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心の隅っこで-明日もいつも通りに

 社会人になって3年が過ぎた今日、私は地元に帰ってきていた。同窓会に出るためだ。

 今朝の新幹線で帰ってきていまは実家の自室で同窓会の時間まで暇を潰している。


 部屋の壁のいろんなところに飾られた写真を見て思い出すのはやはり学生時代のことだった。部活に熱中していた写真の中の私は元気一杯のショートカットで、現在鏡の中に映る私を見てもその面影はほぼない。

 この3年は怒涛の日々だった。毎日が忙しくて休みらしい休みもあまり取れず、髪を切りに美容院に行くのも惜しい、と思う生活だった。新卒で今の会社に入り仕事に熱中して、大きなプロジェクトを終えてやっとひと段落がついたため、今日は久しぶりにこっちに戻ってきてみたのだ。


 そうして時間を過ごしている間頭に浮かぶのはやはり、学生時代付き合っていた彼のことだった。

 同じクラスだったあなたとは友達から恋人関係になった。初めての彼氏も初めてのキスも、全てあなたと一緒にした。今このいる場所にも何度か来たことがあるし、あなたの実家に行ったこともある。そこで繋いだ手の感も、夢のような日々も、なんだかもう忘れてしまった。


 時間になり美容院でヘアセットをしてもらって、同窓会へ向かった。最初に目に飛び込んできたのは学生時代1番仲のよかった友達だった。


『久しぶり〜!』

「ひさしぶりだね!結婚式以来?」

『そうだね、なかなかこっち帰ってきてくれないんだもん。』


 この子は地元でずっと付き合ってきた彼と高校卒業と同時に結婚した。子宝にも恵まれているようで、SNSではよく幸せそうな様子を目にする。


 それから担任の先生と話したり、部活仲間と話したり、一緒に写真を撮ったりしていた。そうしてる間にも私が無意識に探していたのはあなたの姿だった。

 しかしあなたの姿はなく同窓会の時間は終わりが近づいていた。すると友人が声をかけてきた。

『二次会!行くよね?』

 この子が行くから、という理由を建前に、あなたが来るかもしれないという本音を隠しつつも「行く」と返事をした。


 しかし二次会が始まってもなかなかあなたの姿は見えない。仕事で忙しいのか、それすらもわからない。


『ごめん遅れた!』


 その声と同時に入ってきたのはあなただった。

『お!主役登場!』『待ってました!』

 学生時代、サッカー部に所属していて人気者だったあなたは早速みんなに囲まれていた。見るからに忙しそうなやり手営業マン、といった感じの雰囲気で、なんだか別世界の住人のように思えた。

 ふと、あなたと目が合った。あなたは私にそっと微笑みかけて、また会話に戻ってしまった。


『ねえー聞いてんの?それで旦那はその時さ・・・。』

 そう言う友人の声で意識がハッとした。忘れていたつもりだった記憶が心の隅っこで生きていたことに気づく。あなたに会わなければ白く煙ってい日々も全てが蘇ってきた。


『三次会、行く人ー!』

 幹事のその声と同時に、私の右手は友人によって掲げられていた。気づけば三次会と称したカラオケに来ており、学生時代の懐メロが次々と歌われていく。あなたのミュージックプレーヤーから枝分かれたイヤホンから流れていた曲もたくさんあって、懐かしい日々が私の脳内を駆け巡った。みんな楽しくなってきたようで時間も年齢も忘れて騒いでいた。


 

『久しぶり。』


 声のする方を見るとあなたが隣に座っていた。びっくりして周りを見るとみんなカラオケに夢中で私たちの方など向いていなかった。学生時代あんなに揶揄われていたのが嘘のようだ。


「久しぶりだね。」

『元気だった?』

「うん、忙しくさせてもらってるって感じ。」

『良かった。SNSも何も繋がってないから、何してるのかなって思ってた。』

「そっか。そっちは元気なの?」


 学生時代のあだ名で呼ぶのは恥ずかし過ぎて、妙に他人行儀になってしまう。


『なんとか元気にやってるよ。家にはほぼ寝に帰ってるって感じだけど。』

 そう言って自虐風に笑うあなたに懐かしさを感じつつも、もうあの頃の私たちではないことを痛感し、目線を落とした。その時目に飛び込んできたのは学生時代、何度も絡ませ合った指だった。指をなぞるように見ていると、左手の薬指に光るものを見つけた。


「結婚、してるんだ。」

 気づけば口に出してしまっていた。


『ああ、こないだね。半年前くらいに。』

「そうなんだ。おめでとう。」

 心の底から思えない気持ちが咄嗟に口から出たことに驚いた。この手はもうあの時繋いでた手ではなく、他の誰かのためにあるのだ。わかっていたけど、わかりきれなくて、歌っていた友人のマイクに顔を近づけて一緒に歌った。

 その時流れていた曲、昔の私があなたを思って聴いていた歌だってことをあなたは知らないだろう。知ってほしくもないし。




 ふと、別れたあの日のことを思い出した。進学を機に地元を離れ遠距離恋愛になった私たちは自然と気持ちがなくなっており、ある日電話で別れを告げた。

「もしもし。」

『もしもし、どうしたの?』

「あのさ、

 好きかどうか、わかんなくなっちゃった。」

『・・・そっか。』

「連絡も少なくなったし、優しいのはわかるけど、伝わってこない。」

『うん、ごめんね。』

「だから、別れたい。」

『・・・わかった。』


『元気でね。』

「ありがとう。バイバイ。」




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