第51話 清十郎の指導
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バングリーを先頭に冒険者ギルドのロビーを通る時、先ほどの不快の視線ではなく畏怖が混じった視線を清十郎は受ける。誰も話しかけようとせず清十郎が視線を向けると反らされる始末だ
「はぁ、すっかり怯えさせてしまったな」
「当り前だろ。あれだけやればそうなる」
清十郎のぼやきともとれる呟きにバングリーが反応する
イリアが慰めるように清十郎の背中をさする
「ぷぷ。そうしてると清十郎様は本当にお爺ちゃんみたいですね」
「うるさいわい」
ミーニャの一言に若干やけくそ気味に返しバングリーの後を追う
冒険者ギルドを出て隣の建物に移動するとバングリーは中に入っていく。レンガ造りのしっかりとした倉庫のような建物だ。表の看板には剣を金床と金槌で挟んだ絵が描いてありバングリー工房と書かれていた
扉をくぐり中に入ると熱気が清十郎たちを迎える
「あ、あっついですねー」
ミーニャが顔をしかめながらぼやく
「ここは武器を作る工房だからな!熱いのは当たり前だ!」
バングリーが声を大にしてミーニャに当然の事と言い放つ
イリアも熱いらしく汗をハンカチで拭っているのに清十郎は気づく
「イリア殿、儂はしばらくここでやることがあるから時間を少々いただきたい
きっと長くかかると思うから外でしばらく買い物でもしてきてはどうじゃ?」
「よろしいのですか?」
「うむ。少々ここはおなごにとって厳しい場所。後ろでへばっているミーニャ殿を連れて買い物を楽しんできてくだされ。遅くなるようなら先に屋敷に帰っていただいてもかまわんよ」
「では、お言葉にあまえさせてもらいますわ。さ、ミーニャ、女の子がだらしなく口を開いてないで行きますよ」
イリアは清十郎が気を使ってくれたのを悟って優しくお辞儀をして去っていく
そのあとを嬉しそうにミーニャがついて行くのを見届けてバングリーに向き直る
「よし。バングリー案内を頼む!」
清十郎は久々の熱気に当てられテンションストップ高だ。
「ああ。お前、やっぱり職人だな!」
バングリーは嬉しそうに言うと施設を案内していく
清十郎の前にレンガを竈のように組んだ煙突の伸びた施設の前に立つ
「こいつが炉だ。で、こっちの繋がってる棒が鞴でこいつを上下に動かすことで空気を送り込んでいくんだ」
目の前でバングリーとよく似た体系の若そうなドワーフが一生懸命に炉に空気を送り込んでいた
暫くすると十分に熱しられたのか鉄のインゴットを放り込みさらに熱していく
その様子を清十郎はじっと見つめる。炉から火が昇りかなり高温になっているのが分かる
「お、そろそろだぞ」
バングリーがそういうと若いドワーフがハンマーで炉の穴をふさいでいた土を壊すと溶けた鉄が流れ出し砂型に流れ込んでいく。あらかじめ出口を土で固めていたようだ
「ここは鋳造で作るのか?」
「ああ。まずインゴットを溶かして棒状にするんだ」
バングリーは背を向けると清十郎にこっちだと手で招く
「ここから鍛造に入る。こっちだ」
バングリーは施設の別の場所で金床でたたいている若いドワーフの元に近づいていく。キンキンと鉄を打つ音が響いてくる。音が響くたびに清十郎の心が湧いていく
「ここだ。ここで火床を使って剣などの武器を作っていく」
若いドワーフが入り口のないレンガ造りの四角い物体についた棒を上下に動かすと横に設置された火床から火があがる。きっとあれが鞴だろうと清十郎は検討をつける
そこに先ほどの砂型を割って取り出した棒状の鉄を放り込むと鞴の棒を上下に動かし空気を送り込む。その度に火床から火が上がる。暫く繰り返し火箸で赤く染まった棒状の鉄を取り出すと金槌で叩き始めたキンキンと耳心地のいい音が清十郎の心をくすぐる
「まあ、こんな感じで形を作っていくわけよ」
「ふむ。儂のおった世界とよく似ておるな」
「お?そうか。だったらお前の工房もこれを模して作るか」
と、バングリーが言ったところで奥の方から剣を持って若いドワーフが走ってくる
「親方!」
「ばかやろう!剣を持って走るんじゃねぇ!あぶねぇだろうが!」
バングリーの怒鳴り声が工房内に響くが若いドワーフはそれどころではないらしい
「見てください!今度こそ、作り上げました!」
若いドワーフは一本の剣を両手の掌に乗せてバングリーに差し出す
バングリーは剣を一瞥すると首を振る
「だめだな」
手にもって確認すらしてもらえない若いドワーフは茫然とする
「・・・な、なぜですか?」
「自分で考えてみろ」
吐き捨てるようにバングリーは言い放つと目を向けることもない
「バングリーそれは少し可哀そうではないか・・・?」
同じ職人として弟子を育てたこともある清十郎が見かねてバングリーに口を出す
バングリーがそこでニヤリと口をゆがめる
「なら、お前がそいつに教えてやれ。それの駄目な点をな」
清十郎は、はぁと軽く溜息を吐くと落ち込んだ若いドワーフに声をかける
「そなた、ちとその剣を見せてみろ」
「え?」
「いいから貸すのじゃ!」
茫然としたまま、なかなか立ち直らない若いドワーフに少し苛立ち奪い取るように剣を取る
「細い鏨と金槌」
「は?」
「いいから細い鏨と金槌を持ってまいれ!」
大声で怒鳴られ若いドワーフは慌てて走って鏨と金槌を持ってきた。それを受け取ると清十郎は空いている金床の前に座る
「よく見ておれよ」
清十郎は若いドワーフにそう言うと剣の一部に鏨を当て金槌で軽く一叩きする
その瞬間、剣が真っ二つに割れた
「へ?」
「お主の剣は叩きにムラがありすぎる。これでは弱いところと強いところでバラバラじゃ」
清十郎はここは固い部分と鏨でさっきと同じように金槌でたたくがこちらは割れることはない
「そういうことだ、バラッド。焦る気持ちはわかるが一つ一つの工程をしっかりとこなせ」
清十郎の言葉を引き継ぐようにバングリーは言う
バラッドと呼ばれたドワーフは涙を流しながら真っ二つになった剣を両手に持つと持ち場に帰っていった
「お前も大概な教え方だな!」
「お主に言われたくないわ!」
呵々と笑うバングリーに少しばかりイラつきを憶えた清十郎は一泡吹かせてやろうと思い立った
とぼとぼと歩く青年の後を追いかけると声をかける
「そなた、バラッドと言ったか?ちとそなたの持ち場に連れていけ」
「え?」
「バラッドこいつの言う通りにしろ」
後ろからバングリーがやってきて清十郎の言う通りにしろという。どうやら清十郎が何をするのか気になったらしい。バラッドは自分の持ち場に清十郎を連れていくとここですと案内する
「よし。お主の今まで失敗した剣を持ってまいれ。一本ぐらい余っているだろう?」
「えぇ!?」
「バラッド言う通りにしろ」
親方に言われて渋々バラッドは一本の剣を持ってくる
一目見ても明らかに硬さがバラバラで持ってみると重心が狂っているのがよくわかる
「ふーむ。ひどい剣じゃ」
「なっ!そんなこと分かっています!あなたが持ってこいと言ったんじゃないですか!」
怒るバラッドをよそに清十郎は火床の前に座り火が入っているのを確認すると鞴を上下に動かし確認する
(ふむ。これならいけるな)
「何をするんですか!?勝手に触らないでください!」
「いいから、いい加減お前は黙ってこいつのやることをしっかりみとけ!」
バングリーは清十郎が何をするのか大体予想がついたらしい
清十郎は裾をめくると剣を火床に突っ込み鞴を上下する
火が上がり火の粉の上がり方でたたきが甘いことを再確認する
十分に熱したところで火箸で取り出すと金床に置き金槌で叩き始める
甲高い綺麗な音が工房内に響く
徐々に何事かと思った工房内の人間が集まり清十郎を囲んで輪を作る
一叩き一叩き叩いていくと集中する清十郎の耳に徐々に声が聞こえてくる
もう少し叩いて、気持ちいい、寒いよ、熱いよ
聞こえてくる声は様々だ。集中しながら無意識でその声にこたえるように火床に入れて熱し叩いていく。やがて剣からの喜びを感じたところで焼き入れを行う
ジュウという心地よい音の元、剣の形が仕上がる
最後の研ぎは回転式の研ぎ石だったのでやり方が分からず今回は自分でやるのをあきらめバングリーに手渡す。意図を理解したバングリーが最後の研ぎの仕上げを行う。やがて見事な光り輝く刀身があらわれる
完成したものをバングリーは真面目な顔でバラッドに突き出す。バラッドは恭しく剣を受け取るとまじまじと見つめ清十郎を見る
「あなたは、何者ですか・・・
あれは完全な失敗作だったはずです。ここまで見事な剣に生まれ変わるとは・・・」
「わかったか。バラッド、きちんとひとつひとつの工程をしっかりと真面目に焦らずこなしていけばこの領域にまで登り詰めることができる。お前が失敗作とあきらめたその片手剣はおそらく金貨20枚以上は必ずつく名剣と言っても過言ではないぞ」
バングリーの金貨20枚以上という言葉に周りから歓声が沸く
そこでバングリーは清十郎を見ると頭をなでながらニカリとわらう
「お前に一本とられたな。これでバラッドも一皮むけるだろう」
バラッドは先ほど清十郎が打ち直した片手剣をまじまじと見つめている。その目に先ほどまでのおごり高ぶった感じは見受けられない。むしろやる気に満ち満ちている
だが清十郎は浮かない顔をしている
「清十郎?どうした?」
「・・・バングリーよ。お主、先ほど儂が打ち直している時に誰か喋っていたか?」
「うん?まあ、すごいとかそんなようなことは言っていたが・・・」
そこで清十郎は首を振ると顔をあげてバングリーを見る
「いや、なんでもない。気にするな。それよりもお主に一泡吹かせれたな」
「がはは!本当だな。お前に一本とられたわ!」
ニヤリと笑う清十郎にバングリーは目を丸くして大声で笑うのであった
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