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地獄の始まり

「あんたなんて、拾うんじゃなかった!」


「あいつだよ、あいつ。自分のことをかわいがってくれた祖父を見殺しにしたってやつ。」


「あいつ、拾い子だったらしいな。なのに、祖父のこと見殺しにしたのかよ。最低だな。」


やはり僕は、人間がこの世界が嫌いだ。





学校へ向かう準備をしていると、テレビで朝の占いがやっていた。


「おはようございます。今日は1月27日金曜日です。今日もダンジョンに挑む冒険者(レイダー)たちがあとをたちません。自分の命を一番に、今日も過ごしていきましょう。


それでは、本日の占いです。今日1位の人は1月27日生まれの方。そう、今日です!

今日一日気分良く過ごすために必要なのは…嫌いなものです。どんなに嫌いなものでも好きであろうとすれば、今日が、これからが過ごしやすくなります。それでは良い一日を。」


占いが終わったあと、テレビを消し誰もいない部屋に、いってきます。そう言い残し家を出た。


この世界では、60年ほど前にダンジョンというものが生まれたらしい。突然だったみたいだ。


子供が授業を受けている。

主婦が掃除をしている。

新たな生命が生まれている。


そんな当たり前の日常に一つの綻びが生まれた。


あれよあれよという間に、ギルドや冒険者、ダンジョン政府などありとあらゆるものが生まれ、この世界がダンジョンという異物に適応していった。


そうして、そんな世界で僕は生きていた。


僕は優秀だった。周りから見ても優秀だっただろう。

勉学、スポーツ、芸術、果ては冒険者の才能までほとんどの才能を持っていた。

そして、幸せだった。


父はB級冒険者として、母は銀行員、妹は可愛く学校でも人気だった。そして、そんな家族を一つにまとめる優しい祖父がいた。


何の変哲もない幸せな家庭だった。そんな幸せな一家の唯一の異物は僕だったのだろう。


僕は捨て子だ。べたな話だ。高架橋の下に名前の書いてある紙と一緒にひとり寂しく泣いていたところを今の祖父が拾って連れ帰ってくれたらしい。そうして、祖父に懐くことになるのは必然だった。


祖父は、ダンジョンが現れたころ初心者から上級者までありとあらゆる冒険者が尊敬していたようだ。

祖父はどんな状況あっても弱者を助ける。そんなことを続けていたみたいだ。そういう性格だったんだろう。


そんな性格に僕は助けられた。


そうして拾われてから16年が立った頃だろうか。僕は冒険者学校へと入学し、好成績を保ったままS級冒険者とまで上り詰めた。パーティーを組み、ダンジョンへと潜り、青春を過ごしていた。


だがそこからだろうか。少しずつ歯車がズレていった。


たぶん、だれも意識できていなかったんだろう。父はかすかに僕のS級冒険者への才能へと嫉妬し、母は自分よりも幸せなことに、妹はどんな分野であっても僕を超えることができないことに。


しかし、唯一祖父だけは僕に寄り添ってくれていた。少しずつ家族との会話が減っていく中、祖父だけは僕と会話してくれた。


そんな生活が1年以上続き、今日も今日とてダンジョンへと行っていた。今日も至って変わらない生活が続くはずだった。


僕の住む近くにあったSダンジョンで凶暴化(スタンピート)が起こってしまった。僕は自分の手の届く範囲のものをすべて救いたかった。そう思いダンジョンへと向かった。


だが、それが間違いだったのかもしれない。


僕は自惚れていた。史上最年少のS級冒険者。僕は何度も何度も周りを救ってきた。だからこそ、今回も救えると思っていた。


ダンジョンから出てきたS級魔獣を倒し、崩れたビルから人々を救い出し、今回も僕は救えたと、自分は役に立つことができたのだと。


そう油断していた。しかし、どんな状況でも油断なんぞしてはいけなかった。


背後と上空からS級魔獣が迫っていた。そのことに気がついたことにはもう遅かった。背後からは剣が、上空から鋭く大きな爪が。


「これは無理だ。」


そう思い、もう諦めようと瞼を閉じ生きる気力を失った。


しかし、何秒、何十秒がたっても体へと痛みが走ることはなかった。


「どういうことだ?確かに上空と背後から魔獣が。」


瞼を開けようとしたとき、嫌な悪寒が体へと走った。


だめだ。目を開けてはならない。この現実を直視してはいけない。


だが、失敗だった。目を開けてはならなかった。目の前には上空の魔獣を倒し、背後の魔獣に体を貫かれている祖父が立っていた。


「じいちゃん!じいちゃん!返事してくれ。じいちゃん!」


「お前だけでも…助けられて、よかっ…た。お…前は、これからも、人をすべてを救え。」


「わかった。わかったよ、じいちゃん。俺は、救ってみせるよ。みんなを。」


そうして、祖父は息を引き取った。そのまま、祖父が殺されたことへの怒りを魔獣へとぶつけ、凶暴化は収まった。


しかし、問題はここからだった。


祖父の遺体を引き取り、家へと戻ったところからハッキリと歯車がズレた。祖父は家族全員が慕っていた。そんな存在がいなくなるとどうなるだろうか。


家族の間には、いつも祖父がいた。祖父は皆の間に混ざり、いつも家族を守ってくれていたのだろう。そして、祖父は僕に父たちの嫉妬が向かないようにしてくれていたとわかってきた。


父が、母が、妹が、周囲が僕との間に壁を作り始めていた。最初は些細なことだった。家族との会話が減っていった。徐々に、周囲との壁が、溝が厚くなっていた。


そして、1ヶ月が立つ頃には、僕の周りには誰もいなくなっていた。


人は、たった一つ。どんなに小さな些細なことでも、どんどんと尾ひれがつき、気づけば僕には「祖父殺し」と囁かれるようになった。


そうして、今まで仲良くしてくれていた人、家族、そうして知らない人に至るまでが僕を避けるようになった。


学校では、人がいつも周りにいたことが、誰も寄ることもなく、逆に小さなものから大きなものまで様々ないじめの対象となった。


そこまでならよかった。しかし、その後が悪かった。何度も何度もいじめられ、心が疲弊しきり、心が折れそうになったときに聞いた言葉がまずかった。


「父さん。なんで死んじゃったんだよ。あいつが悪いくないことはわかっているんだ。でも、もしあいつを拾わなかったら、こんなことには…。」


そう聞いて、俺は家を飛び出してしまった。


一心不乱に走り、疲れるのを待っていたが一向に疲れることがなかった。これまで以上に自分の才能を呪ったことはない。そうして、2時間が立った頃少し生きが途切れてきた。


ぽつ、ぽつと雪が降ってきた。走るのをやめ、歩いている途中で見つけた公園へと立ち寄った。


公園には一つぽつんとブランコが佇んでいた。


そのまま、縋るようにブランコの近くに座り込み、今までを振り返っていた。前までの自分と、今の自分。前までは、誰もが慕ってくれるような人だったんだろう。しかし、今はどうだろう。周囲からは見放され、もう誰も近寄らなくなった。


「ははっ。これが僕の末路か…。じいちゃん。僕じゃだめだったみたいだ。僕、どうすればよかったのかな。じいちゃんが死なず、僕が死ねばよかったのにな。」


もう正直疲れた。これなら僕も死んでしまおうか。そうして、異空間から刀を取り出し首筋に近づけて首を切り落とそうとしたが、少し刃がこすれただけでそれ以上は刀が進むことはなかった。


どうして…。


運命さえも僕を殺してはくれないのか。


そうして、焦燥し心身をすり減らしながら日々を過ごしていった。





どのくらいの時間を過ごしただろうか。冒険者学校を卒業したあと、都市外の家を間借りして自堕落に生活をしていた。


いつしか、S級冒険者として冒険をしていた頃の自分とは見る影もなかった。人を世界をそして自分を忌み嫌い、すべてを遠ざけるようになった。何も食べず、動かず、いつしかこの世から消えることだけを考えていた。


「どうせ僕なんて…。」


もし、生まれ変われたら。祖父が死ぬ前のような生活に戻れたら。人を自分を好きになれるだろうか。


いや。だめだな。


いくら自分が強くても、周りに好かれていようとも結局は人だ。自分の欲のために人を裏切る。絶対裏切るなんていう保証はないが、絶対に裏切らないなんていう保証もない。


だが、今のように周りを疑い続けてしまうような生活は嫌だ。


どうせ、こんな生活が続くぐらいだったら、異世界にでも行ってしまいたい。じいちゃんとの約束を破ることに放ってしまうけど、僕にはもうこんな生活を続けることができるほどの心の余裕はない。


数ヶ月前に諦めたが、死んでしまったほうが自分のためにも周りのためにもいいのかな。愛刀で首を切ろうと思ってもできなかったんだ。


たぶん、祖父と約束をした頃の自分が自傷で死ぬことを拒んでいるんだろう。だったら、飛び降りならどうだろう。自傷ではないから大丈夫だろう。





この世界には、この世とは思えないような場所が多くある。


そしてこの、『神々の山』もその一つだ。


春・夏・秋・冬すべての季節が一つの山で共存している。まさに、幻想と言っても差し違えないような場所が広がっている。


そんな場所に僕は、死にに来ていた。こんな場所で死ぬのは僕には贅沢すぎるだろうか…。


「いや。僕の最期の時なんだ。少しぐらい贅沢になったっていいだろ。」


この山は幻想的な場所である反面、一つだけ誰も近寄らないような場所がある。


『死の峰』


いくつもの鋭利な土山と針山、マグマの湖など地獄のような光景が広がっている。そして、少し離れた場所にぽつんと赤黒い液体がべっとりとつく針山がある。


そこは雑草一本すら生えない寂しげな土地だ。近くの崖から飛び降りれば体をグッサリと貫けるだろう。



崖の端に寄り、飛び降りる準備ができた。靴を脱ぎ、祖父への感謝と謝罪の手紙をおもりの下に載せた。


すぐにでも崖から落ちようとしたができなかった。やはり、自分で命を断つのは怖かった。でも、それ以上にこの世界で生きていくことのほうが怖かった。


だったら、と風魔法を自分の後ろから放ち、自分を崖から落とすことにした。


突風(ウィンド)


必ず死ねる。そんな威力の風魔法を放ち目を閉じた。


グチャッ。そんな音とともに体に大きな針が貫く感覚とないぞがすべて潰れるような痛みが走った。


これで、僕も人生を終えれるな。


〈S級冒険者、東郷旭の死亡を確認しました。〉


〈A級冒険者、東郷董の死亡時にかけられたスキル『死の撤回』により体が再構築され、新たな世界へと転移させます。それと同時に東郷旭には”呪い”が付与されます。〉


〈体の再構築まで残り2分。新たな世界への強制転移までの3分です。〉



どうしてだ。なぜ意識が途絶えない?僕は死んだ。そのはずだ。意識はあるが、生きているというような感覚はない。


どういうことだ。魂だけどいうことか?それとも僕の世界でも囁かれていた天国や地獄にいるということだろうか。


嫌だ。僕はもう生きたくない。意識すらいらないんだ。もう何も考えたくない。だからもう、俺に絶望を与えるのはやめてくれ。


生きたくない。そう思っているはずなのに、思いに反して僕は瞼開けようとしている。


瞼を開けた先には、前の世界で見たような美しい緑が嫌になるほど広がっていた。


「またなのか。」


どうして、運命は…。


この世界は元の世界とは違う。そのことはすぐにでもわかった。


この世界に僕のことを知る人はいない。この世界なら、人生をやり直せるのか?


いや。だめだ。どうせこの世界でも僕は失敗する。だからすぐにでも死のう。そう思い愛刀を取り出し、勢いにかこつけて首を斬ろうとしたが、首に触れる寸前で手が止まった。


おかしい。自分で死ぬのが怖くても首に刀が触れるはずだ。刀が止まるということは万が一にもありえない。


〈ステータス〉


そう聞こえた。


「ステータス。」


そう唱え、ステータスを確認するとなにか状態異常にかかっていた。


〈呪い:人間嫌い〉

・人間とかかわらなければ、寿命が永遠に増えていく。


〈呪い:愛するものからの死〉

・自分が愛し、自分愛した者からの事象でしか死ぬ事ができない。


そんな、地獄としか言えない呪いがこの身に与えられていた。


「なんで。どうして!僕ばっかりが!」


どれだけ叫んでも、どれだけ悔やんでも現状は変わることがなく、刻々と時間だけが過ぎていった。


「キャー!」


どこからか、女の叫ぶ声がした。そしてこれが、この地獄のような世界の始まりでもあった。

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