物語の閉幕、しかし紅魔のお嬢様とメイドさんの日々は続く……編
二千十七年の元旦、初日の出が〈幻想郷〉に上り、それが真上に近づきつつある時刻の〈博麗神社〉では、妖怪達が宴会の真っ最中であった。 妖怪とはいっても大半が人間の少女の姿であれば、オドロオドロした雰囲気は実際皆無であるが。
「まったく! あの書き手ときたら……」
この宴会の主催者である”永遠にマナイタで紅いツッコミ”のレミリア・スカーレットは、紅いシートの上に胡坐をかいて憮然とした顔をしていた。 その姿は実際良家のお嬢様らしいとは言えない。
「放っておけやっ!!! つか、最後までそれはやるんかぁぁああああっ!!!!」
今日も今日とてツッコミをする主人に対し、礼儀正しく正座している実際”完璧で瀟洒なメイド”の十六夜咲夜が苦笑している。
二人で座っているには広すぎるシートであるのは、ほんの数分前まで〈紅魔館〉の主だったメンツが揃っていたからだが、今は彼女ら以外は席を外していた。
「…………まあ、いいわ」
まだ不満そうな顔で空になったグラスを咲夜に向かって差し出すと、彼女はすかさず一升瓶を手に取りそこに紅い液体を注いだ。 レミリアはそれを不満そうにしばし見つめてから口に着ける、その味は実際誰がどう味わってもトマト・ジュースである。
「…………はぁ~」
半分ほど飲んだところで溜息を吐きながらグラスを置くと、周囲を見渡した。
「……にしても、今日はいつもより人数多くない?」
「やはり本当に最後だからでしょう、月の都の方々など初めての方も見られますので」
従者に「ふ~~ん」頷きながらもう一度視線を巡らせたレミリアの紅い瞳が見つけたものは…………。
グリーンのジャンパーを着た少年兵めいた集団。
ガッチリとした体格の老人を中心とした実際悪役っぽいニンジャ装束の集団。
十代前半から後半くらいの一見すると普通の少女達の中に混じって何故か白い軍服を着て提督と呼ばれているフランドール。
どこかで見たようなアホ毛を生やした銀髪で碧眼の魔女の少女と、その身内の方々……
…………であった。
しばし呆然となった後に、「……なんか東方と関係ない連中もいない?」と従者の少女に問うた。
「さて? 私には分かりかねますわ」
どこかおかしそうに口元に手を当てて笑いながら答える従者の顔は、実際主人を揶揄ってでもいるかのようなものだ。 子供のような純粋さのようで腹黒さも内包しているかのようなこの笑いも最後まで変わらないわねとレミリアは思う。
「……?」
この神社の巫女である博麗霊夢と友人である霧雨魔理沙が日本酒を瓶のまま呷って実際ヤケになってると分かる声を上げていた。 昨日のうちに霊夢を排除する刺客を咲夜が送って、その巻き添えに魔理沙がなったらしいと報告を受けていたのを思い出す。
レミリアの視線に気が付き同じものを見て「あらあら? 霊夢と魔理沙はどうしたのでしょうねぇ?」ととぼけたように笑うのは、実際間違いなく腹黒メイドのそれである。
この笑い顔を見ると、出会いは敵同士であり、今は忠実に仕えているこの少女がいつか「お嬢様も案外甘いようで……」と言いながら自分の頭部を拳銃で撃ち抜くんではないかという変な妄想が浮かぶのを、「……はは、まさかね?」と多少引き攣った笑いで振り払った。
そんなレミリアを見つめる咲夜の表情は、「さて? どうでしょうかねぇ?」と言っているようにも実際見えるのであった。
直後に半ば無意識に残っていたジュースを飲み干したのは、その何とも言えない不安をジュースと一緒に飲み込もうという風にも見えた。
〈博麗神社〉の屋根の上にゴロリと寝そべっていた伊吹萃香が「……あいつらは最後まで変わらないな」と呟いたのに、「ヒトはそう短時間で変わるものでもないわ」と返事があったのにギョッとなる。
「紫か……」
古い友人である彼女の声と妖気は顔を向けるまでもなく分かる、瓦の上に寝そべったままの姿勢で名を呟くと瓢箪の中の酒を一口呷った、その彼女の顔が赤いのはすでに相当飲んでいるからであった。
見た目は十にも満たない女の子であっても、鬼である萃香は紫と同様に気の遠くなるような年月を生きているのだ。
「あなたはあの中に混ざらないの?」
紫が宴会場となった境内を指さして問うと、萃香は「気が向いたらな……」とそっけない口調で答えた後に、ふと何かを思い出したという顔をした。
「それにな、あいつらの漫才をここから見てるのも愉快なものさ」
そう言って萃香の朱色の瞳が見つめた先には、ピンクの服の小さなお嬢様とそのメイドの姿があったのに、紫は納得する。
「そうね、見てて飽きないわね」
妖怪達の宴は夕方になっても、そして更に月が上っても続いたが、その月が真上近くになる頃には誰もいなくなっていた。
シートなどはそれぞれが持ち帰ってはいたが、それでも大量のゴミが散乱していた。 明日それらを片付けるのは〈紅魔館〉のメイド達……ではなくこの神社のワキ・ミコ=サンであるのは、いつもの事である。
だから、どこからともなくレミリア・スカーレットが現れたのは、もちろん片付けのためではなく、その彼女に「……こんな時間に如何いたしました?」と声を掛けて咲夜も同様である。
「……何となく……ね?」
少し寂し気に従者に答えるレミリアには、しかし今更驚いた様子もない。 寧ろ誰かと少し話したい気分になった時に気が付くと傍にいるというのが彼女らしいとさえ思えていた。
「宴の後はどこか寂しいものよね?」
言いながら周囲を見渡す、真上に上った月明り程度でも充分に見えるのがレミリアのキューケツキ暗視力だ。 それに対し咲夜は「はい、そうですわね」とだけ答える。
「……思えば、最初は私もあなたも主人公じゃなかったのよねぇ……」
「はい、お嬢様。 書き手の東方知識の貧弱さ故に……とりあえず霊夢と魔理沙を中心に書いていけばいいだろうと、そういうコンセプトだったらしいですわ」
そうやって話を進めるうちにだんだんと方向性も固まってきて今の形とタイトルになったというのが、この小説であった、いい加減というか見切り発車にも程があると咲夜は思う。
「まあ、それでよくも”なろう”で流行りの転生チートor幻想入りでハーレム物にしなったものよねぇ……」
噂によれば、〈紅魔館〉に限ってだけでも”外界からやってきた男を拾う”とか”何だか知らんがお兄さんがいた”設定とかあるらしい。 そうなっても困るレミリアではあるが、書き手の立場ではその方が評価ポイント貰えるのではと思わないでもない。
これだけ何でもありにしていて原作基準を大事にしたとも言えまい。
「もともとその手の安易なものは書かないらしいですけど……二次をやる以上は原作キャラ主体でいくという理由らしいですわ」
鈴奈庵のようにゲームとは違うオリジナル主人公を設定するのもちろんやり方としてはありであるが、乏しい知識でそんな高等技術が出来ようはずもない。 その作品の世界をきちんと理解しないでオリジナル主人公などしても、それは”別に東方でなくてもいい”ものになってしまうのがオチである。
そう従者に言われれば、そんなものかとレミリアは思う……が。
「……それを言ったらさ、”これ”も別に東方である必要ないんじゃない?」
そう言われれば苦笑するしかない咲夜である。
「まぁ……それは読み手の方が決めれば良い事でしょう。 少なくとも登場人物が決める事ではありませんよ」
咲夜がそう言って微笑めば、レミリアも「まあね」とどこか満足そうな笑いを返した、その直後に…………。
バコンッ!!という大きな音、そしてそれにも負けないくらいに「アヴァァァアアアアッ!!?」というレミリアの悲鳴が響き渡る。
「…………はい?」
いきなりの事に訳が分からず目を白黒させた咲夜が、それでもランプで音を立てて地面に転がったそれを照らすと、そこにあったのは薄汚れた金ダライであった。
「……はぁ……これは……?」
金ダライと涙目でドアノブめいた帽子の上から頭を押さえているオジョー=サマを交互に見ながら首を傾げる、神ならぬ彼女のはそれが昨晩にカグヤ・ニンジャが蹴り上げた物であるとは想像もつかない。
ましてや、それがどういう奇跡的な経緯で今この場に落下してきたのかというミステリーが解けるはずもない。 それはたいして意味もなく語れば長くなるのでそれぞれに好きなように妄想すれば良いであろう。
確実なのはこれできれいにオチが付いたという事だけである。
「ザッケンナ~~~~!!!!」
レミリアがまだ涙目状態のまま天に向かって叫ぶ。
「こんなふざけたオチとかありえんわぁぁあああああっ咲夜との格差ありすぎだろぉぉぉおおおおおっ!!!! スッゾオラ~~~~~!!!!!」
実際騒音公害レベルの声を発する主人をキョトンとなって眺めていた咲夜は、やがてクスクスと可笑しそうに笑い出した。 やはりオジョー=サマはこういう姿の方が可愛く思えると思ったからだ、その少女に鋭い目つきで睨まれたので今度は取り繕うかのような顔で「うふふ、申し訳ありません」と軽くオジギをする。
そして顔を上げて「ですが……」と続ける。
「ですが……?」
「やはりオジョー=サマはツッコミをなさっている方が輝いていますし、ツッコミ系吸血鬼としてはとてもふさわしのではないかと私は思う次第ですわ」
咲夜の実際誰がどう見ても真剣に言っていると分かる顔に、レミリアはしばし唖然となった後でワナワナと身体を震わせ……。
「んな事思わんでええわぁぁああああああああああっっっ!!!!!」
……と、実際ちゃぶ台でも引っくり返すかのようなリアクションを取りつつ大気を振動させて咆哮が月夜の〈幻想郷〉に響き渡るのであった。
ゲームの本編とは違うセカイの〈幻想郷〉は、やはりゲームとは少し違う重任達が暮らしている。
そんな世界で紅魔のお嬢様のツッコミは今日も、そしてこれからも響き渡り、その傍には青い瞳のメイド少女が穏やかな微笑みで立ち続けるだろう……。
しかし、そんな二人の……いや、二人を中心にした〈幻想郷〉の物語はこれにて閉幕となる…………。
というわけで、今度は本当に終わりになります。
今まで読んでくれた方、本当にありがとうございました。




