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第49話 清十郎怒る

いつも読んでいただきありがとうございます!

 ガタガタと音を立てながら馬車は上層区の坂道を下りながら走る

 御者台には清十郎とロムアの2人が乗っている

 

 本来であれば馬車の客車に清十郎は乗るべきだが清十郎が頼んで御者台に乗せてもらっている


 あの後、ひとしきり剣を交え意気投合したレギウスと清十郎は握手を交わして領主の館を後にした。ウェインはレギウスともう少し話があるからとロムアに清十郎を先に屋敷へ送るように命じたのだ


 見晴らしのいい御者台から流れる景色に満足しながら清十郎はロムアに声をかける


「のう、ロムア殿」


「はい。清十郎様」


 ロムアは前を向いたまま返事を返す

 清十郎は先ほどロムアがウェインに逃がした者について報告していたことが気になっていた。昨夜、迷い込んできた少女も脇腹に致命傷を負っていたからだ

 それが気になって問いかけようとしたが聞くか聞かないかで迷っていた


「ふむ。清十郎様は何か私に尋ねたいことがあるとみえますな」


 清十郎は核心を突かれ思わずロムアの顔を見る

 ロムアは前を向きながら横目でちらりと清十郎を見ると口角をあげる


「清十郎様は武芸に秀でておいでですが腹芸は苦手のようだ」


「お主・・・謀ったな」


「そのような恐れ多いことは致しません。ただ清十郎様がわざわざ御者台に乗りたいと仰られたのと先ほどからの私への視線から判断したまでのこと」


「ふむ・・・」


 清十郎は図星をつかれたことで嘆息する


「まぁ、そなたの身のこなしから裏の役割を担っておるのは予想がついておるしウェインの為になることであろう?

 しいてはイリア殿を守ることにつながるし、そのことで儂は特に言うことはない」


「では、何を気になされておられるので?」


清十郎はしばし沈黙する。目線の遠く先にウェインの屋敷が見えてきた

ふーっと息を吐くと話し出す


「実はのう。昨日、離れに猫が迷い込んでな」


「ほう。猫ですか」


「うむ。その猫がのう、脇腹に致命傷とも思える傷を負っていてな」


 そこで言葉を止めてロムアを見る。ロムアは変わらず前を見ながら手綱を握っている


「まあ、助けたんじゃが・・・」


 清十郎が話の続きをしづらそうにするとロムアが話しだす


「ふむ。奇遇ですな。私も昨日、一匹の猫が怪我をして闇に紛れるのを見かけましてな。気にはなっておりましたが清十郎様のところにいたとは」


「お主、その猫をどうしたいのじゃ?」


「私としましては猫はノミや毛玉、はては屋敷に傷をつけますから飼うことに賛成はいたしませんな」


「じゃが、猫はネズミを捕まえてくるぞ?害虫も退治するしのう」


「ふむ。清十郎様はその猫をどうやらお飼いになりたいのですね」


 ロムアが話し終えたところで屋敷に馬車が入っていく

 清十郎は屋敷の玄関前に馬車が止まるのを確認すると御車台から飛び降り振り返る


「儂はどっちでも構わん。ただこれも縁かと思ってな。できれば生かしてやってほしい」


 清十郎はそうロムアに言い切ると屋敷の中に入っていった


「ふむ。清十郎様、その甘さが首を絞めねば良いのですが・・・」


 御車台のロムアはトレードマークのカイゼル髭をなでながらこれからどうするか思案するのであった



 清十郎は昼前にレギウスと話し合いが終わったことから現在、クマの子亭でイリアとミーニャの3人で昼のランチを楽しんでいた。ポーラも誘ったがやることがあるからと断られてしまった


「うむ。このしっかりとした弾力のある食感と噛めば染み出す旨味がたまらんのう!」


「むふふ。だから私は言ったんですよ?おすすめだって」


「ほんと美味しいわね」


3人のテーブルの上には今、ヨチドリを使った料理がならんでいる

ヨチドリの炙りステーキにヨチドリと野菜の煮込みスープそしてエランの実を使ったジェラートだ

清十郎は炙りステーキを食べ終えるとヨチドリの野菜の煮込みスープを一口、口に入れる


「ほーう。これはしっかりと骨から出汁をとっておるな・・・

 やさしくもしっかりとした野菜の味が油っぽさを消しておるわ。こやつもやるな!うまい!」


「ほんと清十郎様は美味しそうにたべますね」


「ふふ。そこが清十郎様の良いところですよ」


「あ、イリア様、のろけですか!?」


「なっ!ミーニャったら何を言うの!」


 清十郎はエランの実の酸っぱさに口をすぼめながら目の前でじゃれあう二人を見てこんな日もいいなと思う


 食後、清十郎はバングリーに会いに冒険者ギルドへ向かう。今日の目的はそれだ。

 昼前にイリアとミーニャを誘ったのも昼をかねてのことだ


 冒険者ギルドの扉を開き中に入ると午後もはじめということもあってロビーは閑散としていたが何人かの冒険者たちが入ってきた清十郎たちに目を向ける

 ひそひそと清十郎をみては何かを話し合っている。あまり好意的な目ではない


「なんかやーな感じですね」


「まあ、ほっとけばよかろう」


 ミーニャが眉間に皺をよせ嫌悪感を露わにすると清十郎は構わずターニャの元へ向かおうとする


「おい。清十郎ってお前か?」


 そこに数名の男たちが清十郎の行く手を遮る


「なんじゃ、お主ら」


「お前、Dランクへいきなりあがるらしいな。本当か?」


 睨みを利かしながら清十郎に問いかける


「儂は一番下からでもよかったがバングリーに言われてな」


 清十郎が頷きながら答えると男は清十郎に指をさしながら非難し始める


「はっ!ほらみろ、聞いたか!ギルド長のひいきがあったって認めたぞ!

道理でおかしいと思ったんだ!こんな子供みたいな奴にオーガの亜種が倒せるかっての!」


 男の言葉にそうだそうだと周りがはやし立て男は気をよくしたのか言葉を続ける


「Dランクのひいきだって貴族の行き遅れの令嬢を垂らしこんだって話だし

そこからの頼みであげてもらったに決まってら!」


イリアがすぐそばにいることも知らずに男は言ってはいけない禁句を口にした


「清十郎様は・・・」


 イリアが”そんなことはありません”と言葉を続けるよりも早く清十郎が言葉を発する


「お主、何を言った・・・」


「はぁ?もう一回、言ってやるからよーく聞いてろよ。行き遅れの女を垂らしこんだって言ってんだ・・・ぐあ!」


 その瞬間、男は清十郎の拳によって吹き飛び一番、奥の壁に叩きつけられた。石でくみ上げられた壁が男を中心にひび割れ男はそのまま床にずり落ちる。男は顔を陥没させ痙攣をおこしていた

 それでも周りは動けなかった


「お前たち、イリア殿を辱めるとは許せぬ!」


 その瞬間、清十郎を中心に空気が凄まじい重さを持つ

 まるで上から見えない手で押しつぶされているようだ。ロビーにいた全員が膝を付き心臓をわしづかみにされたような重圧感を覚え息をすることすらままならない


「やめんか!」


 あわや全員が失神しかけたところでだみ声のよく通る声で怒声が響く。その声に清十郎も我に返る


「清十郎!お前、無差別で人を殺す気か!後ろを見てみろ!」


 清十郎は後ろを振り返るとイリアとミーニャも膝を付き重圧から解き放たれて荒い息を吐いていた


「イ、イリア殿」


「まったく・・・お前はイリア嬢のことになると我を失いおってからに」


「ターニャ、そこの壁で伸びてるやつは生きてるか?」


「は、はい。なんとか」


バングリーはそこではーっと溜息を吐くと清十郎を見る


「お前があいつを助けてやれ。それでチャラだ

 ここにいる奴もわかったな!こいつはオーガの変異種を一人で倒すようなやつだ

 特に!後ろにいるイリア嬢はよく覚えておけ!こいつの女だからな!」


 突然、自分が清十郎の女と言われ何を言われているのかわからないイリアはおろおろとし次第に状況が飲み込めたのか顔がゆでだこのように赤くなっていく


「・・わたし女、清十郎様の女、女、女」


「あっ!イリア様がポンコツ化した!」


 ミーニャにポンコツ呼ばわりされたイリアはそれすら耳にとどかずその場でゆらゆら揺れていた


 清十郎は冷静になった頭でイリアにまで危険な目にあわせた自分を許せぬほど後悔しながら今は目の前

の惨状をなんとかせねばと男に歩み寄るとそばに座り顔を治していくようにイメージし魔力を流し込む


「ヒール」


 その瞬間、男の顔がみるみる元に戻っていく

 その光景を目の当たりにしたロビーにいた全員は呆気に取られる


「やっぱり、話は本当だったか。よしそいつはもう大丈夫だろう

 おい、そこの漏らし野郎、お前こいつの仲間だろ。もう二度と清十郎を怒らすんじゃねーぞ

 あと、貴族の令嬢を罵ると不敬罪に問われるからな!今回はこいつがやりすぎたのもあるからこちらで責任をもって謝っておくが次はないぞ!」


バングリーに言われ腰を抜かし失禁していた男はコクコクと頷くと清十郎に絡んだ男を担ぎ上げ冒険者ギルドを去っていった


「さて、この馬鹿者!」


 バングリーの鉄拳が清十郎の頭に振り下ろされる。激痛が頭のてっぺんより足元に突き抜ける

 本当は避けることができたがあえて受けることにした。イリアを怖い目に合わせた自分への戒めだ


「まあ、避けんかっただけ誉めてやるわ。その代わり、ここの修理代お前の金でだせよ」


「・・・うむ。しかと承った」


「あとイリア嬢、うちの馬鹿者たちがあなたを侮辱したことをギルドをまとめるものとして謝る。すまんかった。許してくれ。」


 バングリーはイリアに謝ると頭を下げる。さすがに目の前で頭をさげられればイリアも復帰する


「あ、いえ。もう気にしておりませんからどうぞお顔をお上げください」


 イリアに言われバングリーは顔をあげるとニカリと笑う


「よし。ならこの話は終わりだ。本当は俺に用事があったんだろ?

 なら奥に行くぞ」


 そういうとバングリーはさっさとカウンター横の開き戸から階段を上っていった

 あまりに颯爽と立ち去る姿に一瞬、呆気にとられるが慌てて清十郎たちは後を追うのであった


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