五十五夜 前夜祭
アマゾネスに向かう王道を、四頭立ての豪華な貴族用馬車が走る。
徒歩の過客を追い抜き、うらやましそうな視線が流れていった。
速さはほかの馬車と変わらない。ところが乗っている者の気持ちを体現してか、焦っているようにも見える。
石畳の一部が「白い塊」で舗装され、走りやすく助かっていた。
だがあれはなんだろうと、貫録のあるカイゼル髭をたくわえた貴族が首を捻る。
「ふむ……おそらくは例の、アユム卿の手による御業だな」
視線に気がつき、馬車に同席した若い男性が簡素に答えた。
「そういえば何か月か前に、城館へお越しになられましたな。ですがなにゆえこのような工事を?」
カイゼル髭が若干へりくだりながら問う。
「さあ? 僕の知らない技術だし、アラヤシキの『力』としか説明できないさ」
若い男性は肩をすくめ、椅子に座りなおす。
誰が見ているわけでもないのに、しぐさが常に芝居がかっていた。通常なら貴族の馬車には、護衛の騎馬が追従する。
だが自分の見せ場だと下がらせ、強引に同席してきた態度ではなかった。
「ですが王道は国家が管理をする設備です。いかなる理由でも勝手に改修しては、殿下に対して不敬となりませんか?」
サンガ伯爵は自分の責任問題に発展しないかと危惧したのだ。
「王道」は主要な都市や商業拠点を結び、軍事に必要とされる直通路である。
通常往来される街道や村落道は、よくて砂利で舗装された程度。曲がりくねり、畔やぬかるみで徒歩すら移動しにくかった。
古代ローマではすでに舗装された街道が敷かれている。
技術は時代が経つほどに進歩し、発展するわけではない事例か。知識として伝え研鑽を積まねば衰退するのだ。
ヴィーラ殿下が情報伝達の速度に危惧し、整備を遂行してはいた。
しかし新王都建設にかまけ、末端まで配慮や注意が届いていない。整備が滞っていた誹りはまぬがれない。
あの少女に反論する奇天烈な者がいれば――だが。
「道が整備されて、誰か困っているかい?」
ですが権威が……と、サンガ伯爵は口内だけで発した。
「彼はヴィーラ殿下から直接、『認可済』の比類なき免罪符をいただいてるのだ。本来は誰に対しても許可を申請する必要などない」
それはヴィーラ王国において、あらゆる行動に制限を受けないことを意味する。
各職人ギルドにも当然通達されており、目下一番の関心事だった。
「ところがブリハスパティ卿に訊いたら、領主ごときにうかがいを立て、わざわざ手順を踏もうとしている……変な奴だ」
「認可済――そのような通達を、私は……」
「ごとき」扱いされたサンガ伯爵は、憮然とすべき場だった。
ところがそれ以上に、殿下からの通達が領主に届いていない。長きにわたる治政の安定が、危機感の欠如をもたらしている。
当事者となって遅まきながら気がついたのだ。
さらに彼の少年はそれほどの後ろ盾を得ていたのかと、心胆寒からしめた。
見目麗しくはあっても、街中にいるごく普通の少年と評価している。しかし振り返れば謁見の間で、殿下に平然と反論していたではないか。
排除対象となったときすら、昂然と胸を張っていたではないか――。
「私は……私は姿形に、惑わされてはいなかったか……っ?」
あの少年は真実アラヤシキから召喚された、唯一無二の存在ではないのか!?
城館でお会いしたおり、不遜な態度をとってはいなかったか。自分のおこないを必死に記憶から呼び起こしていた。
二重の混乱に口を開けたまま一点を凝視し、サンガ伯爵は石化する。
「おやおや……」
若い男性は三代目領主の動揺に、隠しもせずため息をついた。
サーガラ領領主サンガ伯爵と若い男性が同席する馬車は、日が完全に沈んでからアマゾネスの領主の館――少し立派な建物に到着した。
夕暮れ前に街の全貌は見えていたのに、過客が急激に増えだしたのだ。
剣闘士競技会を観覧に訪れた領民の波である。それは市壁代わりの木柵を越え、アマゾネスに入った辺りで最高潮となった。
通りの両端に屋台が建ち、街のなかまで延々と続いている。
サーガラの市場に建つ予定だった屋台だろう。混雑に馬車のスピードを落とし、過客を別けて安全に進む。
「娘の街は市民が千五百人ほどだったはず……彼の少年を迎えてたった数か月で、何倍もの集客を望めるとは」
なんという才幹、なんという逸材――。
だが粗もあった、どう考えても街の宿に収まる動員数ではない。
それなのに過客の様子を見れば、馬車の間にシーツを掲げ簡易テントにしたり、地面に小石をならべ盛り上がる姿に不満は感じられない。
ほかにも数人が集まって、奇妙な道具で暖を取っている。
行商人がマナスル産の「組み立て式簡易五徳」を販売しているのだ。使用方法の説明に人が集まり、感心しては我先にと購入していた。
「珍しい物が売ってるな、いや――面白い街だ!」
若い男性が馬車から飛び出し買ってきて、くり返し組み立てて喜んでいる。
「その称賛は、本来サーガラに向けられていたのです」
とはさすがに子供じみてると自粛したのか、サンガ伯爵は目をそらし外を見た。
六月とはいえ夜はまだ冷えるのに、祭りに浮かれ羽目を外す群衆。
幾人か馬車を覚えていたようだ。領主が乗っていると知れると、誰もが手を振りひと目見ようとつめかけ騒ぎとなる。
内心はどうあれ、サーガラの現状はどうあれ――。
領主は笑顔で領民に手を振り、寛容と寛大さをしめした。なぜか若い男性も手を振ってはいたが……。
期せずパレードとなり、ゆっくりと街を進むことになったのだ。
☆
「おっ親じ……お父さまっ!? ええっその、よくぞお越しくださり……まして」
完全に意表を突かれて目を見開き、ノルブリンカが扉の前に立つ人物を見る。
ぼくも想定外であり、なんの精神的準備もせずサンガ伯爵を前にした。
先輩騎士三名は気楽なギャンベゾン姿でくつろいでおり、ワインを手放し慌ててサーランバ卿の後ろに立つ。
館のホールに集まっていたメンバー、全員がそれぞれの表情を見せる。
「大切な娘の顔を見にきたのだ、そう緊張しなくともいいだろうノルブリンカ!」
両手を挙げ胸から声を出す。領主としての度量と迫力に、見事な掌握の仕方だと感心してしまう。
経験で培った技術か、完全に場が支配された。
「街をここまで発展させたのはすばらしき手腕である! 見事だと心より称賛し、我が娘はサンガ伯爵家の誉れだと大いに打ち震えておるのだ!」
「はあ……どうも」
ノルブリンカは驚きを隠せないまま、褒められ慣れず立ちつくしている。
まさかサンガ伯爵がくるとは、父親がくるのは予想外だった。今まで一度として訪れてはいないと聞いている。
「サーランバもよき勉強になったろう」
「はっ……ええ、はい」
緊張によりこわばっていたのか、どうにか礼をとって返す。
ぼくは姉弟の態度に、驚き以上の困惑を感じていた。肉親であればこそ他人には理解できない、葛藤や経緯も生じるのかもしれない。
「だがなノルブリンカ、このような大きな催しをするときは、事前に知らせてくれるとありがたいのだ。さすればサーガラでも協力ができよう、増えた過客の対応に宿にと困っておるのではないか?」
「そっ! れは……」
サンガ伯爵の苦言に、まさしくそうだったのでノルブリンカは言葉につまる。
街の発展と剣闘士競技会の相乗効果が大きすぎた。
住居を建ててはいたけど予定以上の――うれしい悲鳴なんだけど、予定より多い観覧希望者がつめかけてしまったのだ。
「先を見越さないと、破綻するとわかっていながら……」
反省はあとにし、ぼくはとにかく動く。
まずはなんと言っても集まった過客の食事の確保。領主の館の料理番をまかされたせいか、競技会に関してもぼくが担当している。
パン窯は火を落とさずフル回転し、食材をピストン輸送してもまだ足りない。
サーガラから来た屋台持ちに協力を申しこむと、「絶品三獣士」と呼ばれているコールマン髭のおじさんが音頭を取ってくれた。
「もう一度実地研修させてもらえるなんて、願ってもない!」
「こちらから頼みたい、どうか本場の味をご教授ください!」
彼らの言葉にほかの商人も色めき立ち、我も我もと協力を表明してくれる。
ありがとうございます……にしてもいつか、小説になりそうな二つ名ですね。
「ではまず石鹸で手を洗い、衣服を用意しますので交換してください」
見れば爪が伸び汚れ、服にも油や旅の垢がこびりついていた。
「大切なのは、何より安全です!」
それからは料理の手順に発酵に安全管理に、説明に飛び回った。どうにか食事は安定供給までこぎつけても、寝床はどうしようもない。
幸いつめかけたのはほとんどが男性。
申し訳ないがあるだけのシーツを提供し、開催まで野宿となるむねを公表した。
「……気のせいでなければいいけど、むしろ楽しそうに行列を作ってない?」
暇つぶしにナインメンズモリスを教えた。地面に線を引き、小石でもコインでも流用できるので手軽に遊べる。
さらに過客だけですでに、五千人以上を超えてしまったのだ。
約五千人収容の「ノルブリンカ円形闘技場」には、到底収まらないと判明。
どうすべきかと頭を悩ませる。
結局アマゾネス市民には、ほかで埋め合わせすると伝えた。今回は過客を優先で会場に入れる運びとなる。
これなら立ち見と階段も客席にすれば、どうにか収容は可能。
兵士が各住居を周って経緯を連絡すると、現状を見て納得してくれたようだ。
「年に一度のお祭りに参加できないんだ、皆さんに何かお礼をしたいなあ」
そうしてなんとか落ちつき、ひと息ついたところだった。
「先達を頼り相談するべきは、無駄にならんぞノルブリンカ」
「……貴重な助言、ありがとうございます」
サンガ伯爵が威厳をもって笑い、ノルブリンカは素直に礼を返すほかない。
言いたいことはあっても、領主としての経験は格が違っていた。
「それもすべて――アユム卿! あなたさまのおかげだそうですな!」
突然話を振られ、一瞬何事かと周囲を見回す。
「我が娘ノルブリンカに力添えし、領地を豊かにしてくださった手腕! 卓越した御業に感服いたしております――~!」
サンガ伯爵が体を揺るがせ走ってきた、これ逃げちゃまずい!?
「えっとなにか言うべきご報告があったんじゃ、なかったっけ――~…」
ぼくの両肩をがっしりとつかみ爪がくいこむ、もう逃げられない。
「いえあのとんでもございません、全部ノル……領主と市民が努力した結果です」
「おおアユム卿、城館にて『我が息子以上に寵愛しております、遠慮せず父の胸に飛びこんでください』と申したのは、けっして偽りではございませんぞ!!」
目の前のカイゼル髭を見て、整えるのたいへんだろうなと思考停止してしまう。
いったいなにがあったのか。なんだか微妙に記憶違いの主張になってるし、皆も唖然として助け船は出ない。
逆に「ではやはり」と、心臓が飛び出る声が聞こえた。
「サンガ伯爵が息子とおっしゃるのなら、やはりノルブリンカさまの婿に……」
家政婦長――っ! 今その単語は、すっごくやばい予感がします――っ!!
サンガ伯爵の目がギラリと光る! やばいやばいっ誰か助け――…。
「親子の対面は終わったかい?」
扉を全開にし、バラの気配を撒き散らす若い男性が現れた。
二十代中盤ほどか、オールバックの金髪が稲穂に揺れている。真っ白なマントをはおっており、裏面は漆黒だった。サーコートは着ておらず、やたら凝った全身鎧が白銀に輝いている。
表面に花や波型模様をあしらった装飾。
時代的にはありえないが、一五世紀に欧州を席巻した美しきプレートアーマー、「ゴシック風甲冑」を連想させた。
ツーハンドソードを斜めに背負った姿は、まさしく華麗な王子様。
「気を利かせて待っていたのだよ! やあノルブリンカにクスママーラ、二人とも変わらず美しいねえ!」
剣を給仕にあずけズカズカとホールに入り、空いていた椅子に座り足を組む。
当然とばかりにワインを持ってくるよう言いつけ、ふんぞり返った。呆気に取られていた給仕が慌てて支度に向かう。
因果伯の誰も咎めないしこういう方なのか、正直空気が変わり助かったけど。
「また面倒くさいのが来たなあ」
「今とても面白いところでしたのに~」
口先で笑うマーラさんを、息を吐いたノルブリンカがジト目で睨む。
おかげでサンガ伯爵が訪れた驚きから、精神的回復をみたようだ。
「お主まで来てしまったら、サーガラに残ってるのはブリハスパティ卿だけだぞ。自重する気にはならなかったのか?」
ダーナ卿が苦笑しながら椅子に座りなおす。
「僕がいないのに、何か面白いことをやろうとしていただろ。噂は広まってるぞ、それで今サーガラはガラガラなのだ」
……男性市民と過客がこれだけ集まればそうなるか。
「市場に領民が集まらず、城館に商人の苦情が殺到している。そこでおっとり刀で現場を確かめようとする、領主の護衛を買って出てきたのさ」
原因究明に、僕はちゃんと仕事をしているのだ――と王子様は高らかに笑う。
驚きを隠せず全員がサンガ伯爵を注視した。だがさすがと言おうか、少なくとも表面的に動揺は見せず髭を整える。
「いや因果伯の方に護衛してもらうなど、恐縮の極みでした。こうして娘の所領を視察することがかない、感謝に絶えません」
礼をとるサンガ伯爵に、王子様は気にするなと軽く手を振る。
「これで状況は察した、殿下にご報告すれば僕の仕事は終わりだ。ああ護衛はしてあげるから君はなんの心配もいらない、まかせたまえ」
貴族の物腰が堂に入ってるのに、どこかお芝居にも見える。
ノルブリンカたちの態度から見当はついていた、やはり因果伯の一人なんだ。
ぼくの視線に気がついたのか、王子様が目を細めた。
「やあアユム卿、召喚の間以来だ。マナスルではどうやら目立っていたそうだが」
妙な言い回しに首をひねりつつ会釈する。
「おいプウニャ卿、『その間』のことはあまり公言するな」
「おっといけない、君は真面目だな」
ダーナ卿が姿勢を低くし、後ろに立った護衛の先輩騎士たちを横目に諭す。
王子様――プウニャ卿は髪をかきあげおどけて見せた。
「アユム・カベウラ卿です。よろしくお願いします、プウニャ――…」
「僕のことはプリンスと呼んでくれたまえ!」
なんで?
あっいえくい気味に言われて混乱し……っていうか「プ」しか合っていない。
「僕の求める名の響きではないのだ、だから僕はプリンスなのさ!」
ダーナ卿もそう呼びなさいと、笑う目が真剣だった。
「さてと、疲れたので僕は休ませてもらうよ。剣闘士競技会は明日なんだろう? 武具の手入れを入念にせねば、期待しておきなさい! 帰るのはお披露目の後だ、いいねサンガ伯爵――!」
ワインを飲み干すと、甲冑の重い音を響かせ立ち上がる。返事も待たずマントをひるがえして剣を受け取り、扉に向かい歩き出した。
「はい」としか言えない雰囲気だ、どちらが護衛なのやら。
サンガ伯爵も苦手なのか、額に汗が浮いている。気持ちはわかります、なにやら妙な自信と迫力がある。
「念のため言っとくけど、あんたは剣闘士競技会に出場できないからな?」
ノルブリンカがホールを出ていくプウ……プリンスに念を押す。
「――わかっているとも、美しきノルブリンカ!」
ノルブリンカがハイハイと手を振ると、プリンスは扉から消え……少ししてまた顔を出し、子供のおねだりが届く。
「僕の演武は女性にとても評判なのだが――」
「明日の主役はアマゾネスの兵士なのっ!」
有無を言わせぬ突っこみを受け、廊下に不満げな地団駄が鳴り響いた。
甲冑が蝋燭の光に照らされ輝いている。もしかしたらあのプレートアーマーは、目立つために着ているのかな。
「お父さまもぜひ観ていってください、私が……造りあげた街です」
「う……うむ」
ノルブリンカの、真摯で少し寂し気な瞳。気圧されたのか巨漢のサンガ伯爵は、ただ小さくうなずいた。
姉弟がどちらともなく、視線を合わせて笑う。
☆
――家政婦長の独り言。
「私は帳簿管理を任命され、街の状況を知るため話を聞いて回りました」
ここは本来マナスルに大理石を送る、石工職人の休憩所だったとのこと。
王道を挟み、農家が数軒があるだけの『村』だったそうです。繁忙期に住みこむ者が現れ、畑が作られ『町』ほども大きくなる。
しかし大理石は扱いにくく極めて高価です。
最盛期を終えて取引が徐々に減る、どこにでもある話でございます。
「行商人でもなければ領地から出る者はおりません。過疎になろうとここで生まれ育った者にとって、『国』とはこの地でした」
かつての栄光と……現在の貧困が包む町に、谷間の風は変わらず吹く。
「山あいにある二百人の町を、ノルブリンカさまはお授かりになったのです」
痩せた土地、力に屈するもっと痩せた女。
そんな地へ、領主の代理として現れたのが年若い少女。
ふざけるなと怒る地位をはばかることのない男。侮り舐めた態度で接する者を、文字通りたたき出してしまったそうです。
困った方ですね。
どうするのかと問う残された女に、最初の怒鳴り声が町に響きます。
『殴ってくるなら殴り返せ! 住みにくいなら住みやすくしちまおう!』
何もかも手探りにかかわらず、大笑いに勇気づけられたと申していました。
職人を招き指導を受け、男手の代わり風車を建てる。少しの平地に張りつく畑をなかば捨て、放牧に着手する。
「女の所領経営がうまくいくわけがない。すぐ廃村となり以後は大人しくなると、ありがたくも放置してくれたそうです」
「夫を失った妻、騙されて男性不信になった女、逃亡した娼婦に愛人。口減らしで捨てられた女の子……社会からはじかれた者たち」
女が治める町があると噂になり、ポツリポツリと集まって来たそうです。
女だけなら牛耳れると、盗賊や無頼漢が現れては返り討ちにする。命まで取らずたたきのめし、サーガラまで連行して姿を見せつける。
噂には尾ひれがつき、この町の強さを喧伝してくれると。
人が増えれば力となりますが、一人では守れる範囲もかぎられます。女だてらに剣を取る、実は傭兵育成は苦肉の策でした。
「そうしていつの間にか、不可思議な『カルマ』が啓いていたそうです」
「黄金色の髪の『少女』がそれを聞きつけ、わざわざ訪ねてこられました」
そのころには私もおりましたので、今でもよく覚えています。
ノルブリンカさまはあの気性、相手が誰であれ威嚇し追い払おうとしました。
ところが領民全員に理解不能な畏怖が走ります。『少女』の瞳はなにかに抗い、強く激しく輝いて見えました。
『――っ養蜂させてくれ! それと闘技場が完成するまでは、自由にさせろ!』
町の生活基盤と有事の避難場所、なにがあろうとこれだけは認めさせる。
ノルブリンカさまが常日ごろから、懸念されていた案件でした。冷や汗を流して震えを抑えこみ、主張を押し通したのでございます。
今振り返っても、あの『少女』に反し矢面に立つ……想像もしたくないですね。
自分のことは放っておいて、常に領民を優先させる。
ええ私たちの領主は本当に、困った方なのです。
シンパシーでもお感じになられたのか、『少女』は怒鳴りもせず逆に大笑いし、許可していただけました。
黄金色の髪が風に揺れ、光のオーブが弾ける。
『女が統治するか……王国にひとつくらい、こんな街があってもよかろう。狭量よと噂されては美容に悪い』
『少女』に忠誠を誓い、ノルブリンカさまは因果伯の爵位を授かります。
「悩んで、相談して、たたきのめして……毎日走り周る領主」
家政婦長が窓に寄り、風を頬に受け目を細めた。
「ノルブリンカさまが領主となり、もうすぐ中都市と呼べるまで発展したのです」
何千人にもふくれた街の喧騒が風に乗り、領主の館に優しくささやく――。
奇天烈な少年「あっ! サンガ伯爵に直訴アピール、できたんじゃない!?」




