いい肉のいい仕事
勤労感謝の日といい肉の日に合わせた作品です。
肉がストライキを始めたその理由とは…?
令和日本の隣にある街、幻想怪異発生特別区──通称「特区」。その治安を守る西地区警備署には様々な依頼が舞い込んでくる。
遺失物課の活躍が目立つものの警備署の仕事は物探しだけではない。モンスターや怪異の被害、住人同士のトラブルの解決など……西地区の住人をサポートするのも警備署の仕事である。
「昨年の勤労感謝のお守りの出来は良かった。今年も我々が仕事を全うできるように祈られたお守りを授かり身が引き締まる思いです」
十一月二十九日。土御門署長と佐藤署員は西地区にある神社へとやって来ていた。昨年の勤労感謝のお守りを返納しに足を延ばしていたのだ。既に新たな勤労感謝守りは授かっており、西地区警備署の仕事をガンガン応援してもらっている最中である。その出来栄えを報告するついでもあった。
「今年のお守りはここ三年で一番の出来ですよ」
お守りに直々に力を与えているのはこの神主の祝詞である。力を込めた張本人が言うのだから、お守りの出来栄えは良いものなのだろう。
ボージョレ・ヌーヴォーのコメントみたいだなと佐藤署員はこっそり思う。
「近年まれにみる忙しさですから、勤労感謝守りがあるのは心強いことです」
土御門署長も釣られたのか、ボージョレ・ヌーヴォーのような表現で仕事ぶりを口にする。仕事とお守りの品評会のような言葉たちに、佐藤署員はクスリと笑ってしまった。
「そうだ。佐藤君にもお守りを買ってあげようか」
「良いんですか?」
「佐藤君は毎日仕事に励んでいるからね。さらに力を入れてもらえるように期待しているよ」
「良いんだか、悪いんだか……。でも、安全に仕事はしたいですから、ぜひもらっておきます」
土御門署長にお守りを買ってもらい、今年も大きな被害がなく職務を全うできますように……とお参りをした、その佐藤署員に無線が入った。
「はい、こちら佐藤署員」
『こちらいばら署員です。西地区商店街で肉がハンストを始めてしまって混乱しています。至急応援よろしくお願いします』
「了解しました。すぐに向かいます」
嗚呼、ひっぱりだこの西地区警備署署員である。
***
肉たちがハンガーストライキを起こしている。警備の応援要請があり、佐藤署員は西地区商店街へと向かっていた。
「肉がハンストって……。主張は何ですか?」
肉は食べられるものなのだから、食べずにストライキをするハンガーストライキとはどういったことだろう。現場についた佐藤署員は先輩のいばら署員に尋ねる。
「我々は食べられ過ぎているらしい、ですって。どうやら彼らが食べない事ではなく、食べられないことでストライキをしているらしいわ」
「一理ありますけど、ハンストの意味なくないですか」
「ハンガーしているのは我々だからね」
いばら署員の説明に佐藤署員が首を傾げる。
その間にも、肉たちは拡声器で演説を続けている。
とにかく問題は突如始まったストライキである。申請されているならばよいが、急に始まった物は暴動に発展しかねない。街の治安を守る組織である以上、西地区警備署は事態を収める必要があった。
「肉たち! せっかくいい肉の日なのだから、食べられるのを拒否しないで。ストライキについては申請が受理されてから始めてください。今の状態では、住民に迷惑が掛かります!」
「私たちは消費されてるんだぞ! いまこそハンガーストライキをする絶好の機会だ!」
いばら署員の声掛けに、肉も負けじと抗議を続ける。
「主張は理解しました。……ところで、消費されたくないとはどういったことか教えていただけますか?」
興奮で火が通り始めた肉たちに向かって、佐藤署員も問いかけた。撤退を促すのも大事なことだが、肉たちが抱えている問題に寄り添うことも必要だろう。佐藤署員は肉たちに新しい提案はできないかと考えていた。
「野菜や魚よりは肉がいいな~、と惰性で決められたくないんだ!」
肉たち曰く、肉は絶対的に肉が好きだから選ばれているのではなく、相対的に肉でいいやと判断されて選ばれているのだという。つまりは、肉のプライドとしてそれを許すことはできないのだそうだ。肉は肉が一番好きだ! と思われて選ばれたいという話らしい。
極めて難解な主張にいばら署員は閉口し、佐藤署員もますます首を捻った。
比較されて選ばれなかった野菜や魚からしたら贅沢な悩みだ……と思いつつ、佐藤ちゃんが「今日はいい肉の日ですよ」と肉たちに語り掛けた。
「今日はいい肉の日ですから、絶好の選ばれ日和だと思います。私も今日は肉が一番食べたいと思っており……、夕飯は高めのステーキにしようと画策していました。どうでしょう、私に美味しく食べられてみませんか?」
佐藤署員が肉たちに向かって説得を試みる。まずは肉たちが感じている惰性で選ばれている感を和らげてみよう、と佐藤署員は肉が食べたいということを前面に押し出してみた。
隣で事態を伺っていた別の署員もなるほどと頷き、「僕も焼肉定食を食べようと思います」と同調する。
すると、事態を見ていた住人達がハンストしている肉たちに向かって、肉を食べさせてくれ! と声をかけ始めたのだった。
「いい肉の日こそ、いい仕事……美味しく食べられるために料理されるべき日だと思います。ぜひ、肉としていい仕事をすることを、ご検討願えませんか?」
佐藤署員の説得に肉たちが顔を見合わせて相談をし始めた。
そして……。
「そこまで言うならば、料理されてみましょう!」
肉たちがハンストを止めて、料理されるべく、ぞろぞろと西地区商店街の肉屋やレストランへと戻っていく。
いい肉の日のフェアはまさに肉がメインのお祭りである。魚よりは、野菜よりは……と選ばれるわけではない。肉こそ正義! と肉が選ばれる日なのだ。
いい肉の日と掲げられた看板に惹かれて特区の住人たちが続々と集まってきた。
「今日は良い肉の日だし、しゃぶしゃぶでも食べようかしら」
「家族で焼肉パーティーのために良いお肉を買いに来たのよ」
住人たちが笑顔で肉を選んでいるのを見て、肉たちにも笑顔が戻ってくる。今日は美味しく食べられるぞ! という掛け声も聞こえ始めた。
「佐藤署員も今日いい仕事をしましたね」
先輩であるいばら署員が佐藤署員を称えた。
「それならば、さっき買った勤労感謝のお守りのおかげかもしれません。今年は三年に一度のとても良い出来なんだそうですよ! ……しかし、こんなに肉ばかり贔屓されていては、野菜や魚もハンストをし始めてしまうのではないかしら?」
佐藤ちゃんの疑問に、いばら署員も渋い顔をした。
そして、その懸念どおり、西地区商店街の目に見えない通りでは、魚や野菜の黒い影が蠢きストライキの準備を始めていたのだった……。




