第1部 第3章 第3話 魔界の悪魔? 覇王の娘? 一体誰の話?
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「見つけたぞ……我らが覇王様の、愛しき幼姫のお命……」
地底から響くようなおぞましい声が、街中に響き渡る。
黒い霧の中から姿を現したのは、全身に鋭い角を生やした、異形の巨大な悪魔だった。
(嘘でしょ……!? 今度は本物の魔界の悪魔!?)
宿屋の窓ガラスがバリンと割れ、強風が部屋の中に吹き荒れる。
素顔のアリアのまま震える私の胸の中で、三面鏡がこれまでで最も強く、激しい紫色の光を放ち始めたのだった。
「覇王様の幼姫……? 何のことよそれーーーっ!?」
割れた窓ガラスから吹き込む夜風と黒い霧に煽られながら、私は必死で叫んだ。
魔界の悪魔? 覇王の娘? 一体誰の話をしているの!? 私はただの、修道院を追い出されたおしゃべりな孤児のアリアなんだけど!
(でも……『覇王の血を引く者を追い』って、まさか私のことなの!?)
三面鏡が眩しい光を放ち、私の胸元で熱く脈打つ。
嫌な予感が頭をよぎる。なぜ身寄りのない私が修道院の前に捨てられていたのか。なぜこの【三面鏡】が私の手に渡り、変身した途端に規格外の魔力を発揮できたのか。
(ううん、今はそんな現実逃避してる場合じゃないわ!)
街の方から、人々の凄まじい悲鳴と、甲冑が激しくぶつかり合う音が聞こえてきた。
「総員、散開! 住民を地下大聖堂へ避難させろ!」
「団長、ダメです! 奴の黒い霧に触れた兵が次々と倒れて……ぐあぁぁっ!?」
ルシアン様と竜騎士団の声だ。
窓から覗き込むと、街の広場に降り立った巨大な角を持つ悪魔が、黒い霧を放射しながら暴れ回っていた。ルシアン様が果敢に長剣を振るい、闘気の斬撃を叩き込んでいるものの、悪魔の硬い皮膚にはかすり傷程度しかついていない。
「フハハハ! 人間の小僧が、我が魔界の高等将校に勝てると思うか! 覇王様の姫君を渡せば、この街の羽虫どもを殺さずにいてやるぞ!」
「ふざけるな! この街の民は一人たりとも渡さん!」
ルシアン様が血を吐きながら叫ぶ。
だが、彼の動きは明らかに鈍っていた。先ほどの魔狼の群れとの戦闘で怪我を負い、魔力も消費しきっているのだ。
(ルシアン様……! このままじゃ、あの人が殺されちゃう!)
自分の胸に手を当てる。
三面鏡の再変身の準備(魔力充填)は……まだ完全に終わっていない。右側の鏡が淡く明滅し、『充電率70%』のような頼りない光を放っているだけだ。
『——不完全な状態での変身は危険です。最悪の場合、姿が固定化されるか、魔力が暴走します』
頭の中に三面鏡の警告が響く。
(そんなの関係ないわよ! 目の前で命の恩人(※重すぎるイケメンだけど)が死にそうなのよ!? 黙って見ていられるわけないじゃない!!)
私は宿屋の部屋を飛び出し、階段を駆け下りた。
悲鳴を上げて逃げ惑う人々を押し分け、悪魔とルシアン様が対峙する中央広場へと一直線に走る。
◇
「ハァ……ハァ……!」
広場に到着した時、絶体絶命の光景が目に飛び込んできた。
ルシアン様は剣を杖代わりにし、片膝をついて激しく息を吐いていた。その目の前で、巨大な悪魔が太い腕を持ち上げ、鋭い爪を振り下ろそうとしている。
「終わりだ、人間の英雄よ! 死ねぇ!」
「ルシアン様ーーーーーっ!!」
私は叫びながら、二人の間に飛び込んだ。
懐から叩きつけるように三面鏡を取り出し、不完全な光を放つ中央の鏡を強く抱きしめる。
(お願い、私に力を! 理想の美少女じゃなくていい! あの人を守る力をーーーーっ!!)
バチチチチチチッ……!!
不完全な変身の光が弾けた。
紫と白の光が激しく火花を散らし、私とルシアン様を包み込む。
「な……なに……!?」
爪を振り下ろそうとした悪魔が、光の圧力に押されて思わず後退した。
光の中心で、私の身体が再構築されていく。
しかし——三面鏡の警告通り、変身は完璧ではなかった。
「……くっ……!?」
光が収まった時、私を抱きとめたルシアン様が、息をのんで私を見つめていた。
「お前……は……?」
鏡の破片に映った自分の姿を見て、私は青ざめた。
髪は『変身後の銀髪』。瞳も『紫の瞳』。
だが——背丈と服は『素顔のアリア(17歳の小柄な孤児の服)』のままだったのだ!
「ちょっと待って……なにこの『不完全な大人子供変身』はーーーっ!?」
大人っぽい絶世の美少女でもなく、完全に隠し通せる素顔の町娘でもない。
中半端に正体がバレそうな「ちんちくりんな銀髪紫眸の少女」の姿で、私は大ピンチの戦場に立ち尽くすことになってしまったのだった!
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大人っぽい絶世の美少女でもなく、完全に隠し通せる素顔の町娘でもない。
中半端に正体がバレそうな「ちんちくりんな銀髪紫眸の少女」の姿で、私は大ピンチの戦場に立ち尽くすことになってしまったのだった!
【作者より】
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