募る! 働き者のバカンス
佐藤署員の休暇が消えた!意気消沈の同僚のために、熱田署員は佐藤署員のために、休暇を募ることにする!
令和日本東京の隣にある街、幻想怪異発生特別区――通称「特区」。その治安を守る西地区警備署にはGW中も不思議な事象が発生していた。
朝礼中だ。土御門署長が深刻そうな顔で周囲を見渡す。
「えー、誰か、佐藤署員の休暇を見た人はいないかな?」
署長の隣では、任期二年目の佐藤署員が困ったような顔で肩を落としていた。
事の発端は昨日の終業時間である。勤務予定表を確認していた佐藤署員は、あっと声を漏らした。
「私の休暇、なくなってる……!」
GWに合わせて取ることができた休暇だ。赤文字で〝休〟の文字を三つ揃えてあったのだが、それが跡形もなく消滅して、代わりに〝日勤〟の文字が書かれていたのである。誰かが書き換えた跡はなかった。そして、取り消し線を引いても、上書きしようとしても、すぐに〝日勤〟の文字に書き変わってしまうのだった。
どうやら、勤務表に怪奇現象が起こっているらしい。
それどころか、佐藤署員が新しく休暇申請を出そうとしても、なぜか提出間際になって〝休暇〟の文字が消えてしまうのだ。
土御門署長は佐藤署員に起こった現象について、〝休暇がどこか、行方不明になった〟のだと判断した。
「休暇がなくなっちゃうなんて! 困ります! 私、友達とTUL行く約束してるんですよ!」
佐藤署員の実家は特区外にあり、今度のGWは久しぶりの帰省をして、休暇中にテーマパークに行くとはしゃいでいたのである──。
朝礼での署長の問いかけに、他の署員たちは首を振った。〝休暇〟を見た覚えもないと顔を見合わせる。
無い休暇をとることはできない。結果として、休暇がいなくなってしまった以上、佐藤署員はGWにも仕事をすることになったのだった。
「休暇が見つかったら他の公休と合わせて、休みの日をとろうよ」
土御門署長からそう言われて肩を叩かれたものの、佐藤署員はがっくりとうなだれながら仕事を始めた。無理もない。気分はすっかりGWで遊びに行く状態だったのだから。急に休みが中止されて、不貞腐れても仕方がない状況だ。
しかし、佐藤署員はまじめだった。特区の怪奇現象で休暇がなくなってしまった以上、今休暇をとることはできないのだ。ならば、くさっているよりも街のために働いていた方が健康的である。そんな気持ちの持ちようで、佐藤署員は午後からはいつもの通り、明るく勤務をしていたのだった。
そんな署員の様子を見て、他の署員たちが頭を悩ませていた。折々で、佐藤署員の休暇を探しているものもいる。普段からまじめに勤務している佐藤署員を事務所の署員たちは知っているのだ。このまま、休暇がなくなってしまいました……では、話にオチが付かないのである。
そんな中、同期の熱田署員がこっそりと署内の人間を集めて、ある提案をしていた。
「俺の時間、二時間だけあげますよ」
それから、これを使いましょうと言って、時計型の貯金箱を取り出したのだった。貯金箱ではなかった。これは貯時箱である。貯時箱とは、時間を貯めることができる特区の発明品の一つであり、彼が言っているのは時間授受の話だろう。
確かに、少しづつ時間を捻出して溜めれば、佐藤署員が休暇をとるくらいにはなるのではなかろうか。
「じゃあ、私も二時間」
後輩の熱田署員に乗っていばら署員も手を挙げた。それに同調して、熱田署員が買ってきた時間の貯時箱に警備署の仲間たちが各々の時間を入れていく。ここに時間を詰めることで、人間同士の間で時間の交換ができるのである。この貯時箱に署員たちの時間を溜めて、佐藤署員にあげようという魂胆だ。みんながちょっとづつ時間をつくり、その貯時箱じ時間を集めていった。
そういった話が署外へと広がっていたらしい。
夕方、西地区警備署に現れたのは小さな子供である。対応したいばら署員はその顔に見覚えがあった。以前、その子が迷子になった際に佐藤署員が懸命に保護者を探した女の子だったのだ。
「佐藤しょいんに〝おやすみ〟をあげたいんです」
「お休み……?」
いばら署員は首を傾げたが、小さな子供がたどたどしく話すのをちゃんと聞いた。どうやら、熱田署員がパトロール中に佐藤署員のバカンスの話をしたらしい。そのうわさ話を聞いてやってきたというわけだ。
「助けてもらったから、お礼をしたいんです!」
子供を皮切りに、西地区警備署には住人が集まっていた。佐藤署員の良いところを口々に話しながら、次々と時間を貯時箱に溜めていく住人達である。
「佐藤さんにはお世話になってるからね」
「佐藤署員はいつも、まじめに仕事をしてて偉いよ」
「佐藤署員の休みがなくなっちゃったんだって? ちょっとくらい休ませてあげなよ」
あっという間に、貯時箱の中身はたくさんになっていた。総数は七十二時間。日数にして二泊三日である。短い時間だが、これなら、佐藤署員が実家に帰って少し遊ぶくらいの余裕が持てる期間だろう。
「かなり溜まりましたね」
熱田署員がびっくりした様子で貯時箱を眺める。まさか、言い出しっぺだが、ここまで集まると思わなかったらしい。
「これで、佐藤署員にお休みをあげられるわね」
いばら署員の言葉に、そうですね! と大きく喜んだ熱田署員であった。
***
「うーん! 今日も疲れたな!」
終業後、佐藤署員が自席でのびをしているところに、熱田署員といばら署員がやってきた。
「これ、皆で集めました! 本来の日数には足りませんが、良ければ使ってください」
熱田署員が渡したのは、もちろん、時間の貯時箱である。佐藤署員は怪訝そうな顔をした後、しかし、貯時箱を見ると、パッと顔が明るくなった。
「これ、時間の貯時箱じゃないですか! どうしたんですか!? 二泊三日分も!」
いばら署員が、西地区警備署と近隣住民が佐藤署員のために時間を貯めたのだと説明した。その話を聞いて、佐藤署員の顔に笑みが溢れる。
「ええー! 良いんですか!! こんなにたくさんお休みを頂けるなんて……。今期に入って一番うれしい出来事です!」
日勤と日勤の間にもらった時間をねじ込み、佐藤署員は無事休暇に入っていったのだった。
きっと、休暇から戻って来てからも仕事をまじめにこなしてくれるに違いない。
***
ところで、佐藤署員の休暇はどこにいったのか。
「おかしいなあ……、確かに佐藤君からは休暇の届けももらったし、赤文字で休って文字も書いたのに……」
熱田署員が用意した時間の貯時箱に、自分の時間を二時間上げた後、土御門署長は事務所の中で〝佐藤署員の休暇〟を探していた。
諦めかけて、帰ろうとしたその時だ。
「お……、こんなところに」
部屋の隅で赤い小さな文字がもぞもぞと動いていた。書類と書類の間に挟まってしまっていたらしい。
「逃げだしたのか、事故で落ちたのか……。もう少し、細かく探せばよかったなあ」
土御門署長が赤い〝休〟の文字を元の場所に戻す。それから、思い直したようになって、佐藤署員の休暇が少し伸びるように、〝休〟の文字を書き足す。それから佐藤署員へとチャット端末で連絡を入れたのだった。
『休暇が見つかった! 八日まで休暇だ。それまではゆっくり休むように!』




