「4日目:Another view」
「んん……」
「あ、起きた?」
彼が寝ていた。いや、まだ現在進行形で寝ているけれど、そろそろ起こさなければ放課後になってしまう。まさか膝枕をなんとなくでやって、そのまま一度も起きずに昼休みを超えるとは思わなかった。
クラスメイトに協力してもらって、お昼は取れたけれど、流石に長時間の膝枕は感覚が麻痺して来てしまう。
完全に棒になる前に、彼を起こすとしよう。
「もしもーし、そろそろ起きよー?」
つんつん。
「んん……んぅ……」
つんつんつん。
「んぅ……~」
「おーい、早く起きて欲しいなぁ。うりうりー」
「~~……う、んあ?」
「あ、起きたね?おはよー、寝坊助さん♪」
「……」
彼は眠そうな表情をしながら、私の顔をボーッと眺めている。やがて目が覚めてきたのか、擦りながら私の事を見た。
「ちゃんと起きた?おはよー!」
「っ……なっ、何してるのさ!?」
そして完全に覚醒したところで、彼は飛び退くようにして起き上がった。微かに痺れた私の膝を指差して、動揺しながら口や体を震わす。
「ひ、ひひひざま、まままくらっ?!」
「うむ、あの有名な膝枕です。休み時間から今に至るまで、この最長記録を更新した膝に労いの言葉は無いのかな?」
「あ、ありがとうございます?って、何でお礼を言わなくちゃならないのさ!」
「気持ち良く寝れるように私が考え、私が実行したんだよぉ〜。おかげで私たちは授業をサボタージュ、とんだ不良カップルの誕生だね♪」
「誰と誰がカップルだって?」
彼は嫌そうに目を細めて、私の事をジトッと見つめた。そんなに嫌な表情を躊躇いなくやられると、こっちはちょっと傷付いてしまう。
まぁ私も冗談で言っているけれど、恋人というのに興味が無い訳ではない。ただ興味が有る無しと、恋人を作る作らないは全く別問題である。
「何よ、私とじゃ不満?」
「そういう事じゃなくて、君が僕を好きとか絶対思わないだろうって結論からだよ。からかいたいなら、他の人とやってよ」
「別にからかってないんだけどなぁ……まぁ君がそう言うなら、もう少し自重するよ。君に嫌われたくないしね」
これは本心からの言葉だが、恐らく彼は信じないだろう。それがひしひしと伝わるから、私は未だに踏み込む事が出来ていない。何故なら、この世界の彼は知らないのだ。
嫌われたくはないが、私が今している事を知られたくはない。見られたのは想定内だが、その後が上手く行った事が無いのだ。
「じゃあ僕はそろそろ帰るよ。いつまでもここにいたら、冷やかしの視線に耐え切れそうに無いし」
「自慢しちゃえば?私、こう見えてもモテるから。そのモテてるのが彼女だよって、自慢しても良いんだよ?」
「自分でモテると思ってる人を自慢したいとは思えない。あと僕ら、別に付き合って無いんだから、そういう冗談は良くないと思うよ。それじゃ」
彼は素っ気の無い態度で、廊下で背中を向ける。その背中を追おうとしたのだが、これ以上はダメだと踏み止まる。
うん。これ以上はダメだ。あの世界とは違うのだから……。
私はそう自分に言い聞かせながら、彼の背中を見送った。かつてあった時間を想いながら、私は身を翻して呟く。
「……行ってきます。――」




