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【完結】記憶喪失の守護騎士ですが、予知夢の王女を救うためなら「大義」を掲げる師であっても斬り捨てます  作者: ましろゆきな
第五章:真実の報告と新たな波乱

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第二十九話:愛の代償

 ヴァルガス帝国からリアム王子がアークランドを訪問して数日がたった。王宮はこれまでにない緊迫感が漂い、誰もが息を潜めているようだった。


 これまで、リゼットの後ろを追い回すディオンの姿と、王女の小言、そしてそれを苦笑して見つめる王宮の使用人たちの和気藹々としたいつもの雰囲気は、見る影もなかった。リゼットは公務を理由にディオンを避け、ディオンは苦悩の末に彼女との距離を取ろうとしていた。


「このままじゃ、いけない」


 エリック王子は、大好きな人たちの笑顔が消えてしまったことで、大きな決心をした。彼は騎士団でのディオンの孤立も、リゼットの孤独も、誰よりも傍で見てきたのだ。二人が互いを想い合いながら、王族の責任という重圧で気持ちに正直になれない姿に、耐えられなかった。


 エリックは、人目を避けた王宮の図書室で、ディオンとリゼットを静かに呼び出し、諭した。


「姉上もディオンも、自分の気持ちにウソついちゃ駄目だよ!」


 エリックは、小さな身体を震わせながら、まっすぐに二人を見つめた。


「国を守るのも大事だけど、姉上とディオンの笑顔がない国に、意味なんてないよ。僕にとって、二人が笑っているのが、この国が平和だって一番の証拠なんだ。だから、もっと、自分自身の気持ちに正直になってほしい」


 その純粋で、誰にも忖度しない言葉は、ディオンとリゼットの心を強く揺さぶった。ディオンは、自分が身を引こうとしていたことが、本当にリゼットの望む幸せなのかと自問した。リゼットは、公的な責任という鎖を、一度だけ解いてみたいと強く願った。


 エリックの言葉は、二人が愛を貫くための最後のきっかけとなった。





 エリック王子との対話の翌日、リアム・オーベロン王子は、ディオンとリゼットを王宮の静かなテラスに呼び出した。銀髪に紫色の瞳を持つ彼は、柔和ながらも真剣な表情を浮かべていた。


「リゼット殿、ディオン殿。表向き、私は婚約の協議のために参りました」リアムは切り出した。「ですが、私の真の目的は、ゾラたち強硬派の横暴を内部から抑え、アークランドとの真の和平を築くことです」


 彼は、ヴァルガス帝国の政治状況と、強硬派がリゼットの力を利用しようと画策している背景を説明した。そして、静かに、ディオンを見つめた。


「私の国の強硬派の陰謀は、今回の毒殺未遂に始まったのではありません。ディオン殿の記憶喪失は、単なる事故ではないのです」


 その言葉に、ディオンとリゼットは息を飲んだ。リゼットは不安そうにディオンを見つめる。


 リアムは、五年前の真実を告げた。


「五年前、エリック王子暗殺未遂事件の際、ディオン殿は暗殺者たちからリゼット殿を庇っただけではない。強硬派のゾラが、リゼット殿の『予知夢の力』を封じるための魔法を放った時、ディオン殿は、その魔法からリゼット殿の力を守るために、自らその魔法を全身で被ったのです」


 リゼットの顔から血の気が引いた。彼女は、ディオンが記憶を失った原因が、自分の力にあったという真実に、絶望にも似た衝撃を受けた。


 リアムは続けた。「その魔法の代償として、ディオン殿は記憶を失いました。あなたの記憶喪失は、ゾラたちが企んだ『異端の清算』から、リゼット殿の力を守り抜いた、究極の愛と自己犠牲の証なのです」


 ディオン自身も知らなかった、五年前の真実。記憶を失う直前の、愛する者を守ろうとした自分の行動が、記憶喪失という形でリゼットの元に留まることを選んだのだと知った。


 リゼットは、涙を流しながらディオンに駆け寄り、彼の胸に顔を埋めた。


「ディオン……私のせいで……」


 ディオンは、震えるリゼットをしっかりと抱きしめた。身を引くという考えは、もうどこにもなかった。自分の記憶喪失は、リゼットを守りたいという愛の証だった。この真実を知った今、公的な責任を理由に彼女から離れることは、自分の存在意義を否定することになる。


 リアム王子は、二人の姿を見て静かに微笑んだ。


「お二人の愛は、私個人の想いよりも、そして私の国の強硬派の陰謀よりも、二国間の平和を繋ぐ強い絆になるでしょう」リアムは宣言した。「私は、あなたたちの愛を邪魔しません。共に、ゾラとレオンハルトの陰謀を止めましょう」


 ここに、愛と信念で結ばれたディオン、リゼット、そして新たな協力者となったリアム王子による、真の反撃が開始されることになった。

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