお主は誰じゃ?」


「ああ。すまん。挨拶が遅れたな。俺はここで武術を教えているロレンスだ。よろしく頼む」


 男は自らの無礼を謝ると丁寧に頭を下げる


「うむ。気にしなくてよい。儂は知っておるようじゃが清十郎と言う。こちらもよろしく頼む」


「ああ。ところでお前さんは英雄と呼ばれていることを自分は知らんのか?」


 初めて聞く自分のことに清十郎はどこか他人事のように聞こえ自覚がない


「うーむ・・・。英雄とはなんのことか知らぬがワーラスでは戦ったな」


 その瞬間ロレンスの背後から歓声があがる。どうやらロレンスが話をしている相手に興味が湧きいつのまにか生徒たちは練習を中断し集まってきたようだ


「こら!お前たち早く戻って練習を続けろ!」


 ロレンスの一喝で生徒たちは蟻の子を散らすように足早に練習に戻っていく

 その様子をみてロレンスは嘆息する


「困ったやつらだ。清十郎殿よかったら練習を見ていかないか?」


「ああ、そうしたいのはやまやまじゃがヘレン殿の予定もあるしな」


 そこで清十郎はヘレンを見るとヘレンは頷いてロレンスを見る


「ええ。この後、工房の案内や職人科の生徒たちとの顔合わせがありますから無理ですよ」


「今はまだ一般の授業中だから構わんだろ?」


「いえ、工房を案内し終わるころに昼食に入りますから時間がありませんよ」


「そうか。そうなると昼から選択授業に入るから時間がないか」


 ロレンスはそこまでいうと頭をがりがりと掻く


「よし。清十郎殿、また時間があったらまた見に来てくれ。一般授業のほかに選択授業では俺も武術科の生徒を教えているからな。ぜひその腕前を見せてくれ」


「ふむ。時間があればまたこさせてもらうとしよう」


「ああ、それで構わん。よろしく頼む」


 ロレンスはその厳めしい雰囲気ながらにニヤリと笑い右手を差し出してくるので清十郎も笑いながらその手を握る


「では、またな」


「ああ。待ってるからな」


 挨拶を終えるとロレンスは打ち合いをしている生徒たちの方へ戻っていった


「ふぅー。さて清十郎先生、次は工房に案内しますよ」


「ああ。ヘレン殿よろしく頼む」


 ヘレンは嘆息すると清十郎に声をかけ練兵場を後にした


 練兵場の建物の奥、校舎と離れた場所に煙突がついた三角屋根の壁面がレンガで作られた建物があった


 ヘレンが扉を開けると鉄と炭の匂いが入り混じった嗅ぎなれた匂いが清十郎の鼻をつく


「ここが職人科の教室になりますよ」


「ふむ。なかなか広いな」


 中に入るとそこは平板の金床が置かれた作業台がいくつもならび30人から40人は作業ができる部屋になっていた。ヘレンはそこを通り抜けて奥の引き戸の扉を開く


「おお。ここは鍛冶の施設もあるのか」


 奥の部屋は手前の作業台の置かれた部屋よりもさらに広くバングリーの工房とも引けを取らない炉や火床など鍛冶に関する一通りの施設がそろっていた。火床と金床が多いのは生徒の数が多いためだろうか


「こちらは仰る通り鍛冶に関する施設がそろっておりますよ」


 嬉しそうに施設を見て回る清十郎を見てヘレンが微笑みながら相槌を打つ


「清十郎先生には午後からここで生徒たちを指導していただきます」


「ふむ。これだけの施設なら十分すぎるな。しっかりと務めを果たさせてもらおう」


「はい。よろしくお願いしますね。あと出来上がったものを私が買取価格を決めるように一任されるとのことですが構いませんか?」


「ああ、儂は正直商売についてはまったくの素人でな。ヘレン殿には迷惑をかけるがよろしく頼む」


「ふふ。わかりました。しっかりと贔屓なく価格を決めますのでご安心ください」


 困り顔の清十郎が面白かったのかヘレンはクスリと笑う


「さて、一通りこれで案内が終わりましたが他に気になるところはありますか?」


「いや。特にない。大丈夫じゃ」


「ではこれで案内を終わりましょう。それではお昼を取られて午後1時から授業を開始いたしますのでそれまでにここに来てください。それまでは学食で食事をとられるのも構いませんし先生たちは校外のお店で食べられてもかまいませんのでよろしくお願いします」


「うむ。相分かった」


「それでは私はこれで失礼しますね」


「ああ。案内、済まなかったな。ありがとう」


 清十郎の礼にヘレンは優しく微笑むと頷いて立ち去ろうと背を向けた時、思い出したように声をあげる


「あっ!清十郎先生、これを渡し忘れておりました」


 ヘレンはそう言うと服のポケットから一枚のカードを取り出した


「校長先生よりこれを預かっておりました」


「これは?」


「身分証になります。こちらにすでに清十郎先生のお名前と身分が書かれていて校舎の出入りの際に必要となりますので無くさないように気を付けてください」


「うむ。しかと承った」


「それでは今度こそ失礼しますね」


 ヘレンは丁寧にお辞儀をするとその場を立ち去っていった


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