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M属性 ~嗚呼、あなたに踏まれたい~  作者: 高谷正弘
第二章 港湾都市サーガラ
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五十五夜 前夜祭

 アマゾネスに向かう王道を、四頭立ての豪華な貴族用馬車(コーチ)が走る。

 徒歩の過客を追い抜き、うらやましそうな視線が流れていった。

 速さはほかの馬車と変わらない。ところが乗っている者の気持ちを体現してか、焦っているようにも見える。

 石畳の一部が「白い塊」で舗装され、走りやすく助かっていた。

 だがあれはなんだろうと、貫録のあるカイゼル髭をたくわえた貴族が首を捻る。

「ふむ……おそらくは例の、アユム卿の手による御業だな」

 視線に気がつき、馬車に同席した若い男性が簡素に答えた。

「そういえば何か月か前に、城館へお越しになられましたな。ですがなにゆえこのような工事を?」

 カイゼル髭が若干へりくだりながら問う。

「さあ? 僕の知らない技術だし、アラヤシキの『力』としか説明できないさ」

 若い男性は肩をすくめ、椅子に座りなおす。

 誰が見ているわけでもないのに、しぐさが常に芝居がかっていた。通常なら貴族の馬車には、護衛の騎馬が追従する。

 だが自分の見せ場だと下がらせ、強引に同席してきた態度ではなかった。

「ですが王道は国家が管理をする設備です。いかなる理由でも勝手に改修しては、殿下に対して不敬となりませんか?」

 サンガ伯爵は自分の責任問題に発展しないかと危惧したのだ。


「王道」は主要な都市や商業拠点を結び、軍事に必要とされる直通路である。

 通常往来される街道や村落道は、よくて砂利で舗装された程度。曲がりくねり、(あぜ)やぬかるみで徒歩すら移動しにくかった。

 古代ローマではすでに舗装された街道が敷かれている。

 技術は時代が経つほどに進歩し、発展するわけではない事例か。知識として伝え研鑽を積まねば衰退するのだ。

 ヴィーラ殿下が情報伝達の速度に危惧し、整備を遂行してはいた。

 しかし新王都建設にかまけ、末端まで配慮や注意が届いていない。整備が滞っていた誹りはまぬがれない。

 あの少女に反論する奇天烈な者がいれば――だが。

「道が整備されて、誰か困っているかい?」

 ですが権威が……と、サンガ伯爵は口内だけで発した。

「彼はヴィーラ殿下から直接、『認可済』の比類なき免罪符をいただいてるのだ。本来は誰に対しても許可を申請する必要などない」

 それはヴィーラ王国において、あらゆる行動に制限を受けないことを意味する。

 各職人ギルドにも当然通達されており、目下一番の関心事だった。

「ところがブリハスパティ卿に訊いたら、領主ごときにうかがいを立て、わざわざ手順を踏もうとしている……変な奴だ」

「認可済――そのような通達を、私は……」

「ごとき」扱いされたサンガ伯爵は、憮然とすべき場だった。

 ところがそれ以上に、殿下からの通達が領主(じぶん)に届いていない。長きにわたる治政の安定が、危機感の欠如をもたらしている。

 当事者となって遅まきながら気がついたのだ。

 さらに彼の少年はそれほどの後ろ盾を得ていたのかと、心胆寒からしめた。

 見目麗しくはあっても、街中にいるごく普通の少年と評価している。しかし振り返れば謁見の間で、殿下に平然と反論していたではないか。

 排除対象となったときすら、昂然(こうぜん)と胸を張っていたではないか――。

「私は……私は姿形に、惑わされてはいなかったか……っ?」

 あの少年は真実アラヤシキから召喚された、唯一無二の存在ではないのか!?

 城館でお会い(・・・)したおり、不遜な態度をとってはいなかったか。自分のおこないを必死に記憶から呼び起こしていた。

 二重の混乱に口を開けたまま一点を凝視し、サンガ伯爵は石化する。

「おやおや……」

 若い男性は三代目領主の動揺に、隠しもせずため息をついた。


 サーガラ領領主サンガ伯爵と若い男性が同席する馬車は、日が完全に沈んでからアマゾネスの領主の館――少し立派な建物に到着した。

 夕暮れ前に街の全貌は見えていたのに、過客が急激に増えだしたのだ。

 剣闘士競技会を観覧に訪れた領民の波である。それは市壁代わりの木柵を越え、アマゾネスに入った辺りで最高潮となった。

 通りの両端に屋台が建ち、街のなかまで延々と続いている。

 サーガラの市場に建つ予定だった屋台だろう。混雑に馬車のスピードを落とし、過客を別けて安全に進む。

「娘の街は市民が千五百人ほどだったはず……彼の少年を迎えてたった数か月で、何倍もの集客を望めるとは」

 なんという才幹、なんという逸材――。

 だが粗もあった、どう考えても街の宿に収まる動員数ではない。

 それなのに過客の様子を見れば、馬車の間にシーツを掲げ簡易テントにしたり、地面に小石をならべ盛り上がる姿に不満は感じられない。

 ほかにも数人が集まって、奇妙な道具で暖を取っている。

 行商人がマナスル産の「組み立て式簡易五徳」を販売しているのだ。使用方法の説明に人が集まり、感心しては我先にと購入していた。

「珍しい物が売ってるな、いや――面白い街だ!」

 若い男性が馬車から飛び出し買ってきて、くり返し組み立てて喜んでいる。

「その称賛は、本来サーガラに向けられていたのです」

 とはさすがに子供じみてると自粛したのか、サンガ伯爵は目をそらし外を見た。

 六月とはいえ夜はまだ冷えるのに、祭りに浮かれ羽目を外す群衆。

 幾人か馬車を覚えていたようだ。領主が乗っていると知れると、誰もが手を振りひと目見ようとつめかけ騒ぎとなる。

 内心はどうあれ、サーガラの現状はどうあれ――。

 領主は笑顔で領民に手を振り、寛容と寛大さをしめした。なぜか若い男性も手を振ってはいたが……。

 期せずパレードとなり、ゆっくりと街を進むことになったのだ。



 ☆



「おっ親じ……お父さまっ!? ええっその、よくぞお越しくださり……まして」

 完全に意表を突かれて目を見開き、ノルブリンカが扉の前に立つ人物を見る。

 ぼくも想定外であり、なんの精神的準備もせずサンガ伯爵を前にした。

 先輩騎士三名は気楽なギャンベゾン姿でくつろいでおり、ワインを手放し慌ててサーランバ卿の後ろに立つ。

 館のホールに集まっていたメンバー、全員がそれぞれの表情を見せる。

「大切な娘の顔を見にきたのだ、そう緊張しなくともいいだろうノルブリンカ!」

 両手を挙げ胸から声を出す。領主としての度量と迫力に、見事な掌握の仕方だと感心してしまう。

 経験で培った技術か、完全に場が支配された。

「街をここまで発展させたのはすばらしき手腕である! 見事だと心より称賛し、我が娘はサンガ伯爵家の誉れだと大いに打ち震えておるのだ!」

「はあ……どうも」

 ノルブリンカは驚きを隠せないまま、褒められ慣れず立ちつくしている。

 まさかサンガ伯爵がくるとは、父親がくるのは予想外だった。今まで一度として訪れてはいないと聞いている。

「サーランバもよき勉強になったろう」

「はっ……ええ、はい」

 緊張によりこわばっていたのか、どうにか礼をとって返す。

 ぼくは姉弟の態度に、驚き以上の困惑を感じていた。肉親であればこそ他人には理解できない、葛藤や経緯も生じるのかもしれない。


「だがなノルブリンカ、このような大きな催しをするときは、事前に知らせてくれるとありがたいのだ。さすればサーガラでも協力ができよう、増えた過客の対応に宿にと困っておるのではないか?」

「そっ! れは……」

 サンガ伯爵の苦言に、まさしくそうだったのでノルブリンカは言葉につまる。

 街の発展と剣闘士競技会の相乗効果が大きすぎた。

 住居を建ててはいたけど予定以上の――うれしい悲鳴なんだけど、予定より多い観覧希望者がつめかけてしまったのだ。

「先を見越さないと、破綻するとわかっていながら……」

 反省はあとにし、ぼくはとにかく動く。

 まずはなんと言っても集まった過客の食事の確保。領主の館の料理番をまかされたせいか、競技会に関してもぼくが担当している。

 パン窯は火を落とさずフル回転し、食材をピストン輸送してもまだ足りない。

 サーガラから来た屋台持ちに協力を申しこむと、「絶品三獣士」と呼ばれているコールマン髭のおじさんが音頭を取ってくれた。

「もう一度実地研修させてもらえるなんて、願ってもない!」

「こちらから頼みたい、どうか本場の味をご教授ください!」

 彼らの言葉にほかの商人も色めき立ち、我も我もと協力を表明してくれる。

 ありがとうございます……にしてもいつか、小説になりそうな二つ名ですね。

「ではまず石鹸で手を洗い、衣服を用意しますので交換してください」

 見れば爪が伸び汚れ、服にも油や旅の垢がこびりついていた。

「大切なのは、何より安全です!」

 それからは料理の手順に発酵に安全管理に、説明に飛び回った。どうにか食事は安定供給までこぎつけても、寝床はどうしようもない。

 幸いつめかけたのはほとんどが男性。

 申し訳ないがあるだけのシーツを提供し、開催まで野宿となるむねを公表した。

「……気のせいでなければいいけど、むしろ楽しそうに行列を作ってない?」

 暇つぶしにナインメンズモリスを教えた。地面に線を引き、小石でもコインでも流用できるので手軽に遊べる。

 さらに過客だけですでに、五千人以上を超えてしまったのだ。

 約五千人収容の「ノルブリンカ円形闘技場」には、到底収まらないと判明。

 どうすべきかと頭を悩ませる。

 結局アマゾネス市民には、ほかで埋め合わせすると伝えた。今回は過客を優先で会場に入れる運びとなる。

 これなら立ち見と階段も客席にすれば、どうにか収容は可能。

 兵士が各住居を周って経緯を連絡すると、現状を見て納得してくれたようだ。

「年に一度のお祭りに参加できないんだ、皆さんに何かお礼をしたいなあ」

 そうしてなんとか落ちつき、ひと息ついたところだった。


「先達を頼り相談するべきは、無駄にならんぞノルブリンカ」

「……貴重な助言、ありがとうございます」

 サンガ伯爵が威厳をもって笑い、ノルブリンカは素直に礼を返すほかない。

 言いたいことはあっても、領主としての経験は格が違っていた。

「それもすべて――アユム卿! あなたさまのおかげだそうですな!」

 突然話を振られ、一瞬何事かと周囲を見回す。

「我が娘ノルブリンカに力添えし、領地を豊かにしてくださった手腕! 卓越した御業に感服いたしております――~!」

 サンガ伯爵が体を揺るがせ走ってきた、これ逃げちゃまずい!?

「えっとなにか言うべきご報告があったんじゃ、なかったっけ――~…」

 ぼくの両肩をがっしりとつかみ爪がくいこむ、もう逃げられない。

「いえあのとんでもございません、全部ノル……領主と市民が努力した結果です」

「おおアユム卿、城館にて『我が息子以上に寵愛しております、遠慮せず父の胸に飛びこんでください』と申したのは、けっして偽りではございませんぞ!!」

 目の前のカイゼル髭を見て、整えるのたいへんだろうなと思考停止してしまう。

 いったいなにがあったのか。なんだか微妙に記憶違いの主張になってるし、皆も唖然として助け船は出ない。

 逆に「ではやはり」と、心臓が飛び出る声が聞こえた。

「サンガ伯爵が息子とおっしゃるのなら、やはりノルブリンカさまの婿に……」

 家政婦長――っ! 今その単語は、すっごくやばい予感がします――っ!!

 サンガ伯爵の目がギラリと光る! やばいやばいっ誰か助け――…。


「親子の対面は終わったかい?」

 扉を全開にし、バラの気配を撒き散らす若い男性が現れた。

 二十代中盤ほどか、オールバックの金髪が稲穂に揺れている。真っ白なマントをはおっており、裏面は漆黒だった。サーコートは着ておらず、やたら凝った全身鎧が白銀に輝いている。

 表面に花や波型模様をあしらった装飾。

 時代的にはありえないが、一五世紀に欧州を席巻した美しきプレートアーマー、「ゴシック風甲冑」を連想させた。

 ツーハンドソードを斜めに背負った姿は、まさしく華麗な王子様。


「気を利かせて待っていたのだよ! やあノルブリンカにクスママーラ、二人とも変わらず美しいねえ!」

 剣を給仕にあずけズカズカとホールに入り、空いていた椅子に座り足を組む。

 当然とばかりにワインを持ってくるよう言いつけ、ふんぞり返った。呆気に取られていた給仕が慌てて支度に向かう。

 因果伯の誰も咎めないしこういう方なのか、正直空気が変わり助かったけど。

「また面倒くさいのが来たなあ」

「今とても面白いところでしたのに~」

 口先で笑うマーラさんを、息を吐いたノルブリンカがジト目で睨む。

 おかげでサンガ伯爵が訪れた驚きから、精神的回復をみたようだ。

「お主まで来てしまったら、サーガラに残ってるのはブリハスパティ卿だけだぞ。自重する気にはならなかったのか?」

 ダーナ卿が苦笑しながら椅子に座りなおす。

「僕がいないのに、何か面白いことをやろうとしていただろ。噂は広まってるぞ、それで今サーガラはガラガラなのだ」

 ……男性市民と過客がこれだけ集まればそうなるか。

「市場に領民が集まらず、城館に商人の苦情が殺到している。そこでおっとり刀で現場を確かめようとする、領主の護衛を買って出てきたのさ」

 原因究明に、僕はちゃんと仕事をしているのだ――と王子様は高らかに笑う。

 驚きを隠せず全員がサンガ伯爵を注視した。だがさすがと言おうか、少なくとも表面的に動揺は見せず髭を整える。

「いや因果伯の方に護衛してもらうなど、恐縮の極みでした。こうして娘の所領を視察(・・)することがかない、感謝に絶えません」

 礼をとるサンガ伯爵に、王子様は気にするなと軽く手を振る。

「これで状況は察した、殿下にご報告すれば僕の仕事は終わりだ。ああ護衛はしてあげるから君はなんの心配もいらない、まかせたまえ」

 貴族の物腰が堂に入ってるのに、どこかお芝居にも見える。

 ノルブリンカたちの態度から見当はついていた、やはり因果伯の一人なんだ。

 ぼくの視線に気がついたのか、王子様が目を細めた。


「やあアユム卿、召喚の間以来だ。マナスルではどうやら目立って(・・・・)いたそうだが」

 妙な言い回しに首をひねりつつ会釈する。

「おいプウニャ卿、『その間』のことはあまり公言するな」

「おっといけない、君は真面目だな」

 ダーナ卿が姿勢を低くし、後ろに立った護衛の先輩騎士たちを横目に諭す。

 王子様――プウニャ卿は髪をかきあげおどけて見せた。

「アユム・カベウラ卿です。よろしくお願いします、プウニャ――…」

「僕のことはプリンスと呼んでくれたまえ!」

 なんで?

 あっいえくい気味に言われて混乱し……っていうか「プ」しか合っていない。

「僕の求める名の響きではないのだ、だから僕はプリンスなのさ!」

 ダーナ卿もそう呼びなさいと、笑う目が真剣だった。

「さてと、疲れたので僕は休ませてもらうよ。剣闘士競技会は明日なんだろう? 武具の手入れを入念にせねば、期待しておきなさい! 帰るのはお披露目の後だ、いいねサンガ伯爵――!」

 ワインを飲み干すと、甲冑の重い音を響かせ立ち上がる。返事も待たずマントをひるがえして剣を受け取り、扉に向かい歩き出した。

「はい」としか言えない雰囲気だ、どちらが護衛なのやら。

 サンガ伯爵も苦手なのか、額に汗が浮いている。気持ちはわかります、なにやら妙な自信と迫力がある。

「念のため言っとくけど、あんたは剣闘士競技会に出場できないからな?」

 ノルブリンカがホールを出ていくプウ……プリンスに念を押す。

「――わかっているとも、美しきノルブリンカ!」

 ノルブリンカがハイハイと手を振ると、プリンスは扉から消え……少ししてまた顔を出し、子供のおねだりが届く。

「僕の演武は女性にとても評判なのだが――」

「明日の主役はアマゾネスの兵士なのっ!」

 有無を言わせぬ突っこみを受け、廊下に不満げな地団駄が鳴り響いた。

 甲冑が蝋燭(ろうそく)の光に照らされ輝いている。もしかしたらあのプレートアーマーは、目立つために着ているのかな。


「お父さまもぜひ観ていってください、私が……造りあげた街です」

「う……うむ」

 ノルブリンカの、真摯で少し寂し気な瞳。気圧されたのか巨漢のサンガ伯爵は、ただ小さくうなずいた。

 姉弟がどちらともなく、視線を合わせて笑う。



 ☆



 ――家政婦長の独り言。

「私は帳簿管理を任命され、街の状況を知るため話を聞いて回りました」

 ここは本来マナスルに大理石を送る、石工職人の休憩所だったとのこと。

 王道を挟み、農家が数軒があるだけの『村』だったそうです。繁忙期に住みこむ者が現れ、畑が作られ『町』ほども大きくなる。

 しかし大理石は扱いにくく極めて高価です。

 最盛期を終えて取引が徐々に減る、どこにでもある話でございます。

「行商人でもなければ領地から出る者はおりません。過疎になろうとここで生まれ育った者にとって、『国』とはこの地でした」


 かつての栄光と……現在の貧困が包む町に、谷間の風は変わらず吹く。


「山あいにある二百人の町を、ノルブリンカさまはお授かりになったのです」

 痩せた土地、力に屈するもっと痩せた女。

 そんな地へ、領主の代理として現れたのが年若い少女。

 ふざけるなと怒る地位をはばかることのない男。侮り舐めた態度で接する者を、文字通りたたき出してしまったそうです。

 困った方ですね。

 どうするのかと問う残された女に、最初の怒鳴り声が町に響きます。

『殴ってくるなら殴り返せ! 住みにくいなら住みやすくしちまおう!』

 何もかも手探りにかかわらず、大笑いに勇気づけられたと申していました。

 職人を招き指導を受け、男手の代わり風車を建てる。少しの平地に張りつく畑をなかば捨て、放牧に着手する。

「女の所領経営がうまくいくわけがない。すぐ廃村となり以後は大人しくなると、ありがたくも放置してくれたそうです」


「夫を失った妻、騙されて男性不信になった女、逃亡した娼婦に愛人。口減らしで捨てられた女の子……社会からはじかれた者たち」

 女が治める町があると噂になり、ポツリポツリと集まって来たそうです。

 女だけなら牛耳れると、盗賊や無頼漢が現れては返り討ちにする。命まで取らずたたきのめし、サーガラまで連行して姿を見せつける。

 噂には尾ひれがつき、この町の強さを喧伝してくれると。

 人が増えれば力となりますが、一人では守れる範囲もかぎられます。女だてらに剣を取る、実は傭兵育成は苦肉の策でした。

「そうしていつの間にか、不可思議な『カルマ』が啓いていたそうです」


「黄金色の髪の『少女』がそれを聞きつけ、わざわざ訪ねてこられました」

 そのころには私もおりましたので、今でもよく覚えています。

 ノルブリンカさまはあの気性、相手が誰であれ威嚇し追い払おうとしました。

 ところが領民全員に理解不能な畏怖が走ります。『少女』の瞳はなにかに抗い、強く激しく輝いて見えました。

『――っ養蜂させてくれ! それと闘技場が完成するまでは、自由にさせろ!』

 町の生活基盤と有事の避難場所、なにがあろうとこれだけは認めさせる。

 ノルブリンカさまが常日ごろから、懸念されていた案件でした。冷や汗を流して震えを抑えこみ、主張を押し通したのでございます。

 今振り返っても、あの『少女』に反し矢面に立つ……想像もしたくないですね。

 自分のことは放っておいて、常に領民を優先させる。

 ええ私たちの領主は本当に、困った方なのです。

 シンパシーでもお感じになられたのか、『少女』は怒鳴りもせず逆に大笑いし、許可していただけました。

 黄金色の髪が風に揺れ、光のオーブが弾ける。

『女が統治するか……王国にひとつくらい、こんな街があってもよかろう。狭量よと噂されては美容に悪い』

『少女』に忠誠を誓い、ノルブリンカさまは因果伯の爵位を授かります。

「悩んで、相談して、たたきのめして……毎日走り周る領主」

 家政婦長が窓に寄り、風を頬に受け目を細めた。

「ノルブリンカさまが領主となり、もうすぐ中都市と呼べるまで発展したのです」

 何千人にもふくれた街の喧騒が風に乗り、領主の館に優しくささやく――。



 奇天烈な少年「あっ! サンガ伯爵に直訴アピール、できたんじゃない!?」

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