「2日目:前」
――ガヤガヤ。
翌日、俺は騒がしい教室の中で、机に突っ伏しながら寝たフリを続けていた。だがそれは、無意味に続けてる訳ではない。
ただ、この騒がしい空気が苦手なのだ。起きていても寝ていても、結果は変わらず空気で居られるのなら、僕は放課後までこのまま居続ける。
「……」
だがしかし、目を瞑っても眠れる事は無い。いつもなら寝たフリをすると同時に眠気に襲われるのだが、今回は払拭したい事が僕の中で存在している。
赤。朱。緋。紅……。
あの真っ赤に燃えたような空が、どうも脳裏から離れないのだ。
別にあの空の原因を知っている訳では無い。だけれど、それでも気掛かりな事だけは確かなのだ。逆に言えば、アレを気にするなと言うほうが無理な話である。
「赤い夜……か」
〈赤い夜〉そう呼ぶのが妥当だろう。アレはそう呼べてしまう程、この青い空が燃えていたのだから……。
「およ?珍しい所で会うね」
「……」
昨日に引き続き、嫌な遭遇をしてしまった。つくづく思うけど、僕の運の無さはどれくらいなのだろうか。
もし人間の運を計測出来る装置があるとしたら、僕の運は0%を通り越してマイナス域に達していると思う。
「どこ行くの?販売機かな」
「……ん」
「じゃあ私も一緒に行こうかな」
「僕と一緒に居るより、友達と一緒に居た方が良いと思うけど?」
「え?今居るじゃん。君も友達でしょ?」
「……」
何食わぬ顔でサラッとそう言った。
僕が思うに彼女は、クラスに居る生徒を友達と思えるのだろう。
多分それは、関わって居なくても適用されるものだ。勘違いしてはならない、線を引くべきだ。自惚れてはならない。
学園のマドンナ的な存在の彼女が、僕のような平凡以下な生徒に話し掛ける様子は、目撃情報が少ない。
だからこそ、学校内で話し掛けられるのは困る。そして無視したらしたで、悪目立ちをして注目を浴びてしまう。まさに悪循環だ。
「……!」
「あ、ちょっと?」
何で走られたのか分からない彼女は、僕の事を追い掛けようと手を伸ばしていた。
だが僕はそれを無視して、逃げるように彼女から離れた。
廊下を曲がり、階段を数段飛ばしで駆け上がる。やがて辿り着いたのは、誰も立ち寄る事は無い屋上へと続く扉が姿を現した。
「……ふぅ、ここまで来れば良いかな」
短い距離とはいえ、いきなりトップスピードを出して走った僕は、肩で息をしていた。
へなへなとなりながら階段に座った僕は、息を整える為に目を伏せた。
……やがて落ち着いたと思い、僕は伏せた目をゆっくりと開けた。
はぁ……さて、そろそ、ろ?」
階段を下りようと体を動かした瞬間、僕は奇妙な違和感を感じた。
それは何故か、答えは明白だ。
「どう、して……今は昼間だったはず……だよな?」
だがしかし、その階段は暗く静かだった。いつもなら、階段を上り下りする生徒の声や廊下で立ち話をしている生徒の声が聞こえるはず。
だけど今は違う。僕が見える階段は黒く、仄かに赤く染まっていた。
そして屋上へ出る事の出来る扉からは、真っ赤な光が空を覆っていたのである。