第三話 憂鬱から始まる学園生活
ざわざわざわ ざわざわ
ざわざわ ざわざわざわ ざわざわ
どこを見ても、人人人の人だかりでうんざりしてくる。でも一番うんざりなのは、
「どうした、浮かない顔をしているな。」
朗らかな声で心配そうに俺の腰へと手を回してくる胡散臭い男。
ぞわわっと背筋が粟立つのを必死に堪えながら
「ひ、人の多さにまだ慣れなくて。緊張しちゃいますね。」
なんて、目を逸らしながら恥じらう振りをする。なんで、俺がこんな事に。
それもこれも、この距離感バグりまくりクソ王子のせいだ。こいつが突然あんな事さえ言わなければ!
『今ここで宣言しよう!私、リオルド・アルカルトはリナリー・アーノルド・ラタンとの婚約を破棄し。』
あー思い出すだけで寒気がする。
『ユア・リーファルと婚約をすると!』
力強く肩を抱き、宣った左隣の男を頭からぶん殴ろうかと思った。
あの宣言のせいで、俺の静かな学園生活は初っ端から騒がしくなってしまった。
右を見れば羨望の眼差し、左を見れば妬みややっかみを含んだ陰口、前を見れば人混みがさぁーっと引いて道が開けていた。
はあ…。
目立たずに、登校するつもりだった当初の想像とは違い、俺は今女性用制服で登校している。
そう、俺ユア・リーファルは女としてこの学園生活を送る事になった。
集客でワンピースを着ていたので何も躊躇いはない。ただ、非常に悲しい事がある。
それは…
“男として青春を謳歌できない”
本当にこればかりは悔しくて仕方ない。とある事情で女装はしているが、せっかくの学園生活だ。自分の本当の性別で満喫したいと思うのは罪なのか。
実家のあるサウライよりも大都市であるアイレスでまさか学校という場所に行く事ができるなんて思いもしなかった。小さなコミュニティから抜け出して、これから色んな経験を積み、学ぶことができるのを楽しみにしていたのに。
「はあ…。」
「やはり、何か気にかかる事でもあるのか?」
やべ、思いっきりため息ついちゃった。
俺は慌てて大丈夫ですよ、と口元を隠して笑い返す。クソ王子は一瞬眉を寄せたが、それ以上は特に声をかけてこなかった。
あたりの喧騒とは反対に俺とこいつの空間は静寂に包まれていた。正直、婚約者なんて突然に言われても困るし、いくら一目惚れしたからってあんな…大々的に…
『なぜっ、なぜ私ではないのですか……!』
大粒の涙を流す一人の人物を思い出す。
『わ、たくしがどれだけ貴方を想い……!どれだけ、貴方の隣を望んで、いたと思っ……!』
悲しみに打ちひしがれ、綺麗な顔は歪み、舞踏会のために整えた髪は乱れ、正直見るに耐えられない姿だった。
……あれ程想ってくれる人がいるのに、なんでこいつは俺なんかを。
チラッと無駄に整っている横顔を凝視する。
俺は、こいつの事を詳しくは知らない。突然告ってきて、返事をする間もなく両親に婚約者認定の書状を送りつけてきてあれよあれよと今に至る。
「本当、俺のどこが…。」
「ん?何か言ったかい?」
「ぃ、いえ!何も!」
また取り繕った笑顔を向けて、自分の一人称を頭の中で再確認する。俺じゃない。私、私、私、と。
門から学園の入り口まで200メートルほどの距離だが、周囲に護衛やら野次馬やらがいるせいか無駄に長く感じる。こんなのろのろ毎回歩いてて遅刻しないのか、なんて思っているとやっと目の前に大仰な扉が現れた。
なんとか遅刻しないで済みそうな事に今日もホッとすると、腰まわりの違和感を思い出す。
……そろそろ腰に添えている手を退かしてくれないだろうか。ずっと背中がぞわぞわしてて気持ちわりぃ。
それとなく、クソ王子の手に触れ、口を開こうとした時。
「きゃーーーーーーーっ!!!」
一際大きな歓声が俺の鼓膜を突き破ってきた。




