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お嬢様と雛祭りと宇宙恐竜編


 

 今日も平穏な時間の流れる〈紅魔館〉、その門は閉ざされ招かれざる客を拒絶するかのように一人の門番が立っている。 緑色の中華風の衣装を身に着け炎のような赤い髪を持つその少女の名は紅美鈴といった。

 レミリア・スカーレットという名を持つ吸血鬼の少女からこの紅い館の門番を任せている彼女は、唐突に「ふぁ~~~……」と実際気だるそうな欠伸をした。


 「……今日も到って平和な日、いい事ですねぇ……」


 誰にともなく言ってから何気なく晴れた空を見上げた直後に、足音が聞こえたのにはっとなり前を向くと、そこには長い緑色の髪の少女が立っていた。


 「……あなたは……」


 少女は美鈴にすぐに答える事はせずに、少し顔を赤らめて恥ずかしそうな顔をしていたが、やがて覚悟を決めたとでもいう風に頷くと両手を合わせた。

 それは〈紅魔館〉へ行くなら必須であると彼女の仕える神である八坂神奈子に言われた事だ。


 「……ど、ドーモ……こんにちわ、東風谷早苗です……」

 「む?……ドーモ、早苗=サン。 美鈴です」





 レミリア・スカーレットの外見は人間でいうと十歳くらい女の子だが、背後に銀髪のメイドを従えて応接間の豪華そうなソファーにどっしりと腰をかけている姿には威厳があった。

 その彼女の紅い瞳が見据えるのは対面に座る東風谷早苗という名の巫女の少女である、博麗霊夢同様に妖怪退治を生業とす彼女にしてみればここは敵地であり、向き合う相手は人間にとって脅威である吸血鬼である。

 だが、多少は緊張した様子はあっても怯えた様子もなく堂々としてみせるのは流石だとレミリアは思う。


 「うふふふふ……」


 そう、口元を僅かに歪めて嗤う彼女こそこの〈紅魔館〉の主である、”東方紅魔郷”でラスボスを勤め、この小説セカイでも溢れんばかりのカリスマを発揮し背後の十六夜咲夜ら従者を従える恐るべき少女。


 「………………」


 その気になれば目の前の少女すら容易く相手にも出来るが、例え妖怪の敵であっても戦う意思のない来客であれば相応の礼儀で応じる器の大きさもあるのだ。


 「…………????」


 それが”エターナルに紅いロリなツッコミ”のレミリア・スカーレット=サンなのであった。

 

 「やっぱりそうきたくぁぁぁあああああああああっザッケンナコラ~~~~~~!!!! てか、微妙に忍殺語チックにしてんじゃねぇぇえええええっスッゾオラ~~~~~~~!!!!!!」

 

 突然に立ち上がり天に向かって吠えるレミリアに「……はぁ?」とキョトンとした顔になる早苗に、「……ご心配なく、いつもの事ですのでお気になさらず」とフォローを入れるのは流石は咲夜であった。

 

 「……それで早苗さん、今日はどのようなご用件なのでしょう?」

 

 ついでに息を切らせた主人に代わり尋ねる、そういう気遣いがメイドには大事なのである。

 

 「……あ……はい、実は今年の雛祭りのことでご相談がありまして……」





 早苗からの相談とは彼女の神社である〈守矢神社〉でひな祭りの宴会を実施するのだが、その際にリアル・雛壇なるものを行うらしい、それは巨大な雛壇に仮装した妖怪達が乗るというものである。


 「……はいいんだけど、それで何で私にお内裏様役がくるわけ?」


 雛祭りの前日である三月二日、〈妖怪の山〉の山頂にある〈守矢神社〉に準備の進み具合の確認の為にやって来たレミリアは、妖精メイドやボランティアの妖怪達が組み立てている雛壇を眺めながら一緒に来た咲夜に問う。

 面白そうではあるし〈守矢神社〉に貸しを作っておくのも悪くはないと思い依頼を受けた彼女ではあったが、細かい計画などは咲夜にまかせっきりだった。  

そしてお雛様役に’秘神流し雛”の鍵山雛を選んだのだが、その隣に座るお内裏様役がいないというのだ。

 その理由は、厄を溜め込んだ雛の隣に一時でも座るという事に早苗が声をかけた〈人里〉の男達が尻込みし、彼女自身も人間に厄を移すような行為は気が進まないという事らしい。


 「……ふ~ん? まあ、あの鍵山雛らしいっちゃらしいけど……それとこの私がお内裏様をするのとどういう関係があるわけ?」


 「はい、すでにいろんな意味で不遇の扱いであるお嬢様でしたら雛さんの厄を受けてもこれ以上の不幸はないだろうとの事です」


 咲夜の言いようはあまりにも自然だったので「ふ~ん……」と納得しかけてしまったレミリアであったが、直後にその意味に気が付き愕然となった。


 「……って!? おい、こらぁっ!! なんじゃいそりゃぁぁぁあああああっ!!!?……つか、誰よ! そんな事を言ったのはっ!!?」

 「カナコ=サンです、オジョー=サマ」

 「あの女くぁぁああああああっ!!!!」


 静かであった〈妖怪の山〉の山頂に怒りの咆哮を響かせるレミリアを、神社の鳥居を潜ろうとした雛は目撃し、キョトンした顔になっていた。


 「…………レミリアさんはいったい……?」 


 思わずそんな事を呟いていた彼女は「くくくくく、気にするでもないわ」という答えが返ってきて驚いた、その声の主がすぐに八坂神奈子だと分かると「お、脅かさないで下さいよ!」と声を上げた。


 「すまぬな、驚かすつもりもなかったのであるがな。 まぁ、レミリア・スカーレットの”あれ”はいつもの事よ」

 「はぁ……」


 すべてを悟っているかのような神奈子の言いようにそう答えるしかなかった。


 「くっくっくっくっくっ! そこまでだよっ!!!!」


 その時、突然響き渡った少女の声に〈守矢神社〉のいた全員の視線が屋根に集中したがそれも一瞬の事で、すぐに何事もなかったかのようにそれぞれに作業や会話を再開した。


 「……って! おい、こらぁぁああああっ!! だから、この鬼人正邪様を無視すんなよぉぉぉおおおおおおおおっっっ!!!!!!」


 少し泣きそうな怒鳴り声の正邪の抗議に「……またメンドーなのが来はったわ……作業の邪魔されたらかなわんで……」とは雛壇の組み立てをしている妖精メイドの一人であるチャウ・ネーン。 


 「…………やれやれね」


 何となく来るような気はしてはいたが、だからと言って来てほしいわけではないので、すっかり脱力した様子で大きく溜息を吐くとちらりと隣に立つ銀髪のメイド長を見やった。


 「承知致しました……と言いたいところですが、どうやら私の出番は今回はなさそうですわ、お嬢様」


 意味深な笑顔を向けてそう返してきた咲夜の言葉に「……へ?」とレミリアがなった直後に、今度は凛とした少女の声が聞こえた。


 「せっかくのひな祭りの宴会、邪魔をさせるわけにはいきませんよっ!」


 いつの間にか屋根の上に緑の髪にカエルと白蛇の髪飾りを付けた巫女装束の少女が愛用の《お払い棒》を手に立っていたのに「な! あ、あんたはっ!!?」と驚く正邪。


 「え~と……ど、ドーモ、奇人正邪=サン。 早苗です」

 「ドーモ、早苗=サン 正邪です……だから、奇人って言うなっ!!!!!」


 きちんとアイサツをしてから戦闘態勢を取る二人の少女、その距離はおよそ二~三メートルである。


 「話には聞いていましたが……あなたが性格がひねくれ曲がって悪の道に足を踏み入れた別のセカイのレイム=サンの手下に成り果てたというのは、どうやら本当のようですね!」


 ビシッ!と人差し指を突きつけて言う早苗に「くっくっくっく! そういう事さ!」と実際悪人の笑いで答える、それがあまりにも余裕たっぷりなのに彼女が不審に思うのは、正邪自身は大した力を持たない妖怪のはずだからだ。

 その早苗の思考を中断させたのは、突如として聞こえたズシン!という地響きであった。 「な、何!?」と周囲を見渡せば、神社の鳥居の方向に一体の巨大な生物が「ズェットォオオン!」という唸り声を上げて二本の足で立っていた。

 その黒い身体は昆虫人間めいたシルエットをしており、その顔には目のように見える黄色い部分があるが口も鼻も存在しない。


 「あれは……宇宙恐竜ゼッ○ン! ウル○ラマンを倒した最強怪獣っ!?」


 幼少の頃にテレビで見た事のある姿が目の前に現れたのに、目を見開き驚きの声をあげる早苗は、しかしそれが非現実な光景とは感じないのは、ここがそういう小説セカイとは承知しているからだ。


 「ふふふ! こいつはゼッ○ンではない、謎の宇宙恐竜だっ! そして久々に登場の転生チート戦士でもあるっ!」


 腕を組み勝ち誇ったような笑い顔で言う正邪。


 「……成程、つまりは怪獣の戦闘力と人の頭脳を併せ持つという事ですか……」


 境内の咲夜は、全長四、五十メートルはあろうかという巨体を前にしても落ち着き払っていた。 その彼女の隣に立つレミリアは紅い目を点にして「……ナンデ?」と呆然と呟いている。


 「くくくくく! 流石のお前らでもこいつには勝てまい?」

 「くっ……!」


 威嚇するかのような鋭い目で正邪を睨みつける早苗ではあったが状況は絶望的である、彼女が一言攻撃命令を発するだけでこの〈守矢神社〉は苦も無く蹂躙されてしまうだろう。


 「……まぁ、止むを得ませんかねぇ……」

 「……?」


 屋根の上の少女達と巨大な怪獣を交互に見やってから誰にともなく呟く従者の少女に怪訝な顔をするレミリア、彼女が次の瞬間にメイド服のスカートに手を突っ込んだのに「……まさか……!?」となった。

 そして予想通りに銃身の先端にロケットめいた形のものを取り付けた銃を取りだして構えたのに「やっぱりかーーいっ! てか、何であんたがそんなものを持ってんのぉぉぉおおおっ!!!?」というツッコミ。

 そんな声に屋根の上の正邪と早苗が思わずそちらへと視線を向けるのと同時に咲夜がトリガーを引くと、ロケットめいたものが発射された。

 もちろん、そんなものが命中したとて謎の宇宙恐竜の身体からしてみれば小石がぶつかった程度の事でもなく、謎の宇宙恐竜に転生した大場加太おおば・かだの意識はバリアを張って防御しようとも思わなかった。

 何故なら彼はウルトラは平成世代で初代の最終回を視た事はなかったのである。

 そんなわけなので、謎の宇宙恐竜の巨体は実際風船めいて宙に浮かんでいき、そして呆気なく爆発四散したのであった…………ナムアミダブツ。


 「…………そんな……アホな……」


 悪い夢でも見ているかのような顔で呆然と呟く正邪には、いったい何が起こったのかを理解する時間はなかったのは、「な、何だかわかりませんが……いきますっ!!」という早苗の声が耳に飛び込んできたからであった。


 「はっ!? ちょ……ちょいタンマ……」

 「慈悲はないですっ! 【ミラクルフルーツ】!!!」   

 「アイェェェエエエエエエッ!!!?」


 白い雲のゆっくり流れる晴れた空の下にそんな少女らの声が響き渡った。

 そんなこんなで翌日の三月三日には〈守矢神社〉と〈紅魔館〉による合同のひな祭りの宴会が行われ、参加者のほとんどが妖怪ではったがたいそう盛り上がった一日となったと、射命丸文の《文々丸新聞》に掲載された…………。





 ダーク・レイムの住居である〈黒博麗神社〉の地下にある〈煉獄の間(仮)〉でダーク・レイムと盟友のブラック・マリサが眺めているのは二メートルはありそうな巨大な菱餅であった。


 「……うん、やっぱり端午の節句には菱餅がないとね」


 満足そうにそう言うダーク・レイムに「ああ、そうだな」と頷くブラック・マリサは、別にこの巨大な菱餅を食する気はない。

 ちなみにこの巨大な菱餅の中から女の唸り声のようなものが聞こえるが、それが何なのかは当事者以外には誰も知らない事であった……



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