第10話 恋慕
*ビットの髪の色がまちがっておりましたので修正しました
翌朝、陽が昇る前に清十郎は目が覚めた
見慣れない天井に一瞬戸惑うが昨夜、ウェインの屋敷に泊まったことを思い出すとベッドのふかふかとした感触をもう少し楽しみたかったが清十郎は素早くベッドから抜け出した
今の清十郎の姿は白の長シャツとズボン姿にブーツを履いている
昨夜、何日も着込んだ水干とズボンは汚れが目立ちイリアの手によって回収されていった
履きなれた草履と足袋はこの世界になじまないとイリアに言われ水干と同じように回収された
手慣れた様子で髪を後ろで縛り刀を持って部屋の外にでる
すでに屋敷の使用人たちは起きているようで廊下を歩いている途中で何人かのホワイトブリムをつけ黒を基調としたロングスカートを着込んだエプロン姿のメイドとすれ違う
メイドたちは朝早く起きる客人に驚くがすれ違うたびに一礼しどこかに去っていく
きっと朝の支度に追われているのだろう
屋敷の玄関から外にでて庭に出ると朝の独特の清々しい香りが清十郎の鼻から肺を満たす
ひとしきり深呼吸をすると全身の筋肉を30分くらいかけてゆっくり伸ばしていく
体がうっすら汗をかくくらいにあたたまったところで素振りを始める
上段から振り下ろす唐竹から始まり袈裟、逆袈裟、右薙ぎ、左薙ぎ、右切り上げ、左切り下げを振り続ける
やがて陽が昇り周りを明るく照らす頃、基本の型が終わる
清十郎は眼を閉じ集中し今までで戦った者たちからこれはと思う人物を思い出す
目をあけるとその者が立っていた
その者は刀を下に向け下段の構えで清十郎の攻撃を待ち受ける
清十郎は上段鳥居で構える
しばらく向かい合い様々攻撃を読みあう
清十郎の体にいくつものミミズばれが出来ては引いていく
ここで受けた傷はすべてミミズばれとして清十郎の体に現れる
致命傷を受けると気を失うだけで済むため死ぬことはない
顔を伝う汗の量が尋常ではなくなったころ裂帛の気合で上段鳥居から最速の攻撃を繰り出す
相手の刀は下段から清十郎の手元を切り抜いて体を切りつける攻撃
相手の刀が清十郎に届くより一瞬早く清十郎の刀が相手の右肩口から胴にむけて切り抜く
その瞬間、相手の姿が揺れ霞のように消えていく
(さすがあやつは最強と呼ばれるだけはあるわ
ふふふ、また儂の勝ちじゃな)
清十郎は残心を解き空を仰いでもう会うことはないかつての頑固者の友を思う
しばらく空を仰いだ清十郎は今日はここまでかと納刀し、ふーっと一息つく
「清十郎さまおわりましたか?」
「ん?これはイリア殿か」
穏やかで落ち着いた声がかけられる
清十郎が振り返るとそこには涼やかな顔立ちをした切れ長の目の形に緑の色を瞳に宿した女性が立っていた
ただ昨日と違って今朝はブロンドの髪を腰までおろし薄緑のワンピース姿を身に纏っている
清十郎はその姿に目を奪われた
「お、おはよう。イリア殿」
「はい。おはようございます、清十郎さま」
顔を赤くする清十郎にイリアはにこやかに答えると後ろに立っていたふんわりとした栗色の髪の小柄なメイドの少女からタオルを受け取り清十郎に手渡す
ひんやりとしたタオルの感触が両手に伝わる
「これは忝い
うむ。冷えていて気持ちがいいのう」
一言礼を言うと濡れタオルに顔をうずめ冷たい感触を味わう
ひとしきり汗を拭い切ったところで清十郎はイリアの後ろの少女に目を向ける
「この者はこの屋敷で働くメイドでミーニャと申します
これからは私とミーニャで清十郎殿の身の回りのお世話を致します」
清十郎の言いたいことが分かったのだろう
イリアが問うよりも早くミーニャを紹介する
「は、はい。ミーニャと申します
至らない点はいろいろあると思いますがよろしくお願いします」
栗毛の少女ミーニャは紹介にあわただしく頭を下げる
「うむ。ミーニャ殿、こちらこそよろしく頼む」
清十郎もミーニャに向けて頭を下げる
頭をさげたことでミーニャが慌てる
「あ、あわわわ。せ、清十郎さま!
頭をおあげください!!」
ミーニャが両手を前で振りながらどこか小動物を思わせる愛嬌のある目を丸くして慌てる
「ミーニャそのようにそそっかしいようでは清十郎さまにあきれられてしまいますよ
落ち着きなさい」
イリアが見かねてミーニャに声をかける
「清十郎さま、この通りそそっかしい子ではございますが何事にも一生懸命な子ですので大目にみてやってください」
「うむ。儂は別段気にしておらぬ
ミーニャ殿も普通に接してくれるとうれしいのう」
きっと生前、孫がおったらこんな気持ちだったろうなとほっこりとした気持ちで清十郎はミーニャに言う
「も、もったいないお言葉です。よろしくお願いします」
ミーニャは年相応の可愛らしい笑顔を見せる
(うむ。若い者はこうでなくてはな)
清十郎は心でそう思いながらところでと
「イリア殿」
「はい?なんでございましょう?」
首を可愛らしく傾げるイリアに清十郎は屋敷の角を指さした
「あそこでのぞいておるものは何者じゃ?」
「え?」
イリアが指をさされた方に顔を向けると慌てた様子で誰かが頭をひっこめた
思い当たる節があったのかイリアはミーニャに声をかける
「ミーニャ、おそらくビットでしょう。ここに連れてきなさい」
「はい」
ミーニャはイリアに言われると屋敷の角に向かって歩いていった
やがてミーニャの姿が見えなくなると角の向こうでは誰かとミーニャが言い争うやりとりが聞こえてきた
しばらくするとミーニャが子供を左腕に抱きかかえながら戻ってくる
「は、はなせ!ミーニャ!俺はこのハーミットの跡取りだぞ!」
「いいえ!放しません!跡取りだというのならば正々堂々としてくださいませ!」
先ほどのしおらしさは一転、ミーニャは堂々とした様子で言い放っていた
その様子にイリアは軽く溜息をついた
「さぁビットさま、清十郎さまにご挨拶ですよ」
ミーニャはビットと呼んだ子供を地面に降ろし挨拶を促すが子供は黙ったまま横を向いていた
その様子にミーニャは軽く溜息を吐くとビットの両肩に添えた手に力を籠める
「いたい!いたい!ミーニャ指が食い込んでる!!!」
「ビット様、ご挨拶を」
「わかった!わかったから!」
そこまで言ってからミーニャは両手を離す
ビットは涙目になりながら両肩をさすると
「ビットライン=ハーミットだ・・・普段はみなビットと呼ぶ
その様に呼んでくれて構わない」
清十郎に顔を横に向けたまま名乗ったがミーニャによって清十郎に顔を向き直される
その顔は緑の髪に細い切れ長の目、緑の瞳をしておりウェインによく似ていた
「ふむ。ウェインのご子息かな。儂は清十郎と言う
ビット殿よろしくたのむ」
にこやかに清十郎は挨拶をした
その瞬間、ビットはこの隙にとばかりにミーニャの手からするりと抜け出ると屋敷の角の方に走っていく
やがて屋敷の角の向こうに姿が見えなくなると角からひょっこり顔だけ出して
「誰がよろしくするか!この、ばーか!」
と叫ぶとビットはすぐに顔をひっこめ逃げて行った
「ふぅ・・・
清十郎さま、まことに申し訳ありません
お兄様の子としてハーミットの跡取りとしてもっと自覚をもってもらわなければならないのですがあの通りで・・・」
イリアは右手を頬に添えながら溜息と共に清十郎に謝る
「いやいや
イリアどの、男児たるものあれくらい元気でなければならぬ」
清十郎は呵々としてイリアに気にするなと言う
それよりもと清十郎は尋ねる
「イリア殿は先ほどお兄様と言われたな
ということはウェイン殿とはご兄妹か?」
イリアは頷くと申し訳なさそうに丁寧にお辞儀をする
「はい。ウェインは私の兄になります
昨夜は事情があり給仕の真似事をし、関係があることを隠しておりました」
「ふむ・・・。なにか事情があるのであればそれは仕方がないこと
そう気に召されるな」
清十郎はそう言いながらお辞儀をしたままのイリアの両肩に優しく手をのせる
触られたことで一瞬、体をびくりとさせるイリアだが清十郎はそのまま頭を優しくあげさせる
当然、至近距離で清十郎とイリアは向かい合う形となった
涼やかな顔立ち、エメラルドを思わせる緑色の瞳が清十郎を見つめる
女性特有の母性を纏う雰囲気を間近で感じイリアの柔らかな香りが清十郎の鼻腔をくすぐる
「イリア殿・・・」
清十郎はそのままイリアを見つめながら顔を徐々に寄せていく
「せ、清十郎さま・・・」
イリアの瞳も潤み清十郎をまっすぐ見つめる
(儂は何をやっておるのだ・・・)
清十郎は自分の行動を理性で抑えようとするが抑えることが出来ない
心臓の鼓動が早くなっていくのを清十郎は感じる
徐々に2人の距離が近づいていく
困惑しながらも逃げようとしないイリア
イリアも覚悟を決めたのか目をつむる
「こほん!!!」
あと少しで2人が接する瞬間わざとらしいせき払いが聞こえた
清十郎は我に返りイリアから距離をとる
イリアは首元まで真っ赤にして下を向いてしまった
「そういうことはお二人の時にお願いしたいものですね」
ジト目のミーニャが皮肉を込めて言う
「も、もう・・・・清十郎さまったら」
真っ赤な顔を隠すように両手で覆いイリアは走り去っていった
残された清十郎は顔を赤くしジト目のミーニャに顔を合わせることなく気恥ずかし気に横を向いていた
良いなと思いましたらブックマークの登録、評価をよろしくお願いします
感想もお待ちしております




