30.一つの結末【最終話】
最終話、どうぞお楽しみください。
『喜びの時も、苦しみの時も、光と影のいずれにあっても、
真実を見失わず、互いの心に灯をともす。
迷い、言葉を失う時でさえ、その想いを手放さず、
信じ、支え合い、生きてゆく。
愛は形なきもの――
されど人は、それを形に宿し、未来へと繋ぐ』
高い天井、七色に煌めくステンドグラスからの煌めきが、純白のドレスを彩るようです。
神父様に向かって並ぶリヒト様の横顔が、いつも以上に凛々しく、愛おしく見えるのです。
『その証として、その指輪に互いの願いを込めなさい。
それは言葉なき時でさえ想いを伝え、
闇の中にあっても消えることのない』
台座に置かれた二つの指輪――
「生涯、灯し続けると誓うよ」
そう言って、私の薬指に指輪を嵌めてくれます……。
“愛の契りが、自分を解き放つ。さぁ、エマ――声を返そう“
静かな空間に流れ込む風が、ドレスを揺らし、何かを払うように流れていく――
……不思議な感覚。
指輪を嵌めてくれたリヒト様の手は、もう私に触れていません。
リヒト様へ捧げる指輪を手に取り、小さく深呼吸して――
「リヒト様へ、全てを捧げます」
「エマ……今、」
「はい……戻り、ました」
“それは言葉なき時でさえ、想いを繋ぐ契りとなる“
神父様の言葉が、胸の奥深くに馴染んでいく……。
心の奥から溢れた、本当の声。
――誓いのキスをして、私たちは大勢の祝福の中で、夫婦となりました。
***
もどかしい、という表現以外に何も見当たらない。
純白のドレスに身を包んだ、美しすぎるエマを……まだ、独占できないのだから。
「禁書庫から出てきたと思ったら『今すぐ結婚式をする』って、言うんだもんな。エマちゃんも準備、大変だったでしょ」
「そ、そうですね。でも、みんなで力を合わせて急ぎましたから。私は、楽しかったですよ」
「だって。良かったね、リヒト」
……確かに、感謝してる。皆に、とても。
「この披露宴とやらは、いつ終わるんだ!」
「ククッ。エマちゃんが明日の朝、立てるか不安だよ、僕」
何の話ですか? みたいな顔すら可愛いんだよ……。
「もう少しだと、思っていたけど……」
「リヒト様?」
「……もう我慢できない」
「え? リ、リヒト様――っきゃ!」
「飲みすぎて具合が悪いから、先に失礼します。あとは宜しくお願いします、殿下」
エマを抱えて、会場を出た。
「リヒト様……具合が悪いのですか?」
「……リヒト」
「……っ、リヒト――んっ」
人目を気にせず、エマの唇を塞いだ。
急足で夫婦の寝室に入り、扉の閉まる音が、やけに静かに響いた。
先ほどまでの賑やかさが嘘のように、世界には僕ら二人しかいないみたいで……少しだけ、胸が高鳴る。
「……強引で、ごめんね」
エマが、赤らんだ顔でフルフルと首を横に振った。
安心させるように、指先でその頬を包み込んでみせた僕の顔を、じっと見つめてくれる……。
「具合は……」
「嘘、ついた」
クスッと笑って、ベッドに下ろしたエマが「リヒト様」と呼んだ。
触れなくても、当たり前に声が聞けて、当たり前に名前を呼んでくれる。
かすれもせず、途切れることもなく。
「欲張りだって分かってる。声も、結婚も手にしたのに、それでも尚……証明が欲しいと望んでしまうんだ」
伸ばした手が、エマの柔らかな頬に触れた。
そのまま少しずつ近付いて、僕の腕の中に閉じ込めた。
言葉にしなくたって、ちゃんと互いの想いが通じていると分かる。
深くキスをした僕らには、もう恐れるものなんて何もなくて。触れる度に、耳を撫でるエマの声が、もう二度と消えることはない。
「エマ……愛してる」
初めて押し寄せる波に溺れるエマを、これでもかと抱きしめて、僕らは確かに、ひとつの想いで結ばれた――
――少し、時が流れた。
「リヒト様、おめでとうございます! 元気な男の子ですよ」
「男の子……エマ、エマは無事か?」
「えぇ。こちらへどうぞ」
僕らの愛が、愛しい形になって……小さな泣き声が、部屋に響いている。
「エマ……よく頑張ったね」
「とっても可愛いんですよ。痛みなんて……どこかへ飛んでいってしまいました」
初めて自分の腕に抱える、小さすぎる宝物に、涙が滲んだ。
世の中、手にしても手にしても、欲とは尽きないのだと気付かされる――
「ありがとう……ありがとう、エマ……」
両親も揃い、公爵家に明るい話題がまた一つ増えた。きっと賑やかになる。
一つの出会いが、人生を変え、豊にしてくれた。
そして、物語はこれからも、静かに灯り続けていく。
―END―
お付き合い頂き、本当にありがとうございました。




