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第72話 冒険者ギルドと噂

いつも読んでいただきありがとうございます!


「くそ!また失敗した!」


 職人が細かく作り上げた壷がまた一つたたき割られる

 豪華な設えの部屋の中は割られた壷の破片やバラまかれた紙束などひどいあり様と化していた


「兄さん・・・」


 その様子を言葉を掛けられずにただ見守るだけの弟

 瓜二つの顔の兄弟の表情は真逆だ。兄は憤怒の形相で物に八つ当たり弟は悲し気にその様子を見守っている


「どうしてこうなった・・・」


 息を切らしながら机に両手をつき自問するようにつぶやく


「兄さん、すまない。僕が勝手に駒を動かしたから」


「いや、すべては奴だ。清十郎!あいつがすべて悪い!忌々しい奴め」


 机を両手で拳を作り殴りつける。拳から血が垂れるが兄と呼ばれる男は気にしない


「相手の名前が分かったのは収穫だったけど失った駒が大きすぎるね・・・」


「ああ。これでは計画を完全に見直さねばなるまい」


 物に怒りをぶつけたからか兄とよばれた男は徐々に落ち着きを取り戻してきた

 息を切らしながらも冷静に頭を働かせる。弟が兄が冷静になったのを見計らって話を続ける


「そうだね。かの神の眷属を召喚できたのにまさかそれを打ち倒すとは誤算だったよ」


「しばらくはアボルグはあきらめるしかないか」


「形骸を手に入れられなかったのは痛いけどまだ他の国に仕込みがしてあるからそちらからやっていこうよ」


「そうだな。いつもすまないな」


「いいんだよ兄さん」


二人は儀式のようにお互いの掌を合わせ額と額をつける


「今度はきっと成功するよ」


「ああ、今度こそきっと成功させる」


「「すべては帝国のために」」




 簡素な部屋の中つるりと輝く頭をなでながらバングリーが溜息を吐く


「はぁ・・・。お前が絡むと必ず大事になるな」


「儂をそのように言うでない」


 腕を組みすねるようにそっぽをむく清十郎にアルム、ロビン、リノンは苦笑いだ


 清十郎たちは現在、アボルグの冒険者ギルドの一室にいる

 人数が多いためギルド長室では手狭ということもあって別室でバングリーに事の顛末を話したところだ


「しかし、それだけ目立ったとなるとお前のことが知れ渡るのも時間の問題だな

すでにこのアボルグにも噂は流れてきてるぞ」


「ううむ・・・どうしたものか」


「なるようにしかならん。あきらめろ」


 悩む清十郎にバングリーはバッサリ言い切る


「とりあえず、Dランク試験についてはお前たちは全員合格じゃな」


 腕を組みうんうんと唸る清十郎をよそにアルム、ロビン、リノンは驚く


「え?なぜですか?」


 ロビンが代表して聞く


「ターニャから言われなかったか?不測の事態が起きた時は報告を第一にしろとそれと自分の手に負えなければどうするかすべてを見ていると言っていたと思うが」


「ああ、言ってたね。僕、聞いたよ」


「アルムの言う通りだな。この場合、お前たちは兵士を助けアンデッド撃退の一助を担った。それにこうして儂に事の顛末を報告しておるではないか。なら合格じゃ」


 清十郎を除くアルム、ロビン、リノンは喜ぶ


「それと清十郎、お前のその顔は多分、分かっていると思うが今後、面倒事に巻き込まれるぞ」


「儂としては鍛冶ができればそれでいいんじゃがな・・・」


「そういうわけにはいかんだろ。とりあえず話を聞く限りリッチ、それも今回はアンデッドを従えさらには戦略級の魔法を扱うような奴を討伐したし冒険者ギルドとしてはCランク以上のランクアップは間違いないだろうな」


 そこでバングリーは眉間に皺を寄せる


「Cランク以上になると指名依頼を受ける羽目になるからお前と縁を持ちたい貴族や王族達から指名依頼の名の付く召喚依頼がくるかもしれんな」


「どういうことじゃ?」


「Cランク以上の指名依頼は受託義務が生じるんじゃ。余程の理由がない限り受けなければならない。拒めば最悪、登録抹消になるな」


「Dランクのままでよかろう」


「それが出来れば説明なんぞしとらんわ。まあ、後はウェイン殿と相談じゃな」


 バングリーはそう話を締めくくった



 清十郎たちは部屋を後にしロビーに行くとアルム、ロビン、リノンを押しのけ見知らぬ女性たちが清十郎に殺到する


「清十郎ってあんたかい?私はロニーって・・・」


「ロニー抜け駆けする気!清十郎君は私が目をつけてて・・・」


「清十郎君!あたしと一晩・・・」


「はいはい!清十郎は俺たち精霊の宴が用があるからな!どいたどいた!」


 困惑する清十郎に見慣れた赤い髪を逆立てた男が女性をかき分け清十郎の手を引っ張り女性の輪から助け出す


「なんじゃ!これは!アンガス何か知っておるのか!」


「何って、お前あれだけやらかしといて話が広まらんわけないだろ」


 精霊の宴のテーブルに清十郎を連れていくと集まった女性たちを用があるからといって散らす


 それでもあきらめきれない女性の幾人かは離れたテーブルに座り清十郎の様子を窺っている

 さながら草食動物を狙う肉食獣だ。


 清十郎は背筋に走る寒気を感じながらアンガスから話を聞く


「くくく。清十郎もてるねー。いや、うらやましい」


「トリビス、からかうものじゃないぞ。清十郎殿が困っておられる」


「ふ・・・ついに俺の筋肉をも超えたか清十郎」


 からかうトリビスにそれを諫めるエルザついでにトドルが意味不明なことを言っているが全員にやついていることから明らかにこの状況を楽しんでいる


「むぅ。お主ら絶対楽しんでおるだろう?」


「「「いや、全然」」」


 清十郎の追及に息ぴったりで首を振る


「ほんとあの女たち嫌だよ!今更になって清十郎君に言い寄ってさ!この前まで怖がって近寄らなかったくせに。あそこで見てるやつなんて陰口叩いてたの知ってるよ!」


 アルムがテーブルを囲む椅子にドカリと座るとこちらの様子を窺っていた女性の一人に指を指す

 女性は気まずげに目をそらすがそれも一瞬の事、みんなの視線が外れると再び清十郎を見つめる


「そう、カリカリすんなって」


 アンガスがぷんすか怒るアルムをなだめる


「そうそう。お前の大好きな清十郎君はあの女たちよりお前の事が気に入っているから心配するなって」


「ちょ!トリビス」


 トリビスがアルムをからかうとアルムが顔を真っ赤にする


「うむ。アルム殿のことは好きじゃよ」


 なんでもないように言い切る清十郎にアルムはオーバーヒートする

 煙が顔から噴き出すくらいに真っ赤にし後ろにカクンと頭が倒れる


「お、おい。アルムしっかりしろ!清十郎殿もアルムを変にからかってやるな。こいつはそういうのに耐性がないから」


「え、えへへ・・・すき、すきって言われた。清十郎君にすきって・・・」


 エリザが慌ててアルムに声をかけるがアルムの意識は妄想の世界へダイブ中だ


「うん?友として好きなのは別におかしい話ではないではないのか?」


 清十郎が小首を傾げるとその場にいた全員が溜息を吐く


「こいつは天然のたらしだな」


 トリビスの言うことに全員頷いた


「よし、じゃれ合いはそこまで。清十郎、お前この後、暇か?」


 アンガスがとりあえずといった感じで話に割って入る


「いや、まずは屋敷に戻ろうと思っていたんじゃが」


「あー、愛しの姫君がお待ちか」


 アンガスが唸る。図星をつかれた清十郎は吃驚した顔をしている


「いや、お前。それ今更だからな?」


 苦笑いを浮かべるアンガスは話を続ける


「なら、打ち上げは今度だな。そういえばそこの二人は?」


「ロビンとリノンだよ。今回の試験で知り合ったんだ」


 復旧したアルムがアンガスに答える


「お、おれはロビンと言います!よろしくお願いします!」


「わ、わたしはリノンです。よろしくお願いします・・・」


 Cランク冒険者パーティーというのをアルムから聞かされていた二人は緊張しながらも挨拶をする


「おう!俺は精霊の宴のリーダーをやってるアンガスだ。よろしくな」


 アンガスの挨拶を皮切りに順に精霊の宴の面々は挨拶を交わす


「そうだ。今日はこいつが用事があって駄目だが今度、Dランク昇格を祝っての打ち上げをやろうと思うんだがお前らもこいよ」


「いいんですか?」


「いいよ!ロビンもリノンも来てよ!」


 アンガスとアルムに誘われて二人は顔を見合わせておずおずと頷いた


「よし。ならこっちはいいな。なら清十郎、今日は俺が屋敷まで送っていってやるよ」


「む?儂は一人で帰れるぞ」


「あれを見てか?」


 アンガスが親指で指し示す方向には涎を垂らし今にも襲い掛からんとする肉食獣もとい女性たちが待ち構えている


「ア、アンガスよろしく頼む・・・」


 がっくりとうなだれる清十郎にアンガスは笑いながら頷く


「よし!なら行くか」


 アンガスと清十郎は席を立つと精霊の宴の面々とロビンとリノンに挨拶を交わすと冒険者ギルドを後にした


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