第33話 ポーラと魔法
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誤字があったり文脈が変でしたので若干変更しました
シーラが先導して部屋に入っていく
清十郎もついて中に入ると簡素な部屋の作りの中、薬草の独特の青臭い匂いが漂っていた。その部屋の端に木でつくられたベッドで一人の老婆が体を起こし座っていた
すでに色が抜け落ちてしまった長い銀色に近い白髪をそのままにして顔に刻まれた皺が老婆の年を物語る。老婆の青い瞳を見た時、清十郎はすべてを見通される感覚を憶えた
「あなたが清十郎さんね。こんな姿でごめんなさい。私はポーラといいます」
「あ、これはご丁寧に。儂は清十郎と申す者。よろしくお願いする」
清十郎は思わずその瞳に引き込まれていた。声をかけられてはっと我に返ると挨拶を返す
「ふふ、アンガスはいつも通り元気そうでなによりだわ」
ポーラは優しく笑うとアンガスに声をかける
「婆も元気そうでなによりだ」
アンガスもどことなく嬉しそうに話す
照れくさいそれでいて温かさを感じるやり取りからしっかりと親子の絆で結ばれている二人を見て清十郎の心を和ませる。ひとしきり挨拶を交わすとポーラは清十郎に視線を戻す
「ふふ、私の体は病に侵されていて起きていられる時間が少ないから手短に用件を言うわね。清十郎さん、近くに来てくれないかしら」
シーラがポーラのいるベッドの傍らにすっと椅子を用意する。清十郎は頷くと椅子に座ってポーラを見る。ポーラと目が合った瞬間、青い瞳が鋭さを増し清十郎は得も言われぬ感覚に陥った
「ああ・・・やっぱりそうだわ。マリカ様がお示しになられた通りあなたは異世界の方ね」
「えっ?」
思わずシーラが反応するがアンガスが肩を叩き唇に人差し指を立てる。今は話の邪魔をするなとシーラに伝える
「ふむ。あなたは分かるようだ。儂は異なる世界よりこちらの世界へ来た者じゃ」
「ええ、ええ、そうでしょう。私の夢枕にマリカ様がお立ちになってあなたをここに導くようにお示しになられたのですよ」
ポーラはとても嬉しそうに清十郎に語る
「それでそのマリカ様とやらは他になにか言われておったか?」
「はい。あなたに魔法の手ほどきをするように私にお命じになられました。私はあなたの潜在している力を見ることが出来るからでしょう」
「さきほど妙な感覚を覚えたのはあなたが?」
「そのとおりです。僭越ながら私のスキルであなたの魔力をみさせていただきました」
「そうか、あの感覚が見られるというものなのだな。で、みてどう思われた?」
「清十郎さんはすべての属性に適正があります。あと魔力量は今はそれほどではありませんが魔法を使い続けていくことできっとこの世界で敵う者はいなくなるでしょう。ただ、それほどの力を秘めているとなると導くことが出来るものは数えるほどしかいません。ですが・・・今のこのような状態の私では出来ることは限られています」
「ふむ・・・」
「それでもマリカ様がお命じなられたのならきっと何か理由があるのでしょう。今の私でも、あなたに魔力の感覚を掴めるように導く事ぐらいはできます」
ポーラは一旦そこで区切るとふっと前にカクンと倒れるような仕草を見せた
「ポーラ様!?」
シーラが慌ててポーラを支える
「・・・時間がありません。アンガス、そこの棚の中に薬が入っています。私に飲ませてくれませんか?」
「わかった」
アンガスは言われたままに棚を開くと中から薬包を取り出す
「婆、これか?」
「ええ、それを私に飲ませて頂戴」
アンガスは薬包を開くと口をあけるポーラに流し込み水差しから水をコップに入れると水も飲ませる。暫くするとポーラがふぅーっと息を吐いた
「あぁ、これでもう少しの時間起きていられます」
「ポーラ様、無理をされては・・・」
「いえ、先ほども言いましたが残された時間は少ないでしょう。少しでも清十郎さんを導かないといけません。どうか私にあなたを導かせていただけないでしょうか」
シーラの心配する声をポーラは毅然と断ると決意を秘めた瞳で清十郎をみる。清十郎は前世でも覚悟を決めた人間の目を何人もみてきた。こういった人間はテコでも考えを変えることがないのを知っている。清十郎はポーラの有無を言わせぬ願いを叶えることにした
「ではポーラ殿、儂は何をすればいい?」
「ただ大変申し訳ないことに体が動きません。清十郎さん、お手数をおかけしますが私の手を取っていただけませんか?」
ポーラに言われて清十郎は掛布の中からポーラの手を取った時、目を見張る
「これは・・・」
「ええ、魔鉱石病とよばれる所以です」
清十郎がみたポーラの手は青緑色にそして鉱石のように固くなっていた
「なぜ、このようにあなたはなっておられる」
「私だけでなく魔力量が多い者がなるのです。最初は指先からだんだんとそこから浸食してくるように最後は全身が鉱石のようになって死んでいく病です。たとえ浸食された場所を切ってもその部分から再び症状は発症します。トラーナ草を煎じた先ほどの薬が唯一効くのですが根本的な解決にはなりません」
「そうか・・・」
シーラとアンガスは眼を背け悲痛な顔をしている。清十郎はそれ以上尋ねることなくポーラのその手を握る。冷たく金属を触っているようだ
「ふふ、冷たくてごめんなさいね」
「いや、気にされなくてよい。次はどうすればよい?」
「あなたの心を静めて集中してください」
清十郎は言われたまま瞑想のように感情のすべてを心の泉に沈みこませていく。心の中に波立たぬ水鏡が出来上がる
「さすがですね。では・・・」
ポーラの身体が青く光りだし奔流となって清十郎に流れ込んでいく。清十郎は泉に注ぎ込まれる何かを傍で見ているような錯覚に陥っていた。色を変え形を変え様々な模様となって泉は形を象っていく
清十郎の直感が泉の形を自分の思うように変えてみろと囁いてくる。直感に従い形を変えようと試みるがなかなかうまくいかない。しばらく続けてみてようやく形を段々と作れるようになってきた。まずは簡単な丸や四角といった形から徐々に難しい造形に挑戦し最後は獅子や龍を作り上げる。そのあたりでぱっと散るように光が治まり泉の水が清十郎を包み込み全身に入り込む。全身をめぐる何かを感じたところで意識がはっきりと戻る
傍で見ていたアンガスとシーラはその一部始終をみていた
ポーラが魔力の奔流を注ぎ込むと清十郎の身体から揺らぐ光が現れ色を変え形を変えて変化していく。やがてそれは何かの生き物を象ったとあたりでぱっと消えポーラと清十郎の体から光が消えうせた
「はぁはぁ・・・」
「ポーラ様!」
辛そうに息を吐くポーラにシーラが気づくとその背中を慌ててさする
清十郎はゆっくりと目を開く
「これは・・・」
清十郎の前に今までみたことがない世界が広がっていた
色づいた大小さまざまな丸い物が浮かんでいてその丸い物の中には喧嘩をするように離れて行ったり引っ付いたりするものやまるで遊んでいるようにくるくると清十郎の周りをまわるものもある
周りの調度品からも霞のようなものがまとわりついていたり立ち昇っていたりしている。アンガスを見れば体から纏うように赤いものが揺らめきたちシーラは逆に薄い膜をはるように黄色や緑色のものがかすかに揺れ動いていた
ただ、ポーラに至っては何かがおかしかった。全身から放たれる青い霞のようなものは色が濃く立ち昇るようにゆらめいているが手足に至ってはまったく放たれていない
「・・・もう大丈夫です。シーラありがとう。清十郎さん、あなたがいま見ている物はこの世界を象る精霊や人や物から立ち上り揺らめいているものは魔力の元で魔素と呼ばれるものです
いまのあなたはすべてを見通せる眼を持ちました。まずはそのままでは不自由でしょうから目に集中して光りを段々と消していくように絞ってみてください」
清十郎は黙ってシーラの言う通りに目の光を閉ざしていくように集中すると段々と魔素や精霊が薄れていった
「さすがですね。もう物にしてしまわれるとは・・・。その眼は次第に使い慣れてくるでしょう。次の段階を教えて差し上げたいのですがもう私の体力が限界を迎えています。少し休ませてください」
「ポーラ殿、無理をしていただいて申し訳ない」
「いいのですよ。ではまた来てくださいね。ただあまり時間はないのでそのことは忘れないでください」
そういうとポーラは前のめりにカクリと倒れ支えたシーラによって寝かされた。清十郎はそれを見届けるとポーラの部屋をあとにした
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