16話 冒険者カード
「ヴァル!」
模擬戦が終わり、最後に一礼をしてから戻ると、みんなが駆け寄って来た。
「お前すげーな! 俺全く見えなかったぞ!」
「本当、凄かったよ!」
「あの二年生、言いたい放題でムカついたけど、スカッとしたわ」
「カッコ良かったですよ、ヴァルさん!」
「今度あたしにも教えて!」
「凄かったっす! 今度お相手願います!」
「す、凄かったですよ」
それぞれ興奮した様子で、口々に先程の模擬戦の感想を言っている。
「ああ、ありがとう」
暫くみんなと話していると、リークが呆然とした顔で歩み寄ってくる。
「あ、リーク先生……どうしたんですか?」
「……エルドリクス君」
くぐもった声でそう言うと、がっと俺の肩を掴み、顔を近づける。
「……先生?」
「何だ? さっきのは?」
「え?」
「全く、見えなかったぞ?確かに本気でやれって言ったが、あそこまでと思うか?あんな圧倒的な試合になるなんて……」
「す、すみません。俺も流石にムカついて、本気でやっちゃいました」
確かに今思うと、やりすぎたかな、と思う。
もう少し相手に花を持たせつつ、ギリギリで倒したみたいにすれば良かった。
あの時は相手の態度に頭にきて、そんな事考えもしなかった。
「まあ、あいつの態度も目に余るものだったからな。その気持ちも分かるが、もう少しやり方というものがあるだろう」
「すみませんでした」
「まあいいか。しかし、エルドリクス君のおかげで今年の体育祭はうちのクラスが優勝したりしてな」
「体育祭?」
話が変わった事に安堵を覚えつつ、何故か聞き慣れた単語が聞こえて思わず聞き返した。
「何だ? 知らないのか? うちの学校では色々な行事を行うんだ。他にも文化祭やミテス祭などもあるぞ。まだまだ先の話だがな」
「そうなんですか! 凄く楽しみです!」
ミテス祭……クリスマスみたいなものかな?
「他にはどんなのがあるの?」
ベルとアリアが興味津々に聞いている。
「それはお楽しみだな。それより、そろそろ教室に戻るぞ」
「あれ? 実習授業なのに教室?」
「ああ。まずはみんなに渡さなくてはいけない物があるからな」
渡さなくてはいけない物? 何だろう……。
それがどんな物かみんなで予想しながら俺たちは教室に戻っていく。
ーーーーーーー
「おい、ダン。大丈夫か?」
ある男子生徒が俺に声をかけてきた。
「しかし、凄かったな、あいつ。ヴァリス・エルドリクスだっけ? 下手したらAクラスのあいつよりも……」
そこで、俺が睨んでいるのに気づいたそいつは、焦ったように俺のフォローをし、そそくさと集団の中に消えていった。
「ちっ……何なんだよ、あいつ」
最初は俺が押していた、筈だった。
なのに突然外野を見たと思ったら、ウインクなんてしていやがる。
そしてその後不気味な笑みを浮かべて、あの怒涛の反撃。
あいつの笑顔を思い出すだけで身震いしてしまう。
最初は一年に圧倒的な実力差を見せつけて、俺らのいうことに盾突けないようにしてやろうという軽い気持ちだった。
なのに……
(本当、何なんだよ)
あの動き。はっきり言って、普通じゃなかった。
「くそっ!」
あいつが本気を出してから、俺は何も出来なかった。自分に腹が立つ。
「明日から、もっと本気で練習してやる」
そして、次こそは……
ダンは空を仰いで、ため息をつく。
(勝てるイメージが湧いてこねえ……)
ーーーーーーー
「それではお待ちかね! 実習授業の前に……君たちに渡すものがある!」
「いえーい!」
教室に着くなり、リークが高らかに宣言すると、アリア達がはしゃぎながら早く出せとリークを急かしている。
「それじゃあ今から配るぞー。あ、配られた物は絶対に折り曲げるなよ。特にグラベルとリヴィエールとフォレスタ」
「ええ! 俺もっすか!?」
俺、そんなイメージっすか? と嘆いているリュカをよそに、リークはある物を配っていく。
俺たちの手元にあるのは一枚のカードのようなもの。
「これは……?」
「じゃあ今配った物の説明するからな」
しっかり聞いとけよ、と特にアリアを見ながら言った。
「これは、生徒用冒険者カードだ」
「冒険者カード?」
ってあれか? レベルとか測れる。
「ああ。冒険者カードとは冒険者にとって身分証明書みたいなもんだ。これが無いと冒険者ギルドに登録出来ないし、依頼も受けられない。それじゃあみんな、そのカードに魔力を通してみろ」
リークに言われた通りにカードに魔力を通してみる。
すると……
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ヴァリス・フォレスタ 10歳(男)
Fランク
次のランクまで 950pt
カード残額 0
模擬戦成績
2勝 1敗 0引き分け
今までに使用した魔法
火魔法
“火弾” “纏い”
水魔法
“水弾” “水壁” “水牢”
風魔法
“鎌鼬” “旋風” “纏い”
土魔法
“土弾” “土針” “地割れ” “人形”
氷魔法
“氷弾” “氷槍” “纏い”
雷魔法
“雷弾” “落雷” “雷槍” “纏い”
治癒魔法
その他
“魔法障壁” “身体強化” “浮遊魔法” “大きさ変換魔法” “魔糸”
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おお!なんか出てきた!
……レベルは出ないのか。
周りを見るとみんなも同じなのか、驚いた顔をしている。
リークはそんな様子の俺たちを満足気に見てから、説明を再開する。
「今お前達の前に映っているのは、名前、歳、性別、今のランクと次のランクまでのポイント、カード残額、模擬戦成績、魔法が使える奴は今までに使用した魔法。それはいいな?」
リークの問いに頷く俺たち。
「じゃあそれぞれ説明するからな」
頷いた俺たちを確認してからまた説明を始める。
「名前、歳、性別はいいとして、まずはランク。これは冒険者ランクといって、まあ、そのままだが、冒険者個人のランクを示すものだ。これにはFランクからSランクまであり、Sランクに近いほど優秀という事になる。今、お前達はFランクのはずだ。そして、次のランクにいくには1000pt集めなければならない」
あれ?でも俺のは950ptだぞ?
「それで、そのポイントを集めるには、二つの方法がある。
一つ目は、依頼を受ける。午前の校内案内で少し見たと思うが、この学校には小さい冒険者ギルドがある。そこの掲示板に貼ってある依頼書と冒険者カードを受け付けに渡すと依頼を受けることが出来る。で、その依頼を達成するとポイントが貰える。貰えるポイントは依頼の難易度によって違う。
二つ目は、模擬戦をする。模擬戦は両者納得した上で冒険者カードを訓練室の受け付けに渡すと出来る。勝った場合は50ptを得ることが出来るが、引き分けたときは貰えず、負けた場合は逆に50pt失う。だから模擬戦をする時はよく考えろよ」
なるほど、俺はアイリーン姉さん達に勝ったから……
あれ? フランさんには負けたぞ?
なら俺はプラマイゼロで1000ptからスタートじゃないのか?
「先生、俺950ptって書いてあるんですけど、昔模擬戦やった時にアイリーン姉さん達に勝って、フランさんには負けたんですよ。なんで1000ptからスタートじゃないんですか?」
リークはその質問で思い出したように、補足の説明をする。
「ああ、それはアイリーン様達との模擬戦は2対1だっただろ? だからそれぞれから50pt貰って、フラン様には負けたから50pt奪われた。だからお前は950ptなんだな」
なるほど、負けたら必ず50ptを相手に払わなければならないんだな。
「まあ、2対1なんてほとんどやらないがな」
まあ、一人の方が不利だしな。
「じゃあ次は、カード残額。これは今自分が持っているお金や依頼の報酬で得たお金をカードに貯める事が出来る。カードで買い物も出来るし、お金を引き出すことも出来る便利なものだ」
クレジットカードのようなものか?
「次、先程も話に出たが、模擬戦成績。これはそのまま。模擬戦の結果が記される。
最後に魔法の欄だな。これもそのままで、今までに使ったことのある魔法が記される。
最後に説明した2つは生徒用冒険者カード専用の機能で、普通の冒険者カードには無い。その代わり色んなオプションが付くからな。ついでにどんなオプションが付くかはお楽しみだな。なんか質問あるか?」
リークがそう言ってみんなの顔を見渡すが、誰も無いらしく、満足気に頷く。
「よし、それじゃあみんなお待ちかねの実習授業だ。訓練室行くぞー」
その掛け声でみんなで歓声をあげながら訓練室へ向かった。
分かりにくくてごめんなさい。
ストックが無くなり、更新するペースが少し落ちます。