一番キレイな私を大好きなあなたに見てほしい
川伊家の厚意で、テレビが設置された。
「大きくて見やすいわね。」
奈央子は川伊家の気遣いもありがたかったが、変わらない友情が嬉しかった。
アキラとユージの縁から始まった水島家と川伊家の交流、いや友情。
「ありがとう、美香さん」
何かと厳しいシングルマザーの子育て。
川伊家は、奈央子にとっては心強い存在である。
そして、大人になっていくユージ。
その、やさしさ、笑顔。忖度のない物言い。
奈央子は、川伊家に想いを馳せるとき、ユージの顔が真っ先に浮かぶ。
恋愛の始まりは、容姿、スポーツでの活躍、困った時にいつも助けてくれる上司、
後ろ姿で導いてくれる先輩に憧れて距離が縮まるケースもあるだろう。
そして、奈央子のように、基本、恋愛対象の枠外である場合でも、その人の優しさに触れ、気がつかないうちに、想いが溢れ、好きと気づく場合もある。
恋に陥るパターンはそれぞれ。年の差、年収、容姿など関係なく。
恋愛は否定するものではなく、肯定するものでありたい。
今日、ユージは、奈央子とショッピングモールのウオン小高へ試合用のストッキングを買いに行く日だ。奈央子は着ていく服の候補を絞ったものの、まだ悩んでいた。
奈央子は、ユージと野球のストッキングを買いに行くために着ていく服をえらんでいた。
「アキラ、このワンピースと黒のニットどちらがいいかしら?」
アキラはライトカラーのさわやかなワンピースもいいなと思ったが、
「黒いのがいいんじゃない?」と答えた。
スピーカーからは聖子ちゃんのアルバムが流れていた。
「このコーデはどう?」
「きれい(とつぶやく)。」
奈央子は、黒のサマーニットに白いタイトパンツを鮮やかに着こなしていた。
168センチのスラリとした長身、
窓からの光を受け、ほんのり茶に見えるショートカット。
派手さはないのに、整って見えるのは、控えめな化粧が、彼女の人柄をそのまま映している。
聖子ちゃんのアルバムの中にある「赤い靴のバレリーナ」が流れている。
♪彼に会うのが少し怖い。髪をちょっと短く切っただけなのに。それは、彼に一番キレイな私を見てほしいから(筆者解釈)♪というフレーズを聞いたアキラは、
「今のかあさんと同じだ」
と嬉しそうに、奈央子を見た。
待ち合わせの15分前、
「おばさーん、遅くなってすみませーん」
と、ユージが来た。
ユージは、黒のポロシャツに、ベージュのテーパードパンツ、スタンスミスの白いスニーカーを履いていた。
筋トレで鍛えた逆三角形の上半身、大きなお尻と太いモモ。ゴリゴリのマッチョではないほどよい細マッチョ。
筋肉は最高のオシャレとは、上手い表現である。
「待ってないわよ。来たばかりだから。」
「おばさん。かっこいい。そんなに厚いサンダル履いたら、ぼくより背が高くならない?」
奈央子は厚底の黒いサンダルを履いてきた。それが白いタイトパンツによく似合う。
「平気よ。逞しい人の隣だと、私のスタイルが良く見えるから。」
「ぼくが引き立て役になるならいいね。おばさん、先にストッキング見に行こう。」
奈央子は同意し、2人は並んで歩いた。
2人の目の高さは同じ。
横を向くと目が合う。
スポーツ店まで、アキラのこと、学校のことなど話しながら。
「ユージくんは好きな人はいるの?」
「いないです。ぼくは、モテないです。」
「そんなにかっこいいもの。すきって言う人がいるんじゃない?」
奈央子は、アキラがもっとも嫌がる質問を、こんなにさらっと聞いているのが、自分でも不思議だった。
加えて、もし彼女がいるという返事がかえってくるリスクもある。にも関わらず。
「おばさんは再婚しないの?ぼくは、まだまだ若いけど、おばさん早くしないとほんとのおばさんになっちゃうよ」
ぷっと吹き出す奈央子。
シングルマザーで、高校生の子供を必死に育てている38才になる大人の女性に対して言う言葉だろうか。
しかも、高校生の男の子が。
デリカシーのない物言いが持ち味のユージだからこそというより、
それは、ユージと奈央子の相性が、そうさせている。
奈央子は、そっとユージの袖を掴んだ。
振り返るユージ。
振り返ると奈央子の目と唇が、目の前にあった。




