79話 死闘
柊木に向けて、『大吾』を真横に振る。
同時にさらに『大吾』の倍率を三倍から五倍に上げた。
柊木は、避ける動作もなく、ただそこに立っている。
巨大な大剣が、柊木の上半身と下半身を両断するはずだった。
「レンタル、瞬間移動」
柊木がそう呟いたと同時に、その姿が消えた。
ゴーグル『安藤』に仕込んだ片眼鏡『橋下』を装着し、ピット器官のスキルを使って、熱を感知する。
俺のすぐ背後から、激しい温度の上昇を感じた。
「レンタル、機関銃」
柊木が両腕を前に突き出すと同時に、それが機関銃に変化していた。
轟音と共に、一秒間に15発の速度で銃弾が飛んでくる。
黒鎧『鰐淵』による硬質化をするが追いつかない。
柊木の弾丸は、俺の身体に確実にダメージを刻み込んでいく。
「……十四個目のスキルを確認。片眼鏡『橋下』。熱を感知し、相手の位置や攻撃動作を探る」
シャルロッテに俺の能力を報告しているのか。
機関銃を撃ちながら、柊木がブツブツと、俺のスキルについて呟いている。
背負い袋『森山』から、大盾『中野』を取り出した。
身体をすっぽりと囲むほどの大きな盾は、機関銃の弾丸を跳ね返す。
俺は、『中野』を構えたまま、柊木に向かって突進する。
「レンタル、瞬間移動」
再び、そう呟いた柊木だが、今度は移動できない。
「……これはっ!?」
『中野』を使うと同時に、もう一つスキルを発動させていた。
付け爪『鈴木』だ。
蜘蛛が獲物を捕らえるように、指先から糸を出し、気付かれないように柊木の身体に巻き付けておいた。
柊木は、俺がスキルを使うのを感知できるようだが、さすがにここまで連続で使えば、すべては把握できないようだ。
がんっ、と大盾『中野』を柊木にぶち当てる。
ぶちぶち、と柊木を捕らえていた『鈴木』の糸がちぎれて、柊木が城の壁までぶっ飛んでいく。
一気に片付ける。
こちらのダメージも大きいが、回復を後回しにして、『森山』から手榴弾『根岸』を取り出し、ピンを抜く。
「レ、レンタル」
柊木がスキルを使う前に、手榴弾『根岸』をその足元に投げ込んだ。
ぼんっ、という大きな爆発音がして、城の壁が崩れ、煙が舞い上がる。
「……仕留めたか」
再び、『橋下』のピット器官を作動させると、熱源は感知されなかった。
だが、念のため、部屋中に『鈴木』の糸を張り巡らせた。
煙が晴れ、崩れた壁の奥を確認する。
そこに柊木の姿はなかった。
「レンタル、影移動」
その声は、俺の真下。
自分の影から聞こえてきた。
その影からにゅるっ、と柊木が出現する。
手には、歪んだ形の、毒々しい赤黒い短剣を握っていた。
大盾『中野』も黒鎧『鰐淵』も間に合わない。
柊木の短剣が俺の胸の中心に、深々と突き刺さった。




