第88話 フェンス教官
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ヘレンは清十郎を連れて校舎を案内していく。時折、廊下を歩く清十郎に授業中の教室から好奇の目が向けられるがその度に教えている教官から叱られる声が響く
「ふむ。なかなか広い建物じゃのう」
今まで見て回った校舎の施設をみて清十郎が口を開く
「そうですね。アボルグ自体、多くの住民がおりますから学校もそれなりの広さがあるんですよ」
ヘレンが歩きながら清十郎に答えていく
「ふむ。部屋ごとに小さい子供もいればなりがそれなりに大きい子供も混ざっておるがなにか理由はあるのか?」
「ええ。この学院は6歳から10歳までの子供なら誰でも入学が可能なんです。各教室はそれぞれの個人の勉強具合で分けられているんですよ」
「それでか」
ヘレンの言うことに清十郎は納得する
「それと10歳から選択制授業が入りますので10歳以上の子供は入学ができなくなるんです」
「10歳までとな?それに選択制授業とはなんじゃ?」
「はい。武術科、魔術科、職人科のどれかを選択して受けるんですよ。なので統一して教えていかないと専門分野なので遅れを取り戻せなくなりますから10歳までの入学と決められている
んです」
「なるほどのう」
「まあ、武術科は冒険者ギルド、魔術科は魔術師ギルド、職人科は商人ギルドがそれぞれ自分たちのギルドに入ってくる人材の育成も兼ねてますからこの学校は国と各ギルドの支援で運営されているんですよ。国も特に優秀な人材は欲しいですからね。ここらへんは大人の事情ですよ」
ヘレンはクスリと笑いながら清十郎に説明する
たしかに5年あれば一端の職人の若手として使える人材になるなと清十郎は納得する
「それにしてはよくこれだけの数の子供がいるものじゃな」
「それは学費が無料ということと学校卒業の肩書は選択授業で下地ができているので働く時に強みになるからではないでしょうか。学校卒業者と学校に行っていない子供では人格に問題がなければ学校卒業者を優先して働き手として雇うみたいですよ」
「まあ、たしかに一から教えるよりもある程度下地ができている方が使いやすいからのう」
各教室を覗きながらふむふむと頷く
ちょうど魔法の授業が行われているようで見慣れた緑の髪の少年と大柄な赤髪の少年を見つけた。あちらも気づいたようでビットが大きくこちら手を振った時に頭が叩かれたように項垂れるとあわてて頭をさすりながら前を向く
どうやら魔法の教官が軽い風の魔法を飛ばしてビットの頭にぶつけたようだ
黒のローブを纏い縮れた長い髪の毛をそのままにした陰気な雰囲気を出す男に清十郎はどこかであったような覚えがあった
「魔法をああやって使うなんてフェンス教官らしいですね」
ヘレンがそういった時、フェンスと呼ばれた男が振り返り清十郎を見つけると目を見開いて教室を飛び出してくる
「せ、清十郎殿だね!?」
「な、なんじゃ?」
「うむうむ。その魔力、まさしくその時すれ違った時に見えた物に間違いがない。抑えることが出来るようになったのか。さすがですな!」
喜々として清十郎の両手を握りしめるその姿に先ほどまでの陰気な感じはない。はしゃぐ少年のようなフェンスの姿にヘレンが呆気にとられる
「こ、これ落ち着きなされ。みな見ておるぞ」
清十郎に窘められフェンスが回りを見ると教室から生徒たちが何事かと覗いていた
「これは失礼をした。清十郎殿、私は魔法を教えておりますフェンスと言います。どうぞお見知りおきを」
若干、罰が悪そうな顔をしながらフェンスが清十郎に頭を下げる
「いやいや。どこかで会ったかと思いましたが以前、冒険者ギルドですれ違いましたな」
「おお。覚えておいででしたか。あの時、ご挨拶できればよかったのですが」
「ふむ。儂の事は知っておられるようじゃが清十郎と申す。フェンス殿よろしくたのむ」
「ええ、ええ!もちろんでございます!それに清十郎殿のことはよく知っておりますとも!ワ―ラスの件しかり。清十郎殿、是非魔術科にも顔をお出しください。私が直接指導しております生徒たちにも紹介したいですしな」
「う、うむ。その時はよしなに頼む」
あまりのフェンスの圧力に思わずたじろぎながらも清十郎は了承する。そこに呆気にとられていたヘレンが復帰し声をかける
「あ、あのフェンス先生、今は授業中ですからもうそろそろその辺で・・・」
「む?清十郎殿と話すことほど大事な事はないが・・・。仕方あるまい。清十郎殿、今度、ゆっくりと話をいたしましょう」
明らかにやれやれと言った具合でフェンスは教室に戻っていく。だがフェンスが言い残したワ―ラスという言葉で周りがざわついたままだ
「さあ!みんな教室に戻りなさい!まだ授業中ですよ!」
ヘレンが一喝しようやくみんな教室に戻っていく
「清十郎様、続きをご案内いたしますのでついてきてください」
「あ、ああ・・・」
それでも教室の中からはワーラスや清十郎、果ては英雄とまで清十郎の預かり知らぬところで話が聞こえてくるがヘレンはその声を無視し清十郎の案内を再開する
歩きながらヘレンがため息を吐きながら清十郎に声をかける
「はあ。今のがフェンス先生です。見た目はともかく魔法の知識に明るく教え方も上手ですので生徒から慕われておられるのですが、少し変わった方でして」
「ふむ。まあ、悪い御仁ではなかろうし構わんじゃろう」
清十郎にとってはフェンスの癖の強さすら前世にあった数々の人物たちと比較すればかわいいものだと思う。歴史に名を残す人物たちは数々の謂れがあるものだ
「さて、ヘレン殿、次はどこに案内してくれるのじゃ?」
「あ、ええ。次は練兵場、最後に職人科の建物に案内いたします」
フェンスの癖の強さを気にしない清十郎の態度にヘレンは一瞬、戸惑ったが促されたことで案内を再開する
廊下をしばらく歩き教室の並びをぬけると扉がありそこから外に出ると校舎のすぐ近くに立つ別の建物の扉の前に立つ
「この先が練兵場です」
そういってヘレンが扉をあけるとそこは汗の匂いが漂う地面が砂地の建物だった。そこはすり鉢状となっており中央を見下ろせるように席が配置されその中央は広い広場となっていた。中央の広場では授業中の生徒たちが木剣や木槍などを使い汗をながしていた
「ほう。これは・・・」
「ふふ。びっくりされましたか?」
「ああ。これほどの建物があるとはな」
清十郎はあたりを見回しながら感嘆の声をあげる
特に天井から降り注ぐ光が室内を照らし外にいるような錯覚を受けることには吃驚するほどだ
「ふふ。ここは生徒たちの鍛錬の場でもあると同時に学院の催しをする時にも使われるから天井に光の魔道具を埋め込んで真昼のように明るくしているんですよ」
「催しとな?」
「はい。武術大会や魔法大会など競い合う大会が開かれるときはここで行うんです。多くの人でにぎわいますよ」
「ほう。それはすごいな」
「清十郎先生もそのうち生徒たちの練習を見に来てあげてくださいね」
「ああ。そうさせてもらおう」
「ふむ。今からでも構わんぞ。清十郎殿」
ヘレンは清十郎の返事を待って練兵場を後にしようとしたところで声がかかる
清十郎が振り返るとそこには短髪に角刈りで鍛え抜かれた身体はいかにも厳めしい雰囲気の男が立っていた
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