ルーナ
私の名前はルーナ=ビストリア。ビストリア国を統べる、第三十一代目ビストリア王ルーガ=ビストリアを父に持つ、第三王女です。
しかし、私はお母様のように美しく聡明でもなく、第一王女であるナーラお姉様のように武術もとよくありません、第二王女であるノーラお姉様のように魔法もうまくもありません。
王族のみ使うことができる、超獣化も理性を保つことができなく、使いこなせません。お姉様達は一日中してても平気だというのに。
お父様やお姉様達は普通の獣化よりとてもコントロールが難しいと、励ましてくれますが、お姉様達が超獣化ができたのは今の私より四年前の八歳のころ。
私はどれをとってもお姉様達に勝てるものはありません。なかなか伸びない武術や魔法も、常にお姉様達と比べられてしまう。
平凡な王女。
そんな私の楽しみは、数々の冒険ものの本を読むことでした。外の世界には視界いっぱいの海や、見たことのない生き物、種族、いろいろなものが存在しており,たくさんの冒険があります。
この王都すら出たことのない私にとって、外の世界の冒険はとても眩しく輝いていると思えました。
ついに我慢できなくなった私は、お父様に外の世界を冒険してみたいと頼みました。当時10歳だった私の我儘は当然通ることはありませんでした。
外の世界は危険で、知識や力もない私では、たとえ護衛がいても連れていけないとのことでした。
それでも諦めたくなかった私は二年間必死に勉強し、知識をつけ、苦手な武術や魔法も必死に頑張り、なんとか一人でも敵から逃げることができるほどの力をつけることができました。
そして十二歳の誕生日にもう一度お父様に頼み込みました。今までの努力が認められたのか、お姉様達やお母様にも理解を得られ、何とか四人の護衛付きので三日に一回の連絡でさらに、獣人国の範囲でということで外の世界に出ることが許されました。
お父様は最後まで反対していました。お父様は心配しすぎなのです。
そして私は、四人の優秀な実力ある護衛さん達と王都ビストリアを旅立ちました。
四人が護衛しているので、とても安全な旅で危険な魔物も少なくドキドキは少なかったですけど、初めて見る村や町は人々が活気づき、とても新鮮でした。
そして順調に旅をし、六日目に滞在していた町メルドでのことでした。
その日は疲れて夜の宿で早く眠ってしまいましたが、喉が渇き、偶然夜中に目が覚めました。部屋を出ると、いつも護衛の人が誰かいるはずですので声をかけようとしました、が今日は誰もいませんでした。
たまたまトイレか、交代の時間かと思い気にしませんでしたが、窓から外を見ると護衛の一人のホワイトタイガーの獣人、サーベラスさんが一人、外に出るのを見かけました。
こんな夜遅くに、一人でどうしたんだろうと思い、私はサーベラスさんの後を追いました。
サーベラスさんは護衛の中でも、一番の強さですが無口なので彼のこと多くを知っている人は少ないです。
サーベラスさんは、そのまま一人で町をでて近くの森へと入っていきました。
森で鍛錬でもするのでしょうか?
しばらくすると、もう一人の男が現れました。
「やあ、サーベラス君元気ー?」
「はい、そちらこそお元気そうで」
怪しい男ですが、サーベラスさんと仲が良さそうです。一体誰なんでしょう?
「作戦はうまくいってるー?」
「はい、少々予定外になりましたが、向こうから出てきてくれたので問題ありません」
「王女の護衛も大変だね~」
その瞬間二人は、私が隠れている茂みに視線を向けてきました。
私がいることがばれてる!? 急いでここを離れないと。
逃げ出そうとしたところで
「はーい、こんにちはー。ルーナ第三王女様ですよね?」
笑いながら私の目の前に回り込んできたのは、なんと魔族の男でした。
「ま、魔族がどうしてこんなところに!?」
「そうだよー、魔族でーす。それにしても夜に護衛も無し一人でこんな所に来るなんてー、危ないよー?」
一見温和な魔族に見えますが、この魔族危険です。特にその目が。私のことも、まるで虫以下の存在を見るような目をしています。
「まあ、他の護衛は全員始末しているので誰もいませんがね」
他の護衛を始末!? それに私を助けることなくこの魔族と話しているということは、サーベラスさんは裏切り者で魔族と繋がっている!?
「サーベラスさん、この国を、お父様を裏切るのですか?」
「裏切る?私はもともとこの国やあなたの父上ルーガ=ビストリアに忠誠など捧げておりません。私が忠誠を捧げるのは魔王様とこのグランブル様だけです。ましてや、私はこの国を恨んでさえいるのですよ?」
いつも通り冷静に見えるがサーベラスさんからは静かな怒りのようなものが出ている。
「う、うそ、そんな!」
信じられません、あの強くて真面目で皆からの信頼も厚い護衛隊長のサーベラスさんが国を恨んでいるなんて…
サーベラスさんはお父様からも信頼を持っていた人、いったい過去に何が…
「まあまあサーベラス君、昔話もその辺にしておいてさっさとやろうよ。他にもやることあるんだから」
「はい、では予定通りとばしましょう」
「私を殺すのですか?」
額に汗を流しながらも強気に姿勢を崩さないルーナ。
「いえ、そんなことはいたしません。ルーナ様には人間との戦争の火種になってもらおうかと」
「戦争!? どういうこと?」
「ここにグランブル様が設置した転移陣があります。あなたにはこれで迷いの森にとんでもらいます。」
いつの間にグランブルという魔族がしかけたのか、サーベラスさんの隣に魔法陣が出現していました。
「あ、安心してね。ついたら優しい人間族の奴隷商人がすぐに捕まえてくれるから。そうなると後はわかるよねー。そうだねー、今比較的ビストリアと友好的になっている、フォーレン王国に奴隷として売っちゃおうかー」
何て恐ろしく、狡猾なことを考える魔族なんでしょう。
奴隷商人捕まれば、私達獣人は酷い扱いを受け、売り払われてしまうに違いない。そうなれば生きていくことに希望を持つことなど不可能。
最悪の人生になります。
私がそんなことになれば、友好的だったフォーレン王国に裏切られたと思い、お父様はついに我慢できなくなり私と、全ての奴隷を取り戻そうと戦争を始めてしまいます。皆の説得で、何とか交渉で進めてきたことが全て無駄になってしまう。
逃げないと…奴隷商人なら私でも逃げることができるかもしれません。
「あー、ちなみに逃げてもサーベラス君の部下が捕まえてくれるから大丈夫だよ。安心してねー」
そんな私の浅はかな考えも読まれているのか、笑いながら言葉をかけるグランブル。
憎らしい。
「それでは少し失礼します。」
「あっ…」
サーベラスさんに手刀を首に軽くあてられ意識を失う私。
このままじゃ皆が……
目を覚ますと日も昇り、馬車の檻の中でした。
あれから気絶させられた私は、転移陣でとばされて、予定通り奴隷商人に捕まってしまったのでしょう。自分の手や首を触ると拘束具のようなものが嵌められています。
私は泣きたくなりその場でうずくまりました。子供のころから外の世界を旅したいと願い、反対されながらも努力し、十二歳になってついに初めてでた旅で護衛に裏切られ、人間に奴隷として売られ、戦争の火種とされる。
情けない…。私は何て無力…。
そうして嫌な現実から目を背けて、寝ていると悲鳴が聞えてきました。
そして、新たに奴隷として捕まり、檻にはいってきた獣人の二人。
二人は姉弟で、お姉さんのほうはロッテさん、弟君のほうはトト君といい、二人は転移陣を踏んでしまってこの森にとばされたそうです。
一体あのグランブルという魔族はいくつ転移陣を設置しているんでしょう。そしてその転移陣の目的は…あの魔族のことです何か恐ろしいことに使うはずです。
考えてみてもわかるはずもなく、不安にならないようにロッテさん達と会話をして気を紛らわらすことしかできませんでした。
しばらくすると、また外が騒がしくなりました。また同じように獣人が捕まえられたのかと思いましたが、男の悲鳴のような声と、何かがぶつかる轟音のような音が聞こえてきました。
すると静かになり、誰か一人が近づいてきました。匂いはよくわかりませんが人間のような気がします。
「おい、さっきの奴等ならもういないぞ」
どこかだるそうに声をかけてきたのは、黒いフードの男でした。
一瞬安心して助けを求めそうになりましたが、この男も悪い人間かもしれません。
「あなたも人間でしょ…私達を売りとばす気ですか…」
そう思い、ロッテさんとトト君を後ろに隠し、せめてもの抵抗で男を睨みつけました。
「あんな奴等と一緒にするな。どうせ飯もろくに食べてないんだろう? さっさと出てこい」
男は、真剣なこちらとは違い軽い口調でそう言葉を残し離れていきました。
檻から出て男を覗くと、ご飯の準備を呑気にし始めました。
お肉を焼くいい匂いにつられ、私たちはお腹を鳴らしてしまいました。
慣れた手つきであっという間にサンドイッチを作り上げ、トト君に渡そうとしたときに拘束具に気づいたのか、男の人が魔力を流すと簡単に手の拘束具が外れました。
それから順番に拘束具をすべて外してもらい、私達は自由になりました。
そのあとは、すごく美味しいサンドイッチを食べました。男の人はぶっきらぼうながらも優しく、おかわりまで用意してくれました。
話を聞くと男の人はコウイチさんという変わった名前で彼も獣人だそうで、尻尾を見せてくれました。驚きです。
ですが、コウイチさんはビストリアを目指していますが、道がわからないそうです。
しみついた人間の匂い、コウイチさんが来た方角、人間嫌いのような言葉。彼は生まれながらにして人間の奴隷だったのかもしれません。
そう思い、私は、ロッテさん同様、これ以上何も聞きませんでした。
それからは私達はコウイチさんに鍛えてもらいながら、ビストリアに向かいました。コウイチさんとの旅はドキドキとわくわくでいっぱいでした。今までの旅は何だったのでしょう。
コウイチさんは私達の手助けをするくらいでしたがBランクのロックドラゴンを一人で倒してしまうほどらしいです。すごく強いのでしょう。不思議な人です。
ですが、私達も短期間で強くなりました。ロッテさんの水魔法と、トト君の剣術、立ち回りの成長には目をみはるものがあります。私も魔法がうまくなり、より発動が楽になりました。
コウイチさんが教えてくれる魔法イメージはとてもわかりやすいです。 おかげで私達三人の力でも、魔物の群れを倒すことができます。
そうして何とか全員無事にロップ村にたどり着きました。コウイチさん以外疲れて泥のように眠ってしましました。
迷いの森は野営するのには危険すぎると思います。魔物も多いですし。
そして現在、私達はロップ村で知り合った、果物屋さんのおじさんの馬車に乗せてもらい、次のシーノ村を目指しています。
すると馬車が急に止まりました。何やらビストリアの兵士が人間を探しているらしいです。
きっとお父様が私を探しているのでしょう。もう何日も手紙を出せていませんから。
一瞬兵士の方に、私の無事を知らせようかと思いましたがやめました。サーベラスの部下だとしたら捕まってしまいます。この辺りにはサーベラスの部下がいると言っていました。
あの魔族のことです、用意は周到なはずです。
私は兵士を誰も信用せずに、このままコウイチさんと急ぎながらも、ひっそりと王都ビストリアに戻ろうと決めました。
皆を騙しているので、心が痛みましたが国民のためです仕方がありません。
急いで真実をお父様にお伝えしないと。




