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図書館と観測者のブレイクタイム!  作者: 鳥路
第二章:紅鳥と友愛の観測記録
27/33

観測記録21:五十里朝編「被写体少女と空色の写真」

私の家は地主の家らしい。お母さんがそう言っていた

それと同時にお饅頭屋でもあって、写真館を経営している家でもある


そんな私が主に関わるのは写真館の方になる

カメラマンのお父さんと、美容師のお母さん

それから、カメラマン見習いのおにいと四人で、この五十里写真館の横にある家で暮らしている


私?私は・・・実はと言うとただの「被写体」だ

お父さんやおにいのようにカメラを持って、誰かを撮ることはできるけど、それを仕事にした姿は想像できないし・・・したいな、とも直感的に思えなかった

だからと言って、お母さんみたいに裏方から支える存在になる気もしない


「・・・ふわぁ」


私は言うなれば、写真撮影に携わる人間を排出してきた五十里いかり家の異端児だろう

五十里の子供なのに写真にも、その関係のあることにも興味がない・・・普通の子供

そんな私を、両親やおにいは・・・


とも

「あ、おはよ、おにい。今日も凄い寝ぐせだね。くるくるじゃん」

「おはよ。お前も人の事言えないだろうが。あーあ。できれば髪質は母さんに似たかったよ」

「お母さんは朝起きてもツルツルだからね。超羨ましいよね。でも私たちのヘアセットしないといけないから朝大変だよね」


朝五時半。兄妹揃って階段を降り、洗面台ではなく自宅スペースから通じる廊下を経由して、表のお店スペースに向かっていく

繋がる先はお母さんが経営している美容院

そこに設置されている椅子にいつも通り座って、テレビを見ながら次を待つ


「おにい、教育テレビにチャンネル変えてー」

「えー・・・もうすぐテスト近いし時事問題対策させろよ。お前だってもうすぐ受験じゃん。推薦枠でも少しは勉強しとけって」

「うぐ・・・まあ、おにいのいうことは一理ある。受験失敗するかもだし、うん。我慢してしばらくはニュースにする」

「おう。その調子で頑張れ」


まあ、こんな感じで兄妹仲はいい方だったりする

写真を撮らないからという理由で家族じゃないなんて言われたことは一度もない

好きにしたらいい。それが我が家のスタンスなのだから


「うん。ねえ。おにい、今日の夜時間ある?勉強教えて」

「いいぞー。夜八時からでどうだ」

「面会時間ギリギリまで過ごして帰ってきた前提か・・・まあいいけどさ」


私の第一志望である土岐山高校に通うおにい「五十里悠真いかりゆうま

なんだかんだで頭はいいし、体力だってとんでもない

小さい頃から将来を有望視されている若手カメラマンの一人で、コンクールでたくさん賞も取っている非の打ち所がない自慢の兄だ


そんな彼も、才能だけでここまで来たわけではない

確かにとんでもない才能はあるだろうけど、それ以上に・・・大好きな彼女の為に努力を続け、今を手に入れたのだ

正直、その姿勢はとても憧れる。口には、ださないけれど


「すまんな。それが、俺の一日の中で最も至福の時間だからな」

「写真撮影じゃないんかい」

「痛っ・・・母さん。わかってるだろ」

「わかってる。羽依里はいりちゃんだってことぐらい、この場にいる全員が分かってるんだから」


お父さんのヘアセットが終わったらしい。次はおにいの番になる

お母さんは朝から三人の寝ぐせ親子の面倒をしてくれる

くるくる癖毛を整えるのは大変だろうけど、それ以外の朝仕事は全部私たちがやるのが暗黙の了解。お約束だ


今頃、お父さんが朝食を作っている頃だろう

おにいも終われば洗濯とお風呂掃除。私がするべき食器洗いも今はおにいが担当してくれている

既に県外の芸術大学に進学が決まっていて余裕があるおにいは、私の高校受験が終わるまでは家事も肩代わりしてくれると言ってくれた


「そういえば、朝は今日早朝対策補習だっけ?お母さん、その辺り覚えてなくって・・・」

「それなら朝が先に・・・」

「ううん。今日はなんでもない日。だからおにいが先!」


色々な人に気遣われて、助けられて、来たるべき日へ歩いていく

だから、頑張らないと。支えてくれるおにい達が喜ぶ結果を得るために


そう思いながら、朝のニュースに目を向ける

そんな私をおにいとお母さんは優しい眼差しで見守るのだ


・・


朝ご飯を食べてから、私はおにいと一緒に学校へ向かう


「おにい」

「なんだ?」

「一つ、お願いがあるんだけど」

「なんだ?」

「うちの部活でね、受験勉強の息抜きも兼ねてソフトの試合をすることになったんだ。三年生組対在校生組で。その記録撮影を、おにいにして欲しくって」

「いいよ。最近は吐き気も出てこなくなったし、きちんと記録に残せるだろうから」


おにいはカメラマン。見習いがついてくるけど

しかしそういうのは、五十里の親戚だけ。周囲からはプロとして認知されている


風景写真がメインだが、人物写真だってそれなりに。どちらかといえば、人物写真の方が得意だった時期もある

でも、今は風景がメインだ。人物写真を撮ろうとすると気持ち悪くなる時もあったけど、今は大分落ち着いたようで、こうして人物写真メインの依頼だって引き受けてくれるようになった

きっと、彼女が必死で支えた結果だ


「やった!じゃあ明日、よろしくね!」

「明日!?明日は羽依里の退院日だから荷物とか引き取りにいかないと・・・時間は?」

「昼からだから。そうだ。羽依里ちゃんと見に来てよ。寒いだろうからしっかり防寒させてね。試合、長くなると思うけど・・・それでも、羽依里ちゃんにも私の成長を見て欲しいし!」

「そうか。今度も取るのか、ホームラン」

「絶対取るよ、ホームラン。今度は完璧なのをね」


おにいにそう宣言する理由は、とある昔の出来事がきっかけだ

八年前のあの日。私が小学校に入って、ソフトボールクラブに入った

歩きながら、昔を思い出す

私が初めてホームランを、それからおにいが初めて愛用のカメラで写真を撮ったあの日のことを


・・


八年前。私が小学一年生。おにいが小学四年生の時の時だ


おにいはお爺ちゃんから、一眼レフを買い与えられた

元々写真に興味があったおにいは、お父さんからインスタントカメラ、デジタルカメラと色々なカメラを与えられていた

けれどそれに満足いかなくなるのも時間の問題で・・・それに気がついたお爺ちゃんがおにいをカメラ屋さんに連れ出して、二人で選んだそうだ


将来、おにいの愛機になるそれは、当時はまだピカピカの新品で・・・おにいも嬉しそうに毎日眺めていたのをよく覚えている


「ねえ、悠真」

「なんだ、羽依里」

「・・・毎日、カメラを眺めているだけだね。撮らないの?」

「・・・外に持ち出すの、なんか怖いし。だからと言って家の中にいる羽依里を撮るのはなんか違う気がする。この閉鎖的な部屋は羽依里のいい部分をダメにしてるから外じゃないといけないのに・・・外に持ち出すのが怖い。我ながら矛盾していると思う」

「まあ、言いたいことは凄くわかる。でも、今まで使っていたカメラと同じじゃん。インスタントも、デジカメも、その大きなカメラも・・・違いは私にはわからない。けれど、カメラなんだから、撮らなきゃもったいない」

「そうだけど・・・」


高価なものを与えられたのは、おにいにとってそれが初めてだった

だからこそ、外に持ち出すのを凄く怖がっていた気がする。壊したら、どうしようと

けれどそんなおにいの背中を押すのはお父さんでもお母さんでも私でもなくて、彼女

おにいと産まれた年から何から何まで一緒の白咲羽依里しろさきはいりちゃんだった


同じ年の同じ日、同じ時間

同じ土地の同じ病院で、同時に生まれた二人の子供はとても仲良しで、どんな時でも一緒だった


「悠真」

「なんだよ・・・」

「カメラが泣いてるよ?私はインスタント以下なの!?って」

「・・・」

「新しい子を傷つけたらどうする?って考えてるけど、今まで悠真がカメラを落としたり、壊したりしたことないじゃん」

「それはそうだけど・・・」


羽依里ちゃんはいつも以上にうじうじしているおにいの頬を両手で挟んで、その目の中に写し込む

空のような青い瞳は、おにいの夕焼け色をしっかり捉えた


「だったら、このカメラを私だと思えばいい」

「カメラが羽依里・・・?何言ってるんだよ」

「悠真は、その・・・私のこと凄く大事にしてくれているでしょう?だから、そのカメラも同じように大事にして、守ってあげればいいと思うけど」

「・・・カメラは羽依里、羽依里と同じように。わかった」

「もう。単純なんだから・・・そこも、いいんだけど」


「じゃあ羽依里。そろそろ出かけよう」

「切り替え早い・・・でもやっとカメラを持って出かけるって発想が出てきたからいいけれど・・・」

「今日はどこに行く?近くの公園か?商店街か?」


カメラを鞄に詰め込みながら、おにいは羽依里ちゃんに行き先を聞く

いつだって、主導権は羽依里ちゃん

写真を撮ることを決めたらそれ一直線になってしまうおにい

それ以外が無頓着になる彼の・・・なんていうんだろう。撮影計画とか、お題とかその他諸々全て考えてくれている

そんな羽依里ちゃんに甘えっきりな部分は写真家としてどうなの?と思うが、それがおにい・・・五十里悠真の私的な撮影の時の在り方だ

仕事の時は流石に自分で計画立てて、依頼であれば相手と相談している・・・はず


「・・・少し、遠くにある自然公園とかどう?その子の本格デビューの日なんだから、少し遠出してみるとか?」

「いいけど・・・」


おにいは羽依里ちゃんの全身の隅々まで視線を走らせる

そして結論を出したと同時に、大きなため息を吐いた


「でも今日の羽依里の服は普通じゃん・・・どこにでもいる小学生じゃん・・・もっと可愛いのがいいー」

「じゃあどんなのがいいの?」

「この前、買ってもらったって見せてくれた冬のワンピ。こげ茶のさー」

「どうせ上着で隠れるのに」

「隠れている部分もオシャレして欲しいんだよ。少し上着を脱いでもらうかもしれないし」

「・・・隠れている部分もオシャレ。うん、わかった。着替えてくるから、少し待ってて」

「ああ。外で待ってる」

「家の中で待ってて!すぐに風邪引くんだから、ちゃんと防寒着たくさん着るんだよ!」

「わかってるってば」


当時はどちらかといえばおにいの方が病弱な印象が強かった

環境の変化に弱くって、直ぐに風邪を引く

来年の夏を過ぎたら、そのイメージもひっくり返るのだが・・・まだ当時の彼らにとって想像すらしない話だろう


「・・・」

「どうしたんだ、朝」


そんな二人が別々になったタイミングで私はおにいの部屋を訪れる

別に羽依里ちゃんのことが嫌いというわけではない。むしろ姉のように慕っているし、将来義理の姉になるのなら羽依里ちゃんがいいなと思うぐらいには好きだ

けれど、おにいと二人でいる時はなんというか・・・邪魔し難い?間に入ってはいけない気さえ覚えて、部屋へと向かう足が遠のいてしまうのだ


「おにい、どこ行くの?」

「写真撮影。朝はお留守番な」

「いつもの公園じゃないんだ」

「そういうこと。お土産にどんぐり持って帰ってきてやるから」

「ありがと・・・ってそうじゃなくてね」


この日、私がおにいの部屋を訪れたのは依頼をする為だ


「あのね、お願いがあるの」

「なんだ?」

「私ね、今度、ソフトクラブの試合に出ることになったの」

「そりゃあ凄い・・・流石朝。運動得意だもんな」

「うん。でね、それでね。おにいに、写真撮って欲しくって。頑張るから」

「あー・・・そうだよな。父さんと母さん、仕事だし試合来れないかもだもんな。わかった。お兄ちゃんがたくさん朝の活躍を撮りにいく。頑張れよ」

「うん!」


「じゃあ俺、羽依里と出かけてくるから・・・ご飯前には戻る。おやつは棚の中な」

「おやつは棚!覚えた!」

「よし」


靴紐を結んで荷物を抱えて、防寒着を着込んだおにいは羽依里ちゃんと出かけていく

私はいえたことに満足し、その心を抱えたまま台所へ向かう

そこの戸棚の中にあるお菓子。今日は、ソルトビスケット。大好きなお菓子だ

それを頬張って、満足感と好物を食べた幸福を一緒に飲み込んでいく


そのソルトビスケットは、いつも食べるそれと何ら変わりないのだが

いつもより美味しく感じたのはきっと、気のせいではない


・・


自然公園への道のりを歩きながら、俺は先ほどの話を羽依里にもする

朝が自分ですると思うのだが・・・まあ、別に隠すようなことでもないし


「朝ちゃん、試合にでるの?本当!?」

「本当だ。あ」

「どうしたの?」

「試合に出るにしてもレギュラーなのか、ベンチなのか聞くの忘れてた」

「・・・愚問だね。朝ちゃんはレギュラーに決まってる」


呆れた目線を俺に向けながら、羽依里は難しい言葉で俺の疑問に対しての答えを述べてくれる


「ぐもん・・・?まあ、しかし羽依里はなんでそう確信してるんだ?」

「悠真。自分の妹が所属しているソフトクラブのこと、何も知らないの?今、所属しているの九人なんだよ?」

「そうなのか。でも野球とかソフトって十一人じゃ・・・」

「それはサッカー」

「六人なのは?」

「バレーボール」

「五人はなんだっけ」

「バスケットボール・・・って、なんでどんどん人数減ってるのよ。話も逸れてきてるんだけど」

「なんか気になって。でも羽依里はきちんと答えてくれるんだな。物知りさんだ」

「逆に悠真はなんで覚えてないの・・・」


どうでもいいから、と言ったらきっと羽依里をさらに呆れさせてしまうだろう

話を逸らす為に、あえてカメラに触れて呆れ顔の・・・あれ?


「・・・」

「どうしたの、悠真」

「いつもの癖でデジカメ入れた鞄持ってきてた・・・」

「・・・」


鋭く細められた羽依里の視線が刺さる

呆れを通り越して、むしろ残念なものを見るような視線だった。できれば向けて欲しくなかった・・・


「ひ、引き返すか・・・」

「・・・ここで引き返すの?」

「今日はあのカメラで撮る話だし」

「私、さっきも言った通りカメラの違いはわからないの。だから、デジカメでも、インスタントでも、今日悠真が撮ろうとしていた写真は、撮れると思うのだけど」

「・・・」


上着の裾を掴み、頬を赤くしながら彼女はそう言った

違いがわからない、と言われるのはカメラを扱う人間としては解せない部分もあるけれど、当時の俺にとっては、この瞬間も、一眼レフで撮影に行こうと考えられた瞬間も、彼女のこの言葉は救いのようなものだった


「こだわりさえなければ、その・・・せっかくだし、ね?」

「そうだな。デジカメ最後の撮影で、今日は撮ろう。初めては朝の試合で。どうだ?」

「うん。そっちの方がらしいかも」

「じゃあ、続き」

「うん」


いつもの通り、手を繋いで歩き出した

俺がこのデジカメで撮影したのは、この自然公園での撮影が最後になる

秋の自然公園で撮影した羽依里の写真は今も俺の部屋、お気に入りのアルバムの中に残っているのは、彼女には内緒だ


・・


日曜日は快晴


「ごめんね、悠真。最初、任せちゃって」

「別に。仕事だから俺も朝もわかってるよ。父さんと母さんも、朝の初試合が見たい、早く行きたいって思ってることもわかってる。でも、だからって仕事を疎かにするのはなしな」

「わかってる」


母さんは父さん謹製お饅頭を朝ごはん前に食べながら、用意してくれたお弁当を差し出してくれる


「お弁当、羽依里ちゃんの分も作っておいた・・・ぜ!」

「ありがとう、母さん・・・しかし、朝ごはんの前に饅頭を食べるのはどうなんだ?」

「出来立てが最高だからね・・・もぐ。悠真も食べる?」

「食べる」


お父さんは元々お饅頭屋の長男坊

家のことを継げと言われ続けても、母さんを諦めなかったらしい

最終的に小倉の爺ちゃんを説得して、五十里のお婿さんに来たそうだ

ちなみにお饅頭屋は三男にあたるおじさんが継いでいる。次男の慎司おじさんも、父さんと同じように写真家の道を進んだから


しかし、家を離れようともお饅頭屋の息子。父さんは昔からお饅頭を作るのがとても上手だ

日曜日は母さんの要望で朝からお饅頭を作っている

目の前にあるこれもそんな母さんの要望でできた産物だ・・・ああ、いつもと変わらず美味しい

小倉だけに、小倉あんのお饅頭。母さんだけではなく、俺も朝も魅了されている懐かしささえなぜか覚えてしまう味は、小倉饅頭店の味でもあり、我が家の味でもある


「お、悠真。起きてたのか」

「おはよう父さん。もぐ」

「追加?追加?もぐ」

「親子揃って食べながら話すんじゃない・・・。本当にそっくりだな、お前ら」

「親子ですのでー」

「ので!」

「・・・全く。ほら、追加。熱いから悠真は気をつけてな」


別のお皿に載せられた追加のお饅頭

母さんと俺は目を輝かせながら湯気立つそれを迎え入れた


「ねえ、父さん。羽依里にも持っていきたい」

「そういうと思ってもう包んでる」


小倉饅頭の包装をわざわざ貰ってきたのか、お店に出すものと同じ包装紙に包まれたお饅頭を父さんは俺に差し出してくれる


「弁当と一緒に持っていけ。朝の分も入れてるから、三人仲良く食べろよ」

「御意っ!」

「それより悠真。そろそろ予定時間じゃないか。羽依里ちゃん待たせるぞ」

「それはダメだ!女の子を待たせるのはダメな男のやることだって慎司おじさん言ってたし!」

「そうね。それは慎司に同感ね」

「なぜ俺を見る」

「もぐ。父さん、母さん、ありがとう。いってくる!」


あっという間に予定の時間になってしまっていたらしい

今日はちゃんと母さんと確認して必要なものを一式、そして一眼レフを入れた鞄を持って出かけていく


「いってらっしゃーい」

「いってらっしゃい」


父さんと母さんに見送られながら、羽依里と待ち合わせした場所に向かう

その途中で、空を見上げた

今日は雲一つない快晴。いい、撮影日和になりそうだ


・・


「もぐ。ねえあなた」

「なんだ」

「そろそろお客様来る時間じゃない?」


悠長にお饅頭を量産している、外見だけは先ほど慌てて出た息子と同じ彼に声をかける

彼も同じくカメラマン。お饅頭屋ではもう、ないのだ

私のお父さんから五十里写真館を任されている彼は、人の写真を撮る仕事をしている


「げっ!饅頭作ってる場合じゃない!・・・って、そういう母さんこそ今日は七五三の撮影で、お子さんの髪セットがあるだろう。悠長にしている場合じゃないのは・・・」

「一緒。だけど、準備はできているもの。悠真と朝の寝癖を直した時に一通りね」

「・・・そういうところは用意周到だな」

「当然よ。だって今日は、色々と頑張る日だから。準備だけは念入りにね」

「まあ、そうだな」


「今日はなんせ朝の初試合で悠真の初撮影の日。同時になんの日だと思う?」

「なんだよ」

「真弘がお饅頭を作る日」

「・・・毎週だろう?」

「毎週だけど、もう毎週一回だけだもの。いつもは毎日お義父さんのお手伝いしてたじゃない。だから毎日食べられたけど、今は週に一回しか真弘のお饅頭を食べられない!」

饅頭こうぶつのことになると目の色変わるなぁ・・・俺が店を継げば、毎日食べられたかもしれないぞ?」

「それはつまり、あの公開ダブル告白で慎司アホを選べばよかったの?」

「・・・つまり、そういうことだろう?」

「もぐ」


出来立ての饅頭を口に放り込む


「貴方も弟と同じアホだったのね。というか、気がついてなかったの・・・」

「何が」

「商店街の皆も、家族も私が真弘を選んだのは「饅頭作れるから」だって思ってるけど、その程度で彼氏を、将来旦那になる人を選んだりしないから。確かに真弘の饅頭は好きだけど。もぐ」

「お、おい、智春。その先!その先は!?ちゃんと聞かせてくれるんだろうな!?」

「あ、もうお店開けなきゃ」

「智春ぅ!?」


子供の頃から変わらない情けない声を後ろに、私は仕事の準備に入る

その途中で、片手で掴んだお饅頭を口に放り込んだ

程よい甘さをもつそれは、いつもと変わらず私に元気をくれる


『いらっしゃい、智春』


まあ、私に元気を与えていたのは小倉の饅頭だけではないけれど、それを話す気はない

しかしいつかは気がついて、誤解を解いてもらわないと


「私は、貴方の笑顔が好きだから」


その事実に気がついたら、どんな風に笑うのだろうか

私は写真家一家に生まれておいて、カメラへ興味を抱かなかった異端児

けれど、もしも私が姉たちと同じ写真家であったならばきっと

一番に収めていたのは・・・彼の笑顔だと断言できる


「さあ、お仕事頑張ろう!」


このあと、待っている家族の時間を考えながら仕事モードに切り替える

悠真から言われた通り、焦ったりしてはいけない


「私だってプロだもの。最高の一枚を作る手伝い、頑張らなくっちゃ」


こうして、五十里家の一日が幕を開ける

今日は忙しくなりそうな予感を覚えながら、私はお客様を出迎えた


・・


土岐山小学校に移動した俺と羽依里

今日の試合はうちの小学校の運動場で行われる


「悠真、あそこがいいんじゃないかな。撮りやすそう」

「そうだな。ありがとう、羽依里」


カメラの準備を整えて、いつでも撮れる準備を終える

ファインダー越しに試合を覗き、様子を見守る

うちが先に攻撃をする側らしい。俺はルールなんて知らないから、とりあえず攻撃の時は朝の出番が来るまで試合を見て、守りの時は朝中心にカメラを構える方向で進めていこう


「朝の出番まではまだまだ先だ・・・のんびり見るか」

「そうね。ところで悠真」

「なんだ」

「ソフトと野球の違いって何?」

「俺も知らない」

「そう・・・」


無知というのはわりと残酷。目的がないというのはもっと残酷

目的の存在が来るまで、凄く退屈で眠気さえ覚えてしまうのは・・・悲しい話だ


「ルールも知らなければ、興味もない。何をしているのかさっぱりわからない」

「・・・男子、いつも昼休みになったら試合してるよね。悠真も参加してるのに、ルールわからないの?」

「俺、得点書く係で試合一回も出たことないんだよな。周りが楽しそうに見ているのを遠巻きに見ている感じで」

「・・・それでいいの?」

「ああ。意外と、勉強になる」


なかなか人が動き回っている中、ここぞという瞬間を抑えるのは難しくて

そういう瞬間をきちんと撮る為にも洞察力というか、観察眼を磨くのも必要だと思うから


別に、やりたくないというわけではない

けれど、俺にとってはどんなことよりも写真を撮りたいという気持ちが先行して、遊ぶ気持ちがなくなるだけなのだ


「見るというか、撮影のことになると悠真は人が変わったみたいに真剣になるから、凄いよね」

「そうか?」

「うん。でももう少し子供っぽくてもいいと思う。年相応に遊んだりしたって、誰も怒らないよ」

「わかってる。でも俺にとって写真を撮るのは一番の趣味だからさ。そっちに気持ちがいっちゃって、普通に遊ぶ気がなくなるだけなんだ」


羽依里に素直な気持ちを伝えると、彼女は「そっか」と笑いながら呟く

しかし、もう少し子供っぽく・・・か


「逆に聞くけど、俺が年相応になったら羽依里はどう思う?」

「そうだなぁ・・・それもいいと思うけど」

「けど?」

「今の悠真が、私の一番だから」

「・・・羽依里」


私の一番と言われて喜ばないわけはない

羽依里は小さい頃から一緒にいる「大好きな女の子」なのだ

小学四年生になって少しずつ、そういう話題も出てきている。付き合ったとか、好きだとかまあなんというか恋愛的な話

ませているとは思うが・・・それでも「変えたい」のだ

それはきっと俺だけの我儘だろうけど・・・


「あのさ、そういう意味で捉えていいのか?」

「そういうって・・・」

「一番の、意味だよ」

「一番の意味・・・あっ!?」


今、自分の言葉を思い返して気がついたのか彼女は素っ頓狂な声を出して頬を、そして耳の先まで赤くする


「そ、それは・・・」

「それは?」

「あ、後でいう。今は、朝ちゃんの試合が優先!ほら、朝ちゃんの番!しっかりカメラ構えて!写真撮る!」

「あ、ああ・・・」


話しているうちに朝の番になったらしい

慌てて俺もカメラを構えて、朝の姿をファインダー越しに見守る


この話の続き、そしてその答えに着地するのはこの試合の後・・・ではない

来るべき春が来るまで、羽依里からこの先に話されるはずだった答えはないのだ

次の春を迎えて、夏を海外で過ごす

そして秋の「転機」を経て、俺たちは大人になる一歩手前まで、変化のない時間を過ごすことになる


その間に、羽依里に病気が見つかり、入院して

俺は俺で、人物写真が撮れなくなる出来事が起こるのだが・・・それはまた、別の話

それを解決するのも別の話なのだ


この話の続きは、俺たちが高校三年生、十七歳の春になる

春来る君がもう一度学校に通えるようになるまで、俺は来るべき春を待つ

お決まりになったあの言葉を彼女から告げてもらうのは、この時の俺にとってはまだ、遠い話だったりする


・・


遂に私の順番がやってきた

ホームに立って、バットを構えた

ゆっくり息を吸って、意識を研ぎ澄まし、その瞬間を待つ

初めての試合、初めての攻撃

何度も練習したけれど、今はその時と状況が全く違う


正直、怖い


練習でならできた。もちろん、できると断言できることも・・・今じゃ、なぜか震えが先に出る

いままで出来ていたことも、すんなりこなすことはできないだろう

そんな予感が私の中を埋めていた

試合・・・勝負だから、だろうか

練習の時のような和気藹々とした空気はどこにもない

勝つか負けるか・・・だから、殺伐とした空気が漂っているのだろうか


「・・・この空気は好きじゃない」


こんな空気の中、私はうまくやれるのだろうか

そんな不安を、バットを握る力に変換する。震えは、まだ止まらない

今すぐここから逃げ出したい、そんな思いになった時だった


「とーもー」

「・・・!」


遠くから、おにいの声がした

声がした方を見ると、カメラを構えたおにいの代わりに羽依里ちゃんが手を振ってくれる

そしておにいもまた、カメラを離して私に向かって手を振ってくれる


「大丈夫!」

「大丈夫だよ!」


二人揃って、屈託のない笑みを浮かべる

告げられた大丈夫は、根拠もない大丈夫だったけれど、それでも・・・私はその言葉で前向きになれるのだ


震えが止まり、しっかり前を見据える

おにいと羽依里ちゃんが見守ってくれるのならきっと大丈夫

ピッチャーが球を投げて、私はここぞというタイミングでバットを振る


球が、当たった音がした


真昼の空に、白の星が飛ぶ

しかしそれはすぐに落ちて、茶色いグローブの中に収まってしまうのだ


「アウト」

「・・・しゅん」


打てたけど、それは点数にならないものになった

チームメンバーやコーチからは、よかったといわれたけれど・・・すぐに取られたのは事実

結果は、勝利したけれど・・・この試合で私は何もできなかった

軽いミーティングの後、解散した私はおにいと羽依里ちゃん。それから仕事を終えたお父さんとお母さんと合流して、学校を後にした


それから近くの自然公園に立ち寄って、そこでピクニックのような感じで昼食を摂ることにした

家族でこうして過ごすのは珍しい

平日が暇な時が多くて、休日は忙しい我が家はこうして家族揃って外出に縁がない

だからこそ新鮮・・・なのだけれど、気持ちは重いまま。あまり、楽しめないでいた


「朝」

「・・・お母さん」

「初めての試合、どうだった?」


お母さんが優しい声で聞いてくる

けれど、お母さんが望んだ答えを私は告げられない


「・・・あんまり、頑張れなかった」

「そう・・・」

「嘘つけ。朝、めちゃくちゃ頑張ってたじゃん。な、羽依里」

「うん。凄かったんだよ。朝ちゃん」


そんな私の言葉を嘘だと反論をしてくるのは、おにいと羽依里ちゃん

おにいはカメラに保存した写真をお父さんとお母さんに見せながら、こう言った


「朝、球打ったんだ。ほら、空に向かって飛んで行った。真昼の白星だ」

「おお・・・」

「それ・・・すぐ取られた、から。勝ちに貢献したものでもないし」

「それでも、朝ちゃんはこうして球を打てた。凄いと思う」

「初試合で初めての攻撃。めっちゃ青ざめた顔で震えてたのにな・・・」

「見えてたの?」

「望遠レンズ使ってたから。まあ、何が言いたいかというとな」


おにいは私をしっかり抱きしめて、お父さんと同じ笑顔で笑う


「朝は凄かったぞ!かっこよかった!」

「おにい・・・」

「ほら、頑張りましたな父さん特製饅頭と母さんのお弁当。たくさん食べて次は勝利に繋がる点とやらをとればいい。でも、お兄ちゃんは思うんだ」

「何を?」


お父さんが見ていたカメラを返してもらい、おにいは最後に撮った写真を見せてくれる

勝ちが決まった瞬間、チームで喜んでいた時の写真だ


「・・・勝ちにこだわるのもわかるけど、一番は朝が皆と楽しむことだと思うぞ」

「そうだね。うん。次は全力で楽しみながら頑張る!」

「ああ。次、楽しみにしているな」


それからは普通に家族と羽依里ちゃんとの時間を過ごしていく

おにいとお母さんと私で饅頭を頬張る姿を、お父さんと羽依里ちゃんが笑いながら見守る


「・・・」

「・・・」


その顔に、呆然とするお母さんとおにいはいつも通り

お母さんはお父さんの、おにいは羽依里ちゃんの笑顔に弱いから


「はむっ!」


私も五十里の血筋なら、誰かの笑顔に弱いかもしれない

いつか、現れるだろうか。私好みの笑顔を浮かべる人が

未来に期待を覚えながら、饅頭を口に頬張る

家の味がする、ほのかに暖かいそれは今日も変わらず美味しい


・・


「そうだな。思えば、あれから八年か」

「そう。八年なんだよ。おにい」


長い時間が経過して、もう八年。私は中学三年生で、おにいは高校三年生だ


「まさか、朝がソフト続けるとは予想外だった」

「おにいが慎司おじさんに撮影旅行に連れ回されて、あれから一度も試合観戦にこないなんて当時の私も思ってないだろうね」

「だろうなぁ・・・」


二人揃って大きな欠伸をする

揃った瞬間に苦笑いを浮かべながら、また他愛ない話を続けていく


「カメラはまだ、現役?」

「ああ。今もここに」


おにいは学校用の鞄とは別に持っている鞄を私に向けつつ、その存在を教えてくれる


「色々なところに連れて行ったから少し傷はついちゃったけどな」

「そっか。これからもおにいの相棒でいてくれそう?」

「どうだろう・・・ガタが来てるところもあるし、少し心配なところもある。もしも代替わりをしないといけない事態になったら、今度は朝が選んでくれよ」

「羽依里ちゃんじゃなくて、私?」

「ああ。このカメラで初めて撮った写真は朝だから。次のカメラは朝に選んで欲しい」


一番大事な女の子ではなく、私にそんな選択権を与えていいのだろうか

いや、おにいがいいと言っているのだからきっと・・・これでいいのだ


「私もあんまり詳しくないよ」

「いいって。色だけでも選んでくれよ」

「黒一択じゃん」

「たまに白とか茶色とかあるんだぞ!?」


「でもおにいが普段使ってるカノン製のカメラって黒ばっかじゃん。おばさんみたいにナスフィルムとか、オロンパスとかお洒落なのにしていいの?」

「それは・・・まあいいけどさ」

「冗談。おにいの意見もちゃんと聞くからちゃんと選ぼうよ。おにいが使うものなんだから。私が選ぶのは周辺アイテムだけにしとくよ」


中学校と高校の分かれ道に差し掛かり、私とおにいはそこで別れてそれぞれの通学路へ足を進める


もうすぐ、春が来る

次の春がきたら、この日常も終わってしまうけれど

それまではまだ、一緒に

ううん。これからも私はおにいの妹で。おにいは私のお兄ちゃん

これからも変わらない。どんな風になろうとも。家族としては一緒にいられる


「おにい!」

「んー?」

「いってらっしゃい!」

「おー。朝もいってらっしゃい」


遠くから声をかけて、そのまま中学校への道を駆ける

桜の蕾はまだ小さく

それでもそれが咲く頃にはもう私はこの道ではなく、おにいが歩いた道を歩く・・・はず

そうなれるように頑張らないとな、と思いながら私は行くべき場所へ向かって行った


・・


それから、七年後かな

私が社会人になった春のこと

一人暮らしはまだ。落ち着いたら考えることにしている

部屋に飾ってある中学時代の私たちソフト部の写真。おにいが撮ってくれた私が中学生だった時の写真は、大事に飾ってある


「悠真、朝ご飯もういいの?今日、少し遠出するんでしょ?」

「ああ。でも、もうお腹いっぱいだし・・・」

「いいから食べる。体持たないよ」

「・・・わかった」


かつて、私たちが住んでいた写真館裏の五十里家は兄夫婦が受け継ぐことになった

代々、写真館のオーナーがここに住む習わしらしい。ちなみにお母さんは新築の五十里家から写真館一階の美容院に通っている

お父さんはおにいのサポートをしつつ、今まで写真館の都合で受けていなかった学校カメラマンの契約をしたりと、色々と楽しみつつそれぞれの生活を送っている


・・・正直私も家を出たかったんだけど、両親について新築の方に行くと一人暮らしをする気がなくなりそうだし、しばらく兄夫婦と一緒に住むことにした

と、言っても一年ぐらいだけど!流石に、その・・・若夫婦の間に挟まり続けるのも気が引けるし・・・

けど、そんな私の意に反しておにいたちは私がいるのを凄く喜んで、いつまでもいさせようと甘やかしてくるし・・・


けど、そろそろ自立を目標に頑張りたい。社会人にもなったし!

けど、このお願いだけはどうしてもおにいに甘えないといけない

・・・叶えて、貰えるだろうか


「おにい」

「どうした、朝」

「あのね。朝ごはんの途中で悪いんだけどさ。お願いがあるの」

「来週の土曜日は、結婚式の撮影。日曜日は家族写真の撮影がはいってるから無理だぞ」

「言いたいことわかるんかい。じゃあ、再来週は?」


目的の日を告げると、おにいは待ってましたと言わんばかりに笑うのだ

きっと、私も笑っていたと思う


「日曜日はフリー。母さんから予定聞いてたからな。あえて空けた」

「それなら話は早い。今度、土岐山の地域ソフトクラブの記録撮影に来てよ。私、試合出るからさ。だめ、かな?嫌ならいいんだけど・・・」

「いいぞ」

「即答!?なんで?」

「なんでってそりゃあ、妹のお願いだからだよ。滅多なことを言わない妹の貴重な我儘。聞かないわけないだろ。ちゃんと叶えさせろよ、お兄ちゃんに」


子供の時のように、私の頭をそっと撫でてからおにいは仕事場へと降りていく

昔よりその手つきは優しい。多分、あの子の為だ


「あ、そうそう」

「どうしたの?」

「今度も、綺麗なホームラン見せてくれよ」

「言われなくても。絶対見にきてね!約束だから!」

「ああ。約束だ」


まるで思い出したかのようにそう告げた兄の後ろ姿を見送って、私は仕事へと出かけていく

お父さんやおにいのようにカメラマンでもなければ、お母さんのように写真を彩る手伝いをする仕事でもない

無縁の仕事に今は勤めているけれど、それでも私は五十里写真館の娘だ

そして同時に・・・・


「あぁ・・・お父さんまた人の写真勝手に飾って・・・人目につくんだからやめてよね」


五十里写真館の一回窓の展示スペース

おにいとお父さん。たまに慎司おじさんが撮った自慢の作品が展示されていたりする

仕事で撮った写真の間に飾られる家族写真

私たちが子供の時の写真もある

五十里一家勢揃いの家族写真から、私たちの成長を見守ってくれている商店街の人たちと撮った写真

兄夫婦の同級生たちと撮った卒業写真から、結婚式、ウエディングドレス姿で撮った記念写真まで、ありとあらゆる思い出がそこに展示されていた


それから、おにいの作品の中でも有名な「夏の訪れ」

子供の時からの写真は、いつしか大人になり・・・その先もまた、ここに飾られることになるだろう

このスペースは私とおにい、そして私たちを取り巻く人たちの生きた時間がつまっている、ガラスで綴じられた大きなアルバムなのだから


窓ガラスに、私の笑顔が映った

子供の時よりは大人びたと思う。特に・・・

兄の卒業写真の中にいる「彼」と出会った時よりは、子供っぽさが抜けて、大人びたものになっていないと困る


そして、このスペースにこの前新しい写真が追加された

社会人になった私とおにい、そして両親の四人で撮った写真

少し恥ずかしいけれど、ここに飾ったのはお父さんなりの自慢だから、やめてなんて目の前では言いにくい


「悠真も、朝も・・・ここまで大きくなりました。皆様の見守りのおかげです・・・か」

成長記録のように書かれたコメントも恥ずかしさを募らせてくるのだが、事実だから否定なんてできやしない


照れを押し殺しながら、中学校にも、高校にも行かない道を歩き始めた

新品の靴を奏でながら、またもや不安を交えた心を抱く

もう、昔のようにおにいや羽依里ちゃんが手を振って、行き先を導いてはくれない

この先の道は、自分の足で歩いて、切り開いていかなければならない

同時に、向かうべき道は私自身で決めなければならない


ふとした瞬間に空を見上げた

本日は快晴。いい、始まりの日になりそうだ

春の風が背中を押すように吹き渡り、桜並木が吹雪を生む道

今日から歩くことになる新しい春の道へ、私は駆けていく

私が向かうべき場所へーーー!

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