表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
四章.最後の異人
91/155

90.とある男について8

【魔暦593年07月03日13時22分】



「これは拳銃と言ってね。僕の世界では、人を殺す道具として発明された物なのよ」

「人を…、殺すため?」

「そして、この世界では、異人かどうか見分けるためにある」



 未だに首を傾げるルミに、僕は指を立てて説明した。


「この異物を見たものが取る行動は三パターンにわけられるの。一つ目はルミのように首を傾げるもの」


 異世界において、それは当然である。刃物のように明らかに人を害する物ならまだしも、拳銃には危険性を感じられない。飛び道具という発想すら湧かないだろう。


 ガン、と机が揺れる。ルミが机の足を蹴ったことは、彼女の表情を見て明らかだった。僕のゆっくりとした説明に痺れを切らしたらしい。

 少しは語らせてくれよ。


「二つ目は、警戒するものだね。ラス隊長とかは、経験豊富だから未知の危険物だと見抜いてくるかもしれない。で、三つ目は…」



 スカーはどうしているだろうか、と振り返ると、彼は未だに大広場を走って回っていた。運動好きなのは、前世から変わっていないらしい。その姿に、先ほどの狼狽は見えない。

 確か、体育会サッカー部の部長だったんだっけ。



「三つ目はスカーのように、両手を空に向けて命乞いする連中。こういうやつは、間違いなく異人だ」



 僕が結論を述べたにも関わらず、ルミは未だ変わらず不満顔だった。もっとわかりやすいように噛み砕いて言えってか。まずい、そのうち鳩尾を殴られかねない。

 仕方がない。

 今一度、振り返ってみようじゃないか。


 

***

【魔暦593年07月01日20時05分】


「嬢ちゃん?何してんの?」




 夜空を見つめていた僕を覗き込むように、青年が顔を出す。ぼさぼさな髪は、彼の容姿への無頓着さを表していた。彼は不思議そうに僕の顔を見つめる。



「ラーシーさ、ん!」



 思わず飛び跳ね、彼と距離を取る。捻った右足は未だに痛いが、それでも僕の体は無理やり動いた。思わず激痛が走るが、歯を食いしばる。

 汚職警備隊ラーシーは、ライトを僕の足元に照らしながら首を傾げる。何かに躓いたと思ったのだろうか。疑問を浮かべた表情のまま、一歩こちらに近づいてくる。

 僕は思わず、手を差し出して彼を制した。


「まて!」

「ほ?」

「近寄るな、と言っているんです」



 僕の唯ならぬ形相に驚いた様子を浮かべた彼は、両手をあげながら一歩下がる。首を傾げながら、「なになに?」と言葉を漏らす。





【11.仮面の村2より引用】

***

【魔暦593年07月03日11時50分】

 


「ん、なんだよ、このエピソード」

「僕らがイアムの死体を見つけた後、ラーシーと合流した時の話だよ」

「はぁ。その、拳銃っていう異物をラーシーが持っていたってことか?いや、違うか。ええと、ん?今の話、その異物でてきてなくないか?」



 出てきていない。僕が拳銃を所有したのは、この件の十五時間後だ。その間に、天使と出会い、拉致監禁されていると考えると、濃い一日だ。


 僕はこの時点でラーシーが異人だと断定したわけではない。というか、この時は擬似暗鬼全盛期なので、誰でも異人かもしれないと疑ってかかっていた。

 ルミやロイでさえ、疑いの対象だった。

 


「翌日、僕らはロスト山に出向いた。天使を探すためにね。結果的に、洞窟の中で副院長と出会ったわけだが、その時僕は、副院長に拳銃を突きつけられた」



 死ぬかと思った。情けなく泣いたし、命乞いもした。

 それほどの恐怖が、拳銃にはあった。異世界に紛れ込んだ科学の異物は、想像以上に偉人の心に刺さるらしい。



「両手を上げるのは、無抵抗の印だ。手には何も持っていないし、抵抗の意思はないと告げている」

「なるほど。異物が重要ということではなく、両手を上げる行為自体が異人の証明になったというわけか」

「どの体勢でも魔法を打てる人間には、理解できない行動だろうね」



 ようやく僕の言いたいことが伝わったらしい。彼女は目を瞑りながらうんうん唸った後、深く頷いた。



「なるほど。そういえば、昨日あたしが詰め寄った時、スカーは両手を上げていた気もする。変なポーズだから印象的だった」

「でしょ?だから僕は、ラーシーが異人だと気がついた」



 そして、ラーシーの家に向かった。後は語らなくても良いだろう。



「で、ラーシーが如月ランだという根拠は?」

「ふふふ。これは話が長くなるのだけれど、最初はオルの一言だね。平井ショウケイの言葉を覚えているかって話から始まって…」

「いいから、結論から言え」

「う、はい」


 ルミの圧に思わず椅子を引く。

 といっても、僕は困ってしまった。結論から適切に話したいのは僕も同じだが、この話は語れば長くなるのが必然なのだ。

 前提として話さなければならないことがたくさんある。


 今の僕の指針である『殺人とは対話である』という平井ショウケイの言葉。

 雪山山荘密室殺人で死体処理を担当していたこと。

 その時に見た、死体の最後の表情。

 そして、ラーシーの死体を、キスができるほど接近しながら調べ尽くしたと言うこと。



ーーま、いっか



 僕はめんどくさいので、結論から述べた。

 「ラーシーの死後の表情が、如月ランの死後の表情とそっくりだった」と、簡潔に。


 意外なことに、ルミは「ふーん」とだけ言った。彼女からしたら証明しようがない話なので、()が言った話として処理してくれたのだろう。

 証明不可能な情報は、証拠にはならない。クロスチェックをしていないなら尚更だ。


 全員分の死体の顔を確認して、信ぴょう性を高めなければならない。

 

 

「ってか」


 彼女はゆっくりと立ち上がり、僕を上から見下ろす。彼女より十五センチほど身長が高い僕からしたら、少し珍しい景色だった。


 だからこそ、彼女の怒りのボルテージが上昇しているのがすぐわかった。手元の右拳が、プルプルと震えている。左手でそれを抑え、何とか自制しているようだった。



「そういうのは、早く言えよ!」



 一撃。

 というか、一蹴り。

 自制が効いていたのは上半身までだったようで、彼女の右キックは僕の脇腹にヒットし、そのまま振り抜かれる。僕は椅子ごと吹っ飛ばされた。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ