第29話 聖地○ソミソ
説明回です。
内容がアレなんで深夜にコッソリあげておきますね。
ネタバレ回避されてる方も居そうなので、改めて本編で背景を語ります。
設定3と設定4を先に読まれてる方には特に目新しい情報はないと思います。
一からまた書いたので、ニュアンスはちょっと違ってるかもしれません。
そして今話には、読者様によっては不快な表現があるかもしれません。
「戻りました。」
二人の部屋に入り、テーブルに向かう。
昨日置いておいたジュースも飴もなくなっていたので、飲み物も無しで話すのもアレかなぁ、と気を使って追加で置いておく。
糖分の取り過ぎとかは、俺の知ったこっちゃないので無視だ。
俺の部屋から持ってきたテーブルは壁際に退けて、ダルシャナの対面に座る。ラジャスは横に座って飴を舐めて包装の果物の絵を眺めている。
「ヒロの世界の話は大まかな所はわかったから、ヒロの聞きたいことから先に話しましょうか。」
「それじゃあ、何でこの町は同性愛者が多いのでしょうか?この世界では普通のことなんですか?」
と、最大の疑問から聞くことにした。
「それはこの街がどうしてできたのかから話さないといけないわね・・・」
そこからは長かったので割愛。
話をまとめると、魔獣の話からになった。
俺がこの町にたどり着くまでに倒したホーンラビットは、現在この周囲の草原にしか生息していない草食魔獣で、好戦的なくせに弱く、食欲旺盛で繁殖能力が異常に高い。増え過ぎれば土地を荒らし、食べる物がなくなるので飢餓から大量死を起こす。
少なければ肉食魔獣の良い獲物でしか無いので、狩りつくされてしまう。
どう転んでも絶滅一直線の歪な魔獣。それがホーンラビットだ。
そんな魔獣が何故この地域では全滅を免れてるか、それはこの土地自体が異常に肥沃的だから。
他の地域では考えられない速度で植物がよく育つのだという。
植物がよく育つ土壌があり、その植物をホーンラビットが食べて異常繁殖し、そのホーンラビットが肉食魔獣のフィールドウルフに食われるという食物連鎖が起こってる、そんな地域がココだ。
さて、俺の知らない魔獣が出てきた。
フィールドウルフ、こいつは種としては珍しい魔獣ではないそうだ。緑色の体毛をしていて集団での狩りをする特徴のある、草原や平原でよく見掛ける狼型の魔獣らしい。
狼を一回り大きくした程度の体格で、十数頭程度の群れを作り、特に強くも弱くもないが、ボスに優秀な個体が着くと厄介。そんな程度だそうだ。
一般的な常識では。
しかし、この周辺のフィールドウルフだけに限って、事情が変わる。
異常にデカく、強く、そして賢いらしい。
伝承で伝わるボスの個体の体高がラジャスの身長を越えるらしい。普通の個体でも大体は俺の肩くらいまではあるみたいだ。もうそれ狼とは別物ですやん。
これは異常繁殖する豊富な餌を食べられる環境から進化したんじゃないかって話だ。毛並みも別格で良いらしい。
ボスに限らず、一頭だけでもベテラン冒険者パーティでも相当危険な戦闘力を持ってて、そんなのが2~300頭の群れを作って巻狩を仕掛けてくるらしい。
巻狩は、群れを複数に割って周囲を包囲し、横に走り、全体的に見ると獲物の外周を回転しながら包囲を狭め、削るように襲ってくるみたいだ。
そんな魔獣なのに複数の群れがあって、1.000頭以上はいるんじゃないかって言われている。コレは伝承からの推測だ。危険すぎて調子に乗って見に行くバカすら現れない。
え、ナニソレ、そんなのが周囲に住みついてたらこの町ヤバくないの?って思うが、それが大丈夫なんだとか。
食物連鎖で考えれば、異常繁殖するのに合わせて、フィールドウルフも異常繁殖して溢れてないとおかしい。
しかし、この町周辺のフィールドウルフは、どうやら自ら頭数を制限しているみたいだ。
潤沢な食料があるのに、たぶん自ら律して生息数が増えてない。
異常な強さは、おそらく強い個体だけに絞って繁殖して、長い年月をかけて進化したんじゃないかと思う。
そして、人間から干渉しない限り、フィールドウルフ側から襲ったりしていない。
人間の生存圏へも近寄らない。町への街道周辺にすら近づかないみたいだ。
人間への不干渉は、弱い餌が豊富にあるのに、態々人間と戦う必要が無いのを理解しているのだろう。
しかし、最初の起こりの部分が分からない。
そんな長期的な視野に立って、フィールドウルフが学習しながら進化できるのか?
徐々に賢さを身に着け、異常な強さを発揮したのだとしたら、ココの地域のボス争いで敗れた群れからはじき出された個体や、繁殖をさせてもらえない個体が、他の地域のフィールドウルフに影響をもっと与えている方が自然だ。
進化の過程が全く見えず、この周辺の地域に限っての異常っぷりに、神が関わってるんじゃないかってのが学者の通説となって一般にも流布した。
それは、慈悲と大地の女神が、不細工で弱いホーンラビットを哀れんで土地に祝福を施して、楽園を作った。
そして、森と狩猟の神が自らの眷属で、森では生きていけないフィールドウルフを抱えて困っているのを見て、哀れみ、フィールドウルフも楽園に住まわせるのを許した。
森と狩猟の神は感謝し、移住させたフィールドウルフが出ていかないように周囲を森で囲い、ホーンラビットを食べ尽くさないようにフィールドウルフのボスに賢さの加護を与えた。
うん、ありそう。俺もそれで異世界に飛ばされたからな。
でもなんか綺麗にまとまりすぎてる気もする。実際は、また余計なおせっかいを発動させたんじゃないのか、って性格の悪い俺は疑う。
例えば浦島太郎なんかも、亀は半島の人間の暗喩で、村八分にされた亀を助け、助けた亀に連れられて竜宮城に連れられて行ってみたら、当時は大陸の属国でバリバリの修羅の国。思いっきり苦労して老人のようになって帰ってきた。
村人には何が有ったんだって聞かれるが、思い出したくもない浦島太郎ははっきりしたことは言わない。
老人になったように短期間に老け込むなんてどんなことが有ったんだろうと妄想する村人は、腎虚になったのだとカバーストーリーを作ってしまう。
それが現在に伝わる浦島太郎。ありそう。
そんなことをパッと思いつく俺は心が汚れすぎてるのだろうか。
いや、物事の裏を深読みしすぎて迷走するくらいは普通のはずだ。
たぶん、きっと。
いや、そんな事はどうでも良い。
異常に肥沃的な土地に異常繁殖する草食魔獣、異常に強く賢い肉食魔獣がいる神が手を加えた特異な地域。ココまでが前提の話だ。
コレにホモが集まる町が加わる。
800年ほど前の王様が、辺境の肥沃的な土地に目をつけて開拓しようと号令をかけた。穀倉地帯に変えれば異常な成長速度と合わせて、食糧事情が一変する。
当時は戦争もなく、平和で、この周辺のフィールドウルフの異常性も学者の間では一般的だが、それ以外にはちょっと強くてデカい群れがある程度にしか思われていなかった。
事情を知ってる内政官で反対する者もいたが、平和な過ぎて軍人は功績が欲しい。貴族も土地が欲しい。何より王様がゴリ推した。私財も突っ込んで軍を起こして開拓に乗り込んだ。
初期の計画では平原のど真ん中に大都市を作り、周囲一帯を全て穀倉地帯にする予定だった。
平原を縦断する道を作り、街を今現在の規模、200m四方にするまでは順調に進んだ。
遠巻きにフィールドウルフ十数頭の群れが、観察するような行動を取ることがあったが、襲ってくるようなことはなかった。
状況が変わるのは更に街を広げる為に人夫を外に出し、500mの地点で版築の作業を始めてからだ。
ホーンラビットが弱いと言っても、異常繁殖して群れのようになっていると流石に危険だ。危ないので軍が護衛しながら作業場に進み、護衛されながら作業をすることになる。
人夫が作業を始めると、暫くしてフィールドウルフに襲われた。
襲撃は、全ての群れを一頭の大ボスが率いてやってきたんじゃないかと言われている。1.000~1.500頭程いたんじゃないかって話。
それも武器を持っているものを優先して襲い、人間を追い散らすと、版築された街の壁を壊し、街を警備していた軍の者も襲った。
更には荷駄隊も襲われ、街を包囲される。でも、数日ですぐに包囲は解かれ、十数頭の群れが街を観察するように残るだけだった。
コレが街の拡張をしようとすると必ず行われたらしい。包囲を解かれた後は荷駄隊も襲われたりしなかったそうだ。
フィールドウルフ側からの明確なメッセージだな。『そこまでは許すが、それ以上街を広げるのは許さない。』っていう。
それが王様には伝わらなかった。いや、伝わっていたのかもしれないが、莫大な私財を突っ込んで、自分が主導した計画の失敗を認められなかったのかもしれない。
損切りが出来ない王様は在位中にしつこく街の拡張を指示して、その度に被害が増えた。そんなことが数十年続いてしまった。
街の中にも変化があった。街を作るのに順調だった頃の開拓団は、これから大都市になることを見越した商人や、国からの公募で入植した農民の家族が主なもので、軍人を相手に娼館が立てられ街娼も多くいた。
それがフィールドウルフの襲撃が頻発するようになると、襲撃が有ると町に狼が徘徊し、危険なのを女性が嫌がり、家族持ちは逃げ、新たに入植しなくなり、商人も手を引き、街娼は消え、娼館は撤退した。
しかし王様からの開拓せよとの司令は出たままだ。
減った開拓者の代わりに、他の街では生きていけなかった食い詰め者や無法者、フィールドウルフ討伐の賞金に目が眩んだ冒険者が集まり、街の治安が悪化した。
そうして女性はほとんど居なくなった。
しかし溜まるものは溜まる。無茶な支持による開拓で襲ってくる死への恐怖もある。そうした状況から刹那的快楽を求めて同性愛に耽る者が出てきて、増えていった。
同性愛者が増えると、その状態を好み維持しようとする者が現れる。同じ嗜好の者を集め、それに耐えられない者は街から去った。そうやって街が汚染されていった。
やがて町に転機が訪れる。王様が死去し、代が変わった。
新王はこの町の方針をあっさりと転換し、穀倉地帯にするのは諦めた。
フィールドウルフ側からのメッセージを正しく受け取り、共存する形を取ることにした。
そして、相手を刺激しないように、ゆっくりと農地を増やすことを指示した。
柵を付けては農地にし、またその外に柵を付ける。
そうやってじわじわと開墾していくと、1kmの地点までは問題がなかったが、それ以上開墾しようとすると狼の群れに包囲されたので中止した。
こうして200m四方の町と1km四方の農地が出来た。作物がよく育つので自立は問題なかったが、輸出できる程ではない。開拓し、投資した価値はこの土地に有ったのかと言われたら、全くない結果だった。
そこで新王は周辺で異常繁殖するホーンラビットに目をつけ、ホーンラビットの肉と毛皮を産業にすることにした。
肉は干物にして保存食に。毛皮は一次加工して冬支度に。肉と皮を輸出し、塩と鞣し材の輸入をするように指示する。
こうしてホーンラビットを狩る事で産業が動く町ができた。
ホーンラビットを狩るのも、町の周辺から大きく離れなければフィールドウルフから見逃された。
元々フィールドウルフが生息しているのは平原の外周部の方だったので、意図的に会いに行こうとしない限り遭遇しない。
住み分けは順調に進み、新王になってからは人とフィールドウルフが大規模に衝突するようなことはなくなった。
町が平和になり、産業も確立したことで再び町が変化する。
危険がなくなったことで入植者が入り、徐々に家族で住民になるものが増えて同性愛者が減っていった。
そりゃそうだ。男同士では子供が出来ない。一代世代交代し、年月が過ぎれば、住民の顔ぶれもかなり代わることだろう。
しかし、ココでのポイントは、町が一度同性愛者一色に染まってしまったこと。
そしてホーンラビットを狩るのが町の基幹産業になり、狩るのが冒険者たちだったってことだ。
住民は土着する、そのためには子供を産まないといけないから長い年月の内に汚染が消えてゆく。
しかし冒険者だけに汚染が残った。
冒険者は外から来る。この時に同性愛者が集まる町という周辺に拡散した悪評が効いた。
そして町の中では同性愛者が同性愛者にとって都合の良い状況を守るために、同性愛者を増やし、都合の悪い者には出ていくように誘導する。
そうしてこの町の冒険者ギルドを自分たちに都合がいい様に守った。
そして同性愛者が集う町というレッテルを守りきった。
町の住民にもその状況を苦々しく思う者たちが当然いて、排斥しようとすることも有った。
しかし冒険者がいないとホーンラビットを狩ることが出来ない。基幹産業を同性愛者に抑えられている。そして宿屋などは冒険者がお得意様だ。
そういった状況で、住民同士が対立することは有ったが、経済的な理由から、冒険者の排斥運動が起こる所までは発展することはなかった。
こうして、伝統のように同性愛の習慣が冒険者ギルド内に脈々と受け継がれる。
土地の由来から、慈悲と大地の女神と森の狩猟の神の信者からは“聖地ソミソ”、悪評を知る冒険者からは揶揄され“性地ソミソ”と呼ばれている。
クッソ下らなさ過ぎて大草原不可避なんだが!
評価・ブクマありがとうございます、この場をお借りして感謝を。
ホモに主人公のケツを叩かせるためだけにこの設定が生まれたのか
この設定があったから本編にホモがでてきたのか
はたまた慈悲の女神から謎電波を受信してこの設定が生まれたのか
真実は私だけが知っている(キリッ
説明を簡素化するはずだったのにおかしいなぁ、文字数があまり変わらないや。
浦島太郎の話は不快な人が多かったら修正するかもしれません。
創作の話って元になる出来事が何か有ったはずってのを根幹にテキトーに捏造すると昔話って結構面白いんですよねぇ・・・。
例えばかちかち山だったら、老婆を主家筋、たぬきを家臣にし、翁を奥方、ウサギを下克上によって割りを食って窓際に追いやられた別の家臣とかに設定すると、途端に生臭い話になります。
そうすると婆汁が何になるのか、家臣は奥方にナニをしたのか。人によってはノクターン行きでしょう。
何でたぬきとウサギが出てくるようになったのかは、そのまま表現するとあいつらの話だってのが分かってしまって関係者に誅殺されると怖いので住民たちが噂話を動物にすり替えて誤魔化した。ってことで。




