第85話 武器屋?
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その夜、ビットが暗殺者と戦ったと聞いたイリアは静かな怒りとともに自分の部屋へビットを呼び出した。夕食時に見たイリアの静かな怒りの表情に清十郎は生前を含めあそこまで恐れを抱いたのは初めてだったかもしれない。結局、ビットが解放されたのは夜中であったという
翌朝、清十郎が鍛錬のために庭にでるとなぜか人が増えていた
「おぬしは・・・」
「あ、師匠!おはよう!」
「・・・」
そっぽを向き挨拶をしようともしない赤髪の少年にビットが脇腹を肘で突く
「いてえな!」
「師匠に挨拶しろよ!昨日、強くなりたいって言ってたろ」
「っち・・・おはようございます」
不承不承といった感じで挨拶をする赤髪の少年を見てからビットを見る。清十郎の目はどういうことだと語っている
「師匠・・・お願いします。どうかこいつにも稽古をつけてやってください」
ビットは頭をさげ上目遣いで清十郎を見る
「駄目じゃ」
清十郎ははっきりと言い切る
てっきり清十郎なら許可を出してくれると思っていたビットは目をむいた
「な、なんで?」
「ひとつ言っておく。本来そなたも弟子に取るつもりがなかった」
「えっ?」
驚くビットに清十郎は言葉を続ける
「じゃが儂はお主に強くなれと偉そうなことを申した故、儂が自ら言ったことにけじめをとる為に引き受けたに過ぎぬ」
腕を組みそこで赤髪の少年ゴルドに目を向ける
「そなたはなぜここに来た?」
「・・・俺はこいつに言われて」
「駄目じゃ。そのような理由では無理じゃな」
「ちっ・・・俺が俺のために強くなりたい!」
「駄目じゃ」
ゴルドがさらに言い募ることに駄目だという清十郎にビットは困惑する
「ど、どうして?」
思わず口をはさむビットに清十郎は一瞥する。その目は今は黙れと言っていた
「・・・俺は」
そこでゴルドの肩が震える
体躯は大きくても中身はまだ13歳だ。まして厳しく言われたことがない少年にとって清十郎の生前を含めて86年の貫禄は抗えない存在感を感じさせる。静かにゴルドが口を開くの待つ
「俺は母上を守りたい!あんな奴らに頼らず俺を頼ってほしい!そのために俺は強くなりたい!」
「・・・」
瞳から涙を流し訴えるゴルドの魂の叫びを目を閉じ聞いた清十郎は口を開く
「・・・そなたの名はゴルドであったな。レギウス殿の子息とも聞いた。じゃがここではそのような肩書は一切期待するな。儂の言いつけを守り儂が言ったことを必ずこなせ。よいな」
顔を上げるゴルドに先ほどまでの不承不承の態度はない
「・・・はい」
「聞こえぬ!」
「はい!」
「よかろう。ビット、ゴルドと共に今日は走れ。素振りは不要じゃ」
そういうと清十郎は自分の鍛錬に集中し始める
ゴルドに良かったなと声をかけビットが先導しゴルドが後に続いていく。清十郎が鍛錬を終わりゴルドを見ると庭の真ん中で息を切らし大の字で転がりビットに笑われている姿だった
朝食後、ビットとゴルドが学校へ行くのを見届けると清十郎はイリアとミーニャの3人で工房へ来ていた。
ゴルドは稽古をつけてもらうにあたってカバンをすでに持ってきており朝食も一緒に囲みビットと共に学校へ向かったのである。あとからイリアに聞いてみれば昨晩のうちにそういった話を聞いていたそうだ
それならそうと弟子の話を通して置いてほしかったと言えばイリアはきっと清十郎様ならその場で一番最良の選択をしてくれるだろうとイリアに笑顔で言われてしまっては清十郎はもう何も言えない。惚れた弱みというやつだ
工房の店の中で世話しなく動く人達をみながら清十郎は首をかしげる
「のう。イリア殿?」
「はい。清十郎様」
今日のイリアは髪をシニヨンで纏めベージュに花柄の刺繍が施されたワンピースを着ている。胸には当然、清十郎が送ったペンダントが輝く
「ここは武器屋じゃよな?」
「はい。武器屋のカフェですよ」
「武器屋・・・カフェ?」
聞き間違いかと思って聞き直す清十郎にイリアは二コリと微笑む
「はい。カフェです」
「ど、どういうことじゃ?」
自分の聞いていなかったことで動揺があらわになる清十郎
「清十郎様はお店をされるんですよね?」
「うむ。そうじゃ」
「では清十郎様のお客様の対象はどのような方になるのでしょうか?」
イリアが真面目な顔で清十郎に聞いてくる
「ふーむ・・・儂は好きで打つからのう。その武器を気に入った人間が買っていく感じじゃな」
そう答える清十郎に頤に人差し指をあてて遠くに視線を走らせるイリア
「聞き方を間違えました。2週間で3本の剣を打たれたとお聞きしました」
「うむ。献上用とウェインとレギウスに打ったのう」
「では、その3本の値打ちはご存じですか?」
「試し打ちした時はバングリーは最低で金貨100枚とか申しておったのう」
腕を組み小首をかしげながら答える清十郎にイリアは頷く
「はい。その通りです。ましてお兄様に贈られた剣はそれ以上、一体どのような方がお買いになられるのでしょう。おそらく一般の冒険者ではきっと手が出せないと思います。ですがきっと清十郎様は質を落とした剣はおつくりにはなりませんよね?」
イリアがきちんと整理しながら尋ねてくるので清十郎もだんだんと言いたいことが分かってきた
「ふむ。話が見えてきたぞ。普通に剣を置いておいては店としてはうまくいかないというんじゃな」
「はい。というよりはお店自体はやっていけると思います。なにせ一回の取引が金貨100枚以上です。以前ミーニャから教わったと思いますがこのアボルグの中層区で生活する人々はひと月で大体金貨2枚から3枚で生活しております。冒険者の方たちはもう少しいい生活をするようですが装備の手入れなどで結局はそれくらいで生活すると聞いています」
なるほどなと清十郎は思う。要は店としてはやっていけるが客が少なく寂しい店になるとイリアが言っていることに気づく。それでも清十郎は構わないと思うがイリアはそこでニコリと笑う
「人がいないお店って寂しいですよね。ですので一般の方も気軽に来れるようにカフェの形式にして清十郎様のお打ちになられる剣も飾っておくのです。そうすれば剣を認める方たちはきっと
お買いになられるでしょうし腕前も認められることでしょう?
清十郎様はそんなものはどうでもいいかもしれませんが私は清十郎様ほどの殿方が世間に認められないなんて許せません」
イリアは頬を膨らませながら力説する
「まあ、ざっくりまとめればイリア様は自分のわがままでカフェにしたいだけなんですよ」
「こら、ミーニャ!」
イリアの後ろから顔をだし口に手をあてて笑うミーニャ
「でも、事後承諾になっちゃいますけどいいですよね?」
ミーニャが上目遣いで清十郎に尋ねると清十郎は嘆息する
「まあ、好きにいたせ。その代わりカフェの件に儂は口は出さぬぞ?」
「よかったですね!イリア様」
「はぁ。もうミーニャったら・・・」
頬に手をあててため息を吐くイリアに清十郎はイリアが喜ぶならいいかと思うのであった
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