第87話 アボルグ学院
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朝の鍛錬を終えゴルドとビットが学校へ行くのを見届けると屋敷のリビングでイリアと向かい合わせで清十郎は紅茶を楽しんでいた
「まあ、それでは学校の教官をお引き受けに?」
「うむ。しばらくの間、午後に教えることになりましてな」
「そうですか。お店の準備はまだかかりますしそちらは私共に任せ清十郎様はしっかりとお務めをこなしてくださいませ」
食後の紅茶を楽しみにながら清十郎は昨日のバングリーとのいきさつをイリアに話したところだ
「いつからお務めは始まるのですか?」
「うむ。今日、学校へ行くようにと言われておる」
「ずいぶん、急なお話でございますね」
「なんでも退官してから教官のなりてがおらず職人科の子供たちは困っておるようでな。バングリーの奴に急いで頼むと言われておるのだ」
「そうでございますか。きっと教わる生徒たちは幸せでしょうね」
優し気な笑みを浮かべるイリアに清十郎は首をかしげる
「おわかりになりませんか?ビットとゴルド様を見ているとよくわかるのです。あの子たちは清十郎様とお会いになられてからずいぶんと変わりましたよ。これからもきっと多くの子供たちがあなたを慕うでしょう」
「ふむ。そうかのう」
そこで淹れ直した紅茶を交換しにきたミーニャが余計な一言を紅茶と共に置いていく
「そうですよ。男の子は慕いますが女の子たちの中にはきっと清十郎様に恋心を抱く子もいるかもしれませんね」
ミーニャの一言でイリアがにこやかの表情のままじっと清十郎を見つめる。清十郎の背中に寒気が走り自然と背筋が伸びる
「清十郎様、私は信じておりますからね」
「はい・・・」
凄みのある雰囲気にただ返事をするだけだった
少しばかり早いがイリアと紅茶を楽しんだ後、清十郎は貴族学校へと赴いた
貴族学校の中に武器を持ち込むことは禁止されているため出がけに清丸を人型にさせてイリアとミーニャの護衛にと置いていった。当然、イリアが大喜びしたのは言うまでもない
「なかなかにでかい建物じゃのう」
校門前でそびえるでかい建物を見上げると顎に手を当てる
「失礼ですがどなたですか?」
そこに門番が声をかけてくる。一人が外で見張りもう一人が門から入ってすぐの小屋のような
建物の中から見張っているようだ
「ああ、儂は今日の午後から職人科の子供たちを教えることになっておる清十郎と言うものだ」
清十郎は懐からバングリーの紹介状を取り出し門番に渡すと紹介状に目をとおした門番は眉を寄せながら清十郎を見る。その顔にはありありとこんな子供が?と書かれていた
「・・・紹介状は本物のようですな。ではご案内しますのでついてきてください」
訝し気な顔をした門番を他所に清十郎は案内のままついていく。運動場と思われる広場を通り抜け学校の正面玄関より中にはいると玄関横の受付に声をかける
「今日からお越しになられた職人科の教官殿です。詳しいことはこの紹介状に書いてありますのであとは頼みます」
「あ、はい。わかりました」
「では、清十郎殿、あとは中の先生が案内してくださいますのでしばらくお待ちください」
そう言い残すと門番は足早に外にでていった
「せわしのないやつじゃのう・・・」
「ふふ。しかたがありません。彼はそれが仕事なんです」
清十郎が声のする方を振り向くと一人の女性が立っていた。先ほどまで受付で座っていた女性だ
「そうか。まあこの見た目では仕方あるまい。教官よりも生徒じゃしな」
「さあ、校長の元にご案内いたしますのでどうぞ着いてきてください」
嘆息する清十郎に受付の女性はにこやかに笑うと自分に着いてくるように促した。清十郎は女性の案内の元、ついていくと廊下をしばらく進んだ先に豪華な両開きの扉があった
こんこんと女性は扉を軽くノックすると中からどうぞと声がかかり部屋の中に入っていくので清十郎も後につい部屋に入る
「校長先生、本日から職人科を指導される教官の清十郎様です。こちらがバングリー様の紹介状になります」
「ご苦労様でした。ヘレン先生はもう下がってもらって構いませんよ」
「はい。では失礼します」
「ああ、そうでした。紅茶を二つ頼めますか」
忘れていたように校長と呼ばれた人物がヘレンに声をかける
「わかりました。では少しお待ちください」
ヘレンはそう言うと一礼し部屋をでていった
「さて、清十郎殿でしたね。どうぞそちらのソファーにおかけになってください」
目の前の白髪の髪をシニヨンでまとめた老齢の女性が椅子から立ち上がり机の前に置いてある皮張りのソファーに座るように促す
若返る前のポーラと同じ年くらいかなと思いながら清十郎は促されるままにソファーに腰を掛けた。女性は年齢を感じさせないきびきびとした動きですっとテーブルを挟んで対面に腰を掛ける
「さて本日はお越しいただきありがとうございます。私はこのアボルグ学院で校長の役職を賜っておりますキャスティ=ウルビアノです。清十郎殿、どうぞよろしくお願いします」
キャスティは優雅な動作で座礼を行う
「ご丁寧に痛み入る。某は清十郎と申す。本日よりここで教官を務めさせていただくことになり申した。どうぞよしなにお願い申し上げる」
清十郎も座礼で返す。ミーニャとイリアにさんざんたたき込まれた作法だ
「ふふ。きちんと挨拶のできる方で安心できましたわ。堅苦しいのは抜きにしましょう。本日よりよろしくお願いしますね。清十郎先生」
「うむ。そう言っていただけるとありがたい。キャスティ校長よ。よろしく頼む」
お互いに軽く笑いあったところにヘレンが紅茶を持って入ってきた
「そうそう。こちらはヘレン教官です。主に商業関係をお教えになっておられます」
紅茶を置いたところでキャスティに紹介されヘレンは清十郎に向き直ると丁寧にお辞儀をする
「ヘレンです。どうぞよろしくお願いします」
ヘレンは丁寧に頭を下げお辞儀を行う
「清十郎じゃ。ヘレン殿よろしくお願いする」
清十郎も座礼で返したところでキャスティがヘレンに声をかける
「ヘレン先生、後で清十郎教官の案内を頼めますか?」
「はい。わかりました」
ヘレンはそう言うと校長に一礼して部屋を出て行った
「さて、清十郎殿、バングリー殿より伺っておられると思いますがあなたには職人科の生徒を指導していただきます。この紹介状によれば子供たちの作品があなたの目に適った時、買取をされると書いてありますがこれは強制されるのですか?」
鋭くにらむキャスティに清十郎はまっすぐ見る
「ふむ。正直を申せばその下心があって引き受けたのじゃが買取については強制はせぬよ。自分で持ち帰るもよしじゃ。取り上げるような大人気のないことは誓ってせぬ」
清十郎の言葉にキャスティは表情を和らげる
「清十郎様は正直なお方ですね。本来は生徒の物を買い取るという行為はどうかと思いますが強制をしないというのであればそこは目をつむりましょう。困窮家庭もありますからきっと喜ぶ生徒もいることでしょうしね」
「物の出来についてはきちんと見極める故、安心されよ。しかし正直申せば値のつけ方が儂は
知らぬ。買取価格を決めるにあたって目利きができる教官はおられませぬか?」
「そうですね。それでしたら先ほどのヘレン先生にお願いいたしましょう。彼女は商家の出でですのできっと適正な価格を出してくださるでしょう」
「それは助かりますな。ぜひよろしくお願いいたす」
「では清十郎先生、本日よりよろしくお願いしますね」
「うむ。お任せくだされ」
「話は以上です。あとはヘレン教官に従ってください」
その後、部屋へ呼び出されたヘレンにキャスティは事情を説明するとヘレンはさっそくとばかりに清十郎を連れ出し案内を始めるのだった
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