ついに開幕
昨日のアキラの家でみんなで話したアキラの新フォームのワインドアップ、そのやりとりを、ユージが監督に話しをした。
放課後、監督、アキラとマネージャー、そして、ユージ、ついでに松井が、視聴覚室に集まった。
タブレットを大型モニターに繋ぎ、カナが説明し、機材操作はリコが担った。
マネジャーの話が終わった。
監督が、
「君たちマネージャーが来てくれたお陰で、可視化、OA化がすすんだなぁ。感無量だ。」
「監督、そっちじゃなくて、アキラ投手のワインドアップでの投げ方どうでしょうか?」
「おー、すまん。第1印象は、うまく反動を利用できてるなと思う。アキラに合っているんじゃないかな。」
松井が、
「監督、フォームが大きくなれば、走られやすくなるのでは?」
「心配ないよ。松井の強肩を恐れてだれも走らないよ。」
松井は、舞い上がった。そんなに甘くない。単純な男だ。
「早速練習してみよう。」との結論にアキラはうれしそうだ。
監督が、リコとカナに、
「すまんが、大会前に、水分補給用のドリンクを調達してくれないか。ネットでいいぞ。」
「監督、実際に見て買いたいので、それでもいいですか?」
「構わんよ。重くないか?」
「大丈夫です。筋肉だらけがいますから。」
「じゃあ、筋肉だらけ、頼んだぞ。」
「はい!監督。」(ユージ)
待ち合わせを次の土曜日の練習後、ウオン小高とした。そう、みんなでラーメンを食べた場所だ。
当日、カナとアキラと奈央子が一緒に来た。
奈央子「何で私まで。」
カナが誘った。
ユージもジムから来た。
「あれ、奈央ちゃん。どうしたの?」
奈央子は、「お邪魔かしら。」もじもじ
「みんなー、お待たせー」
リコが来た。美香も一緒に来た。
「あらー、奈央子さんじゃない?」
美香が、声をかける。
みんな「こんにちは!」
美香が続けて
「いいわねー、アキラくん、カナちゃんが彼女?」
アキラ
「うん、そんなんです。」
美香
「へー、ねえねえ、どちらが告白したの?」
リコは、パックの牛乳をチュウチュウ飲んでいる。嫌な予感である。
カナ
「アキラくんが。結婚を前提にどうしても付き合ってほしいと。キャー」
リコ
「ぶっ」
何がどこから出たかは、ご想像にお任せする。この技、リコの特技として定着しつつある。
美香
「リコ、こんなところで、特技を披露しなくてもいいわよ。今回は牛乳?」
「あら?他に誰かいるの?」
鼻を拭っているリコ以外、
「これで全員です!」
美香が周りをキョロキョロ。
「そうなんだ。」
買い物を済ませ、ドリンクなど、美香の車に積み込んだ。
「このまま帰って、明日学校へ運ぶわね。」
このように、選手の親が献身的に子供たちを支えるのだ。頭が下がる。
車の中で、美香がリコに尋ねる。ユージはいない。
「ねえ、ユージって、奈央子さんが好きね?」
「え?何で?」
「見てればわかるわよ。ユージ、楽しそうだったわ。他に誰かいるのかと思ったんだけど、いなかったわね。だったら、奈央子さんしかいないじゃない。それで、わかったの。」
「えー、そうなんだ。」
さすがママ。侮れない。
「節度をもって、お付き合いしてほしいわ。でも、奈央子さんなら、大丈夫だわ。」
まだ、奈央子とユージが付き合っている訳ではないが。
さあ、3年生は最後の大会。
中野高校は、守備型のチームだが、そこそこ打つ。ユージの前にランナーを貯めれば、勝負強いユージが長打を放つ。
中野高校の勝ちパターンである。
ピッチャーは5人いるが、計算出来るのは3人。
球数制限があるので、4番手5番手のピッチャーがカギ。
勝ち進めば連投もあるし、強豪相手にどうローテーションを回すかが勝負の分かれ目になる。
6月27日。
1回戦だ。中野高校の甲子園に向けた戦いがスタートした。
相手は小村第2高校。順当に行けば、中野高校に分があるが、油断は禁物。
アキラを温存し、先発は2年生の竹之内に任せられた。
相手の小村高校も、公立高校。ピッチャーの球速はないが、コントロールと変化球のカーブが良い。
お互いに挨拶をし、試合が始まる。
プレイボール!
先行は、小村第2高校。
2年生ピッチャー竹之内は、スライダーが良い。横の変化について行けない小村第2高校は、単発のヒットはあるが、凡打と三振を繰り返す。
一方の中野高校は、初回から内野安打とセンター前ヒット、3番蟹江のバントの時に相手チームはエラー。
ノーアウト満塁になった。
そこで、4番ユージ。
コーナーを突いたり、変化球を投げたりと、ユージは簡単に打たせてもらえない。
結局、ユージは押し出しのフォアボールで1点先行。、
そこで、アキラに代わり5番に入ってる180センチ90キロの2年生太田。ユージが卒業した後の4番候補だ。ピッチャーが投げた初球を思い切り叩くと、ボールはぐんぐん伸び、フェンスを直撃する二塁打。走者一掃で3点追加。
1回裏で4対0とリードした。
今日は川伊家、奈央子が応援に駆けつけた。
アキラはベンチ。奈央子はユージを見たかった。
リコとカナは記録員として、ベンチに入る。2人は入れないので、アキラが先発のときは、カナが記録員。
アキラのフォームが、頭に焼きついているためであるが、その辺りは合理的に判断している。
カナはベンチに入れない部員と共に応援している。
5番太田の後、更に1点追加し、1回を終わり、5対0になった。
「奈央子さん、押せ押せですね。」
ユージの父の言葉に、頷く。
2回の相手の攻撃を無失点に抑え、その裏の攻撃はユージに回る。
走者を2人置いて、ユージの打席。
ユージの打席は、バッターボックスに入り、審判、ピッチャーとキャッチーに軽く頭を下げ、足場が荒れていようが均すでもなく、打席に入ったらそのまま静かに構える。
相手のタイミングを外したり、自分の間合いを取るようなことは一切しない。
打つべき球が来たら、フルスイングで球を捕らえる。そして、一塁へ全力で走る。
この打席も同じ。
初球を捕らえた。速い打球、フェンスまで転がる。2塁に滑り込み、立ち上がって静かに土を払う。
ガッツポーズも何もない。
7対0。
カッコいい。あのアキラやリコとふざけるユーシとは別人だわ。
奈央子は、口を押さえて、つぶやく。
そして、球場で見せる武士のような佇まいとのギャップに奈央子の目が星になっていた。
つづく




