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もう一度、君に恋をする  作者: 史音
13/18

彼がメガネをかけるようになった理由 5

「なんか、佐々木くん、よかったね」

昼休み、生徒会の仕事をしながら、本間が俺に喋りかけてきた。神崎と白石は他の仕事で席を外している。そのせいか本間も気を緩めて俺に話しかけてきた。

「何が?」

「え、なんかうまく行ってるみたいだし」

いい子でよかったね。本間はそう続けて笑う。俺は何だか恥ずかしくて、返事しなかった。


彼女のことは生徒会のメンバーにも会わせたことはなかった。でも俺と彼女のことを奴らは全員理解していて、そして俺が彼女と駅で毎日待ち合わせてしているのは、もう学校では有名な話になりつつある。


そういえば、この間、たまたま菜緒の友達にあった。同じクラスの子たちだと言っていた。

『菜緒の彼氏に挨拶したかったんです』と言われたことを思い出す。

女子が集まった時のなんともいえない感じが出ていて、俺は困ってしまった。

機会があったら生徒会のメンバーに紹介するかな、と考えて、今更かもな、とも思う。


頭の中で色々考えている俺を、本間は全く気にせず、笑って続けた。

「ねえ、ねえ、週末、お祭りあるよ」

「え?」

本間が教えてくれた祭りとは、神崎や本間の家の近くの夏祭りのことで、人出も多いかなり大きな規模のものらしい。

「夜店も多いし、かき氷とかたこ焼きとか、美味しいお店がいっぱいあるよ。あと、花火もやるんだけど、結構見応えある。御神輿も出るし、すっごい盛り上がるお祭りなんだ」

「へえ」

真っ先に浮かんだのは、菜緒は喜んでくれるかな、ということだった。本間は俺の前に立って、大真面目な顔をした。


「何がいいって、うちの学校からちょっと離れてる場所だから、この学校の人はかなりの高確率で来ない。だから、知り合いに会うこともない」

それはいいな、と心が傾く。同じ学校の奴らに菜緒といるところを見られるのは、なんだか嫌だった。

ちょっと心が動きかけて、だけど俺は疑うような目を本間に向けた。

「お前と神崎は行くだろ」

学校のその他大勢には会わなくても、行った先で、神崎と本間に会うのは気まずい。

本間はうーんと考え込んだ。

「智の時間が空いてたら…行くかな。智が行かないなら、行かない。一人で行くのはちょっとね」

「そんなこと言って、神崎と二人で俺たちのこと後ろからつけたりするだろう」

俺と菜緒の後ろを歩く二人を想像して、呆れたような俺の言葉に、本間はものすごく嫌そうな顔をした。


「智はそういうの一番嫌がるよ。後ろから付けるくらいなら、さっさと挨拶にいくタイプだよ」

でも、そんな邪魔はしないからね、と本間は笑った。

それを聞いて、確かに神崎はそう言うタイプだなと納得した後で、今度は神崎を見た菜緒がどんな反応をするか考えてしまう。

物語の主人公みたいな神崎を菜緒に見せたくないような気がして、また迷う。


俺が女なら、絶対神崎に惚れる気がするからだ。


あんなに格好良くて、性格も良くて、人に気が配れて、優しくて。

あんな人間に惹かれない女なんているのか?と俺は考えてしまう。


心の中で悩んでいると、今度は本間が呆れたように笑った。

「提案しただけだから、別に好きにしてくれればいいけど。でも、女子は花火とか好きだから、喜んでくれると思うよ」

そう言った後で、一応教えておくね、と言って祭りの場所と、駅からの簡単な道順を紙に書いてくれた。

そしてその紙を渡しながら

「私のお勧めは杏あめだな。美味しいよ」

と言った。


結局、俺は彼女をお祭りに誘った。

思った以上に喜んでくれて、それだけでよかったと思った。

何よりも、浴衣姿の彼女はとても可愛かった。


初めて彼女とキスをした。

一度したら、もう一度したくなって、がっつきすぎだとなんとか押さえ込む。浴衣から覗く首元や触れた腕や肩はとても華奢だった。もう少し触れたいと思って、人目が気になって思いとどまる。


一度触れ合ったら、今までよりもずっと、彼女への気持ちが強くなった気がした。

あやふやで、どこか形がなくて、ぼんやりした存在だったものが、急にしっかり色と形を持って、俺の心の中で主張し始めたみたいだった。

俺の心の、真ん中で。


何かのきっかけで、例えばもう一度キスをするとか、抱きしめるとか、彼女に触れるとか、そんなことで

すぐに自分を止められなくなる確信があった。

だから、俺は今持てる理性を総動員して、それを押さえ込んだ。


どうせ時間はまだたくさんあるし。

これからも一緒にいられるんだから、まだゆっくりでいい。

そう思った。


だけど、俺は後でその時の自分を殴ってやりたいほど、後悔することになる。


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