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第35話 マリカ様

ブックマークの登録、評価をしていただきありがとうございます!

これからも楽しんでいただけるように頑張りますのでよろしくお願いします

 清十郎は下層区から屋敷に戻ると夕食を食べ終わるやいなや皆との会話もそこそこにすぐに離れにこもった。試したいことがあるからだ


(よし。早速、感覚を忘れぬうちに魔法を使えるようにしなければ)


 今日ポーラから指南を受けた魔法を清十郎は使いたくてうずうずしていたのだ。部屋の中央の丸太を横にどかすと真ん中にドカリと座り集中を始める。が、どうにも、はしゃぐ心が邪魔をしてなかなかその境地に至れない


(やれやれ。新しいものにこれほど惹かれるとは)


 清十郎は自らの感情に苦笑いを浮かべるとへその下にはしゃぐ気持ちを沈めていくようにゆっくりと深呼吸を行い心を落ち着けていく

 目を閉じて集中を始めるとやがて目の前に広がる泉を意識することができた

 生前、常に明鏡止水を意識し行ってきたものだ。気持ちを落ち着かせることができればその境地に至ることは息をするのと同じことだ


 泉の前に立ち昼間のように泉の水を動かそうとしてみるがなかなかうまくいかない


(ふむ。あれはポーラ殿の手ほどきでやれていたものだな)


 清十郎は再度、動かそうと試みがなかなかうまくいかない。あきらめずにしばらく取り組んでいるとやがて泉に小さな波紋が生まれる

 そのまま続けていくとやがて大きなうねりとなって泉の水は宙に浮きあがり動かすことが出来るようになった。体を駆け巡る泉から湧き出る力を感じると目を開ける


 清十郎の目の前には大小さまざまな丸い塊が色とりどりで浮かび周りの木や石、机や椅子などからも霞のような魔素が立ち上る


(この光景はやはり美しいものだな)


 清十郎は遊ぼうと誘ってくるような動きをする精霊の光に優しく笑みを浮かべると手で包み込みそっと上に飛ばしてやると楽しいという気持ちが伝わってくる

 それをきっかけに周りの精霊たちが清十郎に群がってくるので心の中ですまないと謝り、立ち上がると残念という気持ちが伝わってきた

 あらためて部屋の中の物をみる。石や木、鉄などから薄く立ち上るものもあればミスリルなどに至っては緑の色づいた魔素が湯気のように大きく揺らめいていた

 景色をしばらく眺めていると急に立ち眩みを起こし作業台の上に両手をつく


(魔力を使いすぎた影響か?んっ?これはどういうことだ?)


 その時、偶然にも作業台に置いてあった自らの相棒が目に入った

 いずれ白鞘を作ってやらねばと思っていた相棒の黒く輝く拵からは魔素がまったく立ち昇っていない。不思議に思い清十郎が相棒に手をかけた瞬間、視界は暗闇に包まれた


「師匠ー!朝だよ!」


 朝、いつもと変わらぬ日常、飛び込んできたビットが見たものは部屋で倒れている清十郎の姿だった



 清十郎は不思議な空間に立っていた


「ここは?」


 周りを見渡せば揺れ動く白い雲が足元に広がっており眼前には朝焼けのような景色が目の前に神々しく広がる

 夢であろうと自らの身体を確認すると感覚があり体も動かせる。ただ、手を広げてみれば先ほどまでいた世界と違いごつごつとした両手に太くたくましい両腕に体は鍛え抜かれた筋肉を纏っていた。衣服も水干、白袴に唯一相棒がいないだけで昔の姿だ


 そのまま一通り体を動かしてみればキレのある動きができた


(間違いない。儂が一番、力を誇っていた時の体だ)


 その時、背後に気配を感じたので振り返ってみれば一人の女性が立っていた


 青い髪を後ろで纏め垂れ目が特徴のおっとりとした顔の女性が簡素な布を纏い立っていた。その表情は優しくまるで母親が子供に向ける様な慈愛に満ちた表情をしていた


「初めてお会いできましたね。清十郎」


 一言一言にひれ伏したくなるような言葉の重さがある


「あなたは?」


「この世界にあなたを呼んだものといえばわかるでしょうか」


 清十郎は、ああ、なるほど、と本能が理解する


「あなたはマリカ様か?」


「ふふ、今の世ではそのように呼ばれておりますね」


 優しく微笑みながら子供に言い聞かせるようにゆっくりと答える


「なぜ、私をお呼びになられたのですか?」


「あなたが相棒と呼ぶ刀にすべての魔力を吸い取られて倒れたのですよ

 よほどおなかがすいていたのでしょう。思わずあなたの命まで吸い取ってしまったみたい。おいしくて止まらなかったそうよ?」


 マリカはくすくすと笑うとすぐそばで足元を掴む小さな子供を見る

 黒目で黒髪を後ろでしばり白い水干と白袴を履く姿は清十郎をそのまま小さくした感じだ


「マリカ様、その童は?」


 清十郎が指をさすとその子供はマリカの足にさらにしがみつき後ろに隠れてしまった


「ふふ、あなたの相棒さんよ。でもあなたの命を吸い取ってしまったから怒られると思っているみたいね」


 可愛いわねーとマリカは優しく頭をなでると子供は目を細めて気持ちよさそうにしている


「そうか、お主は儂の相棒であったか。怒ってはおらぬゆえ顔をみせてくれんか?」


 清十郎はしゃがむとなるべくやさしく声をかける。子供はその様子に恐る恐るといった感じでマリカの足元から離れ清十郎に近づいていく。傍まできた子供を清十郎はにこやかに笑うと頭を優しく撫でてやる


「そうか、そうか。儂が打ったのがお主か。愛い奴じゃな」


「うふふ。いつまでもそうしたいのはやまやまだけど時間がないからそろそろいいかしら?」


 ほのぼのとした清十郎と子供のやり取りを微笑ましく見ていたマリカが声をかける

 清十郎は、はっとするとマリカに向き合う。子供は清十郎とマリカをそれぞれみやるとマリカの足元に走ってくっついた。マリカはなでながら清十郎に話を始める


「今回、あなたが命を失ったことで、ここに呼び寄せることができました」

 

マリカの言うことに清十郎は驚く


「私は死んだのですか?」


「そのとおりです。ですが、私がここに呼び寄せ魂がこの世界から離れるのを防ぎました。その間に体には命を与えましたから安心なさい。それにせっかくこの世界に呼び寄せたあなたがこんなことで死んでしまっては困るでしょう?」


「困る、ですか?」


「ええ、特にやってもらうこともありませんが前の世界であなたが生きた一部始終を見ていました

 一心不乱に刀を作ることに必死になって作ったと思ったら戦ってばかりなんですもの

 お姫様と結婚の話もあったのに逃げ出したりして。あなた女も知らないでしょう?

 

 あまりに欲のない生き方に見ていて心配でわたしはあなたから目を離せなくなってしまったの。だから向こうでの生の終わりを待ってからこちらに呼び寄せたのよ。でも、これからどうなるか楽しみにしていたらこの子に命を吸いつくされて死んでしまうじゃない?

 さすがに焦ったわよ。お気に入りがすぐに死んでは面白くないでしょう?」


「はあ・・・」


 思わずマリカの言うことにぽかんと返事をする

 お前を気に入ったから生き返らせてこっちの世界に連れてきたけどすぐ死んでは面白くないというなんとも言えない理由ではさすがの清十郎でも呆気にとられる


「しかし、それなら他の者にも似たような者が居ったでしょう?」


清十郎は自分とよく似た生き方をしていた者を何人も知っている。なぜ自分なのかそれをマリカに聞いてみたくなった


「あなたは違うのよ。他の人たちってもう有名になっちゃてるじゃない?

 私は世に名前がでてもおかしくないけどあえてそれを嫌って世にでなかった隠れたそういう人が好きなのよ。うふふ」


「有名になった、ですか?」


「あっ、これはあなたの知らない事だったわね。気にしないで」


「はぁ・・・」


 なんだかよくわからないという清十郎にマリカは可愛らしく首を傾けて考えるように答える


「本当はしゃべっちゃだめなんだけど他にも世界があってね。あなたのお友達はそっちに引き取られていったわよ?

今頃は、はしゃぎながら戦っているんじゃないかしら。でもそろそろ時間だからそれ以上はまた今度ね」


 驚いて清十郎は尋ねようとしたところ、マリカはもう答えないわよと雰囲気にだして清十郎が困惑している間にまじめな口調と話を元に戻す


「そんなわけで、この世界はわたしの世界だからあなたの好きに生きなさい。ただ、そうね。

この世界が混沌とした世界になるのは好きではないわ。だから、あなたにはそれをできる範囲で助けてもらいたいのです。なんならあなたが世界を統べてもいいのよ?」


「世界を統べるのは勘弁していただきたいです・・・」


「ええ、よく分かってるわ。だから、あなたのできる範囲で助けてくれればいいのです

 あなたにはこれから恋をして愛を育み子供を作って時には戦いそして悩んで人間らしい人生を謳歌してもらいたいのです。なんなら女の子を泣かせるのは望みませんが喜ぶなら何人と縁を紡いでも良いわよ?

 ただし前の世界のように刀と戦いだけに縛られた人生を私は望んでいませんよ?」


小声で私を楽しませてねと言っているのは清十郎にきこえていない


「はぁ。しかしですな。私も刀と戦いは好きでやっておりますので謳歌と言われましても・・・」


「うふふ。すでに恋には成就しつつあるではありませんか。あとは愛をはぐくみ子供を作って人が生きる楽しみを謳歌すればいいのですよ。別に刀を作るなとか戦うなと言っているわけではありませんよ」


 最後のほうは頬を膨らませて可愛らしく怒るマリカ様


「あ、そろそろ時間がきてしまいました

 清十郎、ポーラを救いなさい。あなたならできます。そしてポーラから魔法の扱いをしっかりおしえてもらいなさい。わかりましたね?」


「わかりました。あなたのおっしゃることをできる限り行えるようにしたいと思います」


「それで構いません。あと戻ったらこの子に名前をつけてあげなさい」


 マリカはそういうと足元にしがみつく子供をなでる


「さぁ、あなたの本来いるべき場所にお戻りなさい」


 マリカはそういうと子供の背中を優しく押す

 子供はそれに合わせてタタタッ小走りに清十郎に向かってくると清十郎の足にしがみついた。その様子に満足そうにマリカは頷くと清十郎に目線を戻す


「それと、わたしの力にも限りがあります。あなたを常に救えるわけではありません。決して命を無駄にしないようになさい。わかりましたね」


 マリカは清十郎に近づくと母が子を慈しむように優しく頭をなでながら言い聞かす

 清十郎は前世で物心つく前に亡くした母に撫でられた感覚を思い出していた


 「はい、ははうえ・・・」


 「ふふ。良い子ね」


 マリカは目を細めて甘えるように母を呼ぶ清十郎に優しく微笑むと景色が揺らいでいきだんだんとマリカの姿も世界も消えていった



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