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図書館と観測者のブレイクタイム!  作者: 鳥路
第二章:紅鳥と友愛の観測記録
28/33

観測記録22:地井夜雲編「風見鶏と休日の青鳥観察」

「伊奈帆、提出資料完成した・・・チェックを」

「おお、良くできたね。ゆずる。しかし君、動いて大丈夫なのかい?長期休暇申請資料ぐらい、取りに言ったのに・・・」

「・・・伊奈帆の手を煩わせたくはない」

「と、いって聞かなくて」

「全く。君は本当に愁一しゅういち兄さんそっくりだね・・・」


俺たちが属する鈴海大社特殊戦闘課第二部隊司令官「綾波伊奈帆あやなみいなほ」と、俺たちの同年代で既に大社の誉れ「羽」の称号・・・「青鳥」の名を得ている魔法使い「椎名譲しいなゆずる

高純度の魔力が宿るらしい紫紺の目に光はなく、今日も色素を失った白い髪を静かに揺らし、伊奈帆の側へ向かう

もちろんその隣には、彼のお目付け役?的なポジションを確立しているでかい鳥こと使い魔「ピニャケル」も一緒だ

今日も譲の魔力を吸いまくって肥えた鳩胸を主張しつつ、譲の横をテチテチ歩く


「それにきょうはへいきだし・・・」

「主、口から血を流していうセリフではないかと。後は安静にしていましょう」

「うん?」

「頼んだよ、ピニャ。きちんと輸送を頼む」

「言われなくても」


ピニャケルに担がれて、譲は今日もまた病院に戻される

その様子を、俺と紅葉あかばは呆然と眺めていた


「・・・今日も担がれていったね。椎名君」

「あいつ、本当にあの地獄みたいな試験に合格した特殊戦闘課の一員かよ・・・」

「合格どころか、一人であの群れを撃退したんだがね・・・何にせよ身体が弱いせいで強くは見られない」

「「ぎにゃあ!伊奈帆!」」

「既に君たち二人が襲撃をかけたとしても倒せる領域にはいない。もちろん私もだよ」


幼少期から、彼は僕たちよりも強かった

しかし身体が脆弱。膨大な魔力を子供の身体では受け止められない


けれど、伊奈帆は言った

青年期になれば「釣り合う」から、更に強くなる・・・と

あの時の俺と紅葉は「まさか」と考えていたが・・・


「魔獣は皆殺しじゃああああああああ!ひゃっはー!」


これを見たら、疑ってしまったことを申し訳なく思うぐらいに、譲は健やかに育ってしまった

ご先祖様から譲り受けた由緒正しい家宝こと魔法旗杖「リュミエール」を振り回しながら、叫び続ける彼の周囲には均一に作られた無数の魔弾


「おっかしいよな〜。あれ、詠唱なしだと大きさも形もバラバラらしいじゃん」


このアホ赤毛は宮紅葉みやあかば。俺の同期で第二部隊では後方遊撃手として数多の戦果を上げる「紅鳥」

アホなのに能力が唯一無二ということもあって、色々な現場に駆り出されてあっという間に「羽」を得たエリートさまだ


「なんで全部同じ大きさで、指示さえ送れば全部同じ速さで放出されるとか、普通はありえませんが、司令ですからねぇ」


初心者用の杖を携えたこいつは野々原陽雪ののはらはるゆき。防御特化の魔法使いだ

現在進行系で、俺たちは彼の結界の中で譲の「ヒャッハータイム」が終了するのを待っている状態だ

こんな状況で悠長にお茶を飲んでいるあたり、彼も相当頭のネジが外れた部類の人間なんだろうな


「もう今更ですもの。これぞ、第二部隊名物と言っても過言ではありません」


そして優雅に槍を構え、金髪を揺らすアホは日々音優梨ひびねゆうり。期待の新人


「あぁ・・・今日も司令の戦いぶりは素敵ですわ。無双というのですよね。やはり司令の前に敵はなし・・・!一生ついていきたいですわ!」


そして同時に譲バカ。鈴海大社の入社試験を受ける少し前に、お家騒動を譲におさめてもらったとか何やらかんやらで、変な執着を向けるようになったようだ

・・・これさえ目を潰れば、まともな感性をしている方だと俺は思う

話は紅葉や陽雪に比べたら通る方だしな


「もう譲一人でいいんじゃないかって思うよ・・・まあ、兄貴分としてはやっぱりあれは心配だけど」


こちらはまさかの参戦。第二部隊の強襲担当「雷鳥」八坂浩一やさかこういち。元全身ラバースーツさんと言ったらマジギレしてくるやばいやつだ

今は非常勤で大社に勤めている


やめても良かったらしいが、幼年保護施設時代から一緒にいる譲が心配なので、彼が退職するまでは様子を見守るそうだ

兄貴分というのは、結構大変な生き物らしい


ちなみに彼は能力制御が壊滅的に下手くそで、能力制御リングなしでは生活すらままならない状況だ

しかしそれさえあれば本土で妻子と共にのんびり過ごせるんだから、譲の叔母が作ったらしい能力制御リングは本当に優秀な代物なんだなと思わされる


「・・・魔獣相手だといつもあんな感じだよな。何か強い恨みでもあるのか?」

「いや、ただ単にデスクワークでたまりに溜まったストレスを容赦なくぶつけられる相手だからだと思います・・・」


譲の様子をのんびり眺める通信手「葉桜光輝はざくらこうき」と紅葉と同じく後方遊撃手を務める「江上和夜えがみかずや

うんざりとした様子で眺める二人からしたらこの光景は「ああまたか・・・」といった感じなのだろう


俺たちが勤める鈴海大社。属している人間は全員、魔法使いとして、能力者として一流と言われるような人間ばかり

それは紅葉も俺も、陽雪も優梨も、浩一さんも光輝も和夜も例外ではない

もちろん伊奈帆も同じだ


そんな精鋭を集めて作られたのが「特殊戦闘課」

何をするかといえば、それは部隊毎に分かれているのだが・・・

俺たちが属する「問題児部隊」もとい「第二部隊」は目の前にいる魔獣の討伐だったり、魔法や能力・・・その他非科学的と言われるものに関する事件への対処が主な仕事になる

そんな問題児共を引っ張るのは俺たち一の問題児


改めてご紹介しよう

あちらにおわす、紫紺の瞳を嬉々として照り輝かせた男

白髪に薄っすらと青が混ざった不思議な髪色を持つ彼こそ、鳥に担がれて病院に運搬されていた大社きってのエース「青鳥」椎名譲。二十歳の姿だ

今日も元気に大社の業務・・・魔獣討伐に勤しんでいる


「多重展開!」

「げぇ・・・陽雪。譲が詠唱したからガチなのぶっ放すみたいだ。結界頼む」

「はい!夜雲さん!」


この世界の魔法原理というものはよくわからない

この結界にいる面々は、陽雪以外は全員能力者側の人間だから


しかし、譲の説明によると・・・魔法は体内にある魔力と、大気中に存在する魔力を練り合わせ、形作る力だそうだ

詠唱というのは、魔力に形を与える「補助式」らしい


初心者は形を作るために詠唱を行う

しばらくすると魔力操作のコツを覚え、無詠唱で魔力に形を与えることができる

そして化物ゆずるクラスになると、詠唱を行うことで更に魔法の精度を増し、ただでさえ高火力の魔法を更に強化することができるようだ

もちろん、奴の弟子をやっている陽雪も例外ではない


「・・・世界を結ぶ星の糸、強固なる檻となり、我を敵から守れ」


彼が詠唱を行った瞬間、結界が一等星のように瞬く

無数に張り巡らせた糸は光り輝き、最後は地面に落ちて透明に


「いつ見ても、お前の結界は細かいよなぁ」

「えへへ・・・まあ。魔力粒子の分解においては司令にも負けていませんので!夜雲さんも司令の講義、聞いてみては?為になりますよ!」

「んー・・・考えとく。今後の為にも役立ちそうだし」


魔法と能力の差は大きい

けれど、元を辿れば同じような力だ

むしろ魔法の方が原初で、俺たちが使用している能力・・・星紋ステラリープが派生能力という説もあるぐらいだ

その説を信じるのなら、魔法に関する講義も無視できない話といえる


それに鈴海一の魔法使い様が送る特別講義となれば、聞く価値は十分にあるだろう

今度時間取らないとな・・・俺の今後の為にも


「・・・まりょくりゅうし?」

「魔力を更に細かくしたもの。これの細かさで魔法の精密度が上がるって・・・これ、学校でもやっただろ、バカ葉」

「もっと言えば、魔力操作が上手くなければできない芸当とも言われているわよ、バカ葉」

「・・・つまり、魔力粒子がなんなのかすら理解していないお前には一生無理ってことだな」

「浩一さんはともかく、優梨と光輝は酷くね!?年々俺の扱いが酷くなってね!?」

「「だって事実だし」」

「事実でも言っていいことと駄目なことぐらいあるんだが!?」


・・・マジでこの知識皆無バカが羽の称号を賜れたのは運が良かったからとしか思えない

本当なら、俺だって


「天翔ける星々よ。我が道を阻む者に、鉄槌を!」


一瞬、大きな光が瞬いた

強固に張られた結界でもブレが起きるほどの膨大な力が外で放たれたらしい

何もかも、あの場で笑う魔法使いが原因だ

詠唱を行った魔法使いの固定砲台

そこから放たれる魔弾から、結界無しで生きて逃れることなんてできやしない

もちろん俺と紅葉も何回か死んだことがある

まあ、その度に譲から蘇生してもらうのだが


「紅葉〜夜雲〜終わったよ〜」

「甘ったるい声の「終わったよ」やめろって。怖いんだよ・・・」

「返り血がなければ満点だったと俺は思うぞ」

「正気?」

「褒めてやったのに、逆に正気を疑われるとかなんなの?」

「事実でしょう?返り血を全力で浴びている男に点数をつけるのは、正気じゃない」

「・・・まあ言えてるわ。でも、ここにいる連中は全員まともじゃないぜ、譲」

「君の頭は特にね・・・」


「あれ、譲からも頭のことでケチつけられるの?」

「むしろなんでケチを付けられないと思ったの。君の頭というか記憶力と理解力はまともじゃないというか、なぜ僕がつきっきりで教えても何一つ理解しないどころか、途中で諦めた責任を取るためにテスト本番で感知妨害に加えて、通信魔法と視覚共有魔法でのカンニングも行って答えを教えたというのに、なぜ赤点を取るんだい?」


その場にいた紅葉と譲以外の全員がドン引きした

元々紅葉の学業成績は非常に悪い。高校時代はオール赤点だったはずだ

むしろ俺たちはこいつが大学に進学できたことの方が驚きだ


「それは譲が、何を言っているかさっぱりわからない解説をしてくるから」

「僕は懇切丁寧に「答え」だけ教えたよ。余計な解説なんて一切していない」

「お前、答えを解説と誤解って何やってんだよ」

「延々と答えだけ言われるんだぞ!?解説としか思えなくて頭がパンクしたんだよ」

「可哀想に・・・」


憐れむ視線を紅葉に向ける譲は笑ってはいなかった

珍しい。あいつが本気で憐れんでいるところなんて久々に見たぞ


「譲」

「どうしたんだい、夜雲」

「なんで俺にもしてくれなかったんだよ、魔法カンニング協力」

「夜雲はしなくても平気じゃないか。夜雲は大丈夫だって信じているからね」

「俺は?俺は心配なわけ?大掛かりな魔法を使うほどだもんなぁ。心配されてるね、俺!」

「紅葉、その態度はそろそろ改めてね。権力に物を言わせて君を再度小学校に通わせるよ?」

「それは勘弁してくれ!」


早朝六時。俺たちの一日はこうして始まったかのように見せて、実は終わり

俺たちは今まで、鈴海近辺の深夜哨戒を行っていたからだ

つまりは夜勤。朝が来たらおしまいだ


普段なら帰って寝ようと思うのだが、今日は譲の一日に密着してみようと思う

確かあいつ、今日はこの後非番だったはずだし

仕事禁止令も出されていたから、この後は大社に入り込むことすら禁止だったはずだ

なので、今日の譲は珍しく外でウロウロするはず

・・・面白そうだから、つけてみよう


・・


午前九時


退勤した譲は、近場の喫茶店にフラフラと立ち寄った

そこでモーニングセットを頼んだあいつは、パンを齧りながら呑気に本を読んでいた

ちなみにこの喫茶店、モーニングセットはコーヒーのみの提供になっているのだが

常連なのか、はたまた名前が売れている影響か

わざわざコーヒーを紅茶に変更している。横暴では?


「マスター。朝の忙しい時間帯、僕の為だけにノンカフェインの紅茶を淹れて頂きありがとうございます」

「いいんだよ。椎名君は常連さんだし、今日も深夜哨戒の帰りだろう?戦えない俺たちは椎名君たちに守ってもらえているんだ。特別サービスぐらいはするさ」

「しかし、マスターの厚意に対し、無礼を働いている存在がいるんじゃないかとたまに心配しておりまして」

「大丈夫・・・君以外の職員さんだと、葉桜君と江上君と日々音さんぐらいしか来ないから。他は皆、隣のファミレスに行っちゃってさぁ・・・」

「若い子が多い故の弊害ですね・・・」


そういえば、大社前にあるのにここに立ち寄ったのは初めてかもしれない

提供の速さといい、メニューの豊富さといい・・・安さといい、二十四時間営業ファミレスの方が都合のいい場所なのだ

普通の、育ち盛りかつ腹を空かせた貧乏性の職員は特に!


「そうそう。でも、その三人と君はお行儀が良いから安心して経営できてるよ。それに、君が常連ってこともあって、変な輩も寄り付かないし。君には本当にお世話になりっぱなしだ。今後とも贔屓してくれると嬉しいよ」

「名前が役に立ってよかったです」


譲は一口紅茶を飲んだ後、あまり見せない笑顔のまま話を続けていく


「僕もここの空気は気に入っています。それに、持病の関係でコーヒーどころか、カフェインのある飲み物が飲めない相談にも応じて頂いて・・・他にも、普通は頼めないようなことにも応じていただいて。マスターには感謝しかありません。僕の方こそ、今後とも宜しくお願いしたいぐらいですよ」


譲は産まれた時からある持病と付き合っているらしい

それは魔力関係の持病も関係しているらしいが、元々「物」も丈夫ではないそうだ


「そろそろ時間ですね・・・マスター。ごちそうさまでした」

「いえいえ。今日はいまからお休みかい?」

「ええ。けれど、定期検診が」

「そうかい。今日も良好だといいね」

「ええ」


会計を済ませて、彼は喫茶店を出ていく

俺もその後を追うように会計を済ませ、店を出ていく

食べかけのパンは、頑張って口の中に詰め込んだ


・・


午前九時半


譲は鈴海大社付属病院で、主治医の獄卒・・・もとい戸村夏乃とむらなつのさんに連れられて診察室に投げ込まれた


その間、俺は他の看護師さんたちに事情を話した上で、診察室の外から中の様子を伺うことにする

ちなみに夏乃さんは譲の養母もやっているらしい。まあつまりのところガチの保護者だ

親類であるとか、そういう血の繋がりは一切ない

夏乃さん自身、譲との関係は主治医であり、あいつの両親と腐れ縁だっただけなのだ


譲の両親はあいつが七歳の時に殺されたと聞いている

まあ、聞かずともこの人工島「鈴海」に住んでいる人間なら誰しもが知る有名な事件だ

俺たちが住んでいるこの鈴海が傾くような事件

鈴海の守護を担当していた結界能力者「椎名愁一しいなしゅういち」が死んだと同時に、結界が解かれたタイミングで反能力者団体に襲撃されたのだから


「全く。いつになったら大社をやめてくれるの」

「僕の身体は魔力を溜め込みすぎると良くないって言ったのは夏乃さんじゃないか。持病が治るまではやめられないよ」

「ピニャがいるじゃない。適度に吸わせておきなさいよ」

「最近メタボ気味なんだよ・・・」

「やはり一匹じゃ足りないか」

「そう。百匹か、それ以上いないともう駄目なんだ」


本来なら魔力というものは器以上に生成されることはないらしい

しかし、魔力を生成する器以上に生成が行われる病気が存在する

あいつが罹患しているのはそういう病だそうだ


譲と一緒にいるピニャ・・・略をしなければ学術名は「ピニャケルストレリングス」

俺の両親が作り上げた人工魔獣は人の魔力を食す性質を持ち、譲たちのような「過剰魔力生成症候群オーバーステラ」患者に有用かと思われたのだが・・・

食事量が多すぎて、譲以外対応できなかったのがピニャケルの敗因だ

後は魔力を吸いすぎて、救うどころか何人か殺しかけたらしい

全員殺処分をされそうになったところを、譲の母親「椎名久遠しいなくおん」が目をつけて、譲に全部譲渡されたそうだ


・・・今では生き残りは一匹だけ。譲の側に居続けるあいつは、譲の両親が死んだ事件で唯一生き残ったピニャケル

他の九十九匹は、結界が解除された異変を察知した大社の職員が椎名家へ様子を見に来るまで襲撃者と果敢に戦い、命を落としたと聞く

そして最後まで、あいつを守り続けたとも

譲は、無数に連なったピニャケルの遺体に阻まれていたクローゼットの中に、生き残りのピニャケルと共に見つかったらしいから


「・・・夜雲」

「え、ピニャ?なんでここに」

「お前こそ何をしているんだ。聞き耳を立てるような真似をして。啄まれたいのか」

「いや、そういう趣味はなくて・・・ただ、休日の譲って何してんのかなって・・・そういうノリで探ってただけ」

「そうか」

「何のお咎めもなし?」

「特に言うことはない」


「俺が次の襲撃者になるかもしれないとしても?」

「私たちを作り上げた者を両親に持つ君が、そんな事をするわけがない。あの二人の善性で作られ、善性で処理をされそうになった私達は、これからも譲を主とし、地井夫妻を、そして忘れ形見である君の事を大事に思う」

「・・・処理されること、わかってたのかよ」

「わかっていたさ。私達は生きていれば将来的に人に危害を生む。救うではなく、殺す・・・だ」

「・・・」

「その可能性があるものを作った責任を、あの夫妻は取ろうとしていた。最後まで責任が会ったことに対して、私は、私達の遺志は、きちんと敬意を向ける」


もちもちボディを揺らしたピニャは、特に何も言わず再び廊下をテチテチと歩いていく

こんなでかい鳥が一匹で闊歩しても、譲の使い魔だからということでお咎めはないのだろう

むしろ当たり前の光景。なんなら通りすがりの看護師さんに声をかけては、荷物運搬等の手伝いを申し出ている


両親の善性が反映された、俺の兄みたいな存在

あいつは今日も譲の側で、彼に寄り添い続けるのだ

・・・別に寂しい訳では無い

それに、たまにこうして話ができるだけでも十分なのだ

忘れ形見同士。両親のことを話せる存在がいるだけでも・・・違うと思えるから


・・


検診を終えた譲はそのまま病棟の方へ向かう

入院というわけではないようだ


「・・・いつものところに様子を見に行くと言っていたけど、なんなんだ?」


向かう先は通称「終末病棟」

現代医学では治せない患者が集められ、最期まで過ごすことになる場所だ

その中の一室に、あいつはノックをした後入り込む

後をつけて、再び扉に聞き耳をたてた

どうやらここに入院している人物に会いに来たらしい

名前は・・・「霧雨永羽きりさめとわ」と「友江一咲ともえかずさ

名前からして女の子だろう。一体どういう関係性なんだ


「・・・夜雲。あんたなにしてんのよ」

「夏乃さん。あはは、お久しぶりです」

「聞き耳たててないで、あんたも入ったら?あんただって、大社の「羽持ち」なんだから。もう少し堂々としなさい」


先程譲が診察室に投げ込まれたように、俺もその病室に投げ込まれる


「私には魔法の才能があるの?」

「うん。同じ魔法使い同士、わかるものがあるから」

「じゃあ、私が元気になったら椎名さんの弟子にしてよ。椎名さんから魔法を教えてもらったら絶対強くなれると思うし!」

「もちろん。僕で良ければ・・・夜雲!?」

「おー、譲。できればこのまま受け止めてくれ」

「はいはい・・・」


無詠唱でなにかの魔法を発動した彼の前には、柔らかい風が吹き渡る

俺はそれに受け止められて、ゆっくりと再び地面に降り立った


「・・・地井夜雲じいやくもさん?」

「ああ」

「今日、一緒にどうかなって呼んでみたんだ。一咲ちゃんも会いたがっていただろう?」

「うん!わぁあ・・・風見鶏の夜雲さんに会えるなんて。永羽ちゃん!風見鶏だよ!」

「・・・うぅ」

「だめだ。眠いみたい」

「仕方ないよ。彼女の薬の効果は結構強いみたいだから。ゆっくり寝かせてあげよう」

「そうだね。早く元気になろうね、永羽ちゃん」


談笑する譲と一咲という少女の横で、俺は酷い顔を浮かべていたと思う

俺も、紅葉や譲と同じく羽の称号を賜った存在だ

けれど、ついた二つ名は「風見鶏」飛べない鶏を冠したものだった

紅葉や譲みたいに「紅鳥」や「青鳥」と、イメージが湧きやすいものではない

風が吹く度に、くるくると周るだけ

不安定な存在と言われているようで、とても・・・


「ねえ、なんで夜雲さんは風見鶏なの?」

「んー・・・それはね、夜雲は色々なところを見てくれている、裏の司令官だからだよ」

「そうなの?」

「うん。僕がいないところで的確な指示を出してくれるのはいつも夜雲なんだ」


風見鶏という二つ名は一見酷いように見える

けれど、彼の「得意能力」である風と

鈴海に吹き渡る「特異」風を混ぜ合わせ、作られた二つ名

風を感知し、あたりを見渡し、向かうべき方向を示してくれる存在


「それが風見鶏の理由。意外としっかり考えられているんだよ・・・って夜雲。なんで泣いて」

「聞いてないからだよそんな理由」

「伊奈帆め・・・」

「ちなみに紅葉は?」

「伊奈帆いわく「適当」」

「なんか勝った気がするわ」

「だね。僕も意外と真面目に考えられた「青鳥」だし。理由だけで自慢できちゃうね」

「だな。なんせお前は・・・」

「鈴海に幸福と平和を運ぶ、鈴海一の魔法使い。だもんね!」

「です・・・ね」


それから俺たちは病室の中で、病室から動けない二人に話をする

これまで俺たちが歩いてきた激戦の話を

魔法や能力で引き起こされた事件の数々を

魔法に憧れを抱いた魔法使いの卵と

寝たきりだけれども、その中には不屈の剣を宿した少女に

いつか役に立つかもしれない、戦いのお話を語り聞かせた

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